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男の娘なおっさんアイドル星山田充月はカッコいいと言われたい。

作者: 須方三城


『ここまでクオリティの高い男の娘は逆に汚したくなる』


『早く女性向けの不健全セクビ堕ちして欲しい』


『自分以外の誰かにめちゃくちゃにされている所をじっくり鑑賞したい』


『深刻なほどに脱ぎが足りない。ボクサーパンツは甘え』


『僕だって意外と力持ちなんだよ~とか筋肉アピしてきた所を押し倒して無力感を味わわせたくなる体』




「…………………………」


 公式SNSによせられたファンたちのコメントを見て、星山田きらやまだ充月ミツキは眉間を押さえた。


「星山田さん、お疲れ様ッス。今日も可愛かったッスよ」


 可愛かった、と褒める割に平坦な声。

 声の主は充月のマネージャーを務める女史。


「しっかし、楽屋に戻るなりスマホとは、歳の割に若いッスね」


 声に感情が出ないタイプの若者なので勘違いされがちだが、彼女に煽っているつもりはない。

 シンプルにそう思った事を言っているだけだ。


 充月も付き合いの長さでそれは理解しているので特に何とも思わない。


 ただ、


「……ねぇ、僕はさ、『可愛い』じゃあなくて、『カッコいい』って言われたいからこの仕事をやっているんだけど……」


 充月の職業は、男性アイドル。

 そして肩書は、奇跡の男の娘アイドル。


 充月がアイドル界に入ったのは一五年前。

 当時、高校生だった充月は、今とほとんど変わらず周囲から「可愛い」「泣かせたくなる」「私は鳴かせたくなる」等と同級生に言われ放題だった。

 その環境を打破すべく、「男性アイドル=カッコいいの権化」と言う発想から、カッコよさを学び身に付けるため近所の芸能事務所へ飛び込んだ。


 そしてすぐに社長に目を付けられ「大丈夫、大丈夫。その内カッコいい路線で売り出してあげるから、今は、ね?」と説得され、男の娘アイドルとしてのデビューを容認したのが運の尽き。


 この一五年間、しっかり可愛い路線で売られ続けた結果もう取り返しが付かないファン層が出来上がってしまった中年がここに在る。


「今日の仕事は……チャンスだと、思っていたのに……!」


 ある動画配信サイトで不動の一位を誇る超人気バラエティ、【筋肉発見伝】。

 芸能界の埋もれた筋肉を発掘し堪能しようと言う趣旨の番組で、毎回ライブ配信のため、嘘が介入しようのない本物の筋肉の躍動だけがオンエアされる。

 筋肉を披露するために人気芸能人たちが揃い揃って薄着になるのが人気のポイントだろう。人間の本性だ。


 そんな番組に、充月はつい先ほどまで出演していた。

 そして楽屋に戻ってすぐ、期待と共にSNSを確認したのだ。


 筋肉は雄々しさ、カッコよさ。カッコよさを追求する充月はしっかり腹筋を割りにいっている細マッチョだ。脱げばすごいのだ。きっとSNSには「おみそれしましたクールな筋肉」「私が間違っておりました至高のパワフル」「あなたほどカッコいいと称賛されるべき筋肉は他にない無敵のパーフェクト・ボディ」等と言ったコメントが寄せられていると信じていた。


 

『僕だって意外と力持ちなんだよ~とか筋肉アピしてきた所を押し倒して無力感を味わわせたくなる体』



「どうしてだよう!!」

「うわ、びっくりした。情緒どうなってんスか」

「どうなっているも何も、これ見てよ! 何でみんな僕の事をこう何かいじめたい願望的な目線から見ているのかな!?」

「……はぁ……」

「って言うか早くセクビ堕ちしろって何!? 僕はアイドルなんだよね!? 普通アイドルファンってそう言うの逆じゃあない!?」


 男性アイドルは四〇・五〇代になっても交際報道ひとつでファンたちが阿鼻叫喚するイメージがある。

 だのに何故だろうか、充月のSNSには充月の女性向けセクシービデオ出演を熱望するコメント投稿が散見され、どれもたっぷりと「いいんじゃネ!」がついている。充月が投稿した元コメントの比にならないくらいバズっている。


