5-1.『未開拓領域』
新章です
あれから1年以上が経った。弟子アナスタシアの成長はとどまることを知らない。六連一刀流の資格を取り、騎士として1人で任務をこなしている。
一番の変化はアナスタシアが王族から抜けたことだ。第4王女で元々王族としての仕事は殆どしていないため支障は出なかったが父である王様はそれはそれは悲しみ、しばらく引きこもりになったこともあった。その間の仕事は第1王子のアルベルト様によって運営されていた。この事がきっかけでアルベルト様の優秀さが知れ渡り次代も安泰だ。
ただそれでも王様は寂しいためにアナスタシアにはヴェストフォル姓を名乗ることを強制して、名前は以前と変わらずアナスタシア・ヴェストフォルだ。本来王族から抜ける場合、姓を改めるがこれは王様の勝手によって決まった。
そんなアナスタシアの成長ぶりだが弟子であることは変わりない。いつも通りに過ごしている。
◇
俺、アイリさん、アナスタシア、近衞騎士団長ヘンドリックの4人は王様に招集命令を受けた。
「よく夜分に集まってくれたな。早速本題に入ろう。皆は未開拓領域のことは知っているな?」
「はい、4大陸とは別の大陸で、かつてはこことは文化文明の発展が著しく遅く、蔑称を込めて付けられた名称です。未開拓領域、通称レギオン大陸です」
「ご苦労騎士団長。当然今はその大陸にも文明を持った国は沢山ある。そして沢山ある国の1つがこちらに接触を計ってきた。そしてこれが今日の昼ごろに届いた親書だ」
「突然すぎませんか。偽の可能性は?」
「確かにその可能性もあるがもし本物だとすると無下にもできない。向こうの要求は国交を結びたいとのことだ。こちらとしてもレギオン大陸の国と国交を結ぶことで得られる物はある。そこでこちらから出す親書を双竜に届けてもらう」
「自分ですか? こういうのは使節団を使うのがいいのではないですか?」
「本来はな。狙いは国最強のお前を派遣することでこちらの本気度を示す。お前の名は向こうにも届いているはずだ。それに双竜ならば使節団よりも速く着くことができる」
「わかりました。ではいつ頃出発しますか?」
「こちらの親書はもう書き終えている。明朝に出発してくれ。そして今回は魔法師団の随行とする。ただし三厳はここに置いて行く。騎士団長、留守を頼むぞ」
「お任せください。必ずや国の平穏を守ります」
「うむ。そしてアナスタシアよ。今回はお前もついて来なさい。国外は何回も行ったかもしれんがレギオン大陸はそう滅多に行ける国ではない。経験することで見聞を広げこの国の発展に繋げなさい」
「承知致しました、陛下」
「よし、では双竜頼んだぞ」
「はい!」
レギオン大陸へは行ったことがない。親書と共に送られてきた地図を頼りに行くわけだが、広大な海の向こう側にあるが故にナルカミの速さを持ってしても時間は多少かかる。
今回向かうファルチェ王国は内陸国だ。レギオン大陸に着いてもさらに進まなければならない。ここまで3日。今回は国外派遣のために身だしなみなどを気をつけなければならないためいつもよりも宿泊数を増やしている。余計に着くまでの日数がかかる。
そして5日かけて着いたファルチェ王国の王都。朝に着いてすぐに宿屋で風呂に入り昼頃に王城に向かった。そして門番に事情を説明すると中に入れてくれた。部屋に案内され、そこにはコーヒー片手に本を読む髭が似合う男が座っていた。
「ようこそ、双竜。ファルチェ王国へ。吾輩はレオポルド・ルカ・グエルリーノ。貴殿を歓迎する。親書を送り1週間足らずで着いてしまうとは。いやはや貴殿は噂通りのお人だ」
「そう思っていただけるのなら光栄です、レオポルド殿。早速ですが、これが我らが国王陛下からの親書です。我々は可能なら貴国と国交を結びたいと思っている。結ぶことで新たな文化が入り発展に繋がるからだ。もちろん他のこともありますが」
「それはこちらとて同じだ。四大陸でも有数の列強国であるヴェストフォル王国と結ぶことで文化的にも軍事力的にも影響を与える」
そう言いながら親書を広げるレオポルド。何度も頷きながら黙読している。
「グラム王はもう出発されているのかね?」
「はい。2日前に出発していると聞いています。ただ私ほど早くは着くことはないのでもうしばらくかかることはご容赦していただきたい」
「はっはっはっ。双竜と比べられるわけがない。貴殿の最速について行くことが出来るのはマスター・テイマーとマスターソーサラーくらいだ。海を越えるのは苦労するだろう。しかも今回は我々の我が儘でこちらで開催することになっている。文句は言うまい」
レオポルドと話を終え、宿にて王様一行を待つことになった。
