7-2.『双竜の娘、旅をする』
あれからというもの、毎日早起きをして鍛錬する。
そして私はA級テイマーだった。それなりのポテンシャルがあるということだ。お母さんはSSS級ソーサラー、お父さんはSS級テイマー、シーザーはS級ソーサラーなので昔からサボり癖のある私がA級なのは妥当だと思う。むしろ自分のことはC級くらいと思っていたためA級は高い方だ。親の遺伝子のおかげでA級を維持できたとも思ってる。
お母さんのやり方は若い頃、剣術を習った里でのやり方らしい。ひたすら反復と手合わせをする。体に馴染み自然に繰り出せるくらい毎日素振りを行う。
初めて手にマメができて潰れた時の痛さを一生忘れない。これは私が頑張った証だから。
テイマーなので魔獣もテイムする。よくその辺にいる魑魅と呼ばれる魔獣を1体とラウラをテイムした。ラウラも旅に同行するため彼女との連携を高めておく必要がある。
ラウラは非常に便利な使い魔だ。テイマーだけど魔法が使える。しかも詠唱はラウラが行うため自身が放ちたい魔法を伝えればあとはラウラが詠唱して放つだけ。ソーサラー泣かせな使い魔だ。
日々の中でたくさんの気づきを得る。剣の軌道、疲れない走り方、上手な使い魔の使い方など、反復すればするほど無駄を削ぎ落としていくイメージがある。
――そして1年が経過する。
私は生まれ変わった。今ではA級までなら難なく魔獣とも戦える。それくらい実力をつけた。お母さんからもこれなら問題ないと言われた。
ある日の夜の出来事だ。
ご飯を食べてあとは寝るだけになった時お母さんに呼び出された。シーザーもいる。
「リリィ、本当に強くなったわね。もう言うことはないわ。後は実践と旅の中で学んでちょうだい」
「ありがとう。お母さんとシーザーのおかげだよ」
「俺はなんもしてない」
ふふっと笑うお母さん。シーザーは照れ臭いのだ。すぐに顔に出る。かわいい弟だ。
「旅に出るにあたって今持ってる剣ではきっと物足りないからこれを渡しておきます」
そう言いテーブルの上に現れたのは紅に煌めくロングソードと幾本かの短剣だ。
「これはお父さんが生前使っていた神器。銘を『紅剣ベルヴェルク』。双竜は火と雷の竜種を操る様から取られた異名だけどこの神器も負けず劣らずの性能よ。これを作ったマスター・スミスからは自身が作った神器の中でも5本の指に入るほどの性能と言っていたわ」
すごい、こんな神器を私が使っていいのかな。
「シーザーには何かあげたの? 私1人こんなすごいのもらうのはちょっと気が引けるんだけど」
「シーザーには私の神器フレズベルクを渡す予定よ」
「俺はまだ神器を持ちたくない。今持ったらそれに頼り切ってしまうからな」
「大人だねシーザーは」
シーザーのこだわりはすごい。一度決めたら目的のところまでやらないと気が済まない性格をしている。今回も自分が決めた一定のラインを超えないと受け取らないつもりだ。
「あとこれも渡しておきます」
次に渡されたのは2枚の手紙だ。
「旅に出たらまずは一直線にヴェストフォル王国に向かいなさい。1枚はお母さんの昔の部下宛てよ。イコマミツヨシという人物に渡すといいわ。すぐに理解してくれるはずよ。もう1枚はお父さんの一番弟子であるアナスタシア様宛てで、これも渡せばわかってくれると思う。すぐに会えなくてもお城の門番に言ってお母さんの名前と手紙とその神器を見せれば中に通してくれるはずだから」
「わかった。でもなんでまずそっちに行くの?」
「あなたの旅に支援してくれるかもしれないからよ。特にミツヨシ方なら確実に色々やってくれる」
「そうなんだ。お母さんのこと好きなんだね」
「上司としてね。最後にこれを」
渡されたのはお母さんがずっと使っていたキャリアポートという無限に収納できる人工使い魔だ。何年も前にある国で作られたと聞いていたけど。
