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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第7章 相羽リリィの冒険
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7-13.『新たな可能性』

 今日も朝からアナスタシアさんとの特訓だ。ここのところ朝に基礎体力向上の特訓、昼から夕方にかけて剣術の特訓をしている。朝はアナスタシアさんが忙しくしているので、その間は女性の副団長が見てくれている。

 いい汗をかいた後はお風呂に浸かりゆっくりしている。すごく充実した日々を1週間以上続けている。

 その間、正人君は王宮に出入りしていたり、ギルドの人に聞くと依頼をしているらしい。王宮に何の用があるんだろうか。

 次の日、朝早くに修練場に行くとすでにアナスタシアさんが待っていた。今日は朝から剣術の特訓をするらしい。


「1週間、あなたを見ていて思ったことがあります。リリィ、あなたに剣の才能がありません」


「えっ……」


 突然才能がないと言われて持っていた木剣を落としてしまった。


「あっ、すみません。言い方が悪かったですね。あなたは剣よりも槍が適正なのではないかと思うのです」


「や、槍……ですか?」


「はい。あなたのその柔軟性は剣よりも槍で発揮されると思ってます。もちろん剣であっても冒険者として十分な力量です。しかし槍ならばもっとあなたを輝かせるのではと思いました。ちなみにこれは共に見ていた副団長も同じ意見です」


 槍……かぁ。考えたこともなかった。そもそも槍を扱う人が周りにいないからだけど、もし適正があるならやってみるのもありかも。


「一度槍でやってみます」


「そう言ってくれると思ってました」


 アナスタシアさんは練習用の木槍を渡してくれた。


「槍の特訓も私が見ます。こう見えても西の大陸発祥の槍術流派、『リベリュール槍術』の免許皆伝なのです」


 槍も使えるんだこの人。何でもありだ。逆にできないことが何なのか知りたい。

 槍はとても不自由に感じた。リーチは長いけど、実質的に相手にダメージを与えるのは穂先のみ。それ以外の部分はカウンターやちょっとした打撃に使えるが、今まで剣を扱ってきた身としては物足りない。


「リベリュール槍術は六連一刀流と同じく速さを追求した流派です。3つずつの『攻式』と『守式』があります。基本となる攻式壱ノ型『蜻蛉(せいれい)』は字の如く、トンボの動く様を槍で体現したものです」


「トンボ……ですか?」


「はい、トンボです。彼らの特筆すべき点はその圧倒的飛翔能力です。ゼロからトップスピードに入るまでは一瞬ですし、空中にピタッと止まることもできます。それを槍を持った状態で再現します。まずは槍を持たずにやりますから見ててください」


 アナスタシアさんはそう言うと瞬きを1回しない内に修練場の先から先まで移動して、また瞬時に戻ってきた。


「つまりこういうことです」


「いや、わかりません」


「六連一刀流は速さの中に余韻を持たせます。理由としてはあの勢いで急停止すると体にかかる負担が大きいからです。リベリュール槍術は逆に余韻を持たず、0か100の2択しかありません」


「でもそんなことしたら体に負担が……」


「その負担を0にするのがリベリュール槍術の基本なのです。で、それを0にする方法がですね……」


「『()』っていうリベリュール槍術における概念だね」


 突然正人君が後ろから現れた。ここ最近会ってなかったから久しぶりだ。


「正人君、なんでここに?」


「王宮に用があってね。ついでにリリィがどこにいるか聞いたらここにいるって聞いたから」


 てっきりギルドで依頼をしているのものと思ってた。


「彼の言う通り、この流派では『理』という概念の理解が必要です。総本山に行くと最初の修行は高速で飛んでいるトンボを二本指で捕まえることから始まります。じっくり観察してトンボの生態を知り自分に落とし込む必要がありますが、今回はそんなに余裕がないので省きますが」


