たぴおか。
「流行り廃りって早いもんだよね。」
そういう彼女が手にしているのはタピオカが入ったミルクティー。俺の感覚ではココナッツミルクに入れるものとばかり思っていたが、最近は違うらしい。
「なぁ、お前、タピオカが何でできてんのか知ってるか?」
「芋?」
「合ってるけどさぁ、どの芋なんだって話。」
「ちょっと考えさせて。」
考えている彼女の横顔はとてもかわいくて、ずっとここにいて欲しいなと思う程であった。
「うーん、サトイモ?」
「今日の夕飯だな。」
「じゃあ、さつまいも。」
「違うでごわす。」
いきなりエセ薩摩弁を入れてみたが、残念ながらウケることはなかった。誰か笑ってくれてもいいんだよ?
「……じゃがいも?」
「つくれないことはないが違う。」
片栗粉と砂糖でつくるレシピも存在しているため一概に違うとは言えないが、問題の意図はそこではない。
「人参。」
「そもそも芋ですらない。」
「他に何があるの?」
それを言ってしまったら答えになってしまう。でも、言う以外の選択肢を俺は持ち合わせていなかった。
「……キャッサバとか。」
「なにその名前。割とウケるんですけど。」
「正解はキャッサバでしたー。みんなー、わかったかなー。」
見事な棒読みをかましてみる。みんなといっても俺らしかいない訳だが。
「わかったかなーって、もう誰もいないよ。」
「俺らもそろそろだろうな。」
「俺ら、じゃないよ。あんたはもう終わってる。再燃しそうだけどアタシには絶対勝てないんだから。それに、アタシは絶対あっちには行かないよ。」
「――――その謎の自信はどこから来たんだか。」
ブームはいつか終わる。ひとつの時代が数十年で幕を閉じるように。いや、それよりもずっと早い。短いものは一ヶ月もたたずにここを去ってしまう。
「もう、あっち側には戻りたくないなぁ。」
「アタシだって戻りたくない。でもさ、時代の流れには逆らえないのは知ってる。だから、精一杯足掻いてみることにするさ。」
明日には、新しい年号が始まる。俺らは、いや、彼女は無事令和の時代を生き抜けるのか。それは神のみぞ知ることだ。
1992年くらいの第一次タピオカブーム。
エスニックなデザートだったそうです。
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食べたことない。