4-14.『戦争の行方』
無限の魔力を得た大賢者の姿に打ちのめされそうになる。それほどに圧倒的なのだ。
「どうしたの? マスターになりたいならこれくらいの実力が無かったら勝てないよ」
挑発に乗るな。ここでむやみに攻撃すれば確実に負けてしまう。大賢者が1歩前に進むと自身も1歩後退り常に距離を一定に保つ。それを繰り返していく内に俺はついに壁まで追い詰められた。呼吸が荒くなり、冷や汗が止まらない。
「もう逃げられないね。来ないならこっちから攻めるよ」
動き出した大賢者の動きに変わりはない。動く前に何か魔法をかけていた。それが分かるまでは無闇な手出しはせず逃げに回るしかない。
大賢者の軽やかなフットワークと神器で肉体が強化され、それから放たれる拳は極めて危険な一撃だ。簡単に破壊される壁がそれを物語っている。それに段々と拳を放つ速さが増してきた。
これ以上この場で戦ってもメリットがない。そう判断して俺は飛び上がり壁を蹴り、ナルカミを纏いその場を抜け出した。そして床に着地して振り返ると大賢者はすでに間合いに入り俺の腹に拳が直撃した。飛び上がって床に着地するまでほんの1秒程だ。1秒で近づける距離ではないというのに。
大賢者の放つ一撃は俺を向こう側にある壁まで一直線に飛ばした。そして床に倒れた俺を上から嘲笑うように見下した目で見てくる。
「エア<レート>エンハンスメント……。お前の魔法はそれに近い何かじゃないか……?」
「惜しい。けど着眼点はいい。これはエア<アクセラレート>それが僕が使った魔法」
「アクセラレート……。加速する魔法か」
「正確には加速し続ける魔法。時間が経つにつれ速さを増す。この魔法は使用者の魔力が尽きるまで速度を上げる。けど今の僕は無限の魔力を有しているから上限はないよ」
そんなの勝ち目ないだろ。速くて力強くて無限の魔力。シンプル故に強い。
「ねぇ拓人。僕も聞きたいことあるんだ」
「何だよ……」
何を今更俺から聞きだすんだと心の底で思った。腹を殴られて声を出すのも大変だってのに。
「『雷鳴』知ってるだろ? ソーサラーの中じゃおそらく5本の指に入る傑物」
知らないはずないだろ。『雷鳴』ことレオンハルトは俺の戦いの師であり、旅仲間、そして俺が求める理想なんだから。
「今、君が雷を纏った姿がとても彼に似通っていたからどうしても聞きたくなったんだ。彼、今どこにいるの?」
「知るかよ……」
「うん。そう言うと思ってた。彼の安否について色々と説があるんだ。1つ目は死亡説。2つ目は隠居説。最後は別大陸へ移住説。死亡説は言わずもがな。隠居説はまぁ有りよりの無しってとこかな? 別大陸のことは拓人でも知ってるよね? 4大陸の裏側、日本で言うところのブラジルみたいに別の大陸に移住した説。僕は1つ目を推してるんだけどさ、本当さどれなのかな?」
俺はレオンの事の顛末を知っている。けどレオンの死を今はまだ誰にも悟られたくはない。
「知らない。『雷鳴』の居場所は知らない」
「そ。じゃあなぜ僕が君から『雷鳴』について聞きたいかわかるかい?」
「……」
「雷を纏う姿もそうだけど、死亡説を推す人は『雷鳴が姿を消したと同時に双竜が出現した』という主張をするんだ。的を得ていると思わないかい?」
「ならどうだと言うんだ」
「『雷鳴』の居場所を探してるのはね。正直言うとベルちゃんよりも雷鳴を次期マスターに添えたいんだ。ベルちゃんも才能はある。けど彼に比べたら劣っているのは確実だ。けど捜索しても見つからない以上彼の次に可能性のある人を選ばないと進まないんだ」
長い付き合いとはいえ大賢者に言うべきかどうか。もし言ってしまい広まってしまったら? 心の中で葛藤している自分がいる。けれど今は囚われた皆んなをを助けないといけない。大賢者に勝つ事は不可能だ。ならせめて可能性のある方に自身の意思を傾ける必要がある。
「俺が『雷鳴』の情報を言う代わりに、皆んなを解放して話を聞いてくれ。そしてこの事を他言してはならないこと。それが最低条件だ」
「いいよ。約束しよう」
レオンとの出会いから旅のこと、そして死亡したことを全て話した。
「そうか。やっぱり『雷鳴』は亡くなったんだ。うん、でも仕方がないのかもね。彼もまた冒険者、いつ死ぬかわからないから」
「それより俺は話した。皆んなを解放してくれ」
