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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

水の聖者シリーズ

アル君の過去(一部)

作者: 森川 悠梨

 ジャリ……と、薄暗く鉄錆臭い牢屋の中でそんな音が僅かに響く。

 地下にあるこの頑丈な部屋の中にいるのは、顔立ちの整った15歳ほどの少年だった。

 特徴的なのは、滅多にいないであろう美形で女顔と表現してもいいような顔を持っているということと、戦闘民族の末裔と呼ばれるレイヴァの最大の特徴である、白銀の髪。そして狼の耳と尻尾だ。

 牢屋の中にいる少年の手足や首に取り付けられた枷にはそれぞれ鎖がついており、彼の身体を束縛するかのように動きを封じている。

 さらに騒がれるのを防ぐかのように汚れた猿轡まで噛ませられていて、景色を見ることを許さぬかのように黒い布で目隠しまでされている。

 そんな、身体の機能をほとんど封じられた少年は、全く身動きもせずにただじっとしていた。

 それだけではない。

 少年は身体中に大小含めて多数の傷を負っており、粗末な手当はしているもののほとんどは化膿して、更には出血量も馬鹿にならないほどに多いものだった。

 ……少年は明らかに疲弊しており、身体も見るからに痩せ細っている。この場から逃げるどころか生きる意志すらも感じさせないような、黒い布の下にある濁った瞳は下を向いている。

 本来ならば美しいであろう白銀の髪も輝きを失い、サラサラとしていたであろうそれも今は汚れておりボサボサだった。


 ガチャリ。

 重い金属製の扉が開かれる音がする。明かりがつけられ、数人の男達が入ってくる。

 特に表情を動かすでもなく、少年は男達の方へと顔を向ける。しかし、やはりその顔には意思や感情といったものは感じられない。


「……水狼、出ろ」


 水狼、と呼ばれた少年はそれでも動かない。

 だがそんなことはわかっているとでも言いたげに後ろに控えていた男達は動き出し、牢屋を開き、水狼を押さえつけながら繋いでいた鎖を解くと間を開けず手に持っていた新たな枷をすぐに取り付ける。

 その動きは全てが徹底されており、水狼を逃がさんときっちり押さえつけながら立ち上がらせる。


「よし、連れていけ。くれぐれも気をつけろよ」

『へい』


 屈強な男達に押さえつけられながら、水狼は歩き出す。そこに意思は感じられないが、存在はしていた。

 だが、彼は、それを表に出すという真似はしなかった……いや、できなかった、という方が、もしかすると正しいのかもしれない。長年閉じこめられて暴力を受けていたせいで、感情が表に出なくなったからだ。

 少し歩いたところで階段を昇り、地上に出る。

 真夏の暑さで身体中の傷が痛むが、それを表に出すような真似を水狼はしなかった。

 目が見えないのでどこを歩いているのかはわからないが、土を踏んでいる足の裏の感触と周りから聞こえてくる小鳥や獣の鳴き声、そして木の葉が揺れる音が聞こえることから、森の中なのだろう。

 しばらく歩いていくと、水狼は男に軽々と持ち上げられる。男の力が強いということもあるが、少年は痩せ細っていて、小柄であるというのもあるのだろう。

 男にどこかへ投げ入れられ、木製の硬い床の感触が水狼の身体に伝わる。

 その際に身体中の傷が痛み、思わず水狼も僅かに呻く。……だが、いつもの事だと、それ以上は動かなかった。

 無造作に投げ込まれたためか、今寝転がっている体制では納得いかず、何度か身体を動かして丁度いい体勢を見つけることに成功すると、水狼はその後一切動かなかった。

 すると、水狼の入れられたどこかの床が一度大きく揺れる。石か何かを踏んだのだろう。

 ……そう、今水狼が入れられているのは、馬車である。

 何度も彼はこの中に入れられて運ばれているので、すでにこの馬車の中は血生臭いという状況になっている。

 だが水狼はまったく気にした様子はない。

 なぜなら、もうとっくに慣れていることだったからだ。


(こんなことになって……もう何年経った)


