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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第1章 東国の異形
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1-6.『水害の神霊』

この物語での神霊は『神に近い存在ではあるが神ではない』です。祈りや信仰の対象が具現化し意思を持ったもの。ただし生半可な信仰の場合は具現化しません。


ちなみに本来の意味は『神の御魂、神の霊徳』らしいです(ネット広辞苑より)

 500年続く危機。この国を蝕む邪竜。

 そんな呼ばれ方をする正体は8つの首を持ち水を操ることができる竜種。

 竜種とはこの世界に存在する竜。よく悪魔種と対極の存在と云われることもある。

 そして今回、アシハラノクニにいる竜種は邪竜といえども神霊の類とされる。

 神霊とは人の願いや信仰により生まれるS級。星の属性を除けば最高ランクに位置する神霊である。

 ではなぜここにそんなものがいるのか。

 約510年前、この国では未曾有の大津波で一時回復不能とまで呼ばれるほどの大被害を被った。

 当時この国のトップである(みかど)は考えた。


『この災害は我々の祈りと信仰が減り、神が嘆き激怒されているからだ』


 と。

 そして帝を中心に儀式を施し10年間祈りを捧げ続けた結果大津波、すなわち水害が形を成し大変巨躯な8つの頭を持つ竜種となった。

 そしてその水害の神霊が言った。


『我の怒りを買いたくなければ、極上の酒と活きのいい娘を年に1度捧げろ』


 と。

 以後歴代帝は万人を救う為1人の命を捧げることになる。中にはそれが原因で気が狂い狂死した帝もいる。

 しかし黙っていられるわけがなかった。約100年前の帝は東の大陸にある全ギルドの支店にクエストを発注。この国が可能な限り出せる報酬を提示、その時代では最高報酬額とされ、それを手にせんと多くの冒険者挑んだが悉く(ことごとく)失敗した。

 時代とアシハラノクニの立地条件が悪すぎるが故にクエストはギルド側の都合により破棄された。

 それでも諦めず、来国してくれた冒険者に声をかけ機会を伺っている。これが現在の状況だ。

 と、京都弁の受付嬢に聞かされた。それをそのまま畳の上に寝そべっているベルに言い、


「そんなすごいのがここにいるんだね。まぁ気になるのは歴代マスターが挑んでないのかくらい」


「やっぱ国の場所だろ? 山越えなきゃいけないの面倒だし。それかマスターを凌ぐくらいとんでもない奴とか」


「マスターならこんなところひとっ飛びだろうし、そんなに強いならマスター•テイマーが欲しがると思うんだよね〜。強いって行ってもマスターだから戦えるとは思うんだけど……。で、タクトはその依頼受けたいの?」


「受けてみたいとは思ったよ。もしテイムできれば強力な使い魔だし、水という新しい攻め方ができる。けど実力が全然追いついてないんだよなぁ。歩くだけで疲れて、擦りむいただけで痛がる俺に何ができるんだ」


「私もタクトほどじゃないけど実践の経験値が少ないからなぁ」


 やってみたいけど絶対失敗してしまう。そんな考えが俺の頭の中をぐるぐるとかき回す。目を瞑り顔を上に上げながら思い悩んでいると、さっきの京都弁受付嬢が話しかけてきた。


「今回の件もし受けるならウチらからも可能な限り手伝いはするつもりどす。武器を含む装備一式揃えさせてもらいます。これでちょいとは受ける気になる?」


「いや、装備云々じゃなくて実力がね」


「そないなことは気にする必要はないどす。過去、何人かそのような人はいましたがそれなってに健闘してましたし」


「いやでも……」


「大丈夫。守るということなら我らの専売特許。死にそうになればただちに引き上げれるよう準備しておきますから」


 う〜ん、悩む。それなりに国がバックアップしてくれるのならいけそうな気がしないでもない。でもこれに頷けば乗せられた感があってなんか嫌だ。


「じゃあお断りーー」


「受けてくれはったら宿泊費と食費全部無料するけど?」


「受けます!」


「えっ? いいのタクト?」


「宿泊費はともかく食費が浮くんだ。もうギルドの不味いご飯はごめんなんだよ」


「まぁ、それについては私も思うとこあるけど。勝てるの?」


「やるだけやって無理なら諦めよう」


「そうだね。やってみよっか」


 よし、決まった! ギルドのご飯は本当に不味い。その辺の店で食べたいけど、いかんせん料金がね。無駄にはできないから今まで我慢したが今回の無料券で美味いもん食うぜ!