大賢者がパチンと指で鳴らすと皆んなが解放され地面に叩きつけられた。駆け寄ってみるとそこにあったのは無機質な人形が3体。
「どういうことだ!」
「ぷぷ、ぷアハハハハハハ! いや〜、実は元々囚われてないんだよね。見事に引っかかって!」
大声を上げて笑う大賢者。何が何だが頭がついていかない。
一通り笑い終えると大賢者はカツンと杖で地面を突いた。転送された場所は何と、王子に環さん、三厳が何事もなくその場にいた。
「先輩、何してたんすか? もう始まりますよ」
「はい? どういうことだ?」
「拓人、元から僕は話をするつもりだったんだ。君がどこまで強くなっているのか試したくなったことと、後は例のこと聞きたかったんだ」
そう言われてやっと理解が追いついた。元から俺は遊ばれていたということか。話損な気がするが話した事は仕方ない。
「当たり前だけどさ、僕も戦争とかしたくないよ。もちろん今回はこっちに非があるから相応の謝罪はするつもり。先王の禍根を全て無しにはできないけど、少しでもいい方向に進んで行きたい。それはそっちも同じでしょう?」
「それはそうだ。戦争なんてやりたくてやるもんじゃない」
ついに会談が開始された。向こうは大賢者と王様、こちらは殿下に大臣、魔法師団と騎士団員を要し、これが正統な会談であると向こうの王様から宣言され後は思うように話成立した。内容はもちろん戦争回避。
全てが終わり急いでヴェストフォルの王都に向かい、報告した。当然陛下は納得できないだろうが、これは決定事項。それを破ればヴェストフォル王国は約束すら守れない国というレッテルを貼られ以降まともに条約などは結べない可能性がある。騎士団および魔法師団は武装を解除して戦争は完全に回避した。
後日、警備部隊が家に押し寄せ、逮捕状が出た。それを見ると陛下の名前はどこにもない。つまりこれは戦争をしたがっていた貴族たちの腹いせに違いない。しかしここは素直に捕まり王城まで連行された。
連れてこられた場所は玉座。他にはもう、三厳と環さんがおり、すでに手に手錠が施されていた。
後から陛下も到着。状況から察するにこれは裁判だろう。陛下の命令を無視したことで罪が問われる。
「これより反逆者双竜、夢幻、大臣の裁判を開始する。この者らに対して何か言うべき事はあるか?」
とある貴族が手を挙げた。
「この者らは反逆者。その時点で議論の猶予もない。即刻死刑又は永久に牢獄に収監すべきだ」
そう言うと他の貴族も便乗し、「そうだ!」「死刑にしろ!」などの野次が飛び交う。ただ戦争回避をしただけで極刑はいかがなものかと思う。戦争は経済効果をもたらす。それを貪りたいだけの貴族がこれほどいるとは。
そんな中1人の女性が手を挙げた。
「確かにこの者らは命を破りました。しかし戦争を回避したことについては私は一考の余地があるかと。戦争をすればこちらの被害は口にできぬ物になっていた可能性もあります。兵士は資源の1つです。それを守り抜いたことに意味があると思います」
そう述べた女性は魔法師団長、アイリさんだ。その後も必死になって弁明をしてくれた。騎士団長も同様に貴族らに理解を求めたが、奴らの頭は堅かった。何を言っても言い訳して俺たちを殺そうとしてくる。そうしている内に白熱し、そのあり様はまさに動物園状態だ。
「静まれ!」
その一言が騒ぎ立てていた貴族らを一瞬にして黙らした。
「双竜よ、何か言い分はあるか?」
「自分の信じた道を進んだまででございます。例えそれが命令を破ろうと、守るべき者を守るのが双竜である私の在り方です」
「第3部隊長、お前は?」
「この国のため、そして団長が悲しませたくないから行動しました。悔いはありません」
「タマキよ」
「私も同じです。戦争になればこの国の民の命も脅かされる。だからこそ止めされるべきと思いました」
「そうか。では判決を言い渡す。タクト、ミツヨシ、タマキよ」
王様は俺たちを役職名で呼ばず名前で言った。これがこの世界での最期だと頭の中で過ぎった。悔いはない。やれる事はやった。
「常に我を罰する側であれ。これからも其方らの信じた道を進め。それがお前たちへの命とする」
その言葉を聞いた瞬間、垂れていた頭をパッと上げ疑った。確実に極刑になると思っていたからだ。周りの貴族たちも慌てている。その判決に異議を唱える者もいたが王様は聞く耳を持たず玉座を去った。




