side カンセル 2
奥にある武器庫に入ると、一番奥の棚にある箱の中から布に包まれた一本の剣を取り出す。
これは儂の友が鍛え上げた渾身の一振。
小僧がもう少し経験を積んでから勧めてやろうと思っていた。
だが、今必要なのだろう。
戻って目の前に剣を置くと、小僧の目はその威容に吸い寄せられ、釘付けになった。
漆黒の鞘には月桂樹と加密列が彫り込まれており、名誉と、逆境の際に振るう者の力になるようにとの想いが刻まれている。
「手にとって抜いてみろ。」
言われた小僧はそろそろと手を伸ばし剣を取ると、そっと鞘から抜いた。
剣の存在感に一瞬息を詰めながらも、無意識に魔力を流し、お互いの存在を馴染ませて行く様子に安堵すると共に、自身の事のように誇らしく感じる。
「やはり馴染んだか。」
だが小僧は我に返ると戸惑った様子で訊いてきた。
「親父さん、この剣は一体。」
「この剣は神鉱と竜骨で出来ている」
「……は?」
敢えて素材で答えてやると、小僧は呆けて言葉を無くした。
珍しい様子に素知らぬふりをして、さらに詳しく素材の説明をしてやると、状況に理解が追い付いてこないのか、口をぱくぱくと動かすが言葉にならず、終いには黙ってしまった。
漸く話したかと思えば、何故この剣を出したかと訊いてくる。お前が望んだからだと答えてやれば、自分には荷が勝ちすぎると返してきた。
「儂の目を疑うのか? お前ならこの剣を使える。剣とお前の魔力が馴染んでいるのが何よりの証拠だ。」
そう言ってやると、昔、儂が初めて返事をしてやった時と同じ表情をした後、大きく息を吐いた。
「……はぁ。こんなに驚いたのいつ以来だ? もし使いこなせなくても怒んないでくれよ?」
「馬鹿言うな。儂の目は確かだ。使いこなせなかったらお前の鍛練不足だ。」
そう嘯く小僧に軽く睨んで返してやった。
幾分落ち着いたのか、恐る恐る値段を訊いてきた小僧に金貨十五枚で答えた。
実際には金貨五十枚は下らない逸品だが、小僧相手に金儲けがしたい訳じゃあないからな。
小僧なら分割払いにしてやることも吝かじゃないが、小僧の覚悟がどの程度のものか見ておきたい。
「質を落とすか?」
そう訊きつつも、目の前の剣を選ぶことを期待してしまう。
「親父さん、代金を持ってくるから待っててくれ。」
顔を上げた小僧は、儂の瞳を真っ直ぐ見るとそう言った。
「払えるのか?」
「足りなければギルドに借りてでも用意する。」
尚も問えば、覚悟のこもった眼差しで答えた。
「今払える分だけ持ってこい。残りは稼いで払え。」
それだけ言うと、小僧に背を向け手入れに戻った。
お付き合いいただき、ありがとうございました。