 と、少し時間が経ち受付嬢から邪竜の詳細が載ってある用紙を渡された。


【名前は『ヤマタオロチ』、属性は水と闇。8つの首、大きさは大岩6個分以上、鱗にはぬめりがある】


 大岩の基準がよくわからんがとにかく大きいということはわかった。

 それにやはりこの国は過去の日本という位置付けのようだ。娘を要求するところや、名前、首、水害、色んな共通点がある。

 これは冒険者が須佐能乎命(すさのおのみこと)に成りきりオロチ退治をするってことだ。つまりは神話の再現。言い過ぎかもしれないがおおよそそんな感じだと思われる。

 依頼を受けるといってもぶっつけ本番とはいかない。色々と作戦を立てるつもりだ。


「オロチの属性からみて火で攻撃は愚策だよね」


「だろうな。ベルは火属性以外に使えるのは?」


「あとは風とほんの少しだけ光が使える」


「じゃ基本それを中心に使う感じか。俺は半端だけど全属性。で、試したいことがあるからとりあえずウィッチクラフト、出てきてくれ」


 スゥーっと出てきたローブを纏った魔女。


「多分だけど、闇属性に重力を操るみたいな魔法ない?」


 ウィッチクラフトはタクトに触れ魔法をかけた。するとゆっくり身体が浮き上がった。


「俺ができる範囲はこれくらいか。まぁでも重力が自在なら少し活路はある。それに闇属性の気配遮断とかバフ盛り盛りにして、あとはそうだな……鱗対策しないと」


「鱗は剣で無理やり殴り斬れば何とかなるって受付の人が」


「曖昧だな……本当にそんなんで何とかなるの?」


「わかんない。あとは国からどれだけの人が一緒に戦ってくれるかと、もらえる装備次第だと思うよ」


「食費に釣られて早とちりしたなぁ、俺」


 作戦という作戦が立てられたのか不安だが明日、早速オロチ退治に行くことに。

 次の朝早く、指定された場所に向かうと沢山の人が集まっていた。


「お待ちしておりました。私はこの国の左大臣伊勢 俊道(いせの としみち)と申します。」


 左大臣といえば帝にかなり近い地位じゃ……。あくまで向こうの歴史通りならだけど。


「此度のご依頼の受注感謝しておりまする。これは我らの悲願であり後世に残すわけにはいかないのです。なので一刻も早く退治してくれますようお願い申し上げます」


 深々と腰を折り、礼をする左大臣。もうここまで来れば左大臣としてのプライドはなく、ただオロチ退治のためなら何でもやる。そんな気概を感じた。


「できることはします。けれど僕らも死にたくはない。ので死ぬ前に引き上げることもあります。その上でこの依頼を受けます」


「えぇ、命は何物にも変えがたい。それは我らが一番よくわかっておりまする。ですができるだけ粘るようお願いします」


「わかりました」


「では約束通りこれを」


 茶色い風呂敷に包まれていたのは1本の杖と一太刀の刀。


「これはかつてオロチ退治を試みようとした勇者達が何とか手に入れたオロチの鱗と血を元に作られた武器でございまする。あとは鱗で作られた羽織がありまする故、これはある程度なら水の攻撃を弾く力があり、これを身につけて行けば多少勝機はあるかと」


「ありがとうございます。えっと、それで一緒に戦ってくれる人はいないのですか?」


 ベルが気になっていたことを言ってくれた。しかし左大臣含めその場にいた者が全員口をつぐみ、沈黙した。


「あの……」


「……それはできません」


「えっ! ちょっと待ってくださいよ。2人でオロチに立ち向かうなんて無理ですよ! 俺たちは須佐能乎命みたいに力はないんだ」


「すさのおのみこととは誰ですかな?」


 クソッ! 変なとこ噛みついて。


「誰とかじゃなくて、とにかく何でそちらから戦力が出ないんですか?」


「……かつて幾度もオロチに挑み大量の犠牲を被っておりまする。故にこれ以上死者は出したくないのです。ほんと勝手ですがそういうことなのです」


「…………」


 思っていた以上に深刻すぎる。何となくわかった。これが何年も冒険者が依頼を受けない理由。少人数でS級の神霊を相手取るのは極めて危険だ。俺たちもその例に則り棄権した方がいい。


「申しわけありませんがこの度の依頼はーー」


「タクト待って」


 ベルは俺が言おうとしたことを前に来て止めた。


「わかりました、そのような条件で承ります。確認したいのですが、死にそうになれば本当に助けてくれる、ですよね?」


「えぇ、そこについてはご心配なく。遠くからですが防ぎ切れない攻撃はこちらから防御の魔法を発動させ2人を助ける所存」


「ではそれで」


 ベルは了承してしまった。


「ベル、本気で言ってるの? こんなの命懸けとかじゃない。自殺行為だ。俺が決めといて勝手だけどやめた方が」


「受付の人言ってた。守りは専売特許だって。やるだけやろうよ。死ぬまでやるわけじゃないんだよ? 私こういうの実はやってみたかったの。本当の意味で命をかけるようなハラハラした冒険を。もしかしたら今回で本当の冒険ができるかもしれない。だからやりたいの」


 本当の冒険。俺にはまだよくわからない言葉だ。けれどベルの目を見たら何となくわかった。本当の冒険、この世界は弱肉強食、その危険性、ハラハラドキドキすることがそうなのかもしれない。


「ごめん、勝手すぎた。一度言ったことはやりきらないとな」


 俺は左大臣の方を向き言った。


「左大臣、勝手して申し訳ありません。相方同様承ります」


「いえ、このような無茶を了承する方が稀です。ではオロチが住処にしている場所までは臣下が案内します。私はここで」


 左大臣はまた深々と俺たちが向かい姿が見えなくなるまで礼をした。



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