4-31.『騎士への一歩』
六連一刀流の型の名前を一部変更しました。
マスター・テイマーの使い魔は五神竜ではなく四神竜です。訂正します
翌日、彼女の部屋には何着かの服が用意された。今日から騎士としての訓練が行われる。あんなドレスでは到底剣など振れない。なので動きやすく丈夫な服が支給された。
クローゼットを開けようとすると力を込め過ぎたのか扉が壊れてしまった。
「……これは報告しなきゃダメですね」
そう言いつつ服に着替えて、双竜が来るまで椅子に座ろうと引くとこれもまた派手に壊れた。いつも通りにやっているのにどうも力を込めてしまっている。
するとノックの音が聞こえて来て慌てて机の下に隠した。
「先ほどから何か壊れる音が聞こえて来ますがお怪我はありませんか?」
双竜だ。隣だから流石に聞こえていた。
「えぇ、大丈夫。訓練に参りましょう」
扉を少しだけ開け隙間から彼女は出てきた。
◇
場所を移して訓練場にやってきた。普段は他の騎士や魔法師たちでごった返しているが完全貸切状態にしたので広い空間に2人しかいない。
「ではこれから騎士になるための訓練をします。1日の殆どをこれに使うためこれからはあまり読書はできませんがこれも騎士になるため。頑張りましょう」
「双竜が教育係なの?」
「教育係というよりは指南役ですかね。言葉が違うだけかもしれませんが」
「ではこれからは師匠ですね。お願いします」
「まぁ呼び方はお任せします。では早速剣の種類からやります」
俺は物を収納出来る使い魔キャリアポートから数種類の剣を取り出した。
「右から順にいきます。これはその辺で売ってるただの直剣ですね。順に短剣、ロングソード、儀礼剣、神器です。他にもカットラスなどの変わった剣がありますがそういうのは省いて大まかに分けると5種類です。直剣、短剣、ロングソードは市販されていますが儀礼剣は別です。陛下の前にのみ帯びる剣で、戦闘では使いません。正確には使い物になりません。そして直剣や儀礼剣より遥かに格が高いのがこの神器です。剣の神器を持つ者は陛下の前では儀礼剣よりもこちらを優先して帯剣します。ちなみに私のは西の大陸に自生していた紅葉の木を使った物です」
「ではこれは木剣なのですか?」
「そうなりますが、金属よりも斬れますし神器なんで壊れることもないので、もし打ち合えば確実にこっちが勝ちます。……あっ、ちなみに知っての通り私は剣か弓くらいしかまともに扱えないのでアナスタシア様には剣を学んでいただきます。早速ですが試しに剣でも振ってみましょう」
直剣を渡し持ち方を教えた。まずは簡単な振り下げの動作。
アナスタシア様は剣を持ち上げ、一度大きく息を吸い、そして勢いのまま剣を振り下げた。
瞬間、無意識だろうが魔力が篭り、髪の毛を靡かせる程度だが波動となって放出された。
「まぁ初めてにしては悪くはないですね。ではこれから学ぶのは東の大陸でも人気が高い剣術である“六連一刀流”の基礎をお教えします」
剣というの野球と同じで素振りしてこそ意味がある。
何度も同じことを繰り返して身体に型を覚えさせる。
「何度もやるうちにコツを掴むと思います。そして次第に身体がその型を放つための最小かつ最高の動きができるようになります。なので剣を振って振りまくる。それが上達への近道です」
基本となる一ノ型『六連星』。六連一刀流は居合である一ノ型から次の型を放つ2連撃剣術。なのでこれを完璧にしなければ始まらないのだ。
早朝から教え始め昼頃、休憩に入ろうと声をかけるとあと10回やるとアナスタシア様が言う。そしてその10回を終えると剣が粉々に砕け散ったのだ。
「師匠、すみません。私が下手なばっかりに壊してしまいました」
「ただの居合で砕け散るはずないんですがまぁこれは粗悪品かもしれませんし気にすることありません。では休憩していてください。剣を買ってきますから」
「では私もーー」
「休憩は何のために休憩するのかを考えてください。酷使した身体を休めないと次の日に支障が出ます。楽な体勢であることも重要ですよ」
「わかりました……」
「では30分ほど待っていてください」
そう言って俺はナルカミに跨り全速力でマスター・スミスが営む武具店に走った。
そしてマスター・スミスである朝比奈凛に事の経緯を話し良い剣を買った。
「まぁしかし噂で聞いていた引きこもりの第4王女が騎士にねぇ。とんでもない縁があったもんだな」
「でも彼女はいずれ大物になりますよ」
「そうかい。なら王女様が大物になった時まで私はマスターでいないとな」
「凛さんはすごい人だから大丈夫だと思いますよ」
