1-7.『ヤマタオロチ』
オロチ退治を行うため、オロチがいる滝壺に向かう一行。
といっても他の人はただ付いてきているだけでベルと俺の2人パーティという圧倒的人員不足の中で決行することになった。
オロチがいる八雲大瀑布と呼ばれる滝壺の途中に話し合いをしていた。
「オロチ退治をする前に酒と娘をいつも通り捧げます。そして娘が喰われる前にあなた方は攻撃を行い仕留めてほしい」
「それまでは草陰に隠れるわけですね」
「はい。攻撃を仕掛けた後はあなた方に一任します。こちらはオロチの攻撃が届かない遠方で防御魔法で支援しますので」
「ベルもそれでいい?」
「うん、問題ないよ」
問題だらけだがこの際に至っては問題ない……と思いたい。
臣下の人が止まったので俺たちも止まり、作戦が開始された。
ウィッチクラフトを呼び出し、ベルと俺に気配遮断魔法と水面歩行の魔法を付与し、臣下の人から渡された地図通り二手に分かれてることに。
「じゃあベル。一旦離れるけどお互い頑張ろう」
「うん。タクトも初手失敗したら許さないからね」
「わかってる」
俺たちは拳と拳をトンと打ちつけ合い、ここに来て初めて離れ離れになった。
森の中で地図を見ながら粛々と前に進む。気配遮断のお陰で途中魔獣たちに襲われることなく進むことができた。
八雲大瀑布の形状はまるでカーテンのように長く大きな滝とそして本当の壺のように深そうな水たまり。
そして滝壺に堂々とその巨体を寝かせているのがヤマタオロチ。神霊というより特撮に出てきそうな怪獣というのが正しい気がする。それほどに巨大で禍々しい存在なのだ。
息を殺し、遠くからオロチを見ているとさっき別れた臣下の人たちがやってきた。
大きな樽が7つと女の子が1人。女の子は縄で暴れないように縛られている。
「ヤマタオロチ様。極上の酒と娘を連れて参りました」
臣下の声に反応し寝ていた身体と首を重たげに起こし一吠えした。
「今回はやけに遅かったな。また我を倒さんと画策しておったのか、ん?」
「いえ、滅相もございません。造酒に手間がかかりまして、お陰で極上の物をご用意させていただきました」
オロチはその大きく鋭い目で臣下たちを見下ろし、
「まぁ良い。極上の酒なら飲まんとな。そこな娘よ。自身の人生を恨むがよい。こうして我に食べられるその人生をな」
他7本の首が樽の中に突っ込みガブガブと酒を飲んでいる。そしておよそ真ん中の8本目の首が大きく口を開け、女の子を喰らおうとしたその瞬間、
「ウィッチクラフト重力魔法と火属性魔法だ! サンフレイム、行くぞ!」
地を蹴り重力で浮く自身の身体を剣から発せられる火で態勢を整え、ジェット噴射の容量で加速し、そのままオロチの頬を刀で斬り裂いた。
そして女の子に重力魔法をかけると、臣下たちの方に投げ、見事臣下たちに保護され重力魔法を解いた。
これで女の子の無事を確保。後は2人で何とかするしかない。
ベルも作戦通り遅れて参戦。鋭い風の魔法で切り傷を与えようとするも、硬い鱗には一切の攻撃が通じない。
「やりおったな! 我に刃向かう者は何人たりとも許さん! 己の愚行を恥じよ! 人間!」
8つの首から放たれる怒号。
そのオロチの迫力に足がすくんでしまった。今まで戦ってきた奴らとは格が違う。化け物ではない。正真正銘の天災だ。形を成していても、津波の恐怖は失われることなく、あの押し寄せてくる巨大な波に飲み込まれたようなそんな感覚を身をもって体験した。
オロチが腹一杯に空気を吸った。
ーーその刹那。
8つの首から極太の水の柱が飛んできた。対処できるはずもなくただ目を瞑っていることしかできなかった。
「ーークト! ねぇタクトったら!」
俺はベルの声で目が覚めた。
「ここは……」
「八雲大瀑布でしょ! そんなことより早く次の行動しないと!」
