6-2.『決戦準備』
俺たちの付き合いは城中で知られることになった。公私を混同させる気はないが、付き合い始めた途端無性に会いたくて仕方がない。
「これで仕事があれば気も紛れるんだけど、ないからなぁ」
城に割り立てられている私室でやることもなく呆けている。『パラディン』はギルドの依頼を自分からは受けられない仕組みになっている。そもそも『パラディン』を使ってまでしないとクリアできない依頼はそんなにない。指折りの冒険者で臨時パーティを組めば大抵はクリアできるからだ。
ため息ばかりついていると町の鐘が鳴り響いた。外に出てみると慌ただしく兵士たちが1ヶ所に集まっていく。何かのイベントかと眺めていたらそこにはマスター・テイマーの桐生勲さんがいた。俺は慌てて外に出た。
「来るなら連絡してくだされば迎えにあがったのに」
「手紙書くなんて性分じゃなか。暇やったから寄っちみただけだ」
「そうですか」
待てよ。今この人暇なのか。
「勲さん。俺と一回手合わせしませんか?」
周りの兵士たちがどよめいた。マスターに挑むというのだから当たり前だが。
「マスターの座は賭けなくていいです。ただ勲さんの戦い方とか色々知っておきたいので」
「ハッハッハ! 目ん前にマスターいるんに手合わせて。傲慢じゃなかか?」
笑っていた勲さんの顔が本気になった。ピリつく空気。周りの兵士たちも呼吸することすら忘れるほどだった。
「傲慢とかそんなんじゃ無いですよ。ただ勝てる相手なのかどうか。それを知りたいだけだ」
「勝とう相手やなかったらどげんする?」
「その時は死ぬ気で鍛錬します。『パラディン』になってからというもののやることが少なくてどうも暇なんすよ。だからここで眠りそうな細胞を起こしてあんたに勝ちに行く」
「そいば傲慢っちゅうんよ。まぁ、よかばい。はよ案内してくれ」
前は怪物との戦いだったからあまり参考にはならなかったけど今回を通してマスターの闘い方を知る。勝てなくても情報さえ引き出せばそれで今はいい。
「勝敗は戦闘不能か降参のみ。今は国中の魔法師によって結界を張ってもらってますが限度があるんでお互い本気はなし。そのくらいです」
「ここで本気でやれば国一個は消えるちゃろうな」
「なので本試合は後日改めて。今は軽い運動と思ってください」
剣に手を添え、準備を整える。
「そん気で運動言うんは無理ある」
勲さんの特質すべき点は圧倒的攻撃力よりも神器による防御力。それを突破しなければ攻撃は通らない。俺がこの人に勝っている点は速さ。なら目で追いつけないほどの速さで翻弄して突破口をこじ開ける!
剣と拳が激しくぶつかる。一般兵士から見たら既に本気でぶつかっているようにも見えるが互いにまだ2割ほどの力でしか戦ってない。
「やりよる。これならどがんね!」
急に見せてくる5割以上の力に対応出来ず受けに回ってしまった。
「あんたの剣は六連一刀流の理想や。速い動きと鋭い剣戟。今まで戦っちきよった六連一刀流剣士ん誰よりも強か」
「何が言いたいんです?」
「ワシんこと知りたいやろ? 見せてやる。ワシの使い魔をな」
以前にも聞いたことがある。マスター・テイマーは四神竜を使うと。
「これがワシの相棒炎神竜カガリ。次に対を成す水神竜ミツハ。そして風神竜タツタ。最後に雷神竜ヤマト。この4体は星の属性を除いて全ての属性の上位互換。お前の言うてるんはこん4体に勝つっちことやぞ」
炎神竜は前に見たことがある。が、他3体も規格外の魔力だ。俺自身も正直言ってビビっている。宇宙龍に比べたら規格は下がるがそれでも人が持っていいものでない。俺の使い魔たちも慄いているのを感じる。
「……俺の負けです。ちゃんと準備するべきでした」
今回の手合わせではっきりとわかった。これを相手にするには場所と覚悟がいる。もちろん死ぬかもしれない覚悟だ。それだけの力があの四神竜にはある。勲さん自身も相当な力が備わっている。
