6-1.『発展』
6章始まりです
『パラディン』になったことで王国の騎士からは外れ任務などもなし。毎日が暇になっていた。やることといえば修練と図書館で本を漁るだけ。
ただ時間は増えたおかげであることができている。それはアイリさんとのデートだ。この国に来て彼女と出会い、最初こそギスギスしていたが次第に俺は惹かれていた。俺はもう20歳を過ぎている。そろそろ彼女や世帯を持っていてもおかしくない。むしろこの世界の結婚年齢は18〜25くらい。ならば俺が男にならねばならない。
休みの日にデートに誘いお茶を楽しみ、時には剣を交えたりする。デートらしくないのは承知だが俺たちの間には同じ流派の門下生だということが先にある。
そして今俺はアイリさんとの待ち合わせ中だ。
「お待たせいたしました。着替えに手間取ってしまって」
「いえ、俺もさっき来たとこなんで」
ぶっちゃけ30分前にはいたけど。
「服似合ってますね。綺麗と可愛いが両立してるみたいな」
「なんですかそれは」
照れてるアイリさんも可愛い。
「今日はアイリさんがどうしても行きたい場所があるって言ってましたけど、どこなんですか?」
「実は、これを機に克服というか、決心というか決別というか……端的に言うと私の故郷に行きたいと思ってます」
「故郷って、大丈夫ですか?」
アイリさんは幼い頃親に売られている経緯がある。
「拓人にはどうしてもいてほしい。私1人では無理ですから。拓人がそばにいると安心します。なので……」
「わかりました。では行きましょう。確か北の大陸でしたね。近くにある転移場まで行って北の大陸に着いたらナルカミに乗って行きましょう」
「そうですね。できれば日帰りの方がありがたい」
目指すは北の大陸の最西端にある村。目指すというほど時間はかからない。さっと転移してさっと移動して目的地の村までやってきた。
「ここがその村ですか……。なんていうか畑ののどかな風景ですね」
「私が幼い頃はこんなものではありませんでした。土地も少なく飢饉のせいで不作が続きやせ細っていましたから」
畑以外だとそれなりにちゃんとした家がある。ちらほらと点在していたり、村の中心は密集していて人もそれなりにいそうだ。
「そういえばご両親の家はどこに?」
「変わっていなければ確か向こうです。かなり構造が変わっているので合っているかどうか」
村の中心を抜けるとまた畑と家がちらほらと。アイリさんは指を刺しありましたと言った。
俺たちの目に映ったのは40代の男女と10代前半の子どもが3人いた。
「あの人たちがアイリさんのご両親ですか?」
「……」
「アイリ……さん?」
アイリさんの目には涙が一滴一滴流れていた。
アイリさんは家が貧しくて売られた。しかし久しぶりに故郷に戻るとそこには幸せそうに暮らす5人の家族。本来ならあの輪にアイリさんがいて、弟と妹もいて団欒と暮らせていた未来も少なからずあったと思う。
しかしそこにあるのはアイリさんを抹消し団欒とする家族。間近で見ると自身の存在意義はそこにはなかったと改めて痛感する。
気がつくとアイリさんは俺の横からいなくなり、元両親のところに向かっていた。
「お姉ちゃんだあれ?」
先に気づいたのは一番年下であろう女の子。それに続くように元両親に、弟たちが気づいた。
「私を覚えていますか……」
「うーん、誰かな? 僕はあなたのような可憐なお嬢さんとは面識はないはずだが」
男はそう言った。本当に気付いてないのか、気づいているがあえて気づかないふりをしているのかはわからない。
「そうですか。それは申し訳ない。このことは忘れてください」
そう言ってアイリさんはその場から離れた。
「こうして面と向かって言われるのはそれなりにきついですね。とうに両親としての2人ではないと分かっていても」
俺たちはその場を去り村を出ようとした。
「アイリさん、これでよかったんですか?」
「面識はなくとも私には弟と妹がいたようです。あの子たちが今笑っていれるなら私はこれ以上口を突っ込みません。あの子たちには私のようなことにはなってほしくないですし、あの人たちも私を売った後さらに子供を作ったということはちゃんと育てる環境と覚悟ができていると思います」
そうは言うもののアイリさんの顔は晴れない。
「ちょっと待ってくれーー!」
後ろからいきなり声がした。振り返ると元父親が走ってきた。
「何でしょうか?」
「はぁはぁ……。アイリ……なのか?」
さっきこの人は知らないと言った。ということはこの人は気づいていたようだ。
「そうですが」
振り返らないアイリさん。
「なぜこんなところにいるんだ。僕らはアイリを売ったはずなのに」
「ええ、知っています。幼い身で奴隷となりましたね」
「じゃあ君は解放されたのか?」
「見ればわかるでしょう。手枷も足枷も何もありません」
冷たくあしらうアイリさん。この男もどこか話しづらそうに今思っていることをそのまま声にしてる感じだ。
「君を売ったお金のおかげで農業が軌道に乗ったんだ。病気に強く寒冷地にも適した麦や野菜の品種改良に成功して。この村が今あるのは君のおかげでもある。乗ったのはいいんだけど、ふと思うことはあったよ。アイリがいない。何をしても達成感と幸福がない」
「だからまた子どもを?」
「そうだ。でもアイリのことを忘れたことは一度もない。言い訳にも聞こえるが」
「じゃあなぜ、そこまで想っていながら私を……!」
怒りを露わにする。目からは溢れんばかりの涙が流れている。
