7-8.『狙われ続ける恐怖』
それからも旅は続き、ついに北の大陸に入った。北の大陸に入ってから私を狙う賊があからさまに増えた。おかげで最近はしっかりと寝ることができない。
「さすがにリリィの疲労が溜まりすぎている。どこかでいいから宿で休もう」
「宿だから安全ということはないだろ。それなら僕が作る部屋の方が安全だ」
「それだと君も休まらない。宿なら人や従業員もいるんだ。野宿よりかは安全だ」
「宿は侵入経路が多い。僕は魔力を繋げれば無限に得られるしこれくらいなら体力だってほとんど減らない。一度リリィを休ませて僕たちで辺りを警戒すればいい話だ」
2人の話は平行線だ。私の為に言い争っているから何も言えない。
途中休憩を何回も挟んで街から街へと歩いていく。
もう少しでこの3人との旅も終わる。クリス君の目的地に辿り着くからだ。アルテシモで出会ってから早5か月。内1か月はアルテシモでの依頼だったけどとても有意義だった。
「明日には目的地に着くね。リリィ、長いようで短い日々だったけど楽しかったよ。俺がいなくなればマサト1人に任せることになるけど夜は気をつけるんだよ」
「大丈夫。私もそれなりにやるんだよ。ヴェストフォル王国に着けば幾らかマシなんだろうけど、それまでは気を抜かずに頑張る」
「そうだな。彼の国の治安はとても良い。そこでしっかり休養を取れるだろう。マサトもありがとう。ここまで一緒だったから助かったよ。君以上の戦士は中々いない」
「僕もクリスの補助には助けられた」
「それならよかった。でも君は最後まで心を開いてくれなかったね」
「え、そうなの? そんな風には見えないけど……」
「これは何となくだけど、信頼してるようでしていないし、常に俺を見ていたよね」
「……」
沈黙する正人君。沈黙するということは当たっていたのかな。こんなにも連携がすごいのに、当人から見たら違和感があったのだろうか。
「冒険者は簡単に人を信じるものじゃないよ。すごく善人に見えたとしてもね。僕が真に信頼する人物は8人だけだ」
「そうか。俺はその8人には入らなかったということか。でも冒険者なら簡単に人を信じてはいけないのは正解だ」
クリス君は寂しそうな顔をしている。私だったら本人から言われたら多少なり傷つく。
「リリィは人が良すぎる。これからはもっと人を疑っていくべきだ」
「でも、クリス君は信頼してるよ」
「……そうか。そう言われたなら俺の仕事は達成だな」
「どう言うこと?」
「何でもない。さぁ、俺が見張っとくから2人は寝てくれ。明日も早い」
どう言う意味だったのだろうか。単純に信頼を勝ち得たことが嬉しかったのか。私にはわからないがそれでもクリス君は信頼に値する人物だ。
この日の夜はクリス君1人が朝まで見張りをしてくれた。おかけでぐっすりと寝ることができた。
朝ごはんを食べて目的地である『ヴォラール』に向けて出発する。途中魔獣に出くわすも鮮やかな連携で次々と倒していく。
そして遂に『ヴォラール』に着いた。日が暮れそうだったので宿を探し見つけ終わった時、クリス君から別れの挨拶を聞いた。クリス君はこの街のある会社を訪ねる為旅をしていたと言っていた。本日中に一度顔を出すからもう会えないとも言われた。
「そっか、じゃあお別れだね」
「あぁ、本当にありがとう。願うならまたパーティを組もう」
「もちろんだよ」
「マサトも元気で」
「そっちも」
見えなくなるまで手を振り続けた。ここからまた正人君との2人旅だ。
「リリィ、部屋は別々だけどちゃんと気をつけるんだよ。宿はあんぜんと思われがちだけど、窓とか廊下からの侵入が容易いんだ。本当は避けたいんだけど……」
「大丈夫。ラウラがいるし、戸締りもしっかりしておくよ」
宿に入って各々の部屋に入った。ベッドに寝転びため息をつく。
仲間との別れも冒険者としての経験の1つだ。だから悲しくはない。けど正人君同様、密に接してきたから反動がでかい。
「明日からどうしよう……」
考え事をすると疲れる。やめにしよう。それにちょうど眠たくなってきた。
「いーーそーー! 今ーーチャーーだ!」
……何か聞こえる。でも目が開かないや。
「しーーにーーはこーー」
…………う〜ん。正人君がいるのかな。
「よーー。ずーーるぞーー」
………………何でもいいや。明日になればまた2人の旅が始まる。その為にしっかり寝よう。
「……」
柔らかいベッドで寝ていたのに腰が痛い。肩も腕も何故か窮屈だ。
「う〜ん……。痛い……」
ぼんやりと視界が見える。
「おっ、起きたみたいだな」
「んっ……?」
ぼやけていた視界がクリアになっていく。
ここはどこだろうか。宿の部屋ではない。豪華な部屋の作り、大きなベッド、床は大理石でできていてひんやりしている。
「まだここがどこか理解していないようだな」
目の前には巨漢な男が1人。手練れそうな覆面を被った男が2人いる。
「ここはどこ……?」
「案外冷静だな。感心するよ。ここは『ヴォラール』からかなり離れた場所だ。少なくとも国境は超えているとだけ言っておく」
連れ去られたみたいだ。寝ていたとはいえ全く気づかずに運び出すにはそれなりに大変なはず。それに隣の部屋には正人君もいる。彼に悟られずに部屋に侵入できるだろうか。
「あなたがここの主人なの?」
「俺はただの商人だ。ただし闇の世界のな。ただお前を攫うのは苦労したぜ。なんせもう1人のガキのガードの硬さが異常だった。だから何ヶ月もかけてお前たちの信用を得ることを先決した。おかげで作戦が実行できたわけだがな」
「何の話?」
「あぁ、そらお前は知らねぇよな。クリス・シートンが今回の作戦の実行役ってのを」
「えっ?」
どういうこと? クリス君が……今回の首謀者?
