ひきこさん(5)
英二たちの通う学校から二駅離れた小高い丘の上にその建物はあった。
『東雲怪異相談所』そこが彼の職場兼自宅だ。事務所でもある一階に入ると肩まである茶色い髪に少したれ目気味の女性がにこやかに彼を出迎えた。
「お帰りなさい、英二君」
「ただいま、ヒバリさん」
応接スペースに目を向けるとヨレヨレのスーツにシケモクを咥えた冴えない風貌の男性がヒラヒラと片手を上げ、その対面には眉間に皺を寄せた長身の男性刑事と見覚えの無い女性が座っている。
先程の電話での会話から南部が居る事は予想していたが、その隣の女性は誰なのだろうかと思いつつも英二が会釈をすると冴えない風貌の男性東雲恭介が口を開いた。
「ああ、英二は初めて会うんだったね、こちらは飯島薫さん。南部の相棒だってさ」
可哀想にねぇとケラケラと笑う東雲の言葉に南部は眉間の皺を更に深くする。
苦笑しつつ東雲の隣に腰を下ろした英二を見て、訝しげな表情を見せる飯島。この事務所に相談に来た依頼人の大半は英二を見ると彼女と同じような表情になる。彼のような高校生がさも当然のように同席し、話を聞こうとすれば誰だって不安になるのだろう。
「彼は一条英二、ボクの弟子みたいなもんでね。これでもそこそこのウデはあるからご心配なく」
ボクには遠く及ばないけどねぇと相変わらずケラケラと笑う東雲。そんな東雲を無視しつつ、南部は胸ポケットから携帯を取り出し、テーブルの上を滑らせるとクイっと顎をしゃくって見せた。
「今日の午後発見された死体だ」
携帯の画面に表示されているのは常人なら目を背けたくなるような写真。だが、英二は平然とした表情のまま、ヒバリが準備したコーヒーを一口飲んで喉を潤す。
「南部さん、明光学園の木下美穂って生徒を至急保護して欲しい」
「……理由は?」
「俺の予想だとこれ、ニンゲンの仕業じゃないと思うんだ。まあ、そう思ったから南部さんも怪異相談所に来たんだろうけど。保護してもらいたい理由だけどその木下って子、波長が合ったみたいでさ、さっき巣に引きずり込まれかけてた。次は彼女が襲われると思う」
「ちょ、ちょっと待ってください! まさか南部さん、こんな子供の妄想じみた事を真に受けたりしませんよね!?」
英二の言葉に腕組しながら何かを考え始めた様子の南部を見て、飯島が慌てたように非難の声を上げた。