4-34.『太陽神獣フェネクス=ラー』
さっそく神器の試し振りをするために王都から少し離れた所に来た。天気は晴れ、曇ってくれていた方が神器の性能を試せたがまぁいい。
「ではアナスタシア様。神器解放と言ってみてください」
「はい。神器解放」
アナスタシア様の力がどんどん湧き上がってきたのがよくわかる。近くにいるだけでとんでもなく暑い。しかもまだまだ上り続けている。おそらく太陽の昇り具合で力が昇降すると思われる。
「ではその状態で一回戦ってみましょう。いつでもかかってきてください」
「はい、お願いします!」
アナスタシア様の抜刀を剣で受けるとあまりの衝撃跳ね返された。俺よりも遅い抜刀術だが、俺より何倍も重い一撃だった。単純な力比べでは今後彼女に勝てるかわからないと思わせるほどだ。アナスタシア様はまだまだ発展途上だ。全盛期に入ればどれほどになるのか……。
「今日はここまでにしましょう」
「今日も一本すら取れませんでした……」
「最初の一撃からもう少し詰めていたらいけたかもしれませんね」
剣を握ってまだ間もないというのにこの成長速度も太陽神の加護のお陰なのか。あと何年かしたら追い抜かれそうでヒヤヒヤする。
その後、彼女と同伴しながらいくつもの任務をこなしそれなりの騎士にはなってきた。まだまだ詰めが甘いからフォローしなければ1人で任務には行かせられないがもう少ししたら1人でも十分任務を遂行できるだろう。
さて、ここまで成長したアナスタシア様だが、最後にやるべき事がある。
「アナスタシア様には星の属性であり最強の魔獣、太陽神獣フェネクス=ラーのテイムをしなければなりません。太陽の御子と呼ばれるあなたには必須級の魔獣です」
「はい。ついにこの時が来たのですね」
「ですが、現状あなた様1人で行ったとしても返り討ちか太陽の御子として認められてすんなり帰れるのかわかりません。そんなギャンブルじみた事はしたくないので今回も同伴して2人でこの一大事を突破しようと思います」
「はい。私もその方がいいです」
「すでに陛下から許可をもらい行く準備も滞りなくできています。なので早速行きましょう」
「はい!」
「場所は最東端にある巨大な火山島。今日中に着いて明日挑みましょう」
「はい、では早速行きましょう」
ナルカミに跨ってささっとアシハラノクニに向かい、明日に備える為に1日まるごと休養を取った。
次の日の朝。太陽の化身と考えるならば朝から昼に向かうのは愚策かもしれないが正午過ぎから夕方に行くと卑怯な気がするため、太陽が一番輝く朝から昼に勝負を仕掛ける。
この魔獣に挑んで負けた人は数知れず。五体満足で帰ってきた人間は稀だと言う。
火山の麓に洞窟がありただの一本道を歩く。自然にできた感じがしない暗い洞窟を歩き、先には大きな空洞があった。
「にしても暑い。ラウラの魔法がなかったら俺は干からびてもおかしくないな。アナスタシア様は平気ですか?」
「はい。私は何ともありません」
さすが太陽神の加護だ。
「さて、何もないこの空洞の最奥に如何にもな祭壇と真っ赤に輝く水晶。近くに行ってみましょう」
祭壇はかなり古そうな所以外何の変哲もない。彼女は水晶に手を触れようとした。
「ここまで本当に遅い。遅すぎて待ちくたびれたぞ。アナスタシアよ」
水晶が真っ白に光り輝き、巨大な鳳凰が舞い降りた。その瞬間洞窟の中の温度と魔力密度が数倍に膨れ上がった。
「ラウラ……、もっと魔法の効力を上げてくれ。耐えきれそうにない……」
効力を上げたことで魔力の消費が止まらない。こんな所で倒れたら俺は死ぬだろう。
「アルクトス、風神ボレアスに接続開始」
無限の魔力で魔力消費を緩和しなければ倒れそうだなんて、とんでもない魔獣だ。
「ふん、そんなことまでしなければ耐えられないとは軟弱なことだ」
「仕方ないだろ。太陽神の加護どころか緩和の加護すらないんだから」
馬鹿にしやがって……。
「あなたが夢に出てきた声の主ですか?」
「そうだ。我が主神である天照大神の命によりそなたの使い魔となろう」
どうやら穏便に済みそうだ。というか太陽神ソールではなくこっちでも天照大神なのか。
「フェネクス=ラーに問いたいことがあります」
「フェネクスでいい」
「あっ、はい。フェネクスは何故私を太陽の御子にしたのか分かりますか?」
「天照大神は自身が認めた子にマスター・テイマーになってもらうという一種野望がある」
