5-8.『宇宙に棲まう龍』
それからはずっとヴォーダンさんと手合わせしながら魔力の循環の維持をできるようにした。まだ意識しながらではあるがだいぶものにしたと思う。
ラスト1日は体を休め万全の状態にした。あの男をやるには満身創痍では勝てない。
ついに元の世界に戻る時がやってきた。俺はヴォーダンさんについて行き、山の天辺にたどり着いた。そこには壊れかけの祭壇と大きな柱がある。ヴォーダンさんが何か唱えると祭壇にワープホールのようなものが現れた。
「これを通れば元の世界だ。場所はヴェストフォルの王都近くに繋がっているはずだ。と、その前に」
そういうと俺の首にあるロザリオを取り出して突如として破壊した。
「なっ!?」
「これだろう、君を縛りつけているものは」
「これは、俺がもう人を殺さないために……」
「知っている。使い魔を通じて人を殺したことをね。ただ目の前の大切な人が殺されそうな時、君はまだ甘いことをいえるのか?」
「その時は、殺さない程度に殺します」
「君のそういう甘さは好きだ。だけどね、失ったものは戻らないし、後悔しても遅い。それに、こんな物が無くとも君は制御できる」
「そう、ですかね」
「そうとも。私が保証する」
「……」
「大丈夫だ。君は強い。何にも縛られず思いっきり戦いなさい」
「あなたがそう言うならそうなんでしょう」
「自慢ではないが私の言うことは十中八九当たる」
「はは、残り一二はどこいったんですか」
そうだよな。これが無くとも俺はやれる気がする。
「では、帰ります。短い間でしたがありがとうございました」
「礼には及ばない」
これでやっと戻れる。だがその前にやることがある。
「なぁ、ヴォイド。お前、人間に興味あるか?」
「ん〜。ある方だな。人間は面白い。オイラたち悪魔にないもの持ってる。知れば知るほど面白いし楽しい」
「そっか。じゃあ、俺の使い魔になってくれ」
「いいのか? オイラ悪魔だぞ? 竜種を使うお前にとって最悪の相性だぞ?」
「かもね。でも俺はそれすらも使いこなして見せる。そしてマスター・テイマーを下す。まっ、言うなればお前に覇王の道を一緒に歩ませてくれ。悪魔王なんか目じゃないくらいにな」
「……決めた! オイラお前に着いていく! 後から後悔してもしらないぞ!?」
「後悔なんてしないさ」
『時空の羅刹天 ヴォイド B 級《闇》
→時間と空間をほんの少し操れる。使用する魔力量によってその威力は変化する』
「ヴォーダンさん、ありがとうございました。お元気で」
「あぁ、君がマスターになることを願っている」
結局あの人は何者かはわからずじまいだったがそんなものは関係ない。俺はたしかにまた強くなった。それだけでいい。
「そうだとも。君がこちらに来た時から感じていた。どの時代のマスターよりも輝き悪鬼を滅する力を持っていることは。頼んだよ、次代のマスター・テイマー。君にこの世界の命運は託された」
◇
出口を抜けるとそこはヴェストフォルの王都の上空だった。上から見るとよくわかる。敵がわんさかと溢れかえっている。
「ヴォイド。早速だけどお前の力試させてもらうよ!」
空間を操る力を使い地上にいる悪魔と場所を入れ替えた。ついさっきまでいなかった人間が現れて悪魔たちはわずかに気がこちらに向いた。わずかな時間が命取りだ。20秒で王都西側の悪魔を制圧した。
「双竜だ。双竜が帰ってきたぞーー!!」
俺の帰還に沸く騎士と魔法師たち。
「双竜、ご無事でなによりです。現状ですが……」
「だいたいわかってる。俺はあいつを倒す。聞けば元マスターらしい。操られてはいるけどね」
「そんなやつが一体……」
「よく分からん。けど生半可な力じゃ負ける。西は制圧したから他の支援を頼む」
「承知致しました!」
さて、俺はリベンジと行きますか。
やつがいるところに不意打ちをかけたが寸前でかわされた。
「よぉ、セドリック・ブロワ」
「私の正体を知ってしまいましたか。その程度では勝ち負けに影響はしません。もう一度負けてもらいますよ。今度は死、ですけど」
神器九難災禍アロンの杖が解放状態になった。神器同士の剣戟は火花を散らし、誰も隙入ることはできない。例えアロンの杖に傷つけられたとしても俺には新たに習得した技がある。呪いを弾き、肉体を活性化させる魔力操作。これがあればどちらが上かは一目瞭然だ。
「向こうで何が……。こんなはずではない。もっと上手くやれていたはずだ。双竜を手負いにし、いない時に襲撃し、さらに悪魔の世界にも追いやったというのに」
