5-4.『悪魔到来』
親善試合2試合目はアナスタシア対ジョット・フィオーレとの戦い。見たところ武器は短剣のようだ。リーチが長いアナスタシアの方が有利だ。
「彼からはなぜか何も感じませんね」
アイリさんがそう言う。
「言われてみれば……。戦いに身を投じている者特有のオーラというか、そういうの無いですね」
両者構えて戦いの合図を待った。
ゴングがなり、先に仕掛けたのアナスタシアの抜刀術と思いきや、それより早く動いたのはジョットの方だった。アナスタシアがギリギリ反応できるほどの速さ。
「そういう戦い方か。これはアナスタシアが近づけなかったら負けですね」
ジョットは短剣を握るのではなく、宙に浮かせて使い魔の力で超高速に射出している。
防戦一方のアナスタシア。しかしこんな遅いスピードにずっとやられたままの彼女ではない。誰があの子を育てたのか。世界でもトップクラスのスピードを待つ俺と鍛錬してきたのだ。あんなのはすぐに慣れる。
実際アナスタシアはすでに目で短剣を視認できてる。彼女の胸に一直線で飛んでくる短剣を手で掴み取り動きを封じた。
「やっと、捕まえました。今度はこっちの番です!」
短剣を投げ捨て、一ノ型『六連星』で相手の懐に入り込み剣を抜刀する。紙一重でかわすジョット。
「甘いですよ!」
すかさず六ノ型『填星』で勝負をかける。
「君は周りを見えてないね。だから負ける。神器解放」
アナスタシアの背後から無数の短剣が襲いかかった。何が起きたのか分からなかった。理解するのに5秒かかった。
「しばらく動けないと思うから運んでもらった方がいいよ」
去り際に静かな声で言い、その場からいなくなった。
「タクト、今のは?」
「異常なまでの魔力量、神器の汎用性。あれが十二騎の最弱には思えない。本気じゃなかったとしても見た感じヴァレリモに匹敵するかと」
何よりあの正確性だ。アナスタシアの使い魔ホルアクティの能力で素早さを上げていたというのに足の関節を一発で狙い当ててきた。
「とにかくアナスタシアの治療しないと」
アナスタシアを運び出し治療を始めた。そして完治はしたが念のため一日安静になった。
王様に許可をもらい今日はファルチェ王国の散策をする。理由はジョットに会いに行くために。ヴァレリモに居場所を聞くと普段はフィオーレ家の近くにある花園にいるらしい。書いてもらった地図通りに行くとジョットはベンチに座っていた。
「よっ、ジョット君」
後ろから近づきまずは挨拶から。
「どうも」
「昨日の試合見事だったよ。アナスタシアを倒すなんて。あれでもけっこう鍛えたつもりだったんだがまだまだ上はいるよな〜」
「あなたあの人の師匠なんですか? じゃあ今日はそのやり返しですか?」
「まさか。戦えるなら戦いたいけどここじゃ花が散ってしまうだろ」
「……そうですね」
「なぁ、お前ってさ。実際どれくらいの強さなの?」
「どれって……十二騎の最弱ですが」
「違うね。少なくともお前はヴァレリモよりも強い。魔力量も。そして正確性もずば抜けている。そんな戦士が最弱なはずがない」
「……同盟国になって味方だし、少しだけ僕の話をしますよ。僕は魔眼持ちで能力は魔力の線が見えます」
「線?」
「僕はその線に神器を乗せて放っているだけ」
なるほど。線とはつまりロープウェイでいうところのロープで神器はゴンドラ。相性抜群なわけだ。
「その線はどういう線だ? ただの魔力の線ならあそこまで正確に撃ち抜けない」
「そうですね。その線は人間の急所、関節を正確に捉えることができます。さらに人間には常に動く急所があり、そこを狙うと激痛や動けなくなったりもします」
「常に動く急所って?」
「血液の流動や筋肉の緩急などのあらゆる要因によりできてしまう防ぎようのない弱点です。腕を出してください」
そう言われて腕を出すといきなりつねってきた。
「痛っっった!」
痛覚麻痺の魔法を普段から掛けているというのにそれを超えて痛みが走った。
「常に動いてるために普通の人は完璧に狙うことはできませんが僕の魔眼はそれを可能にする。これでお分かりいただけましたか?」
「驚いたよ。アナスタシアでは勝てないな」
ジョット・フィオーレ、こいつはすごいもの感じる。一度ガチで戦ってみたい。
「あっ、僕もう行きますね。家のことがあるので」
「あぁ、せっかくの休暇中に悪いね。参考になったよ」
「いえ」
ジョットはそういうと離れていった。
◇
これは相羽拓人たちが知らぬ地で起きていること。
それは悪魔たちの大行軍。ゆらりゆらりとうごめく無数の悪魔。
『悪魔の国からこんにちは。我らは尊き王の下僕。
ここは醜い人の国。
目覚める王のために道を作れ、目覚める王のために国を興せ。
