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潜らないって言ったじゃないですかヤダァ!

今度こそ話を続ける所存

 暗澹とした『其処』は、決して人の踏み入って良いとは言い切れぬ場所である。

 壁を滴る湿り気は絶え間なく、留め途なく流れ続けてる。

 鼻を抓むと形容する程では無いが、出来るならば触れたくない程には滑った汚水が伝って往く。

 だがこれはこの場所が下水に通じている、というからでは無い。

 『この遺跡』があるのは海峡の真下。

 だからこそ起こっている事象だった。


 【港都ジルコン】にある【古い遺跡】は、隣島の【古城アゲート】と地下で通じている。

 喩えるならば宛ら海峡トンネルのように、その道を征くことで人の行き来を可能としている。

 とはいうものの。

 其処は魔物の蔓延る巣窟であるので、好んで使おうという伝手は【冒険者(バリエンテ)】くらいしか往こうとはしない。

 地下から脱せるアゲートもまた魔物の巣窟なので、用向きの在る一般人は北上して港がある【アマゾン村】への迂路を選択するのである。



「ふざっけんなよお前……ッ!」



 峯森 クロ()もまた、その『一般』に属する者だと自覚が在る。

 仮にとはいえ冒険者としての資格も備えてはいる。

 だがそれは仮発行された身許保証以上の意図も効果も備えてはおらず、危険地帯に通用する性質も能力も備えさせてはくれなかった。


 クロは遡る事4年前、【アパタイト帝国】なる国の手によってこの世界へ呼び出された、ある集団に混じっていた子供のひとりだった。

 異世界に召喚された集団の一角に属してはいたが、人生経験は然程も無い。

 若干の『ご都合主義』が仕事した程度の施しを召喚の際に賜りはしたが、その性質を強弱で測ればどう贔屓目に見ても強者とは呼べない。

 簡易(ゲーム的)に表すならば【レベル1・魔法使い】だ。


 現地民と比較すれば多少はマウントを取れそうな現代知識で理屈や理論は備えられても肝心要(カンジンカナメ)の魔力が足りず、喩えるならばエンカウントした悪戯好きの小悪魔に近い程度の脅威しか齎せやしない。

 『理論上は爆裂魔法も使えるんです! 魔力が足りなくてダメですけど!』 『帰れ!』

 集団に属していた頃の彼のポジショニングと云ったら、まあこんな感じだった。


 だからこそ彼は冒険者登録初日、ギルド兼酒場で依頼ボード眺めて酒を煽っていたベテランの方々に『ガキの遣る仕事なんざねーぞぉ!』だの『ダンジョンになんざ潜らず帰ってママのおっぱいでも飲んでな!』とジュブナイル小説のテンプレートの如く揶揄された儘に『はい! わっかりましたぁ!』と良い笑顔で応えたのである。なんで冒険者登録したお前。


 ちなみに、この世界は魔法があるにも関わらずゲーム的な要素は極力働いてはいない。

 コマンドを得て行動を選択するような仕様も無ければ、ザコ敵を掃討して経験値を貯めて力量(レベル)を上げるという仕様も働いておらず、レベルを上げて物理で斃せるほど容易い生き物は実在していない。

 レベリング相当の何某かは経験する前に、己らを呼び出した国家が諸々の事情で衰退した。

 集団はそれぞれそのまま散り散りとなってしまったので、ぶっちゃけチュートリアルが足りていなかった。世の中クソである。


 さてそんなクロであるが、もう判る通りダンジョン(古い遺跡)の中に居た。

 本来なら『地下牢』を意味する『ダンジョン』ではあるが、この世界に限った話ではなく世間的には『迷宮』や『洞窟』や『怪物の巣』などという意味合いで通じるラテン語の『dominus(領主)』に由来する古フランス語である。

 元来は敵地などの概念は含まれてはなく、城の地下に造られる『最後の砦』や『納骨堂』や『牢屋』などを比喩する言葉であった。


 某テーブルトークRPGで名を挙げたことを皮切りに、冒険の舞台としての役割を割り振られ道に迷いやすい場所なんかも其処に含まれる様になっていった。

 有名どころでは新宿駅とか、東京多○センター駅から南へ下った多摩中央公園周辺だろうか。

 特に境目も判別がつかないアレ(後者)は夜中に足を踏み入れるとガチで出られなくなる。


 そんな印象となったダンジョンという概念だが、歴代の城主なんかが城の地下に人目に触れられない何某かを造ることこそがそもそもの原因に当たるのだろう。

 有名処の牛頭のアステリオスを挙げるまでも無く、偉い奴らは隠して何かやってるもんだ、というイメージを強要するまでも無く抱かせる行為を積み重ねてきたわけだから、先に挙げたテーブルトークRPGなんかでも『城の地下に数百メートル深い迷宮が!』という連想が容易に出来たわけである。

 其処を探索させるというのもまた、ピラミッドに発破(ダイナマイト)を掛ける真似にも似てるわけだが。

 ヒトの業に何とも言えない印象を抱かせるわけでもあるが。

 墓荒らしかな?


 話を戻すが、クロ少年(14)はダンジョンに居た。

 地に足点けて地道に隠遁(ニート)生活に勤しもうとしていた少年は、ダンジョンの深奥【滴る・汚水の・廊園】に紛れ込んでしまっていた。

 正しくはその場所が『何処』なのかまでは、きっちりとは把握できていなかったのだが。

 序でに云うと、その歳で手を抜くことに傾倒しようとしていた時点で若干の精神(高2)病に罹患していた恐れも在るのだが、其処は個人的(デリケート)な話なので触れないように。


 だからこその慟哭。

 だからこそ、原因に対して不遇を訴える現状である。



「ご、ごめんなさいッスぅ! まさか『てれぽーたー』にこんな不具合が起こるとは露とも知らず……っ!」


「それが『その名前』なら転位失敗くらい想定できるんじゃないのか!?」



 訴えられている相手は橙の髪をした、頭頂部から生えている垂れた耳が特徴的な、ライカンスロープ(人獣種)の少女だ。

 パッチリとした眼や冷気で震える頬などと、ケモ()な要素は先に挙げた点程度の、どちらかと云えば人間寄りの外見なのが【ライカンスロープ】に当たる。

 それというのも【汎人種】と呼ばれる所謂【人類】から派生した為だ、という通説がある。

 クロの知り合いにも両親や家族が汎人なのにケモミミで生まれて来た女性という一例も把握してはいるので、どちらかというと呪いか何かで生じるモノなのではと思っていたりもする。

 他の特徴といえばスキルや個人の魔力量に頼らずに魔法を扱えるという点があったが、恐らくは今は別問題なので割愛。


 若干のあざとさも感じないでもない、どちらかといえば美少女寄りの少女は狼狽えて、クロや彼女が指した『てれぽーたー』なる【巻物(スクロール)】を握り潰してしまっている。

 元々そういった代物は一回きりの使い捨てが常道であろうと、クロの知る常識(ゲーム脳)からして判断していたが、強ち間違いも無いような気もしてくる。


 さて現状把握はこんなところか。

 要するにアイテムの誤作動でダンジョンの不明地点に紛れてしまい、脱出ミッションを強制開始。

 出口も距離も分からない状況で、明らかに無茶振りと判るルナティックゲームが始まってしまった。

 はい、ヨーイスタート。


理不尽な目にあって語気が粗ぶっておりますが、クロくんはあらすじのまま大人し目の男の子です

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