4-19.『神器 紅剣ベルヴェルク』
掘り始めて早数日。未だに1メートル程の穴だ。硬い土を掘るのには時間と労力を使う。さらに途中魔獣が襲ってくるのでそれの対処をする。食料が尽きたら一度近くの町に買い戻る。
さらに数日、やっとの思いで根に到達した。ここからは掘ることとオロチに引っこ抜くことを同時に進行だ。掘っては引っ張ってを繰り返し徐々に木の全貌が見え始めた。
そしてさらに数日が経った。少なくとも2週間はここにいる気がする。夜中、千年間の時を経て地面と癒着していた紅葉の木は俺の手によって引き抜かれた。根の長さは計り知れないほどで、オロチが久しぶりに巨大な姿に戻るくらいだ。
「ありがとう、オロチ。しばらくは休んでくれ」
「流石の我も疲れた。しばらくは呼ぶな」
ホントお疲れ。その後はキャリアポートに収納したが左腕全体に痛みが走った。これは許容範囲外の大きさを収納した副作用みたいなものだ。それほどに巨大な木だと言うことだ。
すぐにモンスターエリアを抜けその日は近くの町で一泊してから国に戻るつもりでいたが、その前にレオンのお墓に向かった。
レオンのお墓にはいつも花束が添えられてある。村を救った英雄に地元の人が来るたびに置いていくそうだ。
お墓の前で手を合わせ話しかける。
「レオン……。俺はまた追いつけたかな……?」
俺はレオンの強さに追いついただろうか。ただ強いと言うわけではない。みんなに慕われる強さ。力はただ力。それをどのように使うか。敵を殲滅するために使うのか、守りたいものを守るために使うか、それとも自身のように目標のために使うのか。レオンはどのように使ってきたのか。マスターになるために、守るために。俺もそんな風にできるだろうか。ここに立つと考えてしまう。
「じゃあな、レオン。また来るよ」
俺はそう言ってレオンのお墓を後にした。
国に戻りグラム王に報告すると、少しだけ怒られた。もっと早く帰って来い、と。2週間以上空けていたわけだからその間、双竜としての仕事が放置され山積みになっている。というのも、今回の前王の一件で少し立場が昇格したため、今までの仕事の他、書類作業も増えた。それが山積みというわけだ。
だが、まずは神器の素材を持っていきこれが俺の力と相性がいいのかどうかを確認してもらう。凛さんの家に行き、すぐに査定してもらう。
「いざ目にしてみるととんでもないものだな。……はっきり言うとこの素材とお前との相性は……」
ゴクリと唾液を飲み込んだ。
「お前との相性は最高に良い」
「ホントですか!」
「間違いない。それにこれだけの大きさと質だから他の金属と混ぜる必要もない。さらに剣と鞘の両方が作れるはずだ」
「ではお願いします」
「おうよ。明日には出来るからまた来てくれ。あと神器の名前考えておけよ」
「わかりました」
作るところを見学したかったが、どうやら神器の作成は一種の神聖な行為らしく他人には見せることはできないと言うので仕方なくその日は戻り仕事に勤しんだ。
家に帰った後、神器の名前を考えた。候補はたくさんある。だがどうせならカッコいい方が良いに決まっている。紙に書き、最終的に決めた名前に大きく丸をつけた。
『ベルヴェルク』
これが神器の名前だ。かの有名な英雄譚には続きがある。初代マスターになった後、力比べを行い各地の強者を倒していった。そしてその戦い方と姿から名付けられた。今回神器がそれに見合うほどのものかわからないがカッコ良いのでこれに決定した。
次の日、大急ぎで凛さんの所に向かった。アイリさんも是非見たいと同行することになった。
凛さんの家の扉を開けると既に真ん中にテーブルが置かれており、そこには布をかけてある。布の下には神器がある。どんな物かわからない。見る前からドキドキが止まらない。
「準備はいいな。これがお前の神器だ」
布を取り、そこに置いてあったのは紅葉のように紅い剣とそれを縮小したのような短剣。
「二本一対の剣があるけど、これはそれを上回る十三本一対の剣。1本の直剣と12本の短剣。それがこの神器の特徴。1本の幹と枝ってところだな」
直剣が幹で短剣が枝。中々洒落てる剣だ。
「限定解放は充填&放出。魔力を剣に貯蔵しそれを放出する。放つ時に魔力の属性は変更できる。それで、解放の方なんだが……」
「何かあったんですか?」
「……使えるのはたったの1度きり。千年貯め続けた大地の魔力を全て解放できるってのがこの神器の解放だ」
「1度きり……」
「珍しい神器ですね。凛、本当にそれがこの剣の効果なのですか?」
「間違うはずない。何度も確認した」
たった1度きり……。使いどころを間違えば終わりだ。しかしそれだけの力をこの剣には秘められている。
「それで、名前考えてきたか?」
「はい」
俺は剣を持った。その重量は今まで体験したことない程の重さ。机の下に下ろすことは到底無理だ。だから柄の部分を握りしめた。
