7-1.『双竜の娘、決意する』
ここからは第2部、7章スタートです
日本での戦いの後、双竜の遺体はリチャードによって異世界の方へ運ばれた。日本に残すことができない事情があったのだ。詳しくは話せないと双竜の両親に了解を得たのちすぐにダリア王国に帰った。
アナスタシアは今回のことをヴェストフォル王国に伝えるためにリチャード同様異世界に帰った。
桐生勲は何十年ぶりに会う両親に別れを言いリチャードに着いていく形で帰った。
しかしアイリは1人日本に残ることにした。義両親のもとでしばらく過ごすらしい。双竜の妻ということを報告した時は相羽家はたいそう驚いた。
住んでいた家は跡形もないため相羽本家がある伊勢に赴き、しばらくの間家を借りた。そこで発覚したことだが、アイリは妊娠していたのだ。今回の戦いにて双竜の心配事はこの妊娠にあった。しかしアイリは夫である双竜の役に立ちたいと思いマスター・ソーサラーであるリチャードに相談し、一時的にお腹の中の胎児の時間を止めた。流産の可能性も考えてさらに保護魔法を何重にもかけた。そうすることで無茶な戦いを敢行できたのだ。しかしその魔法も解き自然とお腹も大きくなっていきほぼ予定通り双竜との子どもを日本で産んだ。
なんとその子どもは1人ではなかった。男女の双子だ。初めて双子と知った時は驚きのあまり声が出なかった。
先に取り出されたのは女の子で名前を『リリィ』という。これは双竜が考えた名前だ。アイリによく似た子どもなら白百合のように綺麗な子になるだろうと思い名付けたそう。白に近い金色の毛に黒い目が特徴だ。目や鼻はアイリに似ている。
弟の名前は『シーザー』という。これはアイリが名付けた。父親がマスター・テイマーのため、偉大な名前にしたかったために名付けられた。黒髪に黒目で全体的に双竜に似ている。
本来は女の子の場合なら『リリィ』、男の子なら『シーザー』の予定だったが男女の双子の為両採用された。
しばらくの間は相羽家に居候として過ごしていたが子供たちが1歳になると同時に異世界に帰った。その時義母がかなり寂しそうにしていた。孫と嫁が一緒にいて嬉しかったのだ。ましてや、アイリがかなり美人のため義母にとっても自慢だったらしい。
異世界に戻ってきたアイリが向かった先はヴェストフォル王国だ。1年間不在だったが、一応魔法師団団長のままだった。しかし着いてすぐに魔法師団団長を辞任し、ヴェストフォル王国からも去った。これには訳があった。4大陸内では双竜は子どもを作り失踪したという情報が出回っている。アイリとの結婚は王国内では周知の事実のため結婚から結びついて子どもに発展してそのような情報が世間に広がった。双竜の遺伝子を継いでいる子どもは闇の世界では利用価値が高いのだ。
王国を発った後はマスター・ソーサラーであるリチャードの所に行き、今後のことを話し合った。その結果4大陸から離れて海の向こう側にあるレギオン大陸の内陸部に移住し、目立たず生きた方がいいということになった。双竜の子どもというだけで狙われる可能性が高いからだ。レギオン大陸なら4大陸ほど双竜の存在は高名でないため多少はマシ程度だ。こちらよりかは安心なのだ。
そんなこんなでレギオン大陸内陸部にある小さな村の少し離れた場所に小さな小屋を建てて慎ましやかに暮らすことになる。
最初は部外者として邪険に扱われていたが、アイリは剣術が得意だ。そこから発展して木を切る作業が斧よりも断然に速いためかなり重宝された。高度な魔法も扱えるため農作物などの食料やそれらの保存に一役買った。
信頼を得るのはかなり早かった。剣術や魔法は村の子どもらにも教えた。勉学もできたため、塾を開き様々なことを教えた。読み書き、算数、外国事情、テーブルマナー、色々な場面での所作など教えられることはなんでも教えた。親よりも子どもの方が物知りだったりもした。
そしてアイリの功績から村の人は小屋を建て替えて大きな家に造り直してくれた。2階建てで、一階はリビングと台所。2階は3部屋ある。リリィやシーザーが大きくなった時のためだ。別棟にはアイリ希望のお風呂も設置した。塀も建てて見事な家に変身した。
それからは普通に目立たず村のために働いた。
そんな日々が続き12年が経過した。
◇
「お母さ〜ん」
「リリィ、こんな遅くに起きてきて」
「え〜、だって眠たいんだもん」
「シーザーはもう働いてるからリリィも早く行きなさい」
「は〜い」
私の朝はお昼前から始まる。
私は朝にとても弱い。対して双子の弟のシーザーは太陽が上がる前には起床し、運動した後働いている。
私がダメダメというわけではない。シーザーが働き者すぎるだけだ。私だって起きたら働くしシーザーより遅くまで行動している。起きるのが早い代わりに早く仕事を終わらせるか、起きるのが遅い代わりに遅くまで仕事をしているかの違いだ。結局働く時間は大差ない……と思いたい。
そんなある日、
「あ〜、旅に出たいなぁ」
私がポロッと声にしてしまっただけなのに、シーザーは持っていたフォークを落とした。お母さんはこっちをじっと見ている。
「リリィ、本気で言ってんの?」
「いや、深い理由とかないけどなんか旅に出て世の中を知りたいなぁって。私たちって結局この村しか知らないわけだし」