「そーか。そいは残念や」
「だから改めて対戦を申し込みます。1週間後、マスターの座をかけてください。場所はどこでもいいです。2人きりで気兼ねなく戦える場所なら。あなたなら知っているでしょう。場所が決まったらギルドの掲示板にでも貼ってくれたらそこに向かいます」
「やっと腹括ったか。よかよか。全身全霊で向かっちこんか」
勲さんは振り返ってどこかに消えていった。
1週間後まで今のぬるい空気を締め直さなければ負ける。一度極限状態に持っていかなければ。
「アイリさんとアナスタシアは任務中か。そこの君、アイリさんとアナスタシアに伝えてくれ。しばらくは帰らないと」
「承知いたしました」
俺はその場で飛び去り魔獣が住み着く森まで飛んだ。やることは野生の勘を呼び戻すこと。自然と相対することで緊張感で身体に喝を入れる。その間は使い魔たちの力は極力使わない。剣と身体だけで自然と戦う。
6日後。王都内は新たなマスターの誕生するかもしれない瞬間に立ち会うために数々の冒険者が集まりざわめいている。
「遅いですね師匠。戦いは明日だと言うのに」
「このままここには戻らず直接戦場に行く可能性もあるのでここで待つ必要はないと思いますが」
「いえ、師匠はきっと戻ります。あなたに最後会わずして戦いに行くなど考えられませんから。
「そ、そうですか?」
「はい! 最近のお二人のイチャイチャぶりは城内でも話題になってますから」
「え、私たちそんなにわかりやすいですか?」
「とても。ですがお似合いだと思います。いつ結婚されるんですか?」
「けっ、結婚まではまだ。それに付き合ってまだ間もないので」
「そうですか。もし結婚されたなら1番にお祝いに行くのに」
「それは嬉しい限りです。……この魔力、流石に戻ってきましたね」
空から降って着地した。軽く煙が立ち咳き込む2人。
「おかえりなさい。この後どうしますか?」
「軽食食べたら行きます」
「戦いは明日なのですぐに向かわなくてもいいのでは?」
「この感覚を忘れる前に行きたい。今忘れると多分戦えない」
マスターのことでいっぱいだった。夢にまで見たマスターが今目の前にいる。悲願であり、独りよがりの約束を果たす為に焦っている様子だった。
「タクト、ちょっとこっち来なさい。アナスタシア様、何か食べるものの準備を。軽食ではなくお腹いっぱい食べられるものを」
「はい、お任せあれ!」
無理やり連れてこられたのはお風呂場。無理やり脱がされ頭と身体を洗われ、髭も剃り、髪の毛もしっかりと切り整えた。
「タクト、戦いには休息が必要です。あなたならわかるでしょう。焦る気持ちもわかりますが今はまず強張った体をほぐさねば勝てるものも勝てません。そしてお腹いっぱい食べて寝てください。ここ数日まともな食事も睡眠も取れてないでしょ? 英気を養うのもあなたの務めです」
「……そうでした。マスターのことで大事なこと忘れてました」
「今の私の役目はあなたのコンディションを整えることと待つことです。それはアナスタシア様も同じです。あなたのためなら身も心も全力で応援します」
お風呂を出たあとは用意された数々の料理。サラダにスープにお肉にデザート。それも好物ばかり。
「師匠の好みは把握済みです。シェフに頼んで急遽作ってもらいました」
「ありがとう。アナスタシアにも心配かけたな」
「いえ、師匠のこと思えばこのくらい。まぁ私は指示しただけですので」
身に染みる美味しいご飯。体があったまるスープ。生きていると実感できる。食べる幸せに勝てるものなしとさえ思ってしまう。
「あとは寝てください。ふかふかのベッドを用意してます。明日の朝に場所まで送りますので、余計な体力と魔力は使わないでくださいね」
「何から何までありがとうございます。お言葉に甘えて寝させてもらいますね」
「心ゆくまでお休みください。私が起こしに行くので」
パタンと扉は閉まり俺はベッドに身を任せて死ぬように眠った。




