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バキっと音がするたび、木下の前と隣の席に座る生徒は身を震わせていた。三時限目の授業が始まり、いったい何本のシャーペンがこうして彼女の犠牲となったことか。ごそごそとペンケースを漁っては見たものの、ついに彼女のシャーペンは底を尽きてしまったらしい。戸惑いがちに隣の生徒が差し出してくれたシャーペンを受け取ろうとして一つだけ誰も座っていない席が目に入った瞬間、ベキっと音を立てたシャーペン。これにはさすがに隣の生徒も口を引きつらせるしかなかった。
彼女がこうなってしまった原因はその空席の主、英二であった。彼に好意を持っている彼女としては、下着を見られたこと事態はそこまで気にしてはいない。彼女とて年頃の女の子。そういった妄想もたまにしてしまう。しかし、しかしだ。下着を見られるのがなぜ、今日なのかと。せめてピンクの可愛いヤツの日であればよかったのにと。怒りと恥ずかしさと三分の一の純情な感情がごちゃ混ぜになりどうすればいいのかよくわからないまま、板書を書き写すのを諦めた彼女が机に突っ伏した、その頃。
「英二君、すねこすりはその先の教室の中です!」
ヒバリの指示に従い、校舎の中を走り回っていた英二は教室の後方にあるドアを勢いよく開け、中に飛び込んだ。小テストの最中だったらしいその教室に居た生徒達の視線が一斉に英二に集まる。
「そこかぁぁぁ!」
ギロリと睨みつけた視線の先でヒッと短く悲鳴をあげる女子生徒。まるでバットのように網を構えたまま英二は女子生徒のもとへ。それを見た坊主頭の勇気ある男子生徒が彼女を庇おうと立ち上がり、そのまま覆いかぶさる。
「あふん!」
フルスイングされた網で尻を引っ叩かれた彼の口から喘ぎにも似た声が漏れた。
「すねこすり、逃走を開始しました!」
「逃ぃげんなゴルアァァァァ!!」
入って来た時と同様に今度は前方のドアを荒々しく開け放ち出て行く英二を呆然とした表情で見送る生徒達の中に、恍惚とした表情を見せる坊主頭が居る事に誰も気付いちゃいない。いちゃいけない。