「まっ、『クリス・シートン』って名前すらもどこにも存在しない架空の男なんだが。まぁ、ものの見事に引っかかってくれたよ。あいつに名前なんて無い。組織に入った時、本来の名前も存在も全て消している」
「えっ……えっ……?」
どういうこと、頭が回らない。クリス君は敵だったってことなの?
「お前はこれからここの領主に引き渡す訳だが、領主が昨日から緊急で入った公務の為街を離れている。戻ってくるまでの間俺たちはお前を見張り、その後きっちり引き渡して依頼を完遂する」
「ボス、どうやら戻ってきたらしいぜ」
「そうか。準備をしろ」
「了解」
何やら闇商人たち動き出した。今なら見ていないから逃げ出すチャンスだけど、この手枷のせいで使い魔が使えない。
しばらくして扉が開き、身なりの良い小太りの男が入ってきた。こいつが今回私を攫うように指示した犯人。
「お前たち、女に何もしていないだろうな?」
「商品価値が下がるようなことはしませんよ。約束通り金はしっかり貰います」
巨漢な男が丁寧に話しかけている。相当お金を積まれているに違いない。
「わかっている。……女、リリィと言ったか。お主が今からされることがわかるか?」
自ら言わせるなんて、下品、悪辣な人だ。
「これまでも何回も捕まりそうになったからわかるけど、私にそんな価値ないよ」
「いや、お前の能力には興味ない。あるのは血だ。双竜の血統を継ぐ者を産み、我が領地の軍事力を発展させる。そして我が一族に優秀な遺伝子を組み込ませる。さすればこの領地も安泰というものだ」
「血が何だって言うの? 大切なのはその人が積み上げてきた努力だよ。血一つで全てが上手くいくなら世の中簡単すぎる。そんなことがないから人は汗水流して、死ぬ思いもしながら生きている。あなたたちのやっていることはただの欲を満たしたいだけで、そんなのは家畜以下よ」
「何とでも言え。今だけが唯一自分の意思で話せる瞬間だからな。今後は子を産み続けるだけの家畜だ」
ニタァと笑う男に対して身震いがした。気持ち悪い。吐き気がする。こんな男に私の純潔が奪われるなんて想像したくない。
「さてと。早速味わわせてもらおうかな。お前たちここから出ろ。見たいならいても構わんが」
「俺たちは任務を果たした。お暇させてもらいますよ」
「そうか。執事にこの件を話すといい。報酬はそいつから受け取れ」
「ありがとうございます」
商人たちが部屋から出ようとした時、扉が強引に開けられた。この男も身なりがしっかりしている。この小太り男の息子だろう。
「父上、抜け駆けは良くないですよ。今回の件、私が父上に助言したのですから私が1番でしょう」
「金を出したのは私だ。お前はその後で十分だろう」
「いやいや、処女じゃないと意味ないでしょうが」
歪み合う2人の会話は気持ち悪い以外の言葉が出てこない。
「おい、女!」
「なによ……」
「お前はどちらが先がいい? 選ばせてやる。これでもこの家は貴族社会の中では伯爵の地位にいる。高貴ゆえどちらを選べと言われれば難しいと思うが、好きな方を言え」
この男、自己評価が高いのか、それともバカなのか。好きでもない奴らを選べとは拷問だ。
「あなたたち、乙女心って知ってる?」
「あぁ、もちろんだとも。私を見た市井の女は見惚れてしまい夫や男など捨ててしまう。それくらい脆いものだ」
客観的に見て、この息子の顔は確かに良い方だろう。
「何もわかってない。乙女っていうのは好きな人と好きなことをして、心から通じ合える人と一緒にいたいの。少なくとも貴方たちではない。お願い、こんなことをしたら貴方たちに一生ものの傷を負うことになる。今ならまだ未遂で終わる。だから解放して」
私の必死のお願いも、説得も2人の甲高い笑い声で全て無になった。
この人たちは魔獣と同じなんだ。欲望のまま、理性もなく人を食らう。これ見よがしに権力をかざし、着飾ることでしか欲を満たせない悲しい魔獣だ。
「さて、そのよく回る口もさっさと塞いでしまおうか」
太い紐を手に、私の口に結ぼうする。必死に抵抗するも無理矢理口を開かされてついに結ばれた。
息子の方がナイフを取り、私の服をビリビリと裂いていく。
「おい、順番に脱がさんか」
「一々うるさいですねぇ、父上は」
上も下も服はもう無いに等しい。下着姿であられもない状態だ。手は拘束され、口も塞がれている。
「最後の一枚だ。拝ませてもらいましょうかっと」
私は恥ずかしさよりも屈辱と怒りが勝る。こんな奴らにいいようにされて腹が立つ。まだ誰にも見せてない純潔をこんなところで散らすことへの虚しさの余り、パンツを脱がされる時思わずギュッと目を瞑った。
そんな時だった。
“ガシャーン!”という音が部屋中に響き渡り、驚いて目を開けた。そこには来るはずもない彼の姿があった。
「やっと、見つけたよ」