「紅剣 ベルヴェルク。それがこの神器の名前だ」
その瞬間、身体の中に神器の情報が流れ込んだ。そしてこの剣の所有者が相羽拓人の物であるとしっかりと書き込まれる。その感覚が頭から足の先までしっかりと刻み込まれた。
名付けの後、剣を持ち上げるとさっきまで重さが嘘みたいに軽い。ただ軽いのではなくちょうどいい重さだ。
「これで私の仕事は終わりだ。代金の支払いについては後からお前の家に送るよ。この剣は私が打った神器の中でも5本の指に入るのは確定だ。だから少しばかり高く付くから覚悟しときな」
「いくらでも払います」
「うし。試し振りしたいなら広いところでな。多分、破壊力はお前が想像する以上だ」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は凛さんの工房を出て、すぐに試し振りができる場所に向かった。
「それではタクト、早速やってみましょう」
「はい。ふぅ……。神器限定解放……」
剣は白く光り俺の中から魔力を吸い取る。最初だから自身の魔力の半分を神器に溜めた。
「疲れますね、これ」
「毎日少しずつ溜めておけば戦闘時に一回一回貯める必要はなくなるでは?」
「それがいいかもしれません。戦う度にこれだとまともに戦えませんし。……では溜まったので行きます。神器限定解放……!」
神器から放たれた魔力の塊はレーザーのように一直線に筋を描いた。そして地面と接触し爆発が起こった。放った魔力量は溜めた分の3分の1。だというのにそれは地面をえぐり大きなクレーターができてしまった。
「……これ、実は結構やばい奴なのでは?」
「その……ようですね。これは本気で放てば災害レベルの物になるかもしれません」
2人してぽかーんとしている。この神器は俺たちの想像を遥かに超えるほどの性能と制圧能力がある。
後日、短剣の使い道を考えた。この短剣は本体とは違い魔力の貯蔵はできない。よって別の使い道を模索しなければならない。二刀流という考えもあるが使い慣れない二刀を使うのは少し不安だ。流派も六連“一刀流”というくらいだ。二刀になれば技が放ちにくくなる。それは避けねばならない。
仕事の合間に色々考えて思いついたことは剣をラウラの魔法で浮かせて短剣を一斉掃射する。後は剣に魑魅を武装させ、5→4→3本の順に輪を作らせて魔力増幅炉の役割を果たす方法。後者の場合サンフレイムを残り11体テイムしなければならない。元々の神器の破壊力があり、増幅炉なんて物をやること事態危険度が高いのだがやってみたくて仕方がない。
俺は仕事をそっちのけで夜中に王都を出てサンフレイムを探し回った。
そして11体見つけ終わったのが朝、日が昇りしばらくしてからだ。
準備は整った。短剣には12体の魑魅全てを各自に武装させ、本体の剣にはガシャドクロ、ラウラの魔法で輪を並べさせ、魔力を放出するだけだ。
「ナルカミ、カグツチ。お前たちもよろしく」
2体の竜がこのシステムの仕上げだ。
「ラウラ、短剣をぐるぐる回転させてくれ」
指示通り剣は回転し、電気がパリッと走る。後はこの輪の中に攻撃を放てば完成だ。
「さぁ、行こうか! 神器限定解放……!」
神器は煌々と輝きを放ちいつでも発射可能だ。片足を前に踏み込み突きの動きで輪に攻撃を通した。それは地面と接触した瞬間、爆発や爆風、発光など様々な事が瞬く間に起こった。さらに火の柱が天まで届く高さまで上がった。自身も踏ん張りが利かず吹き飛ばされ惨状を目にするとクレーターどころではない。本当に厄災に相応しいほどの威力である事が分かった。
王都では地が揺れ遠くから火の柱が見えたことから何かが攻めてきたと思い避難の準備が進められていた。すぐにグラム王の所に行き、事情を説明するとカンカンに怒り、事後処理(土埋め)を早急に行うことと減給、しばらくの間神器使用禁止が命じられた。そして俺は思った。あれは奥の手にしようと。
《これまで出てきた神器の紹介》
①紅剣 ベルヴェルク
素材:紅葉の木。
効果1:魔力の充填&放出
2:大地の魔力を解放
由来:オーディンの呼称の1つ
②叛逆の罪過 アトラス
素材:巨人アトラス
効果1:超パワー&石化
2:無限の魔力
由来:ギリシャ神話に出てくる巨人アトラス
③風剣 フレズベルク
素材:風の魔獣フレズベルクの羽毛
効果1:魔力的攻撃を吸収
2:吸収したものを風属性の魔法に変換し倍にして放つ
由来:北欧神話に登場する鷲
④大鏡 チャタル
素材:攻撃を反射する鉱石と千年前に作られた鏡
効果1:インプットされた人物の技を使える。上限は3人
2:相手の弱点を全てあぶり出す(持ち物、性格、癖なども含める)
由来:平安後期に成立した歴史書。チャタルの由来は不明。なぜこの名前をつけたのかすらわからない。けど響きが良いのでこのままにした




