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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第5章 悪魔行軍
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5-3.『親善試合』

「いや〜、ミッチェルが作ってくれた鍬は仕事が進むなぁ〜。もうこれがねぇと畑仕事なんてできねぇよ」


「ミッチェルがくれたおもちゃ。子どもたちがすごく喜ぶのよ。1日中遊んでるもの」


「ミッチェルの旦那と酒飲まねぇと相棒が気がすまねぇんだ。ま、俺もなんだがよ」


「ミッチェルが〜」、「ミッチェルのおかげで」「ミッチェルさんが〜」と沢山の感謝を貰った。2ヶ月の間ここで暮らし随分と評価が変わった。


 しかし、そんな平穏は束の間。あの貴族の男が私兵団を連れてここまで来た。


「なぜ、ここにお前がいる……?」


「忘れたか? 探す対象と縁があるものを触媒に使用できる神器。これを作ったのは紛れもなく貴様ではないか。貴様との縁などこちらには山ほどやる。探すのに手間は掛からなかったよ」


「この神器は渡さないぞ。ヘンリーはお前たちの玩具じゃない」


「渡す、渡さないではない。その神器の所有権はこちらにある。誰が神器を作るための素材を提供したのはどちらだと思っている。しかも最上級の素材だ。簡単に手放せるわけがないだろう。それに――」


 貴族の男が手を挙げると私兵団が動き出し村人を強引に捕まえて人質にした。


「ここの人達は関係ない! 離せ!」


「我々もこうはしたくはないんだが、お前が潔く渡さないからこうなる。それにこんな辺鄙な所でも上物はいるようだ」


 薄汚い笑い。どこまでも外道で腐りきっている。


「そうやって……ノエルを……」


「ノエル? あぁ、お前の嫁か。あの女は良かったよ。壊れてないからまだまだ遊べる。お前が早く渡さないから嫁も子供も村人も苦労するのだ」


 ニタァと貴族の男。


 もう許せない。この男はここで葬り去らねばならないと全身がそう訴えた。


「ヘンリー!」


 家に置いていた神器を手元に呼び出した。


「おや? どうする気だね? そんなことをしたら村人はどうなるかわかっているだろう」


「ミッチェルさん!」


 村長が声を上げた。


「この者たちが以前から言っていた外道ならばここで終わらせてください! 我々のことは構うことはありません!」


「黙れ! お前たち立場がわかっているのか!」


「黙るのはお前だ、外道が!」


 村長に気を引かれている間に走って近づく。問答無用に大鎌を振り回すと間に私兵団の者が割り込み貴族の男を守る。私兵団の者は守りはしたが手を少し刃に触れてしまい血が出てきた。

 初めは何ともなかった。しかし私兵団の者の身体が徐々に小さくなっていく。

 否、小さくではない。子どもになっていった。さらに赤ん坊になり、果ては細胞レベルまで逆行した。

 貴族の男が青ざめている。


「ヘンリーを。いや、『人間をという人生』と人類が初めて作った『日時計のカケラ』を使うことで得た力は《切った対象の時間を急激に逆行もしくは順行させる》ことができる。当然掠っただけでも効果は発生する。運が良かったな。私は戦士ではない。止めるなら今しかないぞ」


「なっ、何をやっている! 私を守れ!」


「神器限定解放」


 私兵団の者たちが次々と倒れていく。


「何をやった……」


「この神器には3つの素材が使われている。その最後の1つ。ゴースト系の魔獣の核の力だ。一定範囲内の対象の魂を分離させる。範囲内の対象は選択可能。ただ効果時間は5分と短いがお前とこいつらをやるのに5分もいらない」


「やめてくれ……」


 命乞いをする貴族の男。


「そうやって懇願してきた人たちの声を聞くことなく自分の思うがままにやってきたのはお前だ。当然聞いてやることはない。来世ではいい奴に生まれてくるんだな」


「やめてくれ……」


「死ぬわけじゃないから来世もないな。お前にはお似合いだ。クソ野郎」


 この男に来世はない。なぜなら存在そのものがないのだから。細胞にまで逆行した男の末路だ。


「ミッチェルさん。大丈夫ですか?」


 村長が駆け寄ってきた。さっきまで自分たちが人質だったというのに他人の心配をしてくる。だからこそミッチェルはこの村が好きなのだ。


「村長。私は今から、家族を連れ戻します。今ならやれる気がする」


「そうですか。では会えなくなりますね」


「そこで何ですか。家族をこの村に連れてきてもいいですか?」


「そんなことですか。そんなこと聞かずとも答えは決まってますよ。ならばあの小屋では小さすぎますね。あなたが帰ってくるまでに大きくしなくてはなりません」


「ありがとうございます。この恩は一生をかけて村のために尽くします」


 一礼をしてミッチェルは家族を連れ戻すために旅立った。

 伝承ではそれから1年後に妻と次男と行方不明だった娘を連れて戻ってきた言う。

 老年には次男にマスターの座を渡し息を引き取った。2代目以降、人を素材に神器を作成することができなくたった。

 神器となったヘンリーはミッチェル達が亡くなった後も残り続け、村長と村人たちの間で守られてきた。そしていつしか神器の名前は『万端乖離 アダマス・プルト』と呼ばれるようになる。ダイヤモンドのように輝く様と死神の如く死に導く力ゆえに呼ばれた。


