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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第1章 東国の異形
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1-8.『軍師 景綱』

「お目覚めでございまするか?」


 そう尋ねてくるのは左大臣。

 どうやら俺はオロチに完全敗北したらしい。あいつが作り出す津波によって流され、八雲大瀑布から続く大河を下りその途中で左大臣達に拾われギルドに搬送された。そして現在。


「ベルは? 一緒にいた女の子は?」


 どこ見渡しても姿はない。


「ベル様は現在近くの療養所にて寝ておりまする。オロチの水球をまともに受けてしまい、タクト様同様流されておりました。タクト様は使い魔によって守られておりまするが、ベル様はそのようなものはなく流されている間何度も頭部に岩を打ち付けておりまして流血しておられた。今は治癒魔法で傷は塞がりましたが気を失っていてしばらくは目が覚めないかと」


とりあえず命に関わることはないそうだ。


「そうですか。しかしなぜ水球の時守ってくれなかったのですか? 俺は使い魔のお陰で直撃は防ぎました。それでも危なかった。なぜですか?」


「オロチの水の咆哮のせいで水が溢れ出し、我々も何人か流されてしまいました。それで遅れを取ってしまい、守ることができなかったのでございまする」


 何が守りは専売特許だ。結局守れたのは1回で、自分たちも俺たちも守り切れてないじゃないか。

 でも俺はこの人たちを責めるつもりはない。元々危ない綱渡りだった。ここで諦めても良かった。

 けれど諦めたくはない。オロチが言ってた『ここまでの傷』という言葉。

 今まで立ち向かった冒険者に比べればという意味なのか、それとも意外とオロチにとって痛いダメージだったのか。あの巨体で1メートルほどの傷だ。当然前者の方だが、それでも今までに比べたらいい線いっていたことになる。


「左大臣殿。お願いがあります」


「何でございまするか?」


「もう一度、オロチと戦わせて下さい」


 そこにいた一同がざわざわと騒ぎ出した。


「なぜですかな? もうタクト様はオロチに敵いますまい。オロチは此度の戦いでしばらくは警戒します。そんなとこを攻撃できようものなら今この国にオロチはいません」


「わかってるけど、今回は俺たちにとって不確定要素が多かった。でも次は色々ともっと作戦を練れる。だからやらせて下さい」


 精一杯の土下座を左大臣に向け、誠意を見せる。左大臣は手を顎に当て渋そうに思い悩んでいる。


「正直言わせていただくと勝つことは不可能に近い。それでもまだやるというのなら我々もまた全力でやりましょう」


 とりあえずまた何とか挑戦できる。そうと決まればまずやるべきことがある。


「左大臣殿、この国にそれなりに強力で軍師はおられますか? それか軍師みたいに局面をよく把握できる人でも」


「まぁ、いるにはいますが……。現在は自宅に引きこもっていて滅多に顔を見せません」


「どこにいるんですか?」


「藪椿にある山の麓にて家を構えておりまして、そこで何かやっていると聞いておりまする。ただ……」


「ただ?」


「その軍師は紛れもなく天才。軍部のみならず全ての分野においてその多彩性が発揮されまする。しかし、いかんせん怠惰な性格で、何をやるにも動かないのです」


「それって軍師としてどうなの?」


「あまりよくありませんね。今は代理で軍師を立てていますが、やはりあの者には劣りまする」


 先のオロチとの初戦。ベルと臣下の人たちとのコミュニケーション不足が敗因の一つだ。常にベルと臣下の人たちと交信して戦いに臨むことが最も重要である。

 軍師というのはその全てを把握し、次なる一手を指す。それに長けた人物だからだ。

 この世界は魔法や魔法道具があるから何か遠隔で交信する手段くらいは多分あるはず。


「左大臣殿、その軍師がいる場所教えてください。今から行って何とか説得しに行きます」


「同意を得られる確証はありません。ですから期待せず向かうことをお勧めいたしまする」


 そう言って住所が書かれた紙を持って藪椿に向かうことになった。

 自身が藪椿出身という設定のため、そこまでの道のりは一切教えてくれなかった。出会い頭の人に声をかけ藪椿までの道のりを聞き歩いて、船を漕いで、また歩いてを繰り返す。そしてやっとの思いで着いたと思えば“ど”がつくほどの田舎、藪椿に着いた。


「まさかここまで田舎だったとは。奈良の吉野郡とかもかなり田舎と思ってたけどそんなん比じゃないや」


 ほとんどが田畑で、家もちらほら見かけるがほんと小さな小屋という感じで、魔獣ですら活動せずもはや藪椿の雰囲気に飲み込まれほのぼのしている。


「近づいても反応無しとか、ど田舎じゃ魔獣は野良猫なのかな」


 道すがら農家の人に居場所を聞き、その場所に向かう。

 たどり着くと持っていた物を思わず手を離してしまい落とすほど絶句した。家の形をしているが(つた)が乱暴に張り巡っていて、所々カビが生えている。


「表札は『有馬』……合ってる。てことはここか……」


 汚いドアに触れたくないので住所が載ってある紙を使い、そーっと開けた。


「ごめん下さーい」


「……………」


 返事が来る気配なし。


「留守なのかな?」


 立ち尽くしていると、カチリと音がなり反応する間もなく鉄の棒を後頭部に当てられた。


「そのまま何もせず、一言も話さず振り向け」


 殺気立つ男の声。息を呑みゆっくりと刺激しないように振り向いた。


「うああぁぁぁぁ!」


 先に目に入ったのは銃口。後頭部に当てられていたのは猟銃だった。それを見て反射的に尻もちをついた。


「動くなと言っただろ! てめぇ何もんだ!」


「俺は……じゃなくて僕は相羽拓人と言います! オロチ退治のため軍師である有馬景綱さんに力になってほしくて来ました!


