6-3.『VSマスター・テイマー①』
場所は未開拓領域『レギオン大陸』との間にある孤島。島の海岸からは薄らだが東の大陸の海岸線が見える。
「さてと、だらだらするのも何だしやろうよ。勲さん」
「よかよか。そのほと走る目ば見とったら、こっちも戦いたくてしょんない。テイマーの神ヴォルス、今ここに誓いを立てる。我が名桐生勲、相対するは相羽拓人の決戦を見届け給え」
「へぇ〜方言以外でも話せるんですね」
「簡単な神へん挨拶じゃ。これば言わんけんっち、正式な戦いとは認められんけん」
『聞き届けた。今ここに2人のマスターを賭けた戦いを承認する』
島全体に超硬度の結界が張られた。
なるほど、これで全力でやり合えるってわけか。
「戦いの合図はどうすれば?」
「あんちゃんの好きなタイミングでええ。かかってこんか」
「じゃあ今で」
六連一刀流一ノ型『六連星』による超速の抜刀術をいとも簡単に止められた。その後も連続で斬撃を喰らわすも余裕の顔で全ていなされる。
「カグツチ!」
こんな威力で倒せるとは思ってないがまずは相手を錯乱して隙を狙う。
「こぎゃん目眩しにもいかん攻撃で何のしたばいい。魔力ん無駄じゃ」
顔面を鷲掴みにして、地面に打ちつけてくる。が、これも狙い。
「ほう囮か。で、本体は上か」
カグツチの変身能力を囮にして時間を稼ぎ、近距離で攻撃する。
「魔力増幅炉装填! ナルカミぶちかませ!」
「やるの」
本来なら対軍に使う大技の1つ。人ひとりに使うには贅沢だが相手はマスター。これくらいで倒れはしないだろうが少しくらいはダメージを喰らうはずだ。
「初手でこれば使うこつになるっちは。さすが双竜じゃ」
両手のみ神器が展開されている。あの一発を限定解放だけで済まされるとは。
「それはどーも」
かなり余裕な顔だ。歴戦の男はこの程度屁でもないってことか。
「今度はこっちからからいくぞ」
構えから予備動作なしで間合いを詰めてきた。咄嗟のことでまともに態勢がとれない
「行くぞ、カガリ! 星拳突き!」
食らった瞬間周りの景色が歪んで見えた。
「まだまだ! タツタ、疾風堅固!」
吹き飛ばされたと思ったら、今度は地面に押しつぶされている。重力を操作したかのように俺にのしかかっている。
「風なら、俺に、分があるぞー!」
風の属性を有する魔獣のすべての上位互換、風と星の複合属性のアルクトス。例え四神竜の一角だとしてもアルクトスには勝てない。風に押しつぶされていたが、アルクトスの風で相殺し、風神ボレアスに接続した。
「神との接続、懐かしかな、しかもセカンドステージ。そいはタツタでは勝やない。戦うなら元主人に挨拶したばいらどげんや?」
「は? 何を言って……」
「アルクトスから聞いやないんか? ワシとアルクトスは昔契約しよったの。前任者との戦いでアルクトスば紋章の刻まれとった腕ば持っちいかれて半ば強制的に契約解除になりよった。アルクトス自身だいぶ怪我負っとったからちょこっとの間門は開かいなかったがな」
「事実か、アルクトス?」
「事実ではある。が、それは昔のこと。余は昔の主に尻尾を振りまくほど不忠ではない」
「だよな。今は今、昔は昔。挨拶は俺が勝ってからだ」
「もう勝った気でいるんか。やっぱりお前は傲慢だ」
一瞬互いに見合ってから剣と拳が何度もぶつかり合う。
こっちは血眼なのに、笑みを浮かべながら戦う勲さん。徐々に差が浮き彫りになってくる。
「もっと全力だせぇ! こっからギア上げていくぞ!」
強力な乱打を全て対応しきれない。守りに入らないと手痛い一撃をくらうのは明白だ。
「一旦距離を取るのだ、主人よ。考えがある」
このまま守っていても一方的にやられるだけだ。ここは引くのが正解か。カグツチの指示に従い一度距離を取る。
「タイミング合わせろよカグツチ」
「任せよ」
六連一刀流一ノ型『六連星』による抜刀術で瞬時に間を詰め、斬りかかる。
「そいな攻撃は今更じゃ!」
勲さんの迎撃は空を切り、炎に包まれ身動きを封じた。俺たちの狙いはカグツチの囮による後ろからの攻撃。この一瞬にナルカミの最大出力の速さを引き出した。あの大賢者すら目で追えない速さならば致命傷は必至。
だが斬りつけた瞬間にわかった。致命傷なんてものは与えられていない。むしろ、巨大で頑丈な岩でも叩いたような感触。せめて解放される前までにダメージを与えたかったが、そうはいかないらしい。