 ◇


「これが我が国に伝わる伝承。秘密にしてないとは言え可能なら無闇な口外は控えていただきたい」


「もちろん言うつもりはない。ヴェストフォルはこの場にいた者全員口外しない」


「では、これで今日は終わりにしましょう。また明日同時刻にて会談を行い、最終的な判断をお互い下しましょうぞ」


「わかりました。では本日はこれにて」


 両王様が握手を交わし今日の会談を終えた。

 人間にはそれぞれ歴史がある。俺も双竜としての歴史やそれ以前もある。生きているうちに悲しいことは多い。レオンを失ったこと、家族と別れたこと。

 ただマスター・スミスの人生はあまりにも苦しいものだと感じた。それでも最後は幸せを掴み取った。彼の人生が無ければ今も人を素材にして神器を作っていたのだろうか。考えるだけで虫唾が走る。

 次の日、会談の最終日。こちらとしての意見は決まっている。国交を結ぶことを決め、両国は正式に同盟国になった。

 国交を結んで終わりじゃない。これから同盟国としてやるべきことや輸出入する物などやるべきことは沢山ある。

 それを全て終えるのに2日かかり、なんとカルミネ王からある提案をした。


「せっかく同盟国になったのだから親善試合をして見ないか?」


「良いですね。お互いの兵の強さを認識する良いきっかけとなりましょう」


 ということで突如始まった親善試合。こちらからは俺とアナスタシアの2人。

 向こうはセコンドのヴァレリモ・バーニ。ドディチェーズィモ(12番目)のジョット・フィオーレの2人。


「てか何でプリーモは出てこないんだ?」


「噂では十二騎最弱らしいですね。ということは最強はセカンドのヴァレリモ・バーニということになりますね。タクト準備はできてますか?」


「いつでもいけます。見ててください。というか、アイリさんは出なくてよかったんですか?」


「向こうは最高戦力を投入したのですからこちらもあなたを出さねばいけません。そして十二騎の最終番はアナスタシア様で十分です。それに今回陛下を護衛している私が消耗するわけにはいきません。いかなる時も万全の状態こそが護衛の任を任せられた者の務めです」


 ものすごい早口だった。余程出たかったのか。帰ったら思う存分2人で試合でもしよう。

 観客が沢山いる。カルミネ王は元々これを開催する気だったな。異国の戦士ってワードに惹かれる国民も多いのだろう。


「感謝する。双竜」


「何がですか?」


「ここまで名前が轟くほどの戦士と戦えることにだ。私はこの国では強いが実際世界に目を向けた時どれほどの実力なのか気になっていた。今がその時。勝っても敗けてもこの戦いを糧にするつもりだ」


「そうなんだ。井の中の蛙は何とやら。見せてやるよ。世界の実力」


 両者構えた。そして審判の合図と同時に最速の抜刀術『六連星』を決める。そして突き技の二ノ型を放つ。ヴァレリモはこれを防いできた。

 これだけで大体の力量がわかる。彼の目は速さに慣れている。

 息を呑むほどの剣戟が繰り広げられる。両者とも譲る気はない。


「やっぱり、剣の腕は同格。なら差がつくのは使い魔と神器のみ。神器限定解放」


「双竜の神器を体感出来るとは。ではこちらもやらねば無礼というもの。神器限定解放」


 ベルヴェルクから放たれた一撃を彼の神器で防がれた。本気ではなかったとはいえあんなに簡単にやられるとは……。


「我が神器『雷轟招致 フェレトリウス』は放つための魔力を一箇所に留め、その後魔力を分散することができる」


「なるほどね」


 これが限定解放。本命は名前からして雷に関することだろうが、油断は出来ない。

 魔力を絡めた剣戟は止まらなかった。両者無傷で試合時間は10分を過ぎたが、見事な試合に騒がしかった観客はいつも間にか静まっており、剣と剣が打ちつけ合う音が響く。

 しかし、試合の決着は突然訪れる。不意をついたオロチの攻撃で体勢を崩したヴァレリモ。慌てて神器フェレトリアスを解放する。

 競技場に雷雲が集まり、剣が避雷針のように稲妻が一局に集まった。そこから放たれた突き技は何者にも拒まれない必殺の一撃のようだった。当たれば致命傷になるだろう。


「当たればあんたの勝ちだった」


 宙を舞い、一撃をかわす。


「あいにく、俺は火と雷だけの使い手じゃない」


 背後に周った俺を瞬時に切り返して攻撃してくる。神器を纏っていた稲妻は突如として泡のように消え去った。


「魔眼……か」


「魔眼ニーズヘッグ。俺に向けられたあらゆる魔力的攻撃を無効化する。悪いけど何も宿ってない神器なんてただの鉄剣と変わらないよ」


「それでも負けるわけにはいかないのだ!」


 最後の攻撃をしてくるヴァレリモ。そんなお粗末な剣じゃ俺には届かない。


「オロチ5本だ」


 オロチの首を模した水の攻撃でヴァレリモを下した。


「テイマーなんだから使い魔を使ってこそでしょ」


 親善試合の最初はヴェストフォル陣営の勝ちで終わった。



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