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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第4章 ヴェストフォル王国
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4-24.『帰還 三厳&環」

 2人と別れた後向かった先は祖父母の家。実家は生駒市にある。しかしお金がないため一度祖父母の家に行くしかない。

 帰ると当然祖父母は驚いた。数年姿を晦ましたのだから。すぐに実家に連絡が行き1時間半もすれば父母が大慌てでやってきた。

 ただ、三厳にとって実家に帰るのは1番嫌いなことの1つだ。父母共に大学の教授で専門は日本史。父は歴史学、母は考古学で父が剣豪好きということもあり奈良出身の武家で有名な柳生十兵衛の諱、三厳を名前にした。

 そして2人とも勉強マニアなのだ。幼い頃から英語塾を通い、小学生の時には別の塾に通わされ、さらに家では勉強漬けの毎日。休む暇などないくらい綿密に、父母の監視の下、机に向かって勉強をした。友達と公園で遊んだり、流行りのカードゲームしたりしたかった。

 そしてその限界は訪れ、家出をした。塾に行く時に使うICカードに入っていたお金を使い祖父母の家に逃げ込み、2日後あの世界に渡った。訳の分からない世界に何も持たずにまだ小さな少年が1人で降り立った。恐怖はあったが先に行かなければ何も起こらない。三厳はそこから離れてたが、武器もないため死にかけたこともあった。そんな中出会ったのがアイリ・エーヴェルト・ノート。瀕死寸前の三厳を助けて、王国で治療を施した。三厳がアイリを慕うのは命の恩人だからだ。そしてあの姿に憧れた。自身もあんな風になれたらと。しかし剣の才能はアイリほどではなかったため、彼女のようになれなかったという過去がある。

 父母は昔とは変わらない。あいも変わらず勉強一筋。まだ帰ってきてから間もないと言うのに。そこまで行けば一種の病気なのではないかとも。

 帰ってきて父母の変わらなさと別に変わったこともあった。それは妹が生まれていたことだ。家出をした時にはすでに妊娠8ヶ月。妹が生まれること自体は知っていたが、こうも対面してみると実感が湧かない。目の前にいる女の子が自分の妹なんて。


「ねぇ、さっきから何ぶつぶつ言ってるの?」


「いや、何でもないよ。ごめんね」


 妹は現在7歳で名前は巴。10歳も差がある。どうやら妹も勉強漬けらしい。本当に懲りない親だ。息子が家出した理由をわかっていながらまだそんなことしてるなんて、と思うと心底両親のことが悲しくなる。妹同じ末路を辿る可能性があるからだ。


「三厳ちゃん。勉強は? 今からでも取り戻せるわ。特例で小学校と中学は卒業してることになってるから高校受験に向けて頑張らないと周りと差が埋まらないわよ?」


 母はまだそんなこと言うのかと、ため息がでる。


「今更勉強なんていらんよ。仕事から帰ってきたら父さんにも言うけど、俺は一週間もすればここ出るから」


「そんな冗談言う暇あるなら早く机に座りなさい。いつまでソファーに寝てるのよ! ここで寝てる間に同級生たちはみんな勉強してるのよ!」


「なんで俺がここを出てったか、まだ分からんのかよ! 来る日も来る日も勉強勉強。疲れんだよ! 周りなんて知らないよ! 俺はもっと自由に生きたいんだ! ここに帰ってきたのはちゃんと別れを言ってこれ以上後腐れを残さないためであって、勉強のためじゃない!」


 昔は言えなかったことをやっと言えた。驚く母を置いて、家を飛び出した。と言ってもお金がないから遠出はできない。昔、よく塾帰りに行っていた公園のベンチに座りまたため息が出た。


「こんなんじゃ帰るんじゃなかった……」


「ねぇ、なんでどっかにいくの?」


「!?」


 気がつくと妹が目の前にいた。出て行った後ついてきたのだろう。


「巴は辛くない?」


「何が?」


「勉強とか、父さん母さんのこととか色々」


「ん〜……全然。だって勉強楽しいし、好き!」


 笑顔で言う巴は本当に凄いと思った。小一の頃の自分はすでに勉強が大嫌いだった。


「巴は天才だな。多分、父さん母さんよりもすごくなる。だから今のままでいてくれよ」


 そう言い、頭を撫でて、「帰ろっか」と手を繋ぎ一緒に帰った。

 家に帰ると母が心配していた。またどこかに行ってしまったのではないか、帰ってこないのではないかと。玄関で一度心を落ち着かせてから母と目をしっかりと合わせた。


「悪いけど俺の生き方はもう決めてるし居場所も見つけてる。母さんと父さんがなんと言うと絶対に。一週間後ここを出る。それでこの家とはもうお終い」


 面と向かって言ったのは初めてだ。あの時言えなかったから家出した。しかしもう違う。はっきり話せるくらいにはもう大人だ。向こうの世界でたくさんのことに触れ知ったのだから。


