4-29.『王女、門を開く』
しばらくすると2人が奥から出てきた。
「こんな感じですがどうでしょう?」
華美なドレスから一転、かなり庶民的になった。頭にスカーフを巻いて普通の娘みたいだ。
「ローブでお顔を隠していたので今回もスカーフを巻いてある程度分かりにくいと思います。でも可愛いので地味過ぎず庶民より少しワンランク上の服装にしてみました。どうです?」
「うん、いいんじゃない。あと似たようなものを何着かあるかな?」
「もちろん。試しで着た物があるのでそちらも購入しますか?」
「よろしく頼む」
何着か服を買い、ドレスは流石に手に持てないのでキャリアポートに収納した。割と安めで買えたのでいい物を買えた。アナスタシア様も普段からドレスで堅苦しい生活をしていたためかこの服を着てからご機嫌だし、立ち寄って良かった。
メイン通りから少し外れて商店街に立ち寄った。大通りから大通りに近道するために作られた道で天窓があるため雨に濡れる心配はなく、日光もある程度抑えてくれる。中には古本屋や八百屋が立ち並び飽きる事がない。上には住む場所もある。
「すごい……」
「王族や貴族は通らないからあまり知らないですかね。ここは大稼ぎした一般人がさらに稼ごうとした結果大通りへの近道をこのように豪華にした通りです。八百屋、古本屋、ブティックやその他専門店が立ち並びます。パサージュはここだけではなく、他にも多数あるので飽きる事はありません」
「双竜、ここ入りたいです」
「では入りましょう」
入ったのは装飾屋。目を輝かせながらあちこち見ている。
「華奢だが元気そうでいい子そうだね」
店主が話してきた。手を見るとすごく傷ついており、ただの老人ではなくこの装飾を作る職人なんだろう。
「双竜の知り合いかい?」
「まぁ、そんな所です」
「そうかい」
そう言うと店主はアナスタシア様に近づいた。
「お嬢さん。ほしい物を見つけたかい?」
突然の声をかけられたからなのかビクッとしてしまい、黙り込んだ。それを察した店主は膝を折りアナスタシア様と目線を合わせて手を取り何か渡した。
「これは私がついさっき作った物だ。自分で付けてごらん」
ニコッと笑う店主に少し安心したのかアナスタシア様はコクリと頷き胸に渡された物を付けた。
「君はどれにするか悩んでいたけどやはりこれが似合う。作った甲斐があったよ。太陽を模した物だ。君の笑顔は必ずみんなを照らす太陽になる」
その光景に何もせず見ていたが、不思議そうに見るアナスタシア様も何がなんだか分からずただ店主の顔を見ている。
「すみません。いくらしますか?」
「お代はいらない。この子はきっと大物になる。そんな予感がする。これは神が今日この日のために作らせたのかもしれない。これでも感は鋭いんだ」
「ではお言葉に甘えていただきます」
「あぁ、また来てくれ。いつでもここには最高の品を置いている」
「はい」
アナスタシア様を連れてパサージュを抜け大通りに出た。時間を見るとそろそろ昼食時だ。
「少し遠いですが行きつけの店があるんです。昼食にそこに行きますか?」
「外で昼食……」
アナスタシア様の心配はたった1つ。今頃国王陛下、王子、王女たちで昼食を食べていることだ。そこに自分がいないから何かしら事が起こっているかもしれないと考えているのだろう。実際はその心配はいらない。俺の顔は嫌でも目立つ。今まで入ったのは2つの店ですぐに名前を呼ばれたのが証拠だ。それにメイン通りやパサージュにいても騎士や魔法士が駆けつけてくることがない。つまり国王陛下はこの独断を許している。俺にアナスタシア様を一任しているのなら外で食べようが何であろうが勝手できる。
「国王陛下が隊を派遣してない事からおそらく今日この日自由にしても大丈夫かと。ですが夕食までには帰りましょうか」
その言葉を聞いて少し元気が戻った。
家の近くにある飯屋に来てスープとリゾットを2つ頼んだ。ここは頼むとすぐに来る。空かせた腹にリゾットとスープを頬張る。美味い。大衆の味だ。洗練された料理よりもこっちの方が舌に合う。
アナスタシア様はスプーン1本しかないテーブルとすぐに出てくる食べ物をじっと見つめている。宮廷では基本コース形式でご飯が出てくる。ナイフとフォークも並んで順番に出てくるが2品同時に出てくるこのスタイルは馴染まないのかもしれない。
「いつも通り普通に食べてください。スプーン1本しかないですがスープとリゾット何で大丈夫です。味は合うかわかりませんが」
スプーンを手に取りスープを一口入れた。美味しかったのか二口目も頬張り、お互いあっという間に完食した。
その後店を出てから色んな店を周り、アナスタシア様も色んな人と出会った。ただ誰もが今目の前にいる人が第4王女アナスタシア様と分からず、双竜が連れてきたご令嬢と認識していた。これはこれで良いのか悪いのかは分からないが少なくとも本人は満足そうだ。夕方には店の人に色々と自分から話そうとしていた。
