4-15.『双竜VS夢幻』
「常に我を罰する側であれ。これからも其方らの信じた道を進め。それがお前たちへの命とする」
その言葉を聞いた瞬間、垂れていた頭をパッと上げ疑った。確実に極刑になると思っていたからだ。周りの貴族たちも慌てている。その判決に異議を唱える者もいたが陛下は聞く耳を持たず玉座を去った。
最初何を言っているのかわからなかった。無意識に環さんの方を向き、彼の顔の表情を見てやっと理解が追いついた。俺たちは許されたのだ。何かしら罰を受ける事を覚悟していたが、罪もなければ罰もない。
貴族たちやその他の人たちもゾロゾロと退出し、玉座には俺と環さん、三厳だけが残った。
「何とか助かりましたね」
「こんなん心臓に悪すぎるで」
「でもこれからも生きることができますね!」
三厳はこんな後だというのに元気がある。こいつの心臓はよっぽど頑丈なのだろうか。
「許されたことやし、一旦ここ出よ。そんで家に帰って休憩ということで」
俺たちは環さんの提案に乗り即刻帰宅。そして久しぶりのベッドに飛び込み、そのまま就寝した。
夜中、家の扉がドンドンと叩かれた。それに目を覚まし、サッと着替え扉を開けた。そこに居た人物に目を疑った。寝ぼけているのかと思ったが現実だ。目の前にいるのは陛下だ。そしてお付きの人もいる。といっても2人しか連れてない。
「中に入れてもらおうか」
「どっ、どうぞ」
陛下のみ家の中に入れ、すぐにお茶の準備をしてテーブルに出した。陛下がそれを口にした瞬間、心臓がバクバクと鼓動が早くなった。
「これはシェリルだな。前の道を真っ直ぐ行ったところにある」
この国にも紅茶は存在する。当然高級な物もある。そしてシェリルは庶民を代表する紅茶の名前で王族や貴族は口にする事はないはずなのだが。
「庶民的な紅茶ですがご存じなのですか?」
「あぁ、王子時代によく飲んでいた。ここでな」
「ここで?」
「双竜。この家の前の住人を知っておるか?」
「いえ……」
「そうだろうな。いや、我がそういう風に仕組んだのだ。アイリに悟られないように」
「それはアイリさんと関係ある人物ということですか?」
「そうだ。名をエーヴェルト・ノート。元は我の傍付き騎士だ」
「えっ?」
エーヴェルト・ノート。その名前は以前アイリさんが口にした人だ。
「彼奴は我の傍付き騎士となり、ここに来ては王子としての仕事を不精していた。あまりに酷かったから亡き父に叱られるのが日常だったことも懐かしい。だが我が国王に即位したと同時にエーヴェルトは姿を消したのだ。理由は未だに分からぬ。後にアイリが入団し、彼奴の死を知った。それからだ。我が狂ったのは。我にとってエーヴェルトは憧れの存在だったのだ。鎧を纏い、剣を握り、敵を屠る。その姿があまりにも格好良い。我は剣を握る事は許されておらぬ故エーヴェルトの姿は武の象徴なのだ。その象徴が不当な理由で失い、我は狂った。お前たちがあのようなことをしたお陰で狂っていることを自覚した。このままでは彼奴に顔向けはできん。よってこれまで我が犯した愚行を撤回し、すぐに王位を退くつもりだ」
「しかし殿下によれば、ダリアの先王との因縁とも……」
「それもある。が、そんなものは昔話だ。当然ダリアの現王が悪意なく言ったのはわかるが、どうしても許せんかった。先王と当時のエーヴェルトの両方が一気に頭に過ってしまい、愚行に走った。ダリアとエーヴェルトは関係ないと言うのにな。昔のことを思い出すのは良くない。だからそれを清算するために王位を退きあとはゆっくりと過ごそうと思う」
陛下の悲しみの表情の中に覚悟の表情があるのがわかる。そして俺はその気持ちを汲み取ることが陛下に対しての礼儀だと思った。
俺は椅子から立ち上がり、床に左脚を立てて座り頭を下げた。
「頭を上げよ。お前はこれから苦難の道を行くかもしれん。だが決して諦めてはならぬ。肝に命じておけ」
「はっ」
陛下は立ち上がり家を出た。
そして次の日から数日の間、次々と自身の行った、いわゆる愚行な行為を撤回、破棄した。そこには遠洋漁業も解禁も含まれていた。さらに宣告通り、王位を退く意向を示し、近いうちにグラム王太子殿下が国王となる。これで国のいざこざは解消する方向に向かうはずだ。
◇
グラム王太子殿下が国王となりグラム国王なった。それと同時に、前王は王都内に代々隠居した国王が住む館にて隠居生活をする。王太子の座には嫡男のアルベルト第一王子がつく。その他に女王やグラム国王のアルベルト王子含む7人の王子、王女が入城する。ルーカス第二王子、ナタリー第一王女、シルヴィア第二王女、ヴィオラ第三王女、アウグスト第三王子、アナスタシア第四王女(年齢順)の7名だ。
