7-6.『月光神竜』
「う、う〜ん……」
目が覚めたらそこは洞窟ではなかった。とっくに外に出ていてもう夜になってた。
1つ違うのは一緒にいるのが正人君ではなくて、かなり強面のおじさん達だ。
「おじさんたちこの手錠外してよ」
「おっ、起きたか。起きて一言目がそれとは中々肝が据わってるな」
「そりゃこいつ双竜の娘だぜ! その辺の小娘とは違うっての!」
「そりゃそうだ!」
リーダーらしい人間と取り巻きが見える範囲で20人以上。そして私以外にも何人か囚われている。人攫い、奴隷商かその仲介役と言ったところか。
こいつらは私を双竜の娘として認識しているということはもう私の存在は裏社会ではかなり出回っているはずだ。正人君と一緒だったから安心して迂闊だった。
「私を攫ってどうする気? 私そんな価値ある女じゃないんだけど?」
「寝言は寝て言えや。お前には双竜の遺伝子があるだろう? それを欲しているお客さんが山程いるんだよ」
気持ち悪い顔を近づけて言ってくる。
「お前の父親が双竜だってことは知っているだろう? 20年以上変わることがなかった前々任であり現マスター・テイマーのキリュウを下し、パラディンの勲章持ちだ。さらにお前の母親はあのヴェストフォル王国の元宮廷魔法師団団長のアイリ・エーヴェルト・ノートだ。超優秀な遺伝子を持つお前は裏社会じゃ金塊よりも高いんだぜ」
「どういうこと……?」
「まだわかんねぇのか? 要するにお前との間にできた子どもは双竜の遺伝子を持った優秀な子どもが産まれる。お前を欲しがる理由なんてそれ以外ないだろ。まっ、その相手がどんな奴かは知らねぇが。もしかしたら汚ったねぇ太った貴族のおっさんかもしらねぇし、サディストなおっさんかもしれねぇ」
なるほど、これこそお母さんが私を旅に行かせたくなかった理由だ。故郷で安全に暮らしておけばこんなことはなかったかもしれない。実際無かったわけだし。
「私に価値ないよ。実際A級テイマーだし。お母さんはSSS級でお父さんはSS級。そんなのに比べたら私なんて弱い以外何もないけど」
「あぁ知っている。だが、遺伝子ってのはそういうのじゃねぇ。お前がどうであれ双竜の遺伝子があるということに意味がある。それに容姿も良い。鏡見てみろ。お前はその辺の娘にしちゃ整い過ぎだ。ドレスでも着せたら良いところのお嬢さんと間違われてもおかしくない。母親に感謝しなくちゃな」
「容姿はよくわかんないけどおじさん達が言うならそうなんだろうね。でもこれは立派な犯罪だよ。他の子たちも早く解放してあげて」
「犯罪なんてわかった上でやってんのさ。金儲けの為なら何だってやるそれが俺たちだ」
そりゃそうか。分からずにこんなことしてたら頭がおかしい人になる。
きっと今頃正人君が探してくれてるはず。見つけてくれるための時間を稼がないと。使い魔を使いたいけどこの手錠の効果のせいで使えない。
「おじさんたちはそんな価値ある私がいるのに何もしないなんて変わってるね」
「他の女なら手を出してたかもな。だがさっきも言ったがお前は金塊よりも価値がある。傷つけて下げちまったら金が手に入んねぇだろうが。お前どうせ処女だろ? 男を知らねぇ面してるからな。双竜の娘で、処女で、容姿端麗、しかもお前氷とかいう属性が使えるらしいな? この事実だけで入る金は女何人分か計り知れねぇ。下手したら一生暮らせる金が手にいる。それを無にしてまでお前を襲う気はない。他の連中もな。それくらいならその辺の女で我慢してらぁ」
「クズ野郎だね」
「あぁクズだ。この界隈にいる奴、それをわかった上で依頼してくる奴全員がクズ野郎だ。だが人は金と性欲には直球でね。何としてでも叶えたいんだよ」
どうしようか。このままだと正人君に見つけてもらう前に売り飛ばされる。もっと時間を稼がないと。
「お前ら! さっさと商品を積め! 夜明けまでに拠点に帰るぞ!」
しかももう出発してしまう。
何かできるわけもなくされるがまま荷台に乗せられた。
他の人は鮨詰め状態だ。私はこの一味のリーダーと思われる男と馬車を操る2人の下っ端だけの荷台だ。
「拠点ってどこ向かってるの?」
「そんなこと言えるわけねぇだろ。拠点にはお前のお客さんを待たせてっから引き渡せば俺たちは大金持ちだ」
「そう。よかったね」
本当にまずい。あの洞窟路から段々と離れてる。そうなれば正人君に見つけてもらえる確率も減る。
どうする……。私は商品価値が高い。ならいっそ暴れて騒ぎを起こすべきだろうか。いや、そうなれば他の女の人たちに危険が及ぶかもしれない。
悶々とするこの状況は実に耐え難い。