 水狼は、本来ならば人間ではまったく相手にならないほどの実力の持ち主だ。それこそ、1人で一軍を相手でき、更には文字通りの意味で消滅させることができるほどの実力を、だ。本気を出せば一瞬で世界を滅ぼせる。

 だが首輪によって魔力を封じられ、その首輪によって弱点を突かれてしまっては、そんな彼でも抗う手段は存在しなかった。

 彼を大事に思っている兄姉たちも彼以上の実力を持っている。魔力を辿って探し出し、救出することも出来ただろう。

 だが、こうなるまで水狼を助けられなかったのは、やはり魔力が封じられているからこそ彼の兄姉たちも魔力を辿ることが出来ずに未だにこんな状態が続いているからだ。


(いっそ……死ぬってのもありか……?)


 そんな考えが頭を過ぎる。

 だが、すぐに自分の考えを否定した。


(馬鹿か、俺は。兄さんや姉さん達に、もう一度会うって決めた……はずなんだけどなぁ)


 胸内で弱音を吐く水狼。

 だが、それもある意味では仕方の無いことなのだろう。水狼が監禁されてから、もう30年近く経つのだから。

 それでも彼の見た目の年齢がまだ少年と表現してもいいほどに若い……いや、幼いのは、長命種である才を持つ子(シャラスト)であるが故なのだ。

 人間に捕えられ、拷問され、監禁され、碌に食事も与えてくれないこの30年間は、水狼にとって地獄でしかなかった。

 人との会話もないこの環境では、自然と表情が、感情が薄くなるのは当然のことである。

 しばらく馬車に揺られていた水狼だったが、不意に……本当に不意に思い立つ。


(馬車の扉を蹴破れば、外に出られる、か?)


 馬をものすごいスピードで走らせている今に、それも目隠しをされた状態で外に出るのは危険を伴うだろう。だが、地下室に閉じ込められている時よりも逃げ出せる可能性が高いのも事実。

 たいていの場合、どこかに運ばれる時は気絶しているか眠っている時がほとんどだったために、今までそれを思いつくことはなかった。


(これだけのスピードで走っていれば、俺が馬車から出てもだいぶ距離を開けるんだろうな。……もっとも、あまり派手にやるとバレる可能性は高いんだが)


 速度が速いために、人が乗っている場所では派手に馬車の音が聞こえているはずだ。更には風の音もある。

 人が乗っているスペースには屋根がないのだから、尚更だろう。

 ……だが、手足が不自由な水狼では、馬車の扉を蹴破るのは難しかった。

 両足がピッタリとくっついているわけではないので歩くことくらいは出来るが、それでも扉を蹴破ることが出来るほど鎖が長いわけでもなかった。


(……行き詰まった……)


