5話 戦いの果に
「「「ノラ(兄さん)(お兄ちゃん)!!!」」」
「ぐっ…、大丈夫だこれくらい…。」
魔王の一撃で激しく地面に叩きつけられた俺は皆を心配させないように声を振り絞る。
「ふははは!脆い!なんと貧弱な種族だ。その程度で我に楯突こうとは頭の方も相当らしいな。」
魔王は立ち上がれないでいた俺を掴みあげた。
ゴギゴキ…!!
「?!ぐぁあああ!」
「いい声だ。死ぬまでまその醜い声を上げ続けるがいい!命乞いをしても良いんだぞ?もっとも聞き入れるかどうかは別だがな。」
俺には抵抗する力も残っていなかった。…ここで終わるのか?
「【神の鉄槌】。」
ズゥン………!
俺を掴んでいた魔王の腕が地面に落ちた。
「ミリア…。」
「もう…、もうこれ以上あなたの好きにはさせない!!!」
「たかが腕一本でいい気になるなよ…?【尊き犠牲】。」
「「グギャアア」」
魔王が魔法を唱えると周りを飛んでいた魔物の一部が落ちてきた。
そして地に落ちた魔王の腕は灰と化し、気づけばミリアが落としたはずの魔王の腕は再生されていた。
「なんて奴だ…、仲間を生贄にしたのか…?」
ドレイクは言うと魔王が鼻で笑うように答える。
「仲間だと?笑わせるな。こいつらは我の下僕。我の為に生き我のために死ぬただの駒だ。」
「イカれてやがる。」
さすが魔王、常識が通じる相手じゃない。俺は無理矢理体を起こす。
「ノラは良くやったわ。でも無駄よ。あなたはもう剣を持っていない。幸い私の魔法ならダメージを与えられることはわかった。私に任せてあんたは休んでなさい。」
「ダメージ?そんなものはどこにも無いぞ?たとえ腕が飛ぼうと足が折られようと我は配下がいる限り何度でも再生する。お前らに勝ち目などない。」
「そんなのやってみないとわからない!」
余裕気な表情の魔王にミリアは啖呵をきると魔王の懐へ走り込む。
「【神の鉄槌】!」
「【死撃】。」
二人の魔法は相殺される。
「これなら、【裁きの光】!」
「無駄な事を…。【絶望の雨】。」
奇しくも形状の似たの2人の魔法は再び打ち消しあった。
「こちらもいくらやっても同じことだ。」
「くっ、魔法でも無理なの…?一体どうすれば!」
しばらくの間ミリアと魔王の魔法による乱打戦が続いた。
そしてこのまま永遠に続くかと思われた攻防は突然終わりを迎える。
「おい!よそ見をするな!」
俺は咄嗟に声を上げた。ミリアがうつむいた次の瞬間、魔王が今まで使わなかった魔法を発動させたのだ。
「発動の時間を与えてくれて感謝する。お前の喚き声にも興味があったが悪いな。皆まとめて消し炭になるがいい…!」
「【無に帰す光】。」
父さんたちやミリア、そして俺を中心とした範囲攻撃が迫る。
ミリアは反応が遅れて魔法を発動する時間が無かった。
俺は後悔した。もっと慎重に立ち回っていれば、あるいは最初からミリアと共闘していたら、こんな事態にはならなかったのではないか。
「すまない…皆…。」
俺が生きることを諦めようとした。
その時だった。
「「合技!【双璧の息吹】!!!」」
俺の目に飛び込んできたのは2つの大きな背中。
「父さん!母さん!」
「…どうせもう俺達より強いんだ。最後くらいかっこよく世話をかけさせてくれ。」
「そうね、孫の顔を見れないのは残念だけど。」
「ドレイクさん…ハナさん!嫌…、魔法なら私が!」
「ノラ!…3人を頼んだ。………分かるな?」
「…。」
「皆、よく聞いて。」
俺は応えられなかった。
「まずサラ…、あなたはこれからも一杯はしゃいで元気に育つでしょう。でもあんまりお兄ちゃん達に迷惑かけちゃだめよ?あとご飯の時はお野菜もちゃんと食べること。」
「ゔん"…お母さん、約束する…!」
「ソラ、お前はサラの兄ちゃんだ。だが同時にノラの弟でもあるんだ。少しくらいノラに甘えてやってくれ。寂しがってたぞ?」
「…頑張る。」
残り少ない魔力で必死に攻撃を凌ぎつつ、父さんと母さんは家族に語りかけ始めた。
やめてくれ…、まるでこれが最後みたいじゃないか。考えろ。皆が助かる方法を、たとえ脳が溶けても必ず見つけるんだ…!