「そんなに悩んだって意味ねぇよ。ここには誰も来ねぇ。そもそもお前の隣にいた男は今頃幻術にかかって魔獣の餌食さ。それになぜ夜とはいえこんなに堂々と俺たちが闊歩しているかわかるか?」
「幻術を使って扮装している?」
「そうだ。周りからは善良な商人にしか見えない。だから諦めな」
とことんクズ野郎だ。だが本当に万事休すという言葉が頭によぎる。このまま夜明けになって顔も知らない男に遊ばれる運命なのか。私はまだ好きな人がいない。この旅で見つけて一緒に冒険して将来は一戸建ての家を建てて家族で暮らしたいという夢は潰えてしまう。
そんな絶望的なことを考えている時だった。離れた場所から男の悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ!? 何が起こってる!」
後ろの方で何やら騒ぎが起きている。ものすごい形相な男が命からがら逃げてきた。
「お頭ぁ! あいつやばいです! 俺たちじゃ歯がっ――」
報告に来た男は後ろから首を刎ねられた。
「お前か、リリィを攫ったのは」
静かな声だが、怒りがこもっている。来るはずがないと思っていたけどやっぱり来てくれた私の騎士はいつもの優しい顔ではなかった。まさに鬼のように鋭く、殺気が漂う。
「お前、あの幻術を断ち切ったのか!?」
「あぁ、あれか。久しぶりの幻術だったから解除までに時間がかかったよ」
「幻術なんて簡単に解けるものではないはずだ。それをどうやって……!」
「僕はもっとすごい奴を知っている。それだけだ」
「くそっ!」
男は慌てて剣を抜いた。
「だが、お前は所詮ガキだろ! 大人の腕力には勝てねぇ!」
大振りに剣を振るう男を正人君は神器エアドロムで受け止めて徐々に傾けることで完璧に受け流した。
「雑い。動きもなってない。間合いも、剣の軌道も醜い。よくこんなんでこの量の人をまとめてるな。あぁ、ここにいる奴らも所詮は雑多か」
「ぬかせ。お前はもう囲まれている。奇襲には成功したみたいだが単騎で突っ込んできたのは間違いだったな。この量をどう対処する?」
「量だけあれば良いってもんじゃないよ」
男たちは正人君目掛けて突撃してくる。ニヤリと笑うリーダーの男。取り巻きも勝ちを確信したのか不気味な笑みが溢れている。
「仕方ない」
二刀流になった正人君の動きはまさに流麗だった。全ての剣を流し、的確に男たちに致命傷を与えている。バッサバッサと薙ぎ倒されてあっという間に取り巻きたちは全員血の海に沈んだ。
「なん……だと……!」
「双剣止水流、参ノ型『廻天』。この程度の数なら何時間かかっても僕に傷一つ負わさることはできないよ」
「くそっ、こいつ……」
歯をぎりっと噛み締める男は最後の手に出た。
「これが分かるか!? 魔法道具だ! 起動すればここら一帯は塵と化すくらい強力な奴だ! もしそこから動いてみろ、この女諸共爆死だ!」
自爆か。いや、用意周到な奴だから逃げ口は作っているはず。
「正人君、動いちゃだめだよ! ここには他の人も――」
「リリィ。大丈夫だ」
正人君はすごく優しい声と顔をした。
「あんまし見せたくなかったけど仕方ない。……月神ディアナと接続開始」
げっ……しん……? 月の神様と接続した? どういう事だろうか? でも事実として今正人君の魔力が異常なほど上がり続けている。
「何なんだお前は……! 月の神などこの地上世界には根を下ろしていないはずだ! なのになぜ!」
「教えても無駄だよ。どうせ死ぬんだから」
ガクガクと震え上がる男。
「来い、月光神竜カグヤ」
カグヤと呼ばれる白銀の竜が正人君の背後に現れた。次の光に照らされた龍鱗はキラキラと輝いている。
「あいつをやれ。あと他に攫われた人がいる。全員安全な所まで運んでやってほしい」
「わかった」
竜は男を喰らった。そして男を吐き捨てて攫われた人たちを背中に乗せている。
「ふぅ……。何とか間に合ってよかったよ。僕が不甲斐ないばっかりに怖い思いをさせたね」
手錠を外しそっと抱きしめてくれた。その優しさにポロポロと涙が溢れてきた。
「怖かった……怖かったよ……。こんなことされるの初めてで……わかってたけど、いざ目の前にされると動けなくて……」
気丈に振る舞っていても内心はとても怖かった。でも他の人たちもいた手前弱音を見せるわけにはいかなかった。
正人君が来てくれて、助けてくれて、やっと安心できた。涙が止まらない。
正人君は泣きじゃくる私をいつまでも抱きしめてくれた。
月光神竜 カグヤ《闇》《星》S級
→月神ディアナの神使。使用時に月女神の加護が発動する。日の入りと共に能力値が上がり、午前0時にステータスが最上値になる。日の出と共に下がる。