 更に言えば水狼はかなり疲弊している。それでも死ぬことがないのは、彼の種族の問題もあるのだろう。

 そう、内心で水狼が呟いた時。


『なっ、なんだっ!?』

『ちっ、"風龍"の奴らか!』

『厄介な。弓を持て!』

『くそっ、当たんねえぞ!』

『何なんだよ、何であいつらが、よりにもよって……!』


 外が騒がしくなってきた。

 どうやら敵に出くわしたらしく、雄叫びや金属がぶつかり合う音といった戦闘音が聞こえる。やがて馬車は急停止し、慣性が働いて水狼の身体は床を引きずられる。

 もう既に気にしないことだが、それでも傷は痛む。僅かに呻いたが、それだけだ。

 しばらく戦闘音が響くが、馬の嘶き、そして断末魔が聞こえたのを最後に、誰かが馬車の中身を確認するようにと指示していた。

 ……女の声だ。


「うわっ、鉄錆臭いんだけど!」

「な、何、ここ? 床が血塗れじゃ……」


 そんな、若い女の声が聞こえたのを最後に、水狼は意識を失う。





 時は少し遡る。

 馬に乗った男女5人の冒険者集団は、森の中の街道を真っ直ぐに進んでいた。

 とある組織の男達の移動を、防ぐために。


「いいか、敵は7人。私達よりも2人多い。しかも1人でもCランク冒険者に匹敵するほどの腕を持っている。決して油断するな!」

『了解!』


 油断という大敵を招かないよう、リーダー格の女がメンバーに語りかける。

 パーティの冒険者達は一斉に返事をし、目の前を疾走してくる馬車を捉え、それぞれの武器を構えた。


「"風龍"、全員突撃!」

『おおっ!』


 リーダーの声を聞き、それぞれの武器を構えて近づいていく。弓を持つ者は閃光の如き炎を纏った矢を放ち、杖を持つ者は複数の属性の魔法を同時に放つ。剣を持つ者は一気に間合いを詰め、向こう側から放たれる矢を、氷を放ちながら素早く切り伏せている。

 槍を持つ者は雷を武器に纏わせ、同じく矢を切り伏せながら男達を攻撃していた。

 そしてリーダー格の女が持っているのは、鞭。これもただの鞭ではなく、可視化している風を纏ったその姿は、誰もが同じ言葉を思い浮かべるだろう。

 "風龍"、と。

 それはこの冒険者パーティの名前であり、この女の異名でもあった。故に、敵の男達は叫ぶ。


「くそっ、風龍かよっ!」

「1人も逃がすな! 馬車の中にもいるはずだ、誰か回り込んで殲滅しろ!」

『了解っ!』


 鋭く返事をしたのは、弓を持った赤髪の少女と剣を持った白金の髪を持つ少女。彼女らは、馬車の荷台と思われる後ろに回り込み、剣に纏った氷を用いて扉を破る。


「うわっ、鉄錆臭いんだけど!」

「な、何、ここ? 床が血塗れじゃ……」

『っ!?』


 そう呟いた2人の視線の先にいたのは、満身創痍と表現してもいいほどにボロボロな獣人(・・)の少年だった。

 手足や首には鉄製の枷がつけられており、目元には黒い布、口には汚れた猿轡が噛まされている。

 意識がないのか少女2人の声にも反応せず、それこそピクリとも動かない。


「サユリ、カーラとライを呼んできてくれる? 私があの子の様子を見てくるわ」

「う、うん……わかった」


 そう言って、サユリと呼ばれた白金の長髪を持つ少女は走っていった。

 そして赤髪の少女は馬車の荷台の中へと上がると、錆臭さに顔を歪めながら、少年を抱え起こして外に出る。

 空気が籠っていて息苦しいので、赤髪の少女はそのまま少年を抱え上げて外に出る。そして地面に寝かせると、丁度サユリがカーラとライを連れて戻ってくるところだった。


「アカネ」

「サユリ、カーラ、ライも。この子なんだけど」

「っ……酷いな」


 アカネと呼ばれた少女の向かい側に座ったカーラは、少年の首に手を当てた。少しすると、アカネに視線を向けて頷く。まだ脈は動いているということだった。


「ライ、大きな傷だけでもお願いできるか?」

「了解」


 短く返事をし、杖を持った榛色の髪を持つ少年──ライは、少年につけられた大きな傷数箇所に緑色の光を放って回復していった。

 だが治せたのは少しであり、それが、この少年の魔力量がライよりも遥かに多いことを示していた。


「この子ってまさか……」

「魔術師レベルの魔力量の持ち主、か」


 魔術師レベルの魔力量の持ち主は、基本回復魔法が効かない。少しは回復するのだが、それでも対象の魔力量の方が回復魔法を放つ側の者よりも遥かに多いと、あまり効果はない。故に……


