3話 襲撃
「なんだ、あの空は…!」
空を見上げてノラは言った。
「兄さん!」
「ソラか、どうした?」
「お、丘の向こうに魔物がっ…!」
「魔物?そんな珍しいことじゃないだろ。」
「数が、魔物の数がおかしいんだ!」
息を切らして言葉がうまく繋がらないソラを落ち着かせ事情を聞いた。
「なに?目視できるだけで10万を超えてるかもしれないだと!?」
「なんだか大変な事になってるみたいね。」
声の主はミリアだった。
「ミリアか、村の人達を早く避難させよう。」
「そうね、そしてさっさと魔物たちを追払わなきゃ。」
「そんなこと簡単にできると思ってるのか?」
「そんなのやってみなくちゃ分からないじゃない。それにソラの話だと村の大人たちはもう魔物の侵攻からの防衛に行ったみたいなんだから私達も加勢に行かないと。」
ミリアの言うとおりだ。確かに10万なんて途方もない数いくら父さんや母さんがいるからと言っていつまで保つか分からない。戦力は多いに越したことはない。
「なら話している暇はないな。手分けしていくぞ!」
3人は村の人たちを誘導した。
嫌な予感がする。そして俺は不思議にもこの感覚を前にも一度体験しているような、そんな気がした。
「これで全員か?」
「そうみたいね。」
「兄さん、ミリア姉さんも気をつけてね…。」
「ソラお兄ちゃん大丈夫よ!二人はとっても強いんだから!」
「あぁ、当然だ。ソラ、村の皆を頼んだぞ?」
「わ、わかったよ兄さん!」
俺はソラに父さんがいつも俺にかけるようなセリフを言った。
「行くわよノラ!」
「あぁ…!」
俺とミリアは丘の方へ走り出した。
ー ー ー ー ー
「なんなんだこの数は、異常にも程があるんじゃないか!?」
「あなた!口を動かしている暇があるなら一匹でも多く魔物を倒しなさい!」
「ハナ、お前口調が昔に戻ってないか…?」
ドレイクをはじめとする村の大人は丘の向こうから来る魔物の軍勢を丘の上で凌いでいた。
「くっ…、このままじゃまずいかもな。」
「言ったそばから!と言いたいとこだけど同感ね…。」
魔物の軍勢の数に任せた侵攻は、個々は力は大したことなくとも着実に大人達を疲弊させていった。
そして動きが鈍くなってきた者は負傷し、その影響で陣形が乱れた。
「俺の魔力はもう尽きそうだ!そっちは大丈夫か!」
「大丈夫じゃなかったら引くの?そんな訳には行かないでしょ!魔力が尽きても戦うのよ!」
「わかってるさ!俺たちが死ぬまでここは通さん!」
もう立っているのはドレイクとハナだけだった。負傷した者達を背に奮闘する二人は奇跡的に魔物の侵攻を食い止めていた。
しかしそれも長くは続かなかった。たった二人で相手をするには魔物の数があまりにも多すぎたのだ。
「…、そろそろ限界か。」
「でもここで倒れるわけには行かない…!」
「あぁ、俺達には守らなきゃいけないものがある。俺は死ぬまでここを通さんと決めた。だから俺は死なん!」
二人はとっくに限界を超えていた。それでも魔力が尽きた二人は残る力を振り絞り戦った。
そして二人が魔物の軍勢に飲み込まれようとしていた次の瞬間。
「【神の鉄槌】!!!」
聞き覚えのある声と共に目の前が眩しく光った。
そしてその光の先に二人が目で捉えたものは幼くも頼もしい2つの大きな背中だった。
ー ー ー ー ー
突然現れた魔物の軍勢はこの空模様に関係しているのだろうか。ノラは不安を募らせる。
「どうか無事でいてくれ…!」
「…大丈夫よ、ドレイクさんとハナさんがいるんだからそう簡単にやられはしないわ!」
ミリアも当然不安を感じていた。だが彼女は俺の不安を書き消そうと前向きな言葉をかけてくれた。
「ありがとうな。やっぱ強いよミリアは。」
「な、何よ、本当のことを言っただけじゃない。それに私は実の子供のように可愛がってくれたドレイクさんとハナさんを失いたくない。だから二人を信じる。そうでしょ?」
ミリアは小さい頃に両親を病気で亡くしていた。その際父さんと母さんはミリアに一緒に暮らさないかと提案したが、ミリアは両親との思い出を近くに感じていたいと幼いながらに一人暮らしを始めたのだ。
それを止める者はいなかった。皆知っていたのだ。ミリアは心配かけないように人前では決して泣かなかったことを。そして一人になるといつもこっそり泣いていた事も。
「守ろう、この村を。」
「言われなくても!」
そして丘が見えてきた。
「凄いな。当初聞かされていた防衛位置からほとんど動いてない。」
「当然よ、なんたって二人がいるんだもの!」
ドレイクとハナの無事だった。それを目視で確認したノラとミリアは安堵し声のトーンが上がった。
「このまま加勢するぞ!」
「ふふん!登場はド派手に行くわよ!?」
二人は魔物の前へ飛び出すとミリアは魔法を放った。
「【神の鉄槌】!!!」
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