死んだと思った。あんなに激しい放水に直接当たったのだから水圧で押しつぶされたのかと。
「何で助かったんだ?」
「臣下さんたちの防御魔法で助けてくれたの。後はこの羽織で何とか。今はオロチのブレス攻撃で散った水が霧みたいになって姿は見えないから攻撃はしてきてない。だから早く次の行動に移ろう」
ということは気を失ったのはほんのちょっとだけか。あまりの恐怖で忘れていた。
「防御魔法ちゃんとしてくれたんだ。……ごめん、かなりビビった」
「私も怖いよあんなの見たら。でもそんなこと言ってられないよ。女の子は助かったし、後は……」
「うん。オロチを倒すだけ」
「タクトはちゃんと初撃喰らわせたんだから自信持って。タクトは強いよ」
初めて言われた“強い”という言葉。この場では最高の褒め言葉だ。今までずっとビビりっぱなしだった自分が少し成長した証でもある。
ぎゅっと刀を握りしめて、思いっきり深呼吸をした、
「ふぅ、よし! ベル。狙うとこだけど鱗じゃなくてできれば水面から出てる首の裏側にして。あそこは1番警戒してる所かもしれないけど多分あそこが1番柔らかくて脆いはずだから。実際鱗がない所は傷つけることできるよ」
「わかった。やってみるよ」
「とりあえずウィッチクラフトの魔法かけておく」
ウィッチクラフトの光属性バフの可視化を掛け、すぐに立ち上がり見えにくい霧の中、可視化のバフのお陰ではっきりとよくわかる。
さらに水面歩行魔法のおかげで水面を歩きオロチに近づける。
近づく2人を察知したオロチは水面を揺らし俺たちの態勢を崩させた後、水球がとてつもない速さで押し寄せてきた。完全に逃げ切れる時を失った。散った飛沫で視界が見えず、防御魔法をしてくれる感じがない。今度こそ終わりだとそう思った。
しかし、突然左腕が上がりウィッチクラフトが宿っている指輪が何かに引っ張られるように、俺の身体ごと引き寄せられ水球の一撃を免れた。
「はぁはぁ。何で……? まさかウィッチクラフト、助けてくれたの?」
何も語ってくれない指輪は少し赤色に1度点滅した。
「ありがとう。そういやベルは?」
遠くを見渡してもどこにもいない。
「いや、構ってちゃダメだ。行くぞウィッチクラフト、サンフレイム」
余波で揺れている水面を走りながらオロチの攻撃に対し飛び込み、寸前で躱しながら徐々に近づき、ついに首の根元まで来た。
「ウィッチクラフト、雷魔法を」
バチバチッと刀に絡みつく雷で深く、刀身全てがオロチの身に差し込まれるまで突き刺し、声ならぬ声を叫びながら真下に下ろし斬り込んだ。
「もう一回……!」
刀をもう一度差し込もうとした時だった。さっき斬った傷口が治り始めいた。
「水か……」
すぐにわかった。水が斬り口にどんどん流れ込み修復している様を見た。そもそも水害だ。形を成していても水そのものであることに変わりはない。
「はっ! 人間のくせによくやるのぅ。少しは見直したぞ。この我にここまでの傷を与えたのは。だが、所詮この程度の傷くらいすぐに治る。おい人間、こんな近くにいて良いのか? 今なら逃げる時間をやってもいいのだぞ?」
この発言、そして8つの首から放たれる威圧。すぐに察した。何かやばいものが来るのではないかと。
「ウィッチクラフト! 速度上昇を!」
風属性のバフ、走る速さをあげる魔法をかける。
俺は何も考えずただひたすら陸の方に向かって走った。
後方からどデカイ影が見えた。紛れもない津波だ。けれど間に合わない。
津波に巻き込まれる瞬間全てがスローモーションのように感じた。水が押し寄せて身体を掻き回し、呼吸すらままならない。目は開けられず、上下左右に回っている感覚だけわかった。
しかしそれも束の間。その感覚は失われ、深く深く沈んで行くようなそんな光景を脳内で自動再生され、意識がなくなっていった。
そして気がついた時、目にしたのは畳の上に寝ていた自分だった。