「まさかこぎゃんはよに解放しゅるっちは思わなかった。誇っちよかよ。お前は強か」
魔装アルティメットの神器解放状態。全身をフルアーマーになる防御特化系神器だが、四神竜も合わさって攻撃力も半端ない。
「双竜も神器ば解放したらどがんね?」
「俺の神器は正真正銘の切り札。まだ出し時じゃないんだよ」
一発限りの神器解放をいつ使うかはしっかりと見定めなければ撃ち損になる。そもそもあの装甲を貫けるのかどうかもわからない。この戦いの鍵は間違いなく解放した一撃だ。出し惜しみしないがまだ早い。
◇
一方その頃。戦いを見守る者もいる。大賢者であり双竜の親友リチャード・ダリア。恋仲のアイリ・エーヴェルト・ノート。一番弟子のアナスタシア・ヴェストフォルの3人だ。
「遠くからでもわかるくらいすごい魔力です。ここまで師匠とマスター・テイマーの魔力が伝わってきます。
「頂上決戦と言っても過言じゃないからね。最強の男と一般人最強の男との戦いだ。ハッキリ言って歴代のマスター・テイマーの戦いとは比較にならないほど激しいものになるね」
「マスター・ソーサラーのあなたでもこの戦いはそう捉えるんですね」
「当たり前さ。勲さんは間違いなく本気を出してくるだろうし、拓人も出し惜しみはしないはずだ。お互いの本気がぶつかった時、少なくともあの無人島は消し炭になるだろうね」
「師匠には奥の手があります。それをくらって生き残れるとは思いませんが……?」
「勝ち負けは僕にもわからない。どっちが勝ってもおかしくないよ。でも僕は勲さんが負ける姿が想像できない。だからこの戦いは神のみぞ知っているんだ」
神のみぞ知る。大賢者の言う通りだろうとアイリは思った。当然タクトには勝ってほしいと願うが、相手はかのマスター・テイマーだ。一筋縄ではいかないのはわかっている。だからせめて無事で帰ってきてほしいとも思ってしまう。
こんな自分を知ったらどう思うだろうか。出会った時からマスターになることだけを抱き、邁進してきた彼のパートナーとしては失格だ。快く見送っても内心不安で仕方がない。だから早くこの戦いが終わってほしい。これから先も2人で人生を歩みたい。マスターなんかじゃなくても自分は彼を愛せると大きな声で言える。
--こんな私でごめんなさい。
どうか、彼の身体に何も起きませんようにとただ願う。
◇
激しい攻防が続く。硬い、強い、重いの3拍子揃った隙のない神器と使い魔。20年以上座を死守してきた実力。普通の人間なら勝ち目がなく諦める所だ。それでも諦めないのは一方的な約束と意地だ。目の前のチャンスを逃せばもう次はない。この一戦に全てを賭け出し尽くす。
「来い、オルレウス!」
アイリさんがくれた弓。かつて宇宙龍討伐の時に役に立ってくれた代物だ。短剣の神器を矢として撃つ。
「お前くらいだ。剣ば矢っちして撃っちくるんは!」
全てを弾き一足で間を詰めてくる。矢は陽動に過ぎない。本当の目的は歩数を稼ぐこと。南の大陸のある部族が使う魔法をくらわすために。
3歩で蹴った力を魔力に変換させ4歩目で強力な一撃を放つ魔法、アッド<ストレングス>。そこに使い魔の力も上乗せすることで何とか勲さんの拳と相打ちになった。
「そーいや、魔法も使えるんやったな」
「俺があなたに勝ることはそこしかない。もちろん今までテイマーとして研鑽してきたけど魔法のことも同時にやってきた。そしてあなたに勝てる魔法を編み出した」
アッド<ストレングス>は一発に重きを置く魔法だ。だがこの魔法をただの一撃の重いだけの魔法にしておくにらもったいない。
「うまくいけばあなたのその腕をぶち壊せる」
「じゃあ、そいば阻止しゅるんのワシん役目だな」
「行くぞ、ラウラ」
不思議に思うだろう。急に攻撃が軽くなり、今更手数攻めに切り替えた。それの正体を知る頃にはもう遅い。
「何じゃ……、段々重くなっちきた……!」
「これで、20連撃目………!、30連撃…………!、40連撃…………!」
そして50連撃に到達した時勲さんの神器に明確な傷を負った。そしてそれはみるみる瓦解していき、右腕を破壊した。
「連撃を重ねれば重ねるほど威力が上がる魔法だ。これでちょっとはその身の危うさを感じ取ってくれますか?」
「あぁ、十二分にな。」
空気が変わった。さっきまでの余裕のある感じでは無い。明らかな臨戦態勢だ。壊した腕も魔力を送り込み修復させ、また振り出しに戻った。
「じゃあ第2ラウンドだ、マスター・テイマー」