「三厳ちゃんは今までしっかり生きてきたのね。でもお父さんにもちゃんと話しなさい。そこからどうするか決めます」


 リビングに戻る母は涙を浮かべていた。色々な気持ちがあるのは察してる。でもこれが自分の行く道なんだと心に決めている。


 ◇


 能登環、葛城市出身。K大の電気工学部に在学していた。夢は世界にない新しい自動車を作ること。魔道車を作ったのはその一環だ。実際に売れたし、正直もう何もせずとも老後まで暮らせる。あくまで向こうの世界では。

 橿原市から葛城市は頑張れば歩ける距離だ。神社から徒歩で数時間、実家の一軒家に着いた筈だが別の苗字で『能登』の文字がない。隣の人も知らない苗字だ。ダメもとでその家のインターホンを鳴らしてみた。そして色々聞いてみるとどうやらすでに引っ越したらしい。場所はわからない。どうしようもないと考えていた時、自動販売機の横に50円が落ちていた。それを拾い駅近くにある公衆電話で母の携帯電話にかけてみた。


「はい、能登ですが……」


 母の声だ。間違いない。少し老けた声をしている。


「ひっ、久しぶり。覚えとる? 環やけど」


「……」


 返答がない。


「今、駅近くの公衆電話からかけてんねんけど、もし時間あるなら迎えに来てくれん? 引っ越したって聞いたから場所わからんねん」


「……」


 ガチャリと返答のないまま電話は一方的に切られた。しかし行くあてがない。来てくれるのを信じてここで待つことにした。

 日が暮れ始めた頃、仕事帰りの人が駅から出てきて各々帰っていく最中。逆の方向から老けた母が泣きながら向かってきたのに気づいた。


「環……」


「とりあえずはただいま」


 人前だと言うのにきつくハグをしてきた。本当に久しぶりに会う母に少し涙も出てきた。

 駅から車で数分。今は一軒家ではなく安めのマンションに住んでいる。知らない我が家に帰ると思わず脱力してしまった。


「嘘やろ……」


 それは父の遺影が共にある仏壇。引っ越しした理由がわかった。


「環がどこかへ行ってすぐに病気になってもうてな。結構そこからは早かったわ。仏壇の引き出し開けてみ? 父さんが残した環宛の遺言あるから」


 そこには自分がどこへ行ってしまったのか。もう会えないのが唯一の心残りだと書かれていた。

 しばらく自分の部屋に当てがわれた部屋にこもった。まさか自分がいない間にこんなことになっていたとは思いもしなかった。

 父と最後に交わした言葉はなんだったんだろうと何度も何度も思い浮かべても分からなかった。K大近くで下宿をしていたから長い間会えてなかった。こんな思いをするならばこっち戻らない方がよかったと思う。それくらい、父の死は衝撃だった。

 次の日、部屋から出てくると母がすでに朝ごはんを用意してくれた。昨日の晩ご飯の残りだが懐かしの味。ご飯に味噌汁、肉じゃが。思わずまた涙が出た。


「腹膨れたし父さんのお墓行くわ。どこのお寺さん? 爺ちゃんと同じとこ?」


「お父さんは次男やから別。お寺さんは一緒やけど。最近パート忙しくて行けてないから私も一緒に行くわ」


「じゃあ急いで支度するわ」


 身支度をして、車を走らせ父のお墓に到着する。先祖のお墓と父のお墓の両方に花を供え手を合わした。

 こんなものを見てしまい、心が揺らぐ環。1人で暮らす母を置いてまた戻ることができるのか。今の状態では到底言えない。悶々とする日々を過ごした。

 最終日、明日は皆んなと共に向こうに戻る約束をしている。だと言うのに未だ決意できないでいる。食べている時も風呂に入っている時も何かとため息が出てしまい、それに母が気づき、「こっちに来なさい」と言ってきた。


「環な、もうええ年なんやから報連相くらいは分かっとき。……何かあるんやろ?」


「いや、何もない」


「何も無かったらそんなため息つかんやろ。おらんかった間に何かあった。話してみ?」


 母なら何でも聞いてくれる気がした。冗談と笑われても良い、話せば楽になる。そして環は全てを話した。母は笑いもせず真剣に聞いてくれた。


「そうか。なら行くべきとこは1つしかないやん。環の居場所はここやない。拓人くんや三厳くんと一緒に向こうに行くことやろ。向こうには環を必要としてくれる人がいるなら行かんと後悔するで」


「母さん……」


「母さんは1人でも生きていけるから心配無用。今までそうやって生きてきたから大丈夫やで」


 ーーあぁ……なんやこんな簡単なことやったんか。


 心の中が一気に軽くなるのがわかった。

 次の日、家族の写真だけを持って出た。母は別れ際に笑っていた。環も大きく手を振り、最後の別れを告げた。段々母との距離が遠くなるに連れ涙が止まらなかった。




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