4-27.『星の属性 アルクトス②』
「風神ボレアスと接続を開始。主よ、御身の名にかけ恥のない戦いをすることを誓う」
静かなる威圧。見えるはずないの神がまるで目の前にいるのではないかと思わせるほどの神性。風神が持つ無限の魔力をその身に宿す御業に感服するほかない。
両者の戦いは序盤から熾烈を極めた。
「行け、ベルヴェルク!」
12本の短剣が魔力を帯びアルクトスに向かい一斉に掃射された。風の魔力で半分は流されたが残りは胴に突き刺さる。そして短剣からは何とも言えない違和感が流れ込んだ。しかし刺し傷が治癒されていくにつれ短剣は地面に音立てながら落ちていく。
「いくぞナルカミ! 神器限定開放!」
短剣たちはラウラの魔法で宙に浮き3つの円を成した。そして短剣には乱獲した火と雷の魔力を底上げできる使い魔のサンフレイムたちが宿り、回転させ、3つの円に魔力攻撃を通すことで威力を増幅させることができる。いわば魔力増幅炉。
「はあああああ!!」
あたりが真っ白になるほどの発光。そして耳が聾さんばかりの轟音。大抵の魔獣ならば消し飛ぶほどだが……
しかし、攻撃の手を止めることは許されなかった。煙立つ向こう側から風の刃が無数に飛んできた。わずか数秒反応が遅れるとカグツチへの指示が遅れ神器とラウラの魔法だけでは太刀打ち出来ず何発か喰らってしまった。
「なるほど。これは余とて多少は堪えたわ。が、この程度で終わっては話にならんな。あれを連発するくらいでなければ余を下せんぞ」
「そんな奴、世界が広くてもそういないだろ」
「そう決め付けるのは早計だ、双竜よ。お前もマスター・テイマーを目指すのであれば今のマスターを知っていなくてはならない」
「今のマスターは放浪人で、隻腕でとんでもなく強いってことは知ってる。なんせ色んなとこ旅してて素性が全くと言っていいほどないから知ろうにもな」
「お前の知識で話すな。余はこの世界の過去と現在を知るもの。故に叡智。現マスターならば今の一時で余を2度は殺せただろう」
「未来を見通せない奴がよく叡智と言えたな」
「黙れ、余はボレアス様の御使い。この世界に於いて神の代行者である。余の侮辱はボレアス様の侮辱としれ!」
風の怒号が放たれたがカグツチで風を浮かせた。そして今まで動かなかったアルクトスが動き出した。だが所詮は熊が出せる速さだ。躱してから懐に一発くらいは入れられる。
剛腕から放たれる切り裂く攻撃を躱し剣を深くねじ込む為、突き技二ノ型『閃雷』を放とうとした。しかし気がつけば視界は90°回転しており、そのまま壁まで吹き飛ばされた。肩を見ると爪で引っ掻かれた痕がある。
「何で……?」
前を見るとアルクトスがまた腕を豪快に振ってきた。寸前のところで躱しナルカミを使い距離を取る。
「助かったよ、ナルカミ。お前の速さがなかったら終わってた」
「拙は当然のことをしただけでございます。しかしどうなされますか? 流石は星の属性。無限の魔力でお構いなしに魔力で攻撃してきます」
「けど、俺たちには魔力の上限があって持久戦はできない。ここまで詰みって言葉がのしかかってくるのは正直辛いけど、今は目の前ことだけに集中しよう」
八方塞がりだ。すぐに治癒していく身体。無限の魔力。厄介すぎる。
「考えている暇はないぞ、双竜!」
考える暇すら与えてくれない。躱すことしかできない自分が憎い。悔しい。
ーー何か手はないのか。
冷静になれ。動きながら考えろ。
違う、違う、違う。あれでもない。こうでもない。結局は最初の二の舞だ。どれだけ頭で考えても反芻してしまい、答えに辿りつけない。
突然、アルクトスが攻撃の手を止めた。
「何故そこまで怯える必要があるのか」
「俺が、怯えてる?」
「然り。お前は怯えている。強気に見せておいて内心は怯えているのだ。攻撃が通じない時からずっとだ。かのマスターは言っていた。戦いの最中に考える暇があるならばその余力を全力で戦いに回せと。覇道を示すのではないのか? 例えマグレで勝てたとしても、余はお前に力は貸さん。余を付き従えるテイマーがその程度ではこの先何があっても死ぬ。その様な者に力を貸したとて意味がない」
核心をついてくる。胸が痛い。そして熱い。敵でありながら天晴れだ。俺は自然と頭を下げた。
「さっき俺が言った言葉。謝罪する。そしてありがとう。何を迷っていたのやら。何の為に実家に帰ったのか、忘れるところだった。もう迷いはない。怯える必要もない。なんせ相手は星の属性のアルクトス。相手にとって不足はない」
剣を納刀して構えた。
ーーみんな、ここからは本気だ。今までよりも速く、力強く斬る!