「いえ、もう過ぎた話です。あなたが捨てたおかげで今の私があります。あなたが今幸せなように私も今幸せです。これでやっと思い残すことなく次に進めます。それでは」
アイリさんは走り去った。俺も追いかけようと振り向く。
「君はアイリのボーイフレンドかい?」
「違います。いつかはそうなりたいと思います」
「最後に聞かせてほしい。今君たちはどこにいるのかを」
「彼女は東の大陸ヴェストフォル王国国王直属魔法師団団長のアイリ・エーヴェルト・ノート。俺は『パラディン』双竜の相羽拓人です」
「そうか。立派にやっているのか」
「あなたにはある意味では感謝しています。おかげでアイリさんと出会えたので。ですがもう2度と子どもを売るなんてことはしないでほしい。それでは」
俺もこの村から立ち去った。
王国に戻ったあと、俺はある疑問を投げかけた。
「こんな思いをすることなんてわかっていたのになぜ故郷になんて行こうと思ったんですか?」
「……言ったでしょう。これは次に進むための決別です。あなたがしたように私も次に進まなければなりません」
「次っていうのは?」
「今夜、私の家に来てください。話したいことがあります」
「わ、わかりました」
俺たちはその場で別れ一度家に戻った。
話ってなんなんだ。あそこまで落ち込んだ様子だとどんなことを言われるのやら。
「……」
いや、彼女が落ち込んでいるからこそ平常運転でいなければならない。いつも通りの俺で彼女の心を埋める。
夜中、アイリさんの家の明かりはほんのりと灯っていた。ノックをすると寝巻き姿のアイリさんが出てきた。まぁもう夜だし就寝間近ではあるが。
「お茶はいりますか?」
「いえ、もう遅いので」
なんだろう。なんとも重々しい空気だ。昼間あのようなことがあったから当たり前ではあるが。
「……私は、今までいろんな人に支えられて生きてきました。おじいちゃん、陛下、当時の魔法師団長、ミツヨシ、そしてあなた。私にとって全員が私の人生に於いて欠けてはならない存在です」
「俺もその中に入れてよかったです」
「あなたはたまたま同じ流派ということから始まりましたし、過去の因縁を払拭してくれました。本当に感謝しています。おそらくおじいちゃんはあなたのような人と出逢いなさいと言っただと思います」
「どういうことですか?」
「奴隷場から脱出してここに来るまでの間いろんな話をしました。その時に言われたのが、私にとって1番重要で全てを捧げたくなる人を愛しなさい、と。おじいちゃんは私に足りないのは人を愛する気持ち。もっと広く言えば人を信頼することなのだと思います。私は親からの愛は当然受け取ってません。だから人を愛するというのが当時いまいちわかりませんでした。ですが今なら言えます。……タクト」
「はい」
「私はあなたを愛しています。これが正解なのか、本当に好きの気持ちなのかは正直わかりませんが、私はあなたの全てをほしいと思います。心がそう叫んでいます」
あぁ。今まで欲しかった言葉だ。本当は俺が先に言いたかったけど、これはこれで良い。
「俺も、アイリさんが好きです。ずっと一緒がいい。死ぬまで隣で笑ったり泣いたり、幸せを分かち合ったり。……でも俺は変なとこ調子乗るところあるし、どっちかといえばダメ人間側ですけど、それでも俺はアイリさんじゃないと一生後悔すると思う」
実際に言葉にすると全然言葉が出ない。多分顔はとてもテンパっていると思う。けれど今言うべき言葉はたった一言。
「アイリさん、俺と結婚してください!」
「……い、いきなり結婚ですか?」
「あっ、いや。最終的には結婚したいというか、まずは付き合ってほしいというか」
「締まりませんね、あなたは。じゃあまずは付き合うということで」
「そ、そうですね。まずはお付き合いから」
そこからの流れはさっきより時間の進みが速くなった。これで恋人同士になった。夜も遅いから今日はアイリさんの家に泊まることにした。そしてベッドは1つしかない
「すみません。俺初めてだから上手くは無いですけど」
「私も初めてですよ」
そう言いながら唇と唇を重ねた。舌と舌が絡み合う。何度も何度も互いが互いを求め合った。
そして服をゆっくり脱がそうと手をかけた。
「嫌っ……」
俺の手につかまり抵抗してくる。
「私の体はそんなに綺麗じゃありません。だからあんまり
は見ないで……」
「俺は見てくれでアイリさんを好きになったんじゃありません。中身も含めて全てが好きです。顔も心も傷も全てアイリさんを構成するものです。ある意味ではあの2人には感謝しています。おかげで巡り会えたんです」
アイリさんの力がスッと抜けた。目をぎゅっと閉じてただ待っていた。
俺は必死になって動いた。我も忘れてただアイリさんの全てを欲しさに。求め合う2人を止める人などいない。この空間は今2人の求める声と音だけが響く。
ベッドの軋む音。絡まり合う音。2人の汗の匂い。お互いの喘ぎ声がこの空間を作っていた。
全てが終わる頃には2人ともはっきりとした意識はなくそのまま疲れ果てて寝てしまっていた。起きたら全裸で寝ていることに気づいた。ちゃんと目を合わせられない。我に返って恥ずかしくなってきた。
「とっ、とりあえず朝ごはんにしますか?」
「そ、そうですね。えーとパンとコーヒーでもいいですか?」
「それでお願いします。ていうか仕事なんで急がないとですね」
お互い照れながらどこかあたふたしていた。まだまだ慣れないな、この関係は。