「母さんもなんか言ってやってよ。リリィじゃ無理だって」
「ん〜、リリィ次第ではあるけど今のままだと無理ね」
「お母さんまでそんなこと言うの?」
お母さんなら味方してくれると思ったのに。
「リリィ、俺たちの父親は双竜なんだぞ。それだけで俺たちは狙われる存在なんだ。こんな辺鄙な所に住んでいるのも母さんが俺たちの安全を考えてのことなんだ。それを無視して外に出るのは危ない」
「双竜が父親なんて言われてもわかんないよ。見たことないし声だって聞いたこともない。なんでシーザーは双竜が父親なんて思えるのさ!」
「母さんが嘘つくと思ってんの?」
「思ってないけどさ。実際確認しないとわかんないよ」
「はいはい、食事中なんだから言い合いはやめなさい。2人には迷惑をかけるわね。シーザーもリリィに強く当たらないの」
「はい、母さん」
シーザーはお母さんの言うことは何でも聞く。本当にできた弟だと思う。
このままこの小さな世界で歳を取って死んでいくのかなぁ。恋愛もしたことないし、友達も少ない。男の子と手を繋いで町とか歩きたいなぁ。
――町かぁ。
隣町までなら歩いて1日くらいと村の人が言って気がする。そこまでならちょっとした旅ができるんじゃないかなと思った。
そうだ。私でも旅ができるって証明させればいいんだ。そうと決まれば準備をしよう。カバンの中には2日分の食料と水、着替えと今まで使い道がなかったお金を入れた。護身用のナイフは腰に下げた。
あとはシーザーが起きる前に家を出るだけだ。
2人が寝静まっている時こっそりと家を出た。なんか悪いことしてるみたいでワクワクする。
この時の私は何も理解してなかった。私の敵は双竜の娘として攫う人間だけだと思っていた。しかしこの世界には魔獣がウジャウジャいる。しかも時間はまだ夜だ。魔獣が活発に動く。お母さんやシーザーはまともに戦えない私を知っているからあんなことを言ったんだと。
気がつけば私は魔獣に囲まれていた。ナイフを取り出して無闇矢鱈に振り回す。
「来ないで!」
魔獣にとって今の私は餌も同然だ。2人の言うことをちゃんと聞けばよかった。こんなことして命を落とすなんて私は本当にバカだ。
ごめんなさいお母さん、シーザー。私はもう無理みたいです。
目を瞑り死を悟った。そんな時だった。風の魔法が魔獣たちを薙ぎ払っていく。
「なっ、何?」
目の前に現れたのは身長が低く、ローブを深く被るソーサラーだ。
「敵を薙ぎ払いなさいフレズベルク、神器解放!」
旋風が魔獣たちを切り刻み跡形もなく消え去った。
「リリィ!」
お母さんだ。涙目になりながら私をギュッと抱きしめた。私は安堵して大泣きした。
「ごめんなさい、お母さん。言うこと聞かなくて」
「あなたが無事ならそれでいいの。大丈夫? 怪我はしてない?」
「だから言っただろ。リリィには無理だって」
「うん……。無理だった。ごめんなさい」
シーザーの言う通りこんなことで躓く私には旅なんて到底無理だ。
「ありがとう、ラウラ。あなたが呼びにきてくれなかったら危なかった」
そういえばこのソーサラーは誰だろう?
「お母さん、この人は誰?」
「人じゃないんだけど、魔獣の一種で元々はお父さんの使い魔だったの。『悲哀の魔女ウィッチクラフト』。大昔死んだ魔女が魔獣として転生したらしくて、人間の時の名前がラウラ。今は陰ながら私たちを守ってくれてる守り人よ」
「えーと、ありがとう」
ラウラはぺこりと頭を下げた。
帰り道、私はお母さんの手を握っていた。シーザーは私の後ろを歩いた。私は守られていたんだなと改めてわかった。
「ねぇ、シーザーは戦えるの?」
「当たり前だろ。母さんだっていつまでも現役じゃないんだ。だとすると若い俺が戦えなくて誰がこの家を守るんだよ」
シーザーの運動はやはり修練だった。朝早くに起きて戦う術を身につけていたんだ。
「俺はソーサラーだから母さんに色々教えてもらってたんだ。母さんが扱える魔法は大体覚えたし」
「すごいね。私はからっきしだ」
はぁ、とため息がつく。つくづく自分は無能なんだなと思ってしまう。
家に着いた。お母さんはご飯の準備をし始めた。
こんな朝早くに起きたことないから何をやろうか迷っていた。
「リリィ。こっち手伝って」
「はい」
お母さんの手伝いをした。と言っても料理はちゃんとできないから簡単なことしかやってない。
ご飯ができるとシーザーも戻ってきてみんなで朝ごはんを食べた。
「リリィ、あなたは本気で旅をする気はある?」
「でも私……」
「本音を聞かせて」
「旅はしたい。けど私は戦えないし、料理もできないし何やらしてもグズだし。旅には向いてない」
自分で言っていて悲しくなる。けれどこれが現実だ。
「旅がしたいなら明日からシーザーと同じ時間に起きなさい。お母さんも手伝うから戦い方や外での暮らし方を教えてあげる」
「ほんと?」
「えぇ、けど泣き言は一切禁止。途中で諦めたらその時点でお母さんも何も教えません」
「やる。私、旅がしたい……!」
「決まりね。シーザー、明日からのトレーニングはリリィと一緒にやってあげて」
「わかった。リリィ、手加減はしないぞ」
「うん! お願いします!」
こうして旅に出るための地獄の特訓が始まった。




