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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第7章 相羽リリィの冒険
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7-5.『楠木正人』

 防具も新しくなり、冒険者らしくなってきた。神器ベルヴェルクも身バレ防止のため布を巻き隠した。

 魔法道具というのはとても便利だ。例えばこの神器を巻いている布もその1つで、私の意思で自動で取れたり、巻いたりできる。取れている間は私の腕に一時的に巻かれる。

 正人君はというと、コートを買っていた。以前使っていた物が最近破れたらしい。そのため、ここに寄る予定があった。


「リリィ、買いたいものは見つかった?」


「うん、おかげ様で」


「じゃあ行こうか」


「ん? どこに?」


「冒険者なんだろ? 旅の続きをしよう」


 ーーあっ、ここでお別れじゃないんだ。


 確かに旅は道連れと言うけれどこんなナチュラルに誘ってくれるなんて思わなかった。


「一緒に旅をしてくれるの?」


「そのつもりだけど……だめ?」


「ううん、一緒に行こうよ」


 私は頼れる仲間ができた。


 道すがら色々話した。正人君はアシハラノクニの豪農家の楠木家の次男の出身だそうだ。宮中の食事所全般を任されている。一族の性質上スミスとメイカーが産まれやすく、テイマーが産まれたのは実に200年ぶりだったらしい。しかも高ランクのSS級だから一族内では将来楠木家の私兵の隊長になる予定と言っていた。今はそのための訓練期間だ。

 そんな風に語る正人君の顔はなぜか暗かった。何か悲しいことでもあったのか、それとも単にその境遇が嫌なのかはわからないけど、どこか寂しさがあった。


「そういえば、私のことは神器を見ればわかるんだよね? 正人君はその……攫ったり、売ったりはしないの?」


「それは裏の社会での話だよ。僕は普通の表社会の人間だし、正体がわかったからと言ってそんな風にはしないよ。お天道様が見てるからね。悪いことはできない」


 顔は優男で、垂れ目の可愛い系のイケメンなのに性格までイケメンときた。正人君の聖人ぶりに顔から後光が溢れている。

 話をしていたら魔獣が寄ってきた。数も少なくない。血に飢えているような様相で喉を鳴らし威嚇してくる。

 私も剣を抜こうとする。


「リリィはまだ僕のこと信頼できない?」


「そんなことないけど……」


「まぁそりゃそうだね。だから少しは信頼してもらえるようにこの魔獣たちは僕がやるよ。リリィは手を出さないで」


「わ、わかった」


 剣から手を離して、数歩後ろに下がる。

 そういえば正人君は武器を携帯してない。何か暗器みたいに服の裏に隠してるのかな?

 そんなことを考えていると正人君の両手から光の剣が現れた。長さは神器ベルヴェルクより少し短い。


 そして二刀流だ。鮮やかな剣捌きでバッタバッタと魔獣を倒していく。そして魔獣たちの殿には他とは比べ物にならないくらい大きい魔獣が鎮座している。


「正人君! 流石に無茶だよ!」


「そんなことないさ!」


 小物魔獣を跳ね除け最後大型魔獣に向かって飛び込んだ。


「重剣、柔型(やわらのかた)一節『斑尾(まだらお)』!」


 二刀の剣が1つに集約し、大剣となった。そして重剣と呼ばれる剣術でスパッと一刀両断された。


 ーーあぁ、かっこいい……。


 動きもそうだけど着地までもが流麗だった。

 私とそんなに変わらない歳なのに、なぜこんなにも違うのだろうか。二刀流もきっと何かの剣術だとすれば彼はいくつかの流派を収めていることになる。


「どうだった?」


「すごいよ。私なんかじゃ到底追いつかない領域っていうか、洗練されてる」


「まぁね。色々やってきたから」


 彼の言う『色々』は私が想像する以上のことだ。正人君は色々で片付けているけどきっと大変な日常を暮らしていたんだと思う。


「そういえば、正人君の武器はその光の剣なの?」


「そう。神器『千姿万態エアドロム』って言うんだ。体中至る所から好きな形状で出すことができる」


 そう言う正人君は本当に腕や頭から剣が出てきた。


「限定解放すれば体外にも展開可能にするんだ。汎用性が高い神器かな」


 色んな形に変化できる特性は正人君にぴったりだ。性能以上の数値を出している気がする。

 西の大陸は東の大陸よりも広い。歩いても目の前に広がるのは山と平原だ。

 各大陸には特徴がある。例えば今目指している東の大陸は列強国が多く、軍事産業が盛んだ。西の大陸は工業が盛んである。武器生産や魔法道具生産量のトップはどちらも西の大陸の国だ。北の大陸は寒さ故に農業が輸入に頼っている国が多いが、漁業での収入を得ている国が多い。内陸国だと保存食やビール等のアルコール飲料生産量が高い。南の大陸は先住民族が多く個性が強い。得意分野もバラバラでこれと言った特徴は少ないが、先住民族は好戦家が多いと言われている。