「すぐにちゃんとした手当をしないとな。今施してあるのは粗末すぎる。……よし、とりあえず枷を外そう。男達の所持品から、鍵を探してきてくれ。必ず持っているはずだ」

「わかったわ」


 そう返事をして走っていったのは、アカネ。

 最後の1人、槍を持った青髪の男と合流して鍵を探し、いくつもの鍵が纏められている輪を見つけることに成功した。


「カーラ、あったわ」

「ありがとう」


 カーラがアカネから鍵を受け取ると、鍵口が合いそうなものを選んで差し込む。


「よし、これだな」


 右に捻ると、カチャリ、と気持ちの良い音がする。


「おいおい、あいつらこんなガキを……」


 口の悪いこの男は、青い短髪の男だ。

 槍を携えており、その槍を肩に担ぎながら不機嫌な表情を隠そうともせずにそう言う。


「アドルフもそう思うよね。僕も酷いと思うよ、これは」


 アドルフとライがそんな会話をしている間に、女性陣3人が丁寧に少年に取り付けられた枷と鎖、そして目隠しに猿轡を外していく。

 所持していた布で出血量の多い傷を塞いで血止めをすると、アドルフが近づいて少年をそっと担ぎあげた。


「こいつは俺に任せろ。……にしても、軽いな」

「碌に食事も与えられなかったんだろうね。その傷や痣の数々を見るに……拷問か?」

「その可能性は高い、か。とにかく、この馬車とあいつらをギルドに届けないとね」

「ねえ、あの人たちを縛って起こして、この錆臭い荷台に入れて運ぶっていうのはどうかな?」


 満面の笑み……付き合いの長い他の4人からすれば怒りの表情を浮かべたサユリがそう言う。

 優しい笑みを浮かべているのに言っている内容は残酷なのに対して4人は特に気にした様子もなく……


『賛成』


 息を合わせて即答するのだった。もしこの場に第三者がいたとすれば、色々な意味で驚くことだろう。


「よし、じゃあ行くぞ」


 リーダーであるカーラがそう号令すると、パーティのメンバーは全員が頷き……馬車を引いて歩き出した。





「なあ、そいつ本当に平気……大丈夫なのか?」

「わからないわよ。でも、お医者さんは命に別状はないって言ってたし……」


 アドルフの言葉に、アカネがそう返す。

 少年を助け出してから3日。彼は一向に目を覚ます様子はなく、身体中包帯や絆創膏だらけのままベッドで眠ったままだった。

 多少栄養不足でかなり疲弊してはいるが、7日以内に目覚めるのであれば特には何もないらしい。

 脈は弱いがしっかり動いていて、呼吸もしている。


「それに……」


 アカネは、部屋のベッドで眠っている少年へ視線を向ける。


「サユリも、結構気にしてるみたいだし」

「……まあ、俺は別に構わないんだが」


 アドルフもサユリの様子には気づいていたらしく、素直にそれを認める。

 サユリは心優しい少女だ。

 他人事でも誰かが困っているのならば助けたいと願う女の子で、風龍というパーティは有名だが、サユリは"氷剣姫"の異名を持っていて有名だ。

 それに、彼女は昔弟を亡くしている。生きていれば、今ベッドで眠っている少年と同じくらいの歳だっただろう。


「……まあ、しょうがないよね」


 そんな2人の会話に割り込んできたのはライ。椅子に座り、腕を組む。


「あいつら、何を考えてあの子を捕らえていたんだろうね。……ああ、レイヴァであることもまた理由にあるんだろうけど」

「どうやらそうらしい」


 部屋の入口……玄関に続く廊下に繋がっている扉から出てきたのは、カーラとサユリだった。

 彼女らはギルドで情報を集めた帰りであり、その情報の中には、3日前に捕らえた男達に関する情報も含まれていた。


「男達から引き出した情報の中に、レイヴァを捕らえている場所がいくつも発見されたらしい。そいつも、目を覚ましたらギルドへ引き渡す」

「なっ、そんな!?」


 声を上げたのは、サユリだった。


「そんな、私たちで引き取るって……!」

「大丈夫だ、ある程度情報が聞けたら、ギルドもまた私たちに預けるらしい。……それに、そいつだって親元に帰りたいだろうし」