「そうでもないさ。マスターである以上いつかは抜かれる。むしろ今のマスター・ソーサラーとテイマーは化け物だよ。全ソーサラーが彼に追いつくのに少なくとも50年はかかると言われている大賢者。20年以上保持し続けている四神竜の使い手のマスター・テイマー。そんな奴らと型を並べるのは何かと重いよ」
「そうかもですね。正直俺はマスター・テイマーに勝つ想像ができない。噂しか聞いたことないですけど聞けば聞くほど差がありすぎて嫌になります」
「私もマスターになる前はそんな感じさ。でも諦めない奴が勝つ。私がそうだったから多分そうだと思う」
「俺も諦めてませんよ。時間過ぎそうなんで戻ります。剣、ありがとうございます」
「はいよ。これからもご贔屓に」
ひと話を終えてからアナスタシア様の所に戻った。
「さて、それではまた再開します」
そう言い、買ってきた剣を渡し一ノ型『六連星』の鍛錬を行った。
が、夜になる頃には買ってきた新品の剣がまたもや砕け散ったのだ。流石に頭を抱えざるを得ない。ただの抜刀で剣が砕けることはまずない。
「今日はこれくらいにしましょう」
「すみません、また壊してしまって……」
「これくらい訳ないですよ。剣のことは追々考えますので今日はゆっくりなさってください」
アナスタシア様を風呂場まで送り、出口で待つ間考えた。まず剣が砕け散る要因は抜刀の際に何かしら負担をかけているか、太陽神の加護が剣になだれ込んで耐えきれずに壊れてしまうか。おそらく後者なんだろうけどそれを防ぐ方法は剣に火属性耐性がエンチャントされた剣くらいだ。明日の朝、また凛さんの所に行き買ってくるしかない。
翌朝アナスタシア様が起きる前に凛さんの工房に行ったがものすごく嫌な顔をされた。
「金を払って剣を買ってられるのはありがたいがな、昨日の今日だぞ? 材料だって無限じゃないし、私だってそう簡単に壊れる剣を作った覚えはない。鍛治師にも矜持はある。その思いのこもった剣をすぐに壊すな。私の所の剣だけじゃなく、他の所であってもな」
「はい、大事に使います。アナスタシア様にもよく言っておきます」
「お、おう、そんなに深く頭を下げなくてもいい。理解してくれればいいんだ。ほら、火属性耐性の剣だ」
通常の剣よりも値が張るが最初からこうしていればよかったんだ。
急いで戻り、アナスタシア様の修行のため今日も剣術を指南する。
火属性耐性の剣を渡して3日、遂にこれも砕け散った。頭を抱える俺と、また壊してしまった罪悪感で気が沈むアナスタシア様。もうどうすればいいかわからない。
今度は彼女を連れ、恐る恐る凛さんの工房に赴く。
「はぁぁぁ!? また壊したのか!?」
「はい、面目ない」
「申し訳ございません」
ため息を吐きながら椅子にドシッと座る凛さん。これはもう呆れているのだろう。
「……もうアレしかないか」
「アレ?」
「神器だ。それなら壊れることはないが、王女様は特殊だからその辺の神器というわけにはいかない。太陽神の加護があるなら当然太陽神ソールに縁がある材料でなければならない」
「でも逸話では太陽神は身を隠してるから地上に縁なんてあるわけないですよ」
「逸話ではな。太陽神が王女様を認めたということはそれに合う武器、使い魔はこの世に存在するはずだ。でなければ加護を与え、その辺の神器を手にしたところで最強にはなれない」
「確かに。アナスタシア様、何か心当たりはありませんか?」
「私は……」
「まだ剣をとってすぐだ。そう深く悩む必要はない。とりあえず今はこれでも使って、追々解決すれば良い」
手にしたのは剣にしては刃が細い。レイピア以上直剣未満という言葉が一番似合う。
「これは熾盛炎天シラヌイ。炎の神鳥と呼ばれた魔獣を素材に作られたものだ」
「いくらですか?」
凛さんは俺の言葉に首を横に振った。
「これは売り物じゃない。私がマスター・スミスに成り立ての頃老婆が持ってきたものだ。かつてその老婆が使っていたのか、親族が使っていたのかはわからないがこういうのが私の所にはいくつかある」
アナスタシア様は神器を受け取った。ゆっくりと剣を抜く。細い刀身と華奢な彼女とがぴったりで良く似合う。
「これからお前の役目は太陽神に縁のある素材を探し出すこと。見つけたらすぐに作ってやる」
「わかりました。絶対に見つけます」
こうして俺の目的にアナスタシア様の育成に加え、神器の素材集めが追加された。星の属性最強と名高い太陽神獣フェネクス=ラーを有する太陽神ソールの素材は、果たしていつ見つかるのか。
『熾盛炎天シラヌイ』
→限定解放:炎を纏う事が出来る。
→解放時:剣を地面に突き刺すことで一定範囲内に火柱を立たせ攻撃する。




