7-4.『運命の出会い』
西の大陸のある港町を出て、北の大陸に向けて出発した。そこから東の大陸に入りヴェストフォル王国を目指す。
道のりは遠いけど急ぎじゃないしゆっくり行けばいいと思っている。
この港町から最短距離で北の大陸入りするには街道を進み、ある森を抜けなければならない。お母さん曰く、森というは陰の気が溜まりやすく魔獣が凶暴だ。さらに気が溜まりやすい場所は魔獣の“巣”というができるらしい。昔お母さんも体験したことがあるが、その時は仲間がいたから助かったと言っていた。1人で行く場合、常に逃げることだけを考えるように言われてる。
どれだけ警戒をしたとしても100%防げることは何一つない。些細なキッカケが破滅を呼ぶこともある。
私は地面に落ちていた枝を踏んだだけだった。その音に反応した魔獣数匹が襲いかかってきた。難なく討伐できる数だ。今回は海でテイムしたシーザーペントもいる。だから大丈夫だと確信してしまった。
いつのまにか魔獣の“巣”のテリトリーに入り込んでいた。自分でも気が付かなかった。そこからは地獄だった。逃げようにも囲まれて逃げ道を塞がれた。たとえ道を作れたとしても追いかけてくる。さらに、近くにいた魔獣も呼び寄せてしまった。これは完全にスタンピート状態だ。
恐怖のあまり呼吸をし忘れていた。そしてその反動は脇腹に来てしまい激痛が走った。上手く走れない。自然と足も遅くなる。呼吸しようと意識すればするほど上手くいかない。足元も注意散漫としてしまい、大きな木の根につまづいて転がってしまう。
魔獣の群れはすぐ側にまで来てる。
--そうだ。神器を限定解放すれば……
ベルヴェルクを鞘から抜き切先を魔獣に向ける。あとは声に出して発動するだけだった。
しかし声が出ない。
――何で今……!
心中では何度も唱えているが神器は性質上、持ち主の声に反応する。私は恐怖と過呼吸により声が出せない。
――ダメだ……もう。
魔獣との距離はわずか。瞬きすれば簡単に追いつき食べられてしまう。
死を覚悟した。もう助からない。どれだけお膳立てされても結局私は冒険者に向いていなかった。
目を閉じた。このままこの森で朽ち果てるだけだ。
「そこの君! 伏せて!」
男の子の声だ。咄嗟のことで反射的にその言葉に従った。
「大丈夫!? ゆっくり呼吸するんだ! 使い魔は扱えるか!?」
何かわからないけどまだ私は生きている。
そうだ。ラウラがいる。彼女の力を使って呼吸を安定させる。
「僕のこと見えるかい? まずは逃げることを考えよう。立てる?」
立とうとしたけれどさっき転んだ反動で足を挫いた。
「僕が時間を稼ぐからまずはその足を治して」
「う、うん」
あれだけいた魔獣が次々と倒れていく。
私の氷弾砲にも似た、岩の塊が次々と発射されている。
見とれている場合ではなかった。早く足を治さないと。光属性の治癒魔法で足の怪我を治した。ゆっくりと立ち上がった。
「な、治ったよ」
「よし、一直線で森を抜ける」
男の子が指差した。確かに向こうは私が目指していた方向だ。
「じゃあ、ごめんよ」
いざ指が刺された方向に逃げようとすると男の子は私を担ぎ上げて一直線に向かった。
「ちょっ! 大丈夫だよ!」
「今はじっとしてて、こっちの方が早いから」
「でも魔獣が!」
「大丈夫」
生き残った魔獣たちが勢いよくこっちに向かってくる。
しかし魔獣たちは見えない壁にぶつかり道が塞がれたように見えた。
「今のうちだ」
担がれたまま颯爽と駆ける男の子。本当に速い。地面なんて見ずに前だけを向いて、まるで地面の状況がわかるみたいにすいすいと避けていく。
「出口だ」
薄暗い森の奥から太陽の光が差し込んでいる。本当に速かった。担がれている間に森を抜けてしまった。
森を抜けてある程度距離が離れたところで降ろされた。振り向くとさっきまでの魔獣の雄叫びが嘘みたいに聞こえてこない。安全圏に入ったのだ。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。怪我は大丈夫?」
「うん、使い魔のおかげですぐ治る」
「そっか。大丈夫ならよかった」
パッと見は同年代くらいの男の子だ。
インナーは赤色で、上から純白の服を着ている。なぜか肩と脇あたりが胴と繋がっていない。左手は手袋して、籠手もある。靴もスリッパみたいだし、ズボンも膝あたりがふっくらしている。どういう服装なんだろうか。
「何? じっと見て?」
「い、いや何でも。あっ、そうだ。私、リリィ・ノートって言います。知っての通りテイマーだよ」
「リリィ……」
「なんか変だった?」
「いや、良い名前だなって。僕は楠木 正人。出身は東の大陸最東端、アシハラノクニ。SS級テイマーだ」