夕食の前には部屋に戻るとそこには教育係が待っていた。
「言いたいこと、わかりますね」
「そうですね。ただこちらも言いたい事がある」
「何ですか?」
「これはアナスタシア様が望んだことです。実際、陛下も捜索隊を派遣していない。陛下は今回のことあまり深くは考えてないんじゃないですか?」
「確かに、双竜が側にいるなら問題はないとしましたが、私は別です。姫の教育係を任された以上そこには責任があります。私が周知していないところで勝手な行動は慎むべきです」
「そうやって今までお堅い教育をしてきたんじゃないですか?」
「何ですって……」
「あなたの教育は間違ってはないが余りにも世の中を知らないアナスタシア様を見て驚きました。前王も街に出ては庶民茶を嗜むくらいはしてましたよ」
「前王は前王です。今の姫とは関係ありません。姫は人前に出る事が苦手です。だからこうやって室内でできる事を最大限やり、王族として恥ずかしくない利口な--」
「そこに社交性は含まれてない」
言葉を遮った。教育係のやってることは間違ってはない。それは確かだ。今までよくやってきたと思う。だがそこには彼女のやりたいことがない。決まったスケジュールをただこなすだけの日々に楽しい人生はない。
「夕方になる頃にはアナスタシア様はまだ辿々しいけど自分から話そうとしていました。ちゃんとやれば彼女は立派な王族になる。絶対に」
教育係は何も言わずその場を出て行ってしまった。
「アナスタシア様。着替えて夕食に向かいましょうか」
「そうですね……」
今の口喧嘩を見ているからか少し元気がない。話の中心にいるのは自分なんだから仕方ない。
王族が一同に介する夕食も終わり、陛下に続き部屋から出てきた。アナスタシア様の後ろに第1王子のアルベルト様から声をかけられた。膝を着こうとすると、
「ちょっとした立ち話だ。膝を着く必要はない。……アナスタシアを外に連れて行ったらしいな」
「らしいというか、事実外に連れ出しました」
「そうか……。なぁ双竜。これからも外に連れ出してやってくれ。あの子は外を見る必要がある」
「わかっております。アナスタシア様は外を知らなさすぎる」
「あぁ、これからも頼む。だが、置き手紙くらいはしておけよ」
そう言って王子は背を向けて自室に戻っていった。
次の日、教育係は休みを取っていた。あの人は結構プライドが高そうだ。自負を持ってアナスタシア様の教育をしていたんだろうけど、俺との口喧嘩で少し歪みができてしまった。
「今日はあの人がいないのでまた外でも行きませんか? 絶好の散歩日和ですよ」
その言葉を待っていたのかアナスタシア様は俺を部屋の外に追い出しすぐに服を着替えた。また窓から飛び出して、今日は逆の方角に向かった。
逆の方角にはギルドが存在する。よって冒険者や装備を整えるための武具店が多く立ち並ぶ。アナスタシア様とは無縁だがこれも勉強の1つと思って歩いてもらう。
ギルド前に着いた。ふと疑問に思ったことがあったのでアナスタシア様に聞いてみた。
「アナスタシア様の職業は何なのです?」
「私は査定してもらったこと無いです」
「そうなんですね。殿下達は査定してもらってるんですか? それとも誰もやっていないとか」
「私だけです。外に出ることがなかったので。でも一度は自分がどれなのかは知りたいと思います」
「それならやってみましょう。アナスタシア様は頭がいいのでもしかするとソーサラーやメイカーかもしれませんよ」
「メイカーなら暇を弄ばずにすみそうです」
ギルドの中に入ると大歓迎された。少し前までは冒険者だったため、それなりに優遇されやすい。
「ようこそギルド・ヴェラチュールへ。本日はいかがなさいましたか?」
「この子の査定お願いしたいんだけど、できれば奥の部屋でやりたい」
「かしこまりました。準備いたしますので先に部屋でお待ちください」
奥の部屋は限られた人間だけ入ることが許される。双竜としての知名度とギルドへの貢献があるからこそ入れる部屋だ。
しばらくすると査定機の魔法具が運び込まれた。
「悪いけど俺とこの子だけにしてほしい」
「かしこまりました。終わりましたら受付までお声がけください」
さて邪魔者はいなくなった。
「指定された所に手を置いてください。後は勝手にやってくれます」
言われた通りアナスタシア様は手を置き査定が始まった。今思えば初めて査定した時はベルが色々と教えてくれたんだっけか。何というかドキドキするな。今は何をやっているんだろう。たまには連絡でも取るか。
そう考えていると査定が終わった。そしてカードに刻印された文字を見て俺は思わず声を荒げた。その声に受付の人が飛んで来たがすぐに出て行ってもらった。
「双竜、私の職は何ですか?」
「えっと、テイマーで最高のSSSランクです……」
「えっ」
…………どうすんの、これ。