アルクトスからすればほんの1回瞬きをした程度のことだったろう。しかしその一瞬、コンマ何秒という果てしなく短い間に目の前から消えた。気がつけば腹を深く斬られたのだ。そう、気がついた時には遅い。目で追えないほどの速さで何度も何度も斬っていく。治癒されるので有ればそれを上回るほどにダメージを負わせる。単純な話だ。
アルクトスもただ斬られるだけのデクではない。風の魔力の咆哮を放ってくる。星海の塔の最上階を自在に動き回る。攻撃と攻撃の一瞬の間を狙い、壁を蹴り一ノ型『六連星』を放つ。焦りを見せ始めるアルクトスは爪で引っ掻くが背後に回り神器を深く差し込む。
「神器限定開放!」
神器は声に反応し魔力をアルクトスの体内で解き放たれた。治癒し続けるあの身体に風穴をぶち上げた。途端、アルクトスが今まであげたことの無い怒号を飛ばした。
「いくぞ、みんな。これが最後で正念場だ! ベルヴェルクの全魔力を開放する!」
大気中の魔力と塔が揺れる。お互いの魔力が極限まで膨張し塔が耐えきれず割れていく。
「ここで使うか、双竜。ならば来い! 余を越えぬ限りマスターの道はない!」
ベルヴェルクを高く上げ、振り下ろす。ベルヴェルクからは尋常じゃないほどの魔力が一斉に放たれた。アルクトスの抵抗も虚しく、塔の最上階ごと破壊し尽くしら瓦礫も灰と化した。魔力は一直線に少し離れた街の空を優に超え、空の青色を隠す雲の様に、時間と共に霧散した。
立ち上がるアルクトス。流石、魔獣の最高峰の1体。致命傷であっても治っていく。だが、そんなところをおめおめと待つなんてことはしてはならない。ベルヴェルクの短剣から感じた違和感の正体こそがアルクトスとの戦いに終止符を打つ。
無防備なアルクトスに12本の短剣が根本までしっかりと入り込んだ。
「神器限定開放」
「ぬっ!?」
「わかるか? いや、わかるだろ。魔力が身体に回らない感覚。この神器は俺の魔力そのものと神器本体が接続させ、それを身体から神器へと流すことができる。それを逆流させれば当然神器に貯めた魔力は俺身体へ戻ってくる」
それは手から離れていても、短剣であろうとも変わらない。つまりーー
「お前の身体に流れ込む無限の魔力を短剣が吸い、俺の身体に入ってる。これで詰みだ、アルクトス」
「……見事。流石の余も白旗を上げよう。神器を開放されては太刀打ちはできぬな」
「勘違いしてるけど、俺は別に開放してないよ。ただの限定開放だ。ベルヴェルクには毎日自分の魔力をかなり入れてるんだ。その貯蓄を全て出し切った。マスター・テイマーとの戦いまでに集め直しだ」
「その必要は無いな。これからは無限の魔力で幾らでも集められる。さぁ、早くテイムするのだ」
「これからよろしく、アルクトス」
『北辰の叡智 アルクトス 《風》《星》S級
→風神ボレアスの神使。過去、現在を知る叡智の結晶。星の属性は神と使い手の魔力を繋ぐ為の属性。世界に4体しかいない魔獣の1体』
◇
このアルクトスとの戦いは世界中に広がった。同時に双竜の名が全世界に知ることとなる。そんな吉報とは裏腹に損失は大きい。国の小隊が参加していたが全滅、その他の冒険者たちは2人を除いて全滅。神器多数喪失。
ただこれらは全て俺には関係ない話だ。ヴェストフォル王国に利益はあれど損失はない。むしろ周辺諸国のダメージと神器喪失が痛い。神器というだけで価値は高い。売れば買い手は腐るほどいるだろう。過去のマスター・スミスの遺産はもう還らぬ物となるのは世界にとって大きな打撃を与えた。
俺はあの戦いの後、すぐに王都に戻った。城門で待っていたのは沢山の民衆と騎士と魔法師。まるでパレードだ。門から城まで真っ直ぐ伸びる道をゆっくり手を振りながら。城にたどり着いた頃、体力の限界を迎えてしまいよろつく足を支えてくれたのはアイリさんだ。
「おめでとうございます。よく頑張りました」
「ありがとうございます。このまま玉座まで行きます」
「その必要はない」
城の入り口に来たのは現国王グラム・ヴェストフォル。
「よくぞやってのけた。しかし一度帰国もせず行くのは感心せん。もしこれで死んでしまったなら私は激怒したよ。だが、帰ってきたのなら別だ。今日は休むといい。明日の昼、今日のことを話してもらう」
「はい、お言葉に甘えて休ませていただきます」
これでアルクトスとの戦いは終わった。短い間だったがとても長いと錯覚するほど密な戦いだ。その後は私室で次の日の朝まで一度も起きることなく眠りについた。