そして遂に王様一向が王都に到着した。城までの一本道には人が溢れかえった。見たことない国旗と人種に釘付けだった。
「ようこそ、グラム王。お待ちしておりました。案内致します。こちらへ」
レオポルドが出迎えてくれた。案内された場所は所謂会議室。既にファルチェ陣は着席していた。
「ようこそグラム王と配下の諸君。朕がファルチェ王国国王カルミネ・ジルベルト・ファルチェ。そして一部ではあるが朕を護衛する天兵十二騎の1番〜5番と宰相のレオポルドだ」
天兵十二騎。こちらでいうところの近衛騎士団のことだろう。12騎と絞っているのはおそらく最強の12人なんだろうか。
「天兵十二騎のプリーモ。シルヴァーノ・ジェラルドと申します。十二騎を代表して挨拶を申し上げる」
「では早速だが会談を始めようではないか」
カルミネ王とグラム王の会談が始まる。まずはお互いの国を知るところから始まった。国の特産物、武器の量産体制などあらゆる分野の話をした。
ある程度話し終えたところで一度休憩を挟んだ。
「アイリ。お前たちなら今回はどう見る」
「私は同盟を結ぶ価値があるかと。まず天兵十二騎ですが彼らの実力は我々に並ぶと思われます。今後レギオン大陸とのいざこざがあったとしても天兵十二騎が睨みを効かせるでしょう。この大陸では我々が不利な状況であっても彼らの力は役に立ちます。
次に産業面ですがコーヒーは中々に美味です。豆の品質が良いのでしょう。我が国ではコーヒーは輸入に頼っています。どうせなら珍しく美味な方が買手は喜びましょう。他にも色々とありますが私からは以上です」
「アナスタシアはどうだ」
「私も同意見です。しかしやはりまだまだ先進国には程遠いと思います。ファルチェ王国でなくともこの大陸には大きな国はあります。そちらにコンタクトを取ることも1つかと」
「確かに先進国ではない。だが、私はそこよりも驚きがあったぞ。気づいたか?」
「陛下、まさかですが彼らの後ろにあった神器ですか?」
「うむ、双竜とアナスタシアは気づいたか?」
「神器であることは分かりましたがどのような物かは分かりません」
「私も同じく」
「間違いが無ければ『万端乖離 アダマス・プルト』だろうな」
「とは何でしょうか?」
「アレは初代マスター・スミスが作った最高傑作で大鎌状の神器だ。真の性能は秘匿とされているがこの世にある神器でも3本の指に入るほどとされている」
「何故そんな物がここに? そう言えば国旗にも大鎌が反映されてました」
「分からん。弱気かもしれんがアレを敵に回したくはないな」
初代マスター・スミスが作った神器。なぜここにそんなものがあるのか気になる。
休憩後、また会談は再開された。そして今日の最後の会談のまとめに入り、王様たちが立ち上がろうとした時、俺は気になっていたことを言った。
「恐れながらカルミネ王。なぜこの国にアダマス・プルトがあるのですか?」
「タクト、それは今聞かなくとも良いではありませんか?」
「双竜、場を弁えろ。ここは正式な場なのだぞ」
焦りを見せるヴェストフォル陣営。この質問は後からでも良いのは確かだ。でもどうしても気になる。
「良い、グラム王。最強の一角である双竜ならばこの神器は気になるのも当然だ。それにこれは秘密にしているわけでもない」
穏やかな口調で話し始めるカルミネ王。俺をじっと見つめてからヴェストフォル陣営の方を見た。
「これは朕の古いご先祖がマスター・スミスと約束したのだ。金と権力と醜い欲によって生まれたこの神器を正しく使うことを」
金と権力と欲。人間が堕落していく要因。それがこの神器が作られた理由なのか。
「神々の大戦が終わり、それなりに世の中が平和になっていた頃の話。大戦の終わりと同時にマスター・スミスという者が生まれ、神器という存在がこの世に周知されていったのだ。その存在を知った権力者や欲深い人間が初代マスター・スミスに駆け寄り神器を作るようになった。言われるがまま作った神器は戦争の道具として使われた。平和になったと言うのになぜまた戦争をするのか、あの苦しみをまた味わいたいのかと初代は思った。だが戦争の道具に成り果てた神器を作るのをやめることはできなかった。家族を人質にされたのだ。ある国の勝利が目の前という時に最後の依頼を受けた。それは人と神器の合成。最高級の複数の素材とともに持ち込まれたのは自身の子どもだった。それこそ初代マスター・スミスの人生を狂わせた出来事」
人と神器の合成。それは禁忌に等しい。そんなことがあっても良いのか。良いわけがない。初代の葛藤、悔しさがここにいる皆んなに伝わった。