「いや、星山田さんの場合は仕方ないッスよ」


 そう言って、マネージャーはスマホを操作に、動画投稿サイトのある動画を再生した。

 それはオフの日に、充月を街で発見したファンが撮影したものだ。

 充月も撮影と投稿を許可したので、動画の存在自体は知っている。


 そこに映っていたのは、客観的に言うと「え? 僕のファンなの!? ほんと? う、嬉しいなぁ」と年甲斐もなく頬を紅潮させてぴょんぴょんしながらはにかみつつ握手に応じる男の娘おじさんの姿。


「これが手を出しても合法な年齢のおっさんとか、もうドチャクソ穢したくなるに決まっているじゃあないスか。アへらせたいこの笑顔」

「冷静なテンションで何を言っているのかな君は!?」


 マネージャーの瞳は春のせせらぎのようだったと言う。


「ぶっちゃけ自分はいつも『あ~、星山田さんが自分以外の誰かにめちゃくちゃにされている所をじっくり鑑賞したいッスな~』と思っているッス」

「さっきのコメントは君かァァァ!!」

「僭越ながら応援しているッス」

「応援のスタンスを改めてみるつもりはないかい?」

「正気を疑う提案ッスね」

「正気が濁っているのはそっちだと思うんだけど!?」


 マネージャーは信じられないものを見るような目をしていたと言う。


「って言うか、セクビ出演のオファー自体はきてるッスよね。引く手あまたレベルで。何を迷っているんスか?」

「え、嘘、迷う理由がわからないの!?」

「セクシー俳優も立派な御仕事だと思うッスよ。セックスと言う人類の命題に真っ向から向き合っているッス」

「よしんばその理屈を受け入れたとして、僕にオファーが来ているのはどれも、僕が『お姉さん(歳下)に色々イジイジされるだけで本番無しだから恐くないよ大丈夫』ってやつばっかりだよ!? 人類の命題そっちのけだよ!!」


 低俗が過ぎるよう! と充月は机をばしばし叩いて頬を膨らませながら憤慨を露わにする。


「まぁまぁ。よく考えて欲しいッス。星山田さんがセクビでメス堕ちしてすべてを受け入れたらみんな幸せッス。WINWINで世界が包まれるッス」

「家族が見たら泣くよ! 星山田家はCRYCRYで包まれるよ!!」

「いやぁ、どうッスかね?」

「え?」

「案外、星山田さんがメスイキして悦んでいる姿を見ても『来るべき時が来たなぁ』としか思わないんじゃあないッスか?」

「勝手な想像で割と有り得そうな事を言うのやめて!!」


 実家のクローゼットには両親から贈られたフリフリお洋服がたくさん入っている系のおじさんには笑えない当て推量だ。


「ふむ……強情ッスね。仕方ないッス。こうなったらもう、自分が世界をWINWINで満たす英雄になるッス」

「え? いきなり何の話って……ひょわあああああ!? 何でいきなり僕のシャツを破くの!? お気に入りだのにぃぃぃーッ!?」

「良い悲鳴ッス」

「なななななななな!? まさか、君、いやちょ、待ってちょッ、自分以外の手でめちゃくちゃにされている所を見たいとか言っていませんでしたっけ!?」

「不本意ながら」

「不本意ならやめてぇぇぇーーーーーー!?」


 マネージャーの眼はマジだ。犯すと書いてマジだ。


「こうなったら……僕の男らしい筋力で自衛してみせる! うりゃああってほげぇ!? すごい力だ!?」


 充月は全力でマネージャーを突き飛ばそうとしたが、あっさり手首を掴み止められ、そのまま壁に押さえつけられてしまった。


「自慢の筋肉を細身の女子にあっさり押さえつけられる無力感を自分から噛み締めにくるとか結構マゾいッスね」

「そんなレベル高めの意図はないんだけど!? って言うか本当にちょっと待ってほんと泣きそうこれ待ってお願いちょちょちょちょごめんなさいごめんなさい許しておねがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!!!????」



   ◆



 ――『男らしさを求めてアイドルデビューした僕が楽屋でマネージャーにメス調教されちゃった話』。


 事務所の待合スペースにて、充月は献品されたBDのパッケージを遠い目で眺めていた。


「星山田先輩、お疲れ様ッス」


 そこにやって来たのは、今回共演した同事務所所属の後輩タレント。


「あ、それ献品きたんスかね。……で、セクビデビューの反響はどうッスか?」

「……実家から炊飯器ごと赤飯が送られてきたよ」

「想像通り素敵な御家族ッスね」




 セクビ俳優もこなせるマルチな男の娘おっさんアイドル、星山田充月の次回作にご期待ください!!



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