「感謝しているよ。俺はまた強くなれた。幕引きだ。悪魔に唆されているだけのデクの棒に俺は負けない」
セドリック・ブロワの首が飛び、契約していた悪魔たちが四方に飛び散った。
これで一件落着だ。あとは雑魚悪魔を狩るだけだ。
「おわ……お、わら、ない」
「お前、まだ生きているのか」
首を刎ねているのにまだ意識がありやがる。これも悪魔の力の一部なのか。
セドリック・ブロワが倒れているところに魔法陣が現れた。見たことないものだ。
「わがお、うの目的は、必ず……達成する。その、ためならば……仇であろ、うとも利、用する。こ、の、せか……いは滅亡……する」
突如として圧倒的な魔力にそこにいた全ての生物が畏怖した。悪魔も人も植物さえも。手が震える。感じたこともないほどの圧倒的質量。もはや重力と言っても差し支えない。
「何をした、セドリック・ブロワ」
魔法陣に吸い込まれていくセドリック。自身を贄として何かを呼ぶ魔法か? いや、こいつはテイマーだ。俺みたいな魔法を使う使い魔は持っていない。
秒を刻むごとに段々と重くなっていく。これの正体はまさしく空にいる。見上げると、太陽と被さりはっきりとは見えないが間違いなく龍だ。
そして遂にそれは地上にやってきては怒号を放った。城門から離れているが鳴き声だけで壁を破壊した。
四足で漆黒の皮膚、大きさは俺の使い魔ヤマタオロチよりも数段でかい。全てを粉々にしそうな発達した顎。何よりもそれから放たれるオーラが尋常じゃない。ランクは間違いなくSだが、俺の持つカグツチ、ナルカミ、オロチよりも格上だ。
「もう終わってもいいだろうが……」
それは地上に降りてきて怒号を放った後、妙におとなしい。何もしてこないなら今は大勢を整えるのが最優先。城に戻り、団長、アイリさん、アナスタシア、その他閣僚が集う部屋に向かった。
「で、あれは何者だ。はっきり言って人が対処できるものではない」
団長がそう言った。俺もそう思う。人類では手に余る。
「空から舞い降りたこと、漆黒の龍、尋常ならざる存在。あくまで予想ではあるが宇宙に棲まう龍、ドラウグルデッドドラゴンかと」
「本で見たことある。確か宇宙に棲んでいる4体の龍だ」
今まで地上に降りてきた記録は千年の歴史を見てもない。意図せず大気圏に突入してしまうことはあったそうだが、何もせず空を滑空して戻ったそうだ。
あいつを倒さなければこの国はおろか周辺国、いや、大陸が消滅するかもしれない。だとすればやることは1つだ。
「俺があいつを倒します。その間皆さんは安全な場所へ。1人は陛下にこのことを伝えてください。最悪、陛下と王族さえ生きていればヴェストフォルは不滅です」
「本気でいっているのですかタクト? あのようなものを一体どうして倒すと言う発想になるのですか!?」
「アイリさん。追い返してもまたやってくるかもしれません。なので今のうちに芽は摘んでおきます」
「あなた自身はどうなるんですか? 死ぬつもりなら行かせられませんよ」
「俺は死にませんよ。マスターになる夢があるんです。それを成し遂げるまでは死ねません。では行きますね」
そう言って俺は窓から外に出た。そして静止しているドラウグルデッドドラゴンの近くまでやってきて動き出すのを待っていた。近くで見ると本当に怪物だ。死なないとは言ったものの勝ったとしても五体満足とはいかなさそうだ。
「ここにやってきてはいけませんよ、アイリさん」
背中越しだがわかる。アイリさんだ。
「私の力ではあの怪物を相手取ることはできません。5分持てばいいところです。‥‥本当にやるのですね」
「自己犠牲はあまり好きじゃないんですけど、こればっかりはそうもいかないでしょう」
「そうですか。役に立つかはわかりませんがこれを渡しておきます」
振り返るとそこにあったのはオレンジに煌く弓だった。
「かつては弓も扱っていたと聞いたので。本当はファルチェ王国から帰ってきて落ち着いたら渡すつもりでしたが今渡します。600年物の素材を使った火と雷の弓。名前は雷炎弓オルレウス。弦を引っ張れば矢が装填されます。ただこれは素材となった竜種の髭を使っておりましてかなり硬いです。その分威力は補償します。さすがにこの怪物には効かないとは思いますが。受け取ってください」
「わかりました。ありがとうございます。きっと役に立ちます」
受け取った瞬間、ドラウグルデッドドラゴンがピクリと動いた。アイリさんをこの場からすぐに離れさせ弓も使い魔に収納して臨戦態勢に入った。
「さてさて、これが最後であってくれよ」