 カーラの言っていることは正しかった。だが、サユリは黙り込むのではなく、安堵の息を漏らす。

 自分たちで助けたからには、自分たちで何とかしてあげたいと思っていたからだ。

 カーラ率いる風龍という冒険者パーティはAランク冒険者の集団であり、ギルドからの信頼が厚い。それ故にギルド側も少年の世話を任せているのだ。


「とにかく、まあ、私達は一応保護者だ。ギルドへは私が連れていくが、異論があるものは?」


 カーラが尋ねるが、皆首を横に振る。それだけ、彼女がメンバーに信頼されている証でもあった。


「よし、なら……」

「ん……うぅ……」


 僅かな呻き声が聞こえ、カーラは言葉を止めた。

 全員が視線を向ける方向は、少年が寝ているベッド。


「気がついたの?」


 サユリが少年に歩み寄る。だが……。


「っ!?」


 少年は目を大きく見開き、飛び起きるようにして後退る。だが、身体中にある傷が痛んで力が入らないのか、呻きながら再びベッドに倒れ込む。


「だ、大丈夫!?」

「よ、寄るな……っ、ぐ……!?」


 どこからか取り出した金属片をサユリに向けた少年だったが、カーラが腰から取り出した鞭によって器用に弾かれる。

 金属片はクルクルと回りながら数メートル離れた場所に深く刺さるが、すぐに消滅した。


「ちょっ、カーラ!?」


 サユリは咄嗟に叫ぶが、カーラはすぐに少年の手を掴み、動きを封じてしまった。


「落ち着け、ここにお前を傷つける奴はいない」


 少年の目には深い怯えと警戒の色があった。透き通るような青い目は、魔力量がかなり多いということを示す。やはりな、と思いながら、カーラは手の力を抜きながらそっと声をかける。


「大丈夫だ。よほど怖い目に遭ったんだろうが、私達はお前を助けたい。信じてもらえるだろうか?」


 右手をそっと外し、少年の頭に触れる。すると彼は少しだが安堵したかのように力を抜き、僅かに息を切らしていた。


「落ち着いてくれたか?」


 まだ怯えの色はあるものの、少年は落ち着いてくれたらしい。

 カーラは彼の額に手を当てると、その形の良い眉が顰められた。


「熱が上がってしまったな。ギルドに連れていこうと思ったが……ちゃんと休んでからでいいから、ほら、寝ろ」

「俺を……どうする気だ……?」


 掠れた声だったがカーラはしっかりと聞き取り、安心させるように微笑んで見せる。


「どうもしないさ。ただ、私達に協力して欲しくてな」

「っ……!」


 再び腕に力を入れて暴れようとする少年だが、カーラはそれを許さない。


「私達はあの男達とは違う。さっきも言ったが、ここにはお前に危害を加える奴はいないよ。風龍の名に賭けても、約束するさ」

「どうして俺に、そこまでするんだ……?」

「言っただろう。……助けたいからだ」

「…………」


 少年は黙り込む。カーラの言っていることが嘘か誠か、見極めるかのような目だった。やがてカーラの言葉を信じたのか、少年は渋々でもうなずいてくれた。

 それが嬉しかったのか、安心したのか、カーラは再び微笑んで、少年の手を離す。


「私はカーラ。後ろにいるこいつはサユリ。で、赤い髪の女はアカネで小柄な男はライ。奥にいる強面のおっさんはアドルフだ。よろしくな」

「誰がおっさんだ、誰が」

「あなたの名前を教えてくれる?」


 アドルフの突っ込みは無視し、サユリが優しく問いかけた。

 少年は戸惑っていたが、やがてうなずくと、小さい声で名を告げる。


「……アル。アルスレンド。よろしく」

「アルスレンド……よろしくな」


 そう言って、カーラはにかっと笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろうトップからたまたま見つけたのですがシリーズ物の過去会でしょうか。 続きもしくは本編が気になってしまいました!
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