「ミリアちゃん、あなたは強くて、優しくて、そして勇気のある子よ。私達がいなくなると色々大変なことや不安に思う事があると思う。だけどあなたならきっと何とかなる。ごめんね、親を失う悲しみを2度も味わせることになってしまって…。」
「ハナさん達のせいじゃない…!私がもっとちゃんとしてれば!」
「自分を責めないで。ノラ達は手のかかる子達だけど頼むわね…!」
「………うん…。」
「ノラ…。お前は本当に良く頑張った。魔法が使えないと分かってから、お前は死にものぐるいで努力した。そして気づけばあのミリアと追いつき追い越せの毎日だ!俺は知っている。お前が、ノラが誰より強いことを。そしてきっと魔王も倒してくれると、俺は信じている!
だから…、もう一度だけ言っておく!サラを、ソラを、そしてミリアを…頼んだぞ。」
「………もちろんだ父さん。3人は俺が守る…!」
「ハッハッハッ!それでこそ俺の子だ!」
俺は軋む体にムチを打ち3人を抱きかかえた。
「お父さん!お母さん!」
「兄さん…!」
「嫌!離して…!!!」
「…。」
俺はそのままその場を離脱した。そして振り返った時、父さんと母さんは優しい笑顔を顔を浮かべながら魔法に飲まれた。
「父さん…、母さん…!」
魔法が途切れたとき、そこに2人の姿は無かった。
「まだ生きているか。だが2人減ったな。」
魔王は再び不敵な笑みを浮かべる。それは俺達にはひどく憎く見えた。
「あいつは私が…!」
「ミリア!忘れたのか。あいつに一人で挑んだところで勝ち目は無い。」
「じゃあどうしろって言うの!あなたの剣はもう…!」
「剣ならあそこにある…。」
俺が指差した先には父さんと母さんの剣が落ちていた。
「あんた…、良いわ。その代わり覚悟はできてるんでしょうね。」
「あぁ、二人で倒すぞ、あいつを!」
俺とミリアは魔王と対峙する。
「次は2人で来る気か?何をしようと無駄な事だ。」
「行くぞ!神楽流・【神速を超える絶剣】!」
「その体だからってついて来なかったら許さないわよ!【神の化身】!」
2人の高速移動は魔王を撹乱した。
「ちっ…!ちょこまかと芸のない奴らだ。潔く死ね!」
「無駄よ、あなたの攻撃は私達には届かないわ。」
「ミリア、5秒後突っ込むぞ!」
1…2…3…4…
「今だ!」
2人は魔王の胸元へ飛び込んだ。
「ぐっ…?!」
だが俺は事もあろうか体の痛みに耐えきれず離脱してしまった。
「ノラ!」
「くそ、大事なときに…!」
「なんだ?一人は怖気づいたか?ハエめ。身の程を知れ。」
ズドォン!
「ミリア!」
俺が離脱し一瞬気がそれたミリアに魔王の一撃が突き刺さる。
ミリアは巨大な岩に体を打ちつけられた。
「おい!大丈夫か!」
「…。」
ミリアからの返事は無い。
俺のせいだ。俺が最初からミリアと共闘していれば。俺が不用意に魔王に攻撃を仕掛けたりしなければ。何もかも俺が…、
「俺は…」
「ふはははは!無様だなぁ英雄よ!お前は仲間も、親も、そして友人すら守れない。無力。あぁ、なんて良い響きだ!お前はそこで見ていろ。守ろうとしたものが無残に殺されていく姿をな…。」
「…黙レ。」
俺の中で何かが折れた。
「なんだ?さっきとは様子が違うな。お前は…誰だ?」
「3人ハ、俺ガ守ル。」
「ノ…ラ…?」
俺の意識はここで途絶えた。
次に目覚めたとき、聞こえてきたのは懐かしい声…。
「…ラ!……ノラよ!しっかりするんじゃ!」
「うっ…、…じいちゃん?」
「気がついたか!どうしたんじゃ一体!ここで何があった!?」
辺りを見回すと眠っているサラとソラ。そして魔王の死体とその配下の魔物と思われる大量の死体があった。
ミリアが倒してくれたのだろうか…。一体どうやって、その問いかけをしようと更に辺りを見回すがそこにミリアの姿はなかった。
「み、ミリアは…?」
「…。」
「そんな!あぁ…、じいちゃん、父さんと母さんが俺たちをかばって…!」
「そうか…、辛かったろうよう頑張った。起こしてすまんな、今は休むと良い…。」
「じいちゃん、俺は…!」
俺は泣いた。歳柄もなく大声で。
じいちゃんはそんな俺を静かに、そして優しく抱いてくれた。
戦いは終わり、魔王は死んでいた。それが意味するのは俺達の勝利。だがそんなの受け入れられるはずがなかった。
俺は失いすぎた。大切なものを…。
そして俺とソラとサラの3人はじいちゃんと数日後に追いついた騎士団の者たちに保護され王都へ運ばれた。
『見ツケタ…。』
読んでいただきありがとうございます。
戦いが終わりました…。
次回の展開にご期待ください!
ー ー ー ー ー
「あらすじがネタバレしすぎだボケ」との指摘を受けましたので訂正いたしました。
続けて「技名がダサい」との指摘を受けましたのでこちらも訂正を検討しようと思います。