 あんなに速いトンボを二本指なんて一朝一夕では無理だ。


「ていうかなんで正人君が知ってるの?」


「何でってそりゃ、リベリュール槍術を使えるからだけど」


 ほんっとこの人も大概何でもありだ。逆に使えない流派があるか聞きたい。


「あなたも使えるんですね」


「一応は」


「じゃあさ、アナスタシアさんと正人君で一試合ってのはどう? 実際の槍術を見てみたい」


「えぇっと……」


 正人君が困っている。そんな変なこと言ったかな。


「リリィ、正直に言いますね。私たち2人が戦うとなると模擬戦どころではなくなるのと、おそらく私が負けます」


「えっ? アナスタシアさんこの国最強なんでは?」


「そうですが、彼はその上を行く人物です。本来、星の属性を2体持っているのも規格外ですし、あの若さで私以上の熟練度です。剣であっても槍であっても関係なく私が負けます」


 これ、アナスタシアさんが謙遜してる訳でもなく真実なんだ。正人君は本当に何者なんだろうか。悪い人ではないんだけど、気になる。


「話を戻しますが、『理』というのは簡単に言えば魔力の操作です。もっと簡単に言うと魔力を皮膚上に纏わせます。これがトンボの羽に該当します。もちろんただ纏わせるだけでは無意味です。風の向きや、大気中の魔力の流れを読む必要があります。その上で魔力の膜の形状を微量ながら変化させて急発進、急停止を実現させます」


「では何で2本指でトンボを捕まえるんですか?」


「初歩的なこととして指に魔力を集める練習です。いきなり全身は不可能でも部分的であれば割と簡単です。指で感じる流れを読み、トンボの行く先を予測して捕まえるという訳です。慣れれば目を閉じても捕まえることができますよ」


 まずはやってみたいことには始まらない。指に魔力を込めるのは簡単だ。だけどこれだけで魔力を読むなんてできるだろうか。


「ここは室内なので、外でやるとわかりやすいですよ」


 と、言われて外にやってきたものの何一つ掴めない。


「リリィ、わからなければ指に唾を少しつけてみるといい。指が濡れてどこから風が吹いているかわかりやすくなる」


 正人君が言うのでやってみると、確かにわかる。


「これが、風の流れ……」


「そう、でも魔力は風とは違い散漫的だからそれだけに一度集中するんだ」


「うん……」


「集中して」


 正人君が私の前に来て視線を合わせてくる。真剣な眼差しだ。私も本気にならないと失礼だ。


「呼吸を止めちゃダメだよ。そして想像するんだ。ここにはいない高速で飛翔するトンボを」


 トンボ……。あいつらはめちゃくちゃ速い。私の目の前を通りすぎるのも一瞬だ。

 じゃあ最適解は? 待ち伏せするように構えておこうか。今の私では咄嗟の判断ができない。


「あっ……」


「失敗……かな?」


「でもいい集中力です。人はイメージだと自分を美化してしまう傾向があるのですが、まさか失敗というイメージができるなんて」


「私ど田舎出身で、やることないから想像だけなら誰よりも得意です。でも自分でも失敗なんて思ってませんでした」


 飛んでるトンボを捕まえるなんてことはやったことないしイメージできない。


「時間はあるんだ。ゆっくりわかっていけばいいよ」


「そうですね。ちなみにどれくらいここにいるつもりでいますか?」


「決まってないですけど、3ヶ月くらいは」


「なら何とか形にはできそうですね。可能なら毎日来てください。ここを出るまでにリベリュール槍術の基本を覚えてもらいます。その後は彼に教えてもらってください。リリィならきっとできますよ」


 頭を撫でられた。子どもじゃないけど、この人の手の温もりはすごく落ち着く。ずっと撫でてもらいたいくらいだ。


「あぁ、あと。もし槍を買うならお店ではなく、朝比奈凛さんがいる武具店に行くといいですよ。確か師匠がいらないレアな素材を彼女に預けていたと思うのでもしかしたらあなたに合う物があるかもしれません」


「アサヒナリンさん?」


「現在のマスター・スミスです。あなたが持っているベルヴェルクも、私の神器も彼女によって作られた物です」


「そんなすごい人がここにいるんですか?」


「少し離れた所にいます。話をすれば良い素材で作ってくれるかも」


「明日にでも行ってきます」


「わかりました。私から彼女に連絡を入れておきます」


「ありがとうございます!」


 マスター・スミスに武器を打ってくれるなんてこれ以上ない最高の武器ができるはずだ。それに、初めての私の専用の武器だ。しっかり吟味しよう。


 その日も夕方まで特訓をしてから家に戻った。明日のことが中々頭から離れずに、寝不足状態で朝を迎えた。



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