前よりも王城が忙しなく、さらに人が増えた。王子、王女の傍付き騎士もそのまま留任。さらにお世話係、料理人など、王都郊外にある第2居城から関わっていた人たちがそのまま留任される。前王の関係者が辞めていき減ると思いきや、減る人に対して増える人が圧倒的すぎたのだ。しばらく現体制落ち着くまでは静かにはならないだろう。
グラム国王体制が整ってない状況で、あるイベントが催しされる。聞けば、
「前王の時代後半は殆ど行われていませんでした。おそらく今まで緊張感あった雰囲気を少しでも和らぐように陛下はお考えなのでしょう。この大会は名付きの騎士と魔法師のみ参加可能なトーナメント戦です」
とアイリさんが言っていた。名付きとは『双竜』や『旋風』といった2つ名のことだ。ちなみにアイリさんも初参加。緊張感があると言われていた割に入団時の大会ではかなりの盛り上がりを見せていたが? と思うが無粋な考えは止めよう。
使用できる武器は何でもあり。しかし例外として神器の使用は不可。それ以外なら何でもありだ。1週間後に開催される。
俺も名付きなので1週間みっちり仕上げにかかった。押し負けない肉体、剣の素振り、魔獣と戦いの感を鈍らせないようにする。いつも日常的にやっていることだが、これを毎日やるかやらないかで差が出てくる。やれることはやる。無理はしない。自分の可能な範囲をコツコツやり、徐々に上を目指す。これがこの世界での俺の生き方だ。
大会本番、久しぶりの大会に民衆は湧く。入団時の大会並みか、それ以上だ。
「いや〜すごいですね」
「えぇ、それほど待ち望んだ大会ということです。皆が名付きで実力者。油断は禁物なバトル。胸が高まります」
「いつになく楽しそうですね」
「強い者と戦えることは喜ばしい限りです。そしてタクト、あなたと真の意味で決着を付けられます。同じ流派同士決着は当然決勝戦で」
「当然です。ですが目の前には障害が多いのもまた事実。驕らず、確実に勝利を重ねていきますよ」
「えぇ、では私はもう少し先なので別の部屋で待ってます」
アイリさんがその場を離れた。今いる場所は大会の舞台の選手入場口。
『ではお待たせいたしました! 第一試合は2体の竜を従える今大会優勝候補、双竜のタクトーー!』
口笛、歓声、様々な声や音が聞こえてくる。しかし観客に目を向けている暇はない。俺の相手は、
『そして双竜の相手はこの人! 大陸が認めた天才。幻術極めし者は、“夢幻”ミツヨシ!』
そう俺の相手は三厳。初戦からぶつかるとは思わなかったが、いずれは超えなければならない。相手に取って不足なしなのだが、
『両者、出揃いました。では勝負開始!』
俺はすぐに抜刀の構えをし、カグツチとナルカミ、その他使い魔を武装した。その1秒ほどの僅かな時間で三厳は幻術をかけた。初手は幻術の中ではメジャーの落下の幻術。これは前にかけられたことがある。心を落ち着かせ、三厳の居場所を探る。
わずかな振動、見られているという感覚、ハッキリとはわからないがある程度の距離はわかる。それさえ分かれば見えなくとも動ける。
「行くぞ、ナルカミ」
一ノ型『六連星』を背後の気配を向けて放つ。幻術は過度に乱れると解ける。剣の軌道はどうやら三厳の首あたりを描いた。慌てて避けた拍子に幻術が解けてしまった。
見えてしまえばこちらの土俵だ。時間なんていらない。抜刀の構えから連なる2連撃目、六ノ型『填星』を放つ。しかし自身の持っていた武器の水晶玉を囮にして間一髪攻撃を免れた。
「さすがに強いっすね。先輩」
「神器があればいい勝負できただろうに。神器に取り入れたものを使用者の身体に外付けする。インプットとアウトプットの関係がお前の神器だ。俺が強いというより神器依存の三厳にとって痛手だろ」
「まぁそうっすけど、それでも特化魔法師として勝負を投げ捨てることはできないので」
ただ負けるわけにはいかないということか。だがこれはもう俺の勝ちだ。武器も失い、詠唱には少し時間が必要。その間に俺は攻撃できる。それでフィニッシュだ。
手を伸ばし何か幻術を掛けようとした。その瞬間、ナルカミの力を使い神速で駆け抜けて三厳を斬る。手応えあり。俺の勝ちだ。
そう思い振り返ると三厳がいない。さっきまで水晶玉の破片が飛び散っていたエリアには何もない。
何が起こっているのかわからない。観客の反応も変だ。突如としていなくなった三厳に困惑している。
空から降下してくる物体に気がつき咄嗟に避けた。降ってきたのは剣。しかも1本だけじゃない。2本、3本と降ってくる剣の数に限りがない。降ってきては消えを繰り返している。
「悪いですけど、このまま負けるつもりはありません。先輩、この戦い勝たせてもらいます!」
突如として現れた三厳のカミングアウト。だが、
「三厳、最高だ」
簡単には終わらない戦い。俺と三厳の戦いはこれからが本番だ。