王の望みは我らの望み、我らの望みは王のため。
侵略せよ、侵略せよ。人を殺せ、生あるものを滅せよ。これは王の勅命である。
二千の時を超え、尊き王は復活する。勇者はもういない。我ら悪魔の時代がやってくる。いざ行かん、人界へ』
悪魔たちは詩を歌いながら列を成す。これから起きることは人類史の中でも史上最悪の出来事。これはその前触れである。勇者なきこの世界で起こる戦争。人界の命運をかけた戦いが始まる。
◇
2日が経ち、輸出入やその他の事柄が決まり、あとは国に帰るだけだった。しかし想定外のことが起きた。道に沢山の悪魔種が現れたのだ。王様がここを通り何かあってはいけない。よって出国する前に、俺がこの辺りの掃除をすることになった。
「カグツチ!」
豪炎を纏い次々と悪魔を薙ぎ払う。
「もうここにはいないな」
「主人よ。遠くから嫌な魔力がある。まだ終わりではないやもしれぬ」
そんなものはどこにも感じないが、一応。空を飛び、人差し指と親指の先を合わせて輪を作り魔法をかけた。これは指望遠鏡という魔法だ。
ファルチェ王国とは真逆の方向に黒い塊が見える。果てしなく遠いため姿が見えるまで近づいた。
「なっ!?」
黒い塊はなんと無数の悪魔種たちだった。列を成し、詩を歌う。
「悪魔の国からこんにちは。我らは尊き王の下僕。
ここは醜い人の国。
目覚める王のために道を作れ、目覚めた王のために国を興せ。
王の望みは我らの望み、我らの望みは王のため。
侵略せよ、侵略せよ。人を殺せ、生あるものを滅せよ。これは王の勅命である。
二千の時を超え、尊き王は復活する。勇者はもういない。我ら悪魔の時代がやってくる。いざ行かん、人界へ」
何度も何度も繰り返して歌う悪魔たち。急いで王国に戻り、応援を呼んだ。
「なぜこのような所に悪魔が……」
ファルチェ国王が動揺を見せた。
「なぜかは分かりませんがひとまず防衛線を確保しつつ撃退の準備をしなければこの国は終わります」
「うむ……。十二騎のうち半数は防衛、残りは前線に出て討伐せよ。防衛線が突破されたことも考え、兵たちは国民を避難誘導をせよ。グラム国王よ。そちらの兵もよろしいか?」
「当然であろう。この国は同盟国。守らぬ道理はない。双竜と旋風、副団長とその直属の部隊は前線、残りは防衛にまわりなさい」
「はい!」
「双竜。特にお前は悪魔に対して強い使い魔を所有している。お前が悪魔を狩り尽くせ」
「仰せのままに陛下」
数が多いからどうなるかは分からんが、これだけの戦力があれば話は変わる。
悪魔たちの侵攻が目視できるところまで来た。その軍団に真正面から迎え撃つ。ただし、速すぎて初撃は一切気づかれなかった。気づいて動揺を見せたところに12騎の一部とアイリさんと魔法師団員が攻撃を仕掛けた。
「虫みたいだ、これは」
「みたいというよりもはや虫です」
最初は数の多さに戦慄はした。だがせいぜいB級止まり悪魔たちを用意してどうする気だ。この程度なら一国を攻め入るのには少し無理がある。それに大将級の悪魔がいないのも気にかかる。
「罠か……」
考えても仕方ない。今は目の前の悪魔を掃討しなければならない。
半数くらい数を減らしたあたりだった。城の方から爆発音が鳴り響いた。振り返ると炎上する城。やはりこれは罠だった。前線に有力な兵士を誘導し、戦力が分散したところに真打登場。
「アイリさん! 急いで城に戻ります! ここ任せていいですか!?」
「構いません! この程度なら我々だけでも大丈夫です!」
俺は群がる悪魔たちを薙ぎ払い城に向かった。
中央通りを抜け城を目指すが通りの半分ほど過ぎた所で急に眠気が襲った。こんな戦いの最中眠気なんてものはありえない。敵の攻撃だ。
「そこにいるだろ? 出てこいよ悪魔」
「ふむ。勘はいいようですね。気配と殺気は抑えたはずなんですが」
「俺の使い魔はデビルスレイヤーなんだわ。ならわかるだろ?」
デビルスレイヤーとは悪魔に対して通常の倍以上のダメージを与えるほか悪魔に対して察知能力が高まることができる。ただし、しっかりと使い魔を使いこなせればの話だ。未熟ならばただの対悪魔でしかない。
「そうですか、そうですか。それはいい情報です」
「お前、人間だよな。なのに悪魔の匂いがして気持ち悪い。まさかだけど乗り移ってるのか?」
「正解です。我らは悪魔王の願いの為に復活しました。ま、私は下劣な戦闘狂ではないので名乗らせてもらいます。悪魔王直属の配下、悪魔大元帥序列7位、眠りの悪魔オーレ・ルゲイエ」
「だから眠いのか。もう限界も限界だが、死ぬその時までは死ねない。双竜、相羽拓人だ。お前を倒して城に向かわせてもらう」