 全部お母さんの受け売りだけどね。

 実家から西の大陸を目指したのは武器や魔法道具生産が盛んなところが多いため旅に役立つ物が置いてあるということを聞かされていたため大回りしている。

 本当は実家から東の大陸のアシハラノクニ経由でヴェストフォル王国入りが1番早いんだけど、今後のことを見据えての大回りだ。正人君にも会えたし正しい選択だった。


「日の入りまでに次の街は到達できないから、ここへんで野宿しよう」


「ここ、平原のど真ん中なんだけど」


「ベルグローテ」


「任されました!」


 ベルグローテの一言で地面が隆起してさらに形がどんどん成形されていく。そしてあっという間に素敵なお家ができた。


「はぇ〜……」


「入るよ」


「う、うん」


 扉はないから私たちが入ると塞がれた。


「なんか洞窟みたい」


「土属性でできた家だから言い得て妙かもね。僕が魔力切れとか何かない限りは崩れることはない。どんな魔獣も星の属性を持つベルグローテにとっては格下だからね」


「なんか……何でもありだね!」


 正人君と旅をしているとイージーモードすぎて色々と大丈夫なのか心配になってきた。安全に野宿できる分には問題ないんだけどね。

 食料は買い溜めした分と途中狩った魔獣の肉を調理して食べた。正人君は料理も美味しい。逆に何ができないのか気になる。


「ねぇ、正人君は何かできないこととかあるの?」


「急にどうしたの?」


「戦いもできて、料理もできて、魔獣にも詳しいから逆に何ができないのか気になって」


「ん〜、そうだなぁ。……僕はね、浪費癖があるんだ」


「意外だなぁ。そんな風にも見えないけど」


「もちろんギャンブルとかの賭け事には使わないけど、食べる物とか冒険に関係しそうな物とかいっぱい買ってしまうんだ。だからあんまり貯金とかなくて行き当たりばったりなところかな」


 賭け事に使わないなら良いのではと思ってしまった。

 でも意外だなぁ。さっきの街でもそんな浪費してるようなところなかったけど。


「銀行に預けたいのはやまやまなんだけどちょっとできなくてね。だから自分で待つしかないんだけど、持っていたら持っていたで使ってしまうんだ」


「そうなんだ。でも正人君、キャリアポートあるんじゃないの? 手持ちの荷物ほとんどないし」


「あるよ。でもお金を全部この中に入れても……ね?」


 それもそうか。


 キャリアポート(収納可能な人工使い魔)は私が生まれる以前は高価で中々手に入る物ではない物だった。しかし技術の発展により今は民間にもかなり普及している。けれどこんな便利な物がありながら銀行が潰れないのは当然なんだろう。

 使い魔が宿っている体の部分が欠損してしまえば通常の使い魔の場合元いた場所に還ると言う。キャリアポートの場合は中身の2割が失うという特性がある。お金を入れて失ったら体もお金も大打撃だ。その点銀行は潰れない限り安全だしね。


「ふぁわぁ〜。今日1日歩いたから眠いや。正人君はどうする? もう寝る?」


「僕はもう少し起きておくよ。外の状況も念の為確認しておきたいし」


「そっか。じゃあおやすみ」


「おやすみ」


 私は寝袋をキャリアポートから取り出して眠りについた。私が目を瞑ったのを確認して、正人君は外に出て行った。

 次の日、


「う〜ん。おはよう」


「おはよう」


 正人君は私よりも早起きだ。すでに髪の毛も整えられていていつでも出発できる状態だ。

 外に出ると天気は曇り模様だ。


「雨降りそうだね」


「ちょっと急ごうか。ここで降られたらびしょ濡れだ」


 私たちは走って平原を抜けて山に作られた洞窟路に入った。この山を抜けると次の国に行ける。つまり今は国境付近にいる。


「何とか間に合ったね」


「うん。ここを抜けると確か音楽の都と呼ばれる国があるはずだ。西の大陸屈指の芸術国だから、ちょっとは楽しめるんじゃないかな」


「音楽かぁ。私音痴なんだよねぇ」


「それは僕もだよ。僕が歌えば魔獣も去るくらいには」


「なにそれ」


 楽しく談笑しながら進む。

 旅が面白い。1人では体験できないことだ。正人君に出会えて本当によかった。


「……ィ! リ……ィ! きーえるーーか!」


 こんなに楽しいはずなのに正人君がすごく焦るように私の名前を呼んでくる。


 ――あれ、おかしいなぁ。だんだん……


 意識が遠のいていく。目の前にいた正人君がとても遠くに感じる。何が起きているんだろう。何も分からない。いや、何も考えたくない。次第に正人君の姿も見えなくなった。 

 さっきまで洞窟にいたのに、今は真っ暗なただ何もない空間にポツリといる。ここはいったいどこだろう。



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