「これも元々はお父さんが使っていたものだから、全部じゃないけど当時のまま残っているわ。大きなカバン1つ持つよりかはこっちの方が便利だから渡しておきます」
「ありがとう」
「これで渡せるものは全部渡しました。リリィ、これからあなたに待ち受けるのは希望じゃないわ。常に狙われていると思いなさい。可能なら信頼できて、強い仲間と共に旅をする方がいいかもしれない」
お母さんの話を相槌を打ちながら聞く。
「何かあれば逃げなさい。逃げることは恥ではないわ。冒険者なら時には逃げなければならない瞬間が山ほどある。逃げる判断をするというのも立派な采配だから迷うくらいなら逃げなさい」
「はい」
真剣な眼差しで私を見てくる。多分本当は私を旅には出したくないんだろうか。狙われる可能性を考えれば当たり前か。我が子の死に行く姿など誰も見たくない。
「このメモを渡しておくからヴェストフォルの王都に着いたらここの住所に行くといいわ。昔住んでいた家を念の為売らずにそのままにしているから、滞在中は利用しなさい。けどちゃんと周りを見て怪しい人がいないかを確認してから入るのよ」
「わかった。ありがとう、お母さん」
「もう言うことはありません。明日も早いから寝なさい」
「おやすみなさい」
私もシーザーも各々部屋に入った。お母さんもその後自分の部屋に戻った。
普段なら疲れてすぐ眠れてしまうのに今日は全然眠れない。こんなんじゃ明日遅刻してしまいそう。こういう時は羊を数えると良いってお母さんが言ってた気がする。
「羊が1匹、羊が……」
数を数えているとノックの音がした。お母さんかなと思っていたらシーザーだった。
「珍しいね。私の部屋に来るなんて」
「これでも血の分けた兄弟だしな。小さい頃からこの家で過ごしてきたんだ。思うことくらいあるさ」
「で、その思うことってのは?」
「ほらよ」
渡してきたのは小さな木彫りだ。2つの竜が1本の剣に巻き付いているような意匠をしている。
「器用だね」
「俺からあげられるのはこれくらいしかないからさ。まぁお守りと思って持っておいてくれ」
「ありがと。シーザーはいい子だね」
「普通だろ。家族が1人いなくなるんだから。それじゃ、明日寝坊すんじゃねぇぞ」
「わかってるよ。おやすみ」
シーザーは自分の部屋に戻った。
家族って温かい。私は人に恵まれた。これで安心して旅に行ける。
もう一度ベットに寝そべって目を瞑った。
すぐに睡魔が襲い気が付けば旅立つ朝になっていた。とても目覚めが良い。グッと一伸びをしてからベットから出た。
予定通り朝ごはんを食べて支度をして、そしてついに家を出る時が来た。
「行ってきます」
「いってらっしゃい。たまには帰ってくるのよ。あと手紙も書いてね」
「うん。ヴェストフォル王国に着いたら手紙送るよ」
「お願いね。あと最後に渡しそびれたのだけど」
そう言うとお母さんは耳につけていた耳飾りをとって私に付けてくれた。
「これは六連一刀流を習得した者のみ付けられる代物よ。本来はアシハラノクニに行って道場で訓練した後、試練を受けて貰える物だけど、お母さんにはもう必要ないからあなたに託すわ。いつかアシハノクニに行ってきなさい。あなたにとっても意味のあるものになるから。お父さんもそこで免許皆伝になってる」
「うん。いつか行ってみるよ」
シーザーの方を見るとツンとしている。
「行ってくるねシーザー」
「たまには顔見せろよ。あとお土産よろしく」
「うん。すごいやつ買ってくるね」
「普通のでいいよ」
これは照れてるな。寂しさもあるんだろうけど素直にバイバイできなくてもどかしい顔をしている。
「じゃあ行ってきます!」
「「いってらっしゃい」」
私は遂に旅への一歩を踏み出した。2人に見送られながら見えなくなるまで手を振った。今の私は1年前とは違う。ちゃんと戦える。旅をうんと楽しんでたくさんの出会いを経験して最後に笑える人生にするんだ。