アシハラノクニ……。
思い出した。確かそこは特別な戦闘服があると聞いたことがある。なるほど、これはそういう服装なのか。それにアシハラノクニといえばお母さんとお父さんが昔剣術修行をしたところだ。
「本当にありがとう。おかげで命拾いしたよ」
「たまたま通りかかったら女の子いるし、魔獣はたくさんいたし、これは何とかしないとなって思って」
「本当に死ぬかと思った。ねぇ、さっきの岩が飛んでた魔法ってなに? ていうかテイマーだったよね。岩なんて属性ないと思うんだけど」
「あぁ、それはね」
肩からひょこっと手のひらサイズの小さな妖精が現れた。
「この使い魔のおかげなんだ」
「かわいい〜」
「ふふん。見る目があるな、少女よ!」
「え?」
「僕こそが、土神レイヤの第一子にして、南の大陸にある『アサセヤ大迷宮』の主人にして、全ての妖精種の生みの親! 万象の大精霊ベルグローテ様だ!」
小さな体を大きく見せるように胸いっぱい張る。
一般人が使える基本属性は6つとそこに一部の人が使える『星の属性』ある。私はたまたま氷の属性が使えるがこれは私以外にも使おうと思えば使える。
しかし土神レイヤの神使であるこの小さな妖精が使う属性だけは違う。ベルグローテをテイムしないと使えないし、契約が解除されれば使えなくなる。大昔の記録によるとベルグローテを完璧に扱えたテイマーはいないと記されている。
と、お母さんが言ってた。条件が何なのかは未だ不明で、ベルグローテ自身も教えてくれないらしい。
「まぁそんな感じで、ベルグローテのおかげで使えてるだけなんだ」
「そ、そうなんだ。すごいね」
「土属性はすごいけど地盤とか色々めちゃくちゃにしてしまうこともあるから気をつけないといけないんだ。けっこう神経使うよ」
「へ、へぇ〜」
正人君も苦労しているんだね。同年代なのに30代後半の様な貫禄だ。
正人君とはその後も街道を沿って一緒に歩いた。彼も色んなところを旅していて、ある人を探しているらしい。ある人は教えてくれないけどとても大事な人なのは感じ取れた。きっと両親かもしれないし兄弟かもしれない。そこは触れないでいた。
「着いたよ」
ここは西の大陸の中でも屈指の職人都市だ。メイカーやスミスが集まり切磋琢磨している。何より初心者用の防具や武器が豊富に取り揃えてある。当然玄人向けのものもあるし、ここに行けば目当ては見つかると言われるほどの品揃え抜群の都市だ。
ここを目指した理由の一つは私自身の防具がとても貧弱だ。お母さんから渡されたものは村で作られたもので、やはり心許ないのが正直な感想だ。西の大陸について色々と調べているうちにこの都市の存在を知り、さらに最短距離の途中の街であるためここに寄ることを決めていた。
「リリィはどんな防具がほしいの?」
「やっぱり戦闘スタイル的に軽装がいいかなぁ。でも今の防具は素材があんまり良くなくて……」
「見た感じB級の魔獣の素材で作られた胸当てに籠手、ブーツもすぐに穴あきそうだね」
「そうなの。だから買い替えたくて。でも正人君は私より軽装備だけど大丈夫なの?」
「これ狩衣って言うんだけど、これに使われてる糸はS級の魔虫種が吐き出した糸を素材に使われてて見た目以上に頑丈なんだ。本来の狩衣よりもアレンジして戦闘特化させてる。僕も戦闘スタイル的に軽装備じゃないと動けないからこれくらいがちょうどいいんだ」
強い人はやっぱり付けてる防具も違うなぁ。
「流石にS級相当の防具はないだろうからA級を探そう。防具としてやっぱり鎧竜が素材に使われてるものをおすすめするよ。武器は……、武器だけはめちゃくちゃ良いの使ってるから変える必要なさそうだけど……」
「うん。これ、お父さんが使ってたやつ」
「じゃあ君のお父さんはすごく強かったんだろうね」
「わからない。産まれた頃にはもういなかったし。お母さんからの話だと強そう」
「いや、強かったと思うよ。その神器を見ればね」
「わかるの?」
「そりゃその神器を使ってた人物はたった1人だ。となれば君の身の上も自ずとわかってくる。4大陸にいる限りは布とか巻いて隠していた方がいい。それは目立ちすぎる」
「そうなんだ。そんなにすごいんだこれ」
お母さんからしか聞いたことないから実際のところよくわかっていなかった。けど正人君が知っているならもしかしたら他の人も知っているかもしれない。ここは言う通りにしよう。防具も新しく買って、腰に下げていたベルヴェルクは肩から掛けるように持ち運ぶことにした。
・万象の大精霊ベルグローテ《土》《星》S級
→南の大陸にある『アサセヤ大迷宮』の主人。土神レイヤの第一子であり、世界中にいる妖精種の生みの親でもある。他にも兄弟が6人いる。




