1話 温かい家庭
プロローグが終わり第1話です。
「お兄ちゃん起きて起きて!」
甲高い声が頭に響く。
「サラ、兄さんは疲れているんだ。もう少し寝かせておいてあげなさい。」
「やだ!今日はあたしと遊んでくれる約束なんだもん!」
「それは兄さんが起きてからでいいじゃないか、まだ朝も早いだろ。」
「だから起こすの!早く起きれば長く遊べるもん!」
何やら言い争っているようだ
「何だ騒がしいな…ソラとサラか、どうしたんだこんな朝っぱらから。」
「あっ、おはようお兄ちゃん!今日は一緒に遊んでくれる約束だったでしょ?遊ぼ!」
「あぁ…そうだったな、…よし。じゃあ朝ごはんを食べたら丘へ行こうか。」
「兄さんはサラにあまいよ、最近ずっとそうじゃないか…。」
少々不満げな弟と満面の笑みを見せる妹を横目に俺は朝食をとるため二人を連れて両親の居る居間へ向かった。
「おはよう父さん、母さん。」
「あらおはよう3人とも今日も元気そうね。もうすぐご飯できるからね。」
「ハッハッハッ、今日も兄ちゃんの取り合いか?ノラも大変だな!」
まだ朝食は出来ていないらしく、母さんは台所でせっせと働き、父さんは椅子に座ってそんな母さんを眺めていた。
俺は朝の家族団欒の時間が好きだ。落ち着いた空間で家族と他愛もない話ができるこの時間が。
朝食を食べ終えると父さんは何時ものように仕事へ行く。
「ノラ、今日もみんなを頼んだぞ。」
「あぁ、わかってるよ。」
これもいつもの会話だ。父さんは俺の返答を聞くとニカッと笑うと母さんとハグをして家を出ていく。
「母さん、これからサラと丘まで行って遊んでくる。昼までには戻るから、何かあったら行ってくれ。」
「あらあら今日もサラなのね。そろそろソラの相手もしてあげなきゃ可哀想よ〜?」
「母さん!僕は大丈夫だよ!」
確かに最近はサラの相手ばかりだった。ソラは最近俺に冷たくなってきて寂しくてつい甘えてくるサラの相手を優先してしまうのだ。
「そうだな、じゃあ昼からは久しぶりに二人で修行しようか。」
「…!ほんと?いや、でも母さんの手伝いで忙しいんだから僕は今度でいいよ。」
「そんなこと言わないのソラ。母さんは大丈夫だから楽しんでらっしゃい!」
遠慮するソラに母さんが言うと、ソラは小さくうなずいた。
「お兄ちゃん早く行こ!」
「おう。じゃあ母さん、ソラ、行ってきます。」
「「いってらっしゃい。」」
家を出て村の外れにある丘へ向かう途中声をかけられた。
「あれ?ノラじゃない。今日もサラちゃんと丘に行くの?」
「あ!お姉ちゃん!」
「あぁミリアか、お前も来るか?」
「遠慮しとくわ、サラちゃんとの時間を奪っちゃったら悪いもの。」
「そうか、じゃあ昼からソラと修行する予定だから気が向いたら来てくれ。俺は魔法が使えないからな。魔法が使える人との経験を積んだほうがソラにもいいだろう。」
「あんたは相変わらずお人好しね、でもなんかずれてるのよね。…まあ行くわ。修行の間サラちゃんの面倒見てあげる。」
ミリアは俺の幼馴染だ。なんでも生まれた日も時間も一緒らしく、事あるごとに何かと縁があるので小さい頃から仲良くしている。
しかしずれているとは失礼なやつだな。俺は家族のことを一番に考えているというのに。
丘に着いた俺はサラと追いかけっこをしたり、
サラをおんぶして走ったり、丘のふもとから頂上へ走ったり、、、めっちゃ走っていた。
「楽しいねお兄ちゃん!」
「はぁ…はぁ…、そうだなっ…。」
走り疲れてサラと座り込んで休んでいると、気づけば時間は正午の手前になっており、まだ疲れている様子のサラをおぶって家に戻った。