「野望ですか……? 夢ではなくて」
「神の考えることは我々には分からんのだ。ただ我が主神は少々人間らしい一面をお持ちだ」
「そうですか……」
「うむ。では、テイムするがいい。そなたの剣となり必ずやアナスタシアをマスター・テイマーにして見せよう。それが我が主神天照大神の願いだ」
「わかりました。ですがマスターになるのは師匠です」
アナスタシア様は無事フェネクス=ラーをテイムした。何事もなく帰れそうだ。
「……」
「アナスタシア様、それでは帰りましょうか」
「…………」
「アナスタシア様……?」
「ふむ。中々に馴染む。さすがあの方の加護だ」
俺は彼女からすぐに離れて抜刀の構えをした。
「お前、フェネクス=ラー……か?」
「いかにも太陽神獣フェネクス=ラーだ」
彼女の見た目と声だが、口調や佇まい、放たれる魔力が彼女のものではない。
「何のつもりだ。お前と争うつもりはないんだが」
「お前に無くともこちらにはある。アナスタシアがお前を師と仰ぐ以上、その実力は私よりも上でなくてはならない」
「そのために腕試しをしようって言うのか。ならわざわざ身体を乗っ取らなくてもいいだろうに」
「この子は優しすぎるがゆえ師であるお前とは本気で戦えぬだろう。よって私が変わって戦う。無駄話はこれまでだ。ゆくぞ、双竜と呼ばれる人間。本気で来なければ塵と化すぞ」
「なら、本気で行かせてもらうよ」
一ノ型『六連星(抜刀術)』を瞬時に決めた。決定打からはほど遠いがこのまま押し切る!
技を何度も繰り出しフェネクス=ラーは何もできない。徐々に削り終わらせてやる。
「神器解放」
フェネクス=ラーが初めて動いた。ただでさえとんでもない魔力を持っているのにさらに膨れ上がり、神器ベルヴェルクを腕一本で掴まれた。
「神器限定開放!」
ベルヴェルクの内にある魔力を放ちフェネクス=ラーの腕からは解放された。
一瞬の油断さえ許されない緊迫した状況だというのにフェネクス=ラーはどこか余裕ぶっている。
この緊迫感はアルクトスを彷彿とさせる。いや、アルクトス以上か。最強の魔獣は伊達ではない。
魔獣故に人間がごく自然的に扱える身体を理解してないため隙はある。目の前に立つ姿もただの人だったら数秒で切り捨てることができる。けれどそれを覆すだけの魔力量と威圧感がとんでもない。
「何を考えている。来なければこっちから行くぞ!」
炎によるブーストで一気に間合いを詰めてきた。剣で受けるべきか。そもそも受け切れるのか。
「……ナルカミ!」
今は距離を取る。
「皆んな、作戦変更。今は慎重に行こう。神器を解放されてなかったらゴリ押せたけど、どうやらそうもいかない。カグツチ、あの炎を相殺できるか?」
「流石に無理だ。当方だけでなくほぼ炎を扱う魔獣はフェネクス=ラーの劣化に過ぎない」
やはり、そうか。威力、魔力量。炎の純度が違いすぎる。
「ただ……アルクトスの風、サンフレイムの火力上昇を駆使すれば近づくことはできる」
「それさえ聞ければ良い。ラウラは俺の回復に専念してくれ。オロチは待機。ここじゃ水なんて蒸発しそうだし。ガシャドクロも待機。戦いに身を投じてるとは言え彼女も王族だ。変に傷はつけたくない。ナルカミはいつも通りで。フェネクス=ラーに一瞬でも何かしらで揺らいで隙ができたところを狙う」
「話し合いは済んだか?」
「まぁね。不安要素は沢山あるけど、勝てない相手じゃない。俺の持てる物は全力で使う。そしてお前に負けを認めさせる」
「なるほどな。大した自信だ。いや、自信がないから慎重に事態を進ませて隙を狙うつもりか?」
図星だ。そうでもしなければ勝てない。アルクトスの時とは違う。ただのがむしゃらでは到底及ばない。
「ならば、お前の自信を失くすことを言ってやろう」
「何だよ……」
「ここ近年で私に挑んだ相手だが、その中には現マスター・テイマーもいる。そして私はテイムされていない。その意味わかるな?」
「マスター・テイマーでもお前には勝てなかった」
「そうだ。マスター・テイマーに劣るお前が私に勝てると思うか?」
現実はそうかもしれない。だけどーー
「そんなもんは関係ない。ならお前に勝ってマスター・テイマーよりも強いってことを証明してやる。負けた時に言い訳は言うなよフェネクス=ラー」
「誰に向かって言っている。私は太陽神の御使いフェネクス=ラー。人間には負けはしない」




