side カンセル 1
振るう者の手を離れた武器、未だ振るう者の定まらない武器、それらの武器を手入れしていると馴染みの小僧がやって来た。
「親父さん、魔力通せる剣ある?」
十日ほど前に手入れしてやったばかりの剣があるはずの小僧が訊いてくる。
「小僧、この間の剣はどうした。寿命にはまだ間があるはずだ。」
儂の問いに小僧は黙って剣を鞘ごとカウンターに置いた。
作業の手を止め、置かれた鞘を手に取り抜くと、剣は中半から綺麗に折れていた。
それを見て言葉にできない苛立ちが沸き上がる。
昔、冒険者の希望のままに売っていた時期があった。
だが強い武器を手にし、武器の力を履き違え傲慢になる者、過信して格上を獲物として狙い命を落とした者。
金がないからと、それまで使っていた剣より質を落とし、本来なら危なげ無く仕留められる相手に命を落とした者。
そんな冒険者を幾度も目にし、いつしか本人の身の丈に合う武器だけを売るようになった。
そんな昔が思い出され、一瞬感情に飲まれそうになったが、儂の重圧に耐え、真っ直ぐに見返してくる小僧の瞳を見て、僅かな冷静さが戻った。
「何をして折れた。」
「昨日、森で遭遇した荷車大の大猪を仕留めるのに魔力を通した。」
訊くと小僧はそう答えた。
ガルブの森でそれほどの大猪と言えば、中域から浅奥辺りの強さだろう。
そいつを相手にするのに魔力を流したのなら、この剣では強度が足りなかったはずだ。
もう少し魔力の親和性の高いものがいいだろう、と考えながら店の奥へ向かおうとしたところで、背後から声が掛かった。
「今の俺が扱える中で一番の剣が欲しい。」
腕に奢ったかと振り返り小僧の瞳を見たが、先程と変わらず真っ直ぐに見返してくるので、訳を目で問うた。
「買うなら今持てる最上の物を選ぶように助言を貰った。」
「…リュネか。待っていろ。」
助言…リュネの夢見か。あやつがそう言うのなら小僧はこれから大事に会うんだろう。
店の奥に向かいながら、昔を思い出していた。
小僧は幼い頃から冒険者に付いて店に来ては、出ていけと威圧する儂に臆しもせず、武器の選び方や手入れの仕方を教えて欲しいと頼んできた。
来る度に真剣な瞳をして頼み込むのに絆されたのか、ある日、一言だけ言葉を返した。儂が言葉を返すと、小僧は驚いた顔をした後、言われたことを口にしながらしばらく考え込み、嬉しそうに礼を言った。
たった一言、だが言われた内容とその意味を儂に聞き返すでもなく、僅かな経験と冒険者たちの教えから自らで考え理解するのを見て悪くないと思った。
それからは小僧が訪れる度に一言だけ答えてやるようになった。
お付き合いいただき、ありがとうございました。