「おかえり兄さん。」
「ただいま、勉強は終わったか?」
「うん、母さんに言われた分はもう全部終わらせたよ。今日はどんな修行するの?」
「今日は模擬戦にしよう。ミリアも来てくれることになってるしその時に対魔法の経験も積ませるつもりだしな。」
魔法が存在するこの世界で俺は魔法を使えない。それは珍しいどころの騒ぎでは無く、魔法の使えない俺と修行をすることはあまり意味をなさないのだ。だからミリアを呼んだ。俺ができるのはせいぜい剣術くらいだからな。
しかしソラは俺の剣術はかなりのレベルだから魔法が使えなくても修行としての意味はあると定期的に俺と修行したがる。
俺は帰ってくる途中で寝てしまったサラを部屋まで運んだ後、ソラの待つ庭へ出た。
そしてソラとの模擬戦が始まった。
「くっ、【疾風の矢】!」
「あまい!そんな気の抜けた魔法なんて目をつむってても避けられるぞ!」
お互いに木でできた剣を持って決闘し、相手に負けを宣言させる事で勝敗を決める。シンプルなルールだ。
剣術で防戦一方のソラは攻めの起点を作る為に俺に風魔法を放った。
だが俺はそれを剣で往なし距離を詰める。
カラン…
ソラの木剣が弾かれた。
「ま、参りました。」
「おう、発想は良かったぞ。休憩を挟もうか?」
「だ、大丈夫…。」
「もう、ノラは手加減ってものを覚えなさいよね。」
「ミリアか、早かったな。」
視線の先にはにはミリアが立っていた。
「いくらノラが魔法を使えないからって剣術のレベルが違いすぎるんだからそんなんじゃ勝負にならないわよ。」
「いやだが俺は魔法が使えないからこそ剣術を鍛える必要があってだな…。」
「それは手加減をしない理由になってない。」
「はい…。」
昔からミリアに頭の上がらない俺は今回も簡単に論破された。
「いいんだよミリア姉さん、兄さんがこうなのは僕が一番わかってるし何より手加減をされるのは嫌だ。」
「そうは言っても今のままじゃ実力差がありすぎて経験もなにも無いわよ?」
「…確かにそうだね、しばらくは模擬戦じゃなくて稽古の方が良いかな。」
「その方が良いならそうしよう。じゃあ剣術の稽古はやるから魔法の方はミリア、頼む。」
「はいはい頼まれました。」
模擬戦はこうして終わり、ソラへのそれぞれの稽古も終わろうとしていた頃、ミリアが突然俺の地雷を踏み抜いた。
「でもほんとになんでノラは魔法使えないのかしら。やっぱ才能が無いから…?可哀想に、今時サラちゃんでも魔法を使えるのに…。」
「えっ、ミリア姉さん…?」
「ミリア…その喧嘩買った。」
「ふっ、かかったわね。」
俺は魔法が使えない。昔は赤ん坊でも使える魔法を俺が使えないのは病気なのかもしれないなんて考え親に相談したが、親曰く体にはなんの異常もなく俺の体は至って健康体らしい。その返答と同時に病気なら治れば使えるように…という俺の希望は打ち砕かれた。
本来ならば大きすぎるショックでいまだに現実逃避している俺を当時から1番近くにいたミリアが掘り返すことは無いのだが、唐突に言い出すときがある。
俺と戦いたいときだ。挑発のつもりか?子供だな。まったくやりたいなら素直に言えばいいのに可愛く無い。
絶対にぶっ飛ばす…。
俺とミリアは向き合い臨戦態勢に入り、今にも逃げ出したそうなソラの合図を待っていた。
読んでいただきありがとうございます。
戦闘力がわかりやすいように何処かのタイミングで数値化したものを載せようと思います。
次回にご期待ください!