「オロチ退治……」


 男は猟銃を下ろし手を顎に当て、閃いたように、何か理解した。


「オロチ退治ねぇ。あぁ知ってるぜ。ついこの間あれに受ける阿呆がいたこと。あれお前なのか?」


「はい。一応」


「そうか。その阿呆のために俺に手伝えと」


「そうです」


「ふ〜ん。まぁとにかく入れ」


 猟銃と鳥らしきものを手に有馬さんは家の中に入っていった。体を起こしお邪魔させてもらった。

 家の中もまぁ汚いことだ。そこら中に丸まった紙やらゴミやらが散漫としてる。同じ和風建築の家に住む者としては許せないな。

 有馬さんは台所へ行き、何やら狩ってきた鳥を捌いている。

 その間俺は家の中を散策。といっても平屋で部屋数も少ないが。先に目に付いた部屋にそーっと入る。

 目に付いた理由はこの部屋だけ妙に整理されているからだ。本がしっかり本棚にしまって、しかもタグ付きで整理されている。

 テキトーに一冊取り出して中を見てみた。


『南の大陸に神殿があった。けれど既に廃れていて人はおろか動物すらいない。


 気になって中に入ってみると普通の神殿のようだった。隅々まで確認すると地下に通じる階段あり。降りると魔力濃度が異常に高い場所を見つけた。


 とても小さい部屋ではあった。その中央には地下だと言うのに太陽の光が差し込まれるよう工夫がされていた。御神体と思われるこの水晶から異常なほど濃い魔力が放たれている。調べてみるとそれはかつて太陽神が宿ったとされるーー』


 これでも一部だが何となくわかった。あの人はただ怠惰に生活していたわけじゃない。これも、そしてこの本も全て自身で調べあげたオリジナルの本。大陸の秘密であったり、風土史であったり。


「あの人は軍師じゃなくて学者……?」


「おい、なに人の部屋見てんだ」


足跡もなくいきなり部屋に入ってきて驚いた。


「この部屋だけ整理されてたので気になって」


「とりあえず来い。話あるんだろ?」


 そう言われて居間に通された。

 居間は廊下と同じように散らかってる有様で、話をするためにとりあえず端に避けた形跡がある。


「で、俺に何の用だ?」


「さっきも言いましたがあなたにオロチ退治を手伝ってほしいんです」


「手伝ってくれと言うが、お前は何も無しに俺が手伝うと思ってんのか?」


「何も無し?」


「例えば、人ん家に行く時何か茶菓子持っていくだろ。それと同じだ。俺は人ん家に上がらせてもらう。その代わりに茶菓子を渡す。今回の場合、お前は俺に何も無し、それなのに俺はお前を助けなきゃなんねぇ訳だ。釣り合ってると思うか?」


「い、いえ」


「なら手伝ってほしい代わりに何か提示しろ。じゃないと交渉も取引もできねぇ」


 言ってることはわかった。では俺がこの人に提示できる物。


「報酬額の、えっと……4割。どうですか?」


「4割。まぁあの額の4割ならまだ上々か。ならいいだろう」


「いいんですか?」


「何だよ。自分で提示したんだろ?」


「左大臣殿から怠惰な人と聞いていたので」


「くそっ、あの野郎か」


 舌打ち混じりに言うとか。本気で嫌いなんだなぁ。


「伊勢の野郎はほっとくとして。あいつを倒したいんだろ? なら簡単だ」


「本当ですか!?」


「あぁ、あいつは水があれば幾らでも回復できる。なら水を抜けばいい」


「いや、あんな大量の水どうやって。水は常に滝から流れ落ちてきて、滝壺に溜まり、大河に流れ出てるんですよ? そんなものどうやって……?」


「防御結界だ。それでオロチを囲め。結界は不要とするものを弾く。水を不要とみなせば、後はわかるだろ?」


「……えっ、それだけ? そんな簡単なことならとっくにオロチなんて退治されてますよ?」


「そもそもこの国に結界を持ち込んだのは現帝だ。今までは山と海いう天然の防壁があったから必要ないとしてきたが、現帝が外の国の怖さを知り結界という技術を持ち込んだ。この国にとって結界はつい最近確立された魔法だ。そんで結界を張るには大量の人がいる。結界を張れる人の数だけならこの国は問題ない。今までそれが為されてないのは単に依頼を受ける数が少な過ぎたからと、結界という選択肢を選ばなかったからだ。結界という答えくらい軍師でなくともたどり着ける」


 そう豪語する有馬さん。


「それに今回は国がある程度補助してくれんだろ。なら結界くらいさっと張ってさっと倒せば終わりだ」


「てか知ってるんですか。国が助けてくれること」


「当たり前だ。一応使い魔を国中に放ってるんでな。そいつらから情報を得ている」


 テイマーなんだ。知らなかった。でもともあれ意外とあっさり引き受けてくれたことに感謝しないとな。これでオロチ退治の準備が1つだけ整った。



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