4-13.『大賢者、再び』
夜が明け、陽が地平線の向こうから照りつけて動物たちが鳴き朝を知らせてくれた。その時点で一度車を停止させ車に積んである携帯食料を4人で食べていた。
「もう少しで着来ますが、お身体の調子はいかがでしょうか?」
「環よ、今は自分の心配をせねばならない。気遣ってくれるのは有難いが、お前自身は大丈夫なのか? 運転しっぱなしであろう」
「僕は大丈夫です。魔法道具製作で徹夜は当たり前ですので慣れています」
「うむ。休める時は休みなさい。そして、双竜と第3部隊長はどうだ?」
三厳が俺の顔を見てお互いの目があった。そして三厳はコクリと頷いた。
「俺たちも大丈夫です」
「それなら良し。環よ、今はどこ辺りにいるのだ?」
環さんは地図を取り出し広げた。
「今はこの辺です。ダリア王国まで後数時間といったところかと」
「そうか……。お前たちはなぜ今回戦争が起きようとしているのか理解しているか?」
突然の言葉に黙ってしまった。
「聞くところによればダリアの先王との因縁と聞いてますが」
「そうだ。我らヴェストフォルの理念は『侵さず、侵されず』だ。基本戦争は吹っかけはしない。相手から宣戦布告されれば防衛する。例えそれで勝ったとしても相手国に対して相応の責任を持たせるが、侵略等はせん。あくまで今ある領土、領海を守るのが我々の理念だ。これは私がまだ産まれてすぐの話だ。陛下は若くして王となり、国を導いた。類稀なる政治力、諸侯を纏めるカリスマは今もなお語り継がれている。一方隣国であるダリアの先王はいわゆる過激派とも言われていてな。臣下である者を躊躇なく左遷、口封じ、処刑と、ダリア一の悪王だった。隣国でお互い列強国である為付き合いは長い。そんな先王と陛下の初の首脳会談が行われたのだが、結果は最悪と言っていい。話の通じぬ王と歩み寄る王とでは土台無理な話。その後も幾度となく会談を進めたのだが、ついにダリア側が一線を超えたのだ。端的に言うと人身売買に近い。先ほども言ったが、ダリアの先王は人をすぐに切る。すぐに国は回らなくなってきた。よってヴェストフォルから優秀な人材を派遣ではなく一方的な要求をしてきたのだ。まだ要求だけなら許されたが、金を支払い買うとまで言ってきた」
なるほど、人を買うということは確かに人身売買だ。陛下はそれにブチギレた訳だ。おそらく横柄な態度で要求したからなおのこと悪かったんだろう。そう言えば、大賢者の父親や母親も殺されたと言っていたな。当時はきっとダリアの暗黒期だったに違いない。その余波がヴェストフォルにも及んだから陛下は黙ってはいられなかった。
「そして翌年、ついに戦争が始まった。マスター・ソーサラー率いるダリアだったが、その力は非常に脆いものだった。マスターの地位を国内で継承してきたが故の弱体化が原因だ。継承の時は裏で何かがあったのだろう。事情はわからぬが両国は引き分けとなる。物資の限界だっただけだがな。長々と話したが陛下は未だそれを根に持っている。今回の会談も大賢者と現王との建設的なものになる予定だったんだが、現王が発した事が今の引き金となっている」
「今の王は良心的と聞きますが?」
「やはり父の子というものであろう。無意識に引き継がれていたという事だ。大賢者もその場で静止を促したが、陛下は昔のことを思い出してしまい宣戦布告した」
「つまり、大賢者は今回のことは後ろ向きということですね」
「まぁそれはそうだろう。こんな無益な戦いほどない。陛下も少し頭に血が上りすぎだ。だからこそこんな無意味な戦いは即刻終わらせねばならない」
だからそこ今日中にダリア王国に着き、話を付けその日の内に帰る。これが今回の目的。日帰りだというのに荷が重過ぎる。
食べ終わった後は三厳の運転、俺は先行して魔獣を狩る。
交通規制は当然行われていた。国境では行商人の列が行列を作っていた。俺はそれをいち早く環さんたちに伝え、魔動車に再び乗り込んだ。
「環さん、これ行けますかね?」
「……正直微妙と言ったところ。でもやらんと先に進まないのは確か。けど……」
「環や。お前確かラボの研究所長なのではないか?」
「はぁ、そうですが」
「なら大臣としてではなく一研究者としての環の情報を差し出せば通してくれるとは思わんかね?」
「いや、それでも流石に無理があろうかと」
「そう言い切るのは早いのではないか。研究者と作った商品を売る商人としての環ならば一考の余地はあると私は見る」
環さんは口に手を添えてしばらく考えた。そして、
「三厳、運転代わろうか。やれることはやろ」
「わかりました」
検問が自分たちの番になり環さんは『ノトラボ』のカードを検問員に差し出した。念のため殿下にはローブを着て気配を消し、名が通っている俺も同様にローブを纏った。
誰よりも長い検問だったが、入国の許可を得た。呑んでいた息をふぅと解放しやっと一時肩の荷が下りた。ここから王都まではそう遠くない。そして魔動車を飛ばし日が真上に来る前に王都に到着した。
王都の姿はかつて俺が訪れた時とは違い閑散とした雰囲気だった。人が歩いていなければ、当然店も全て閉まっている。
「どうします、このまま宮殿まで突っ走りますか?」
「と、言いたいのは山々やけど、そう簡単に先には行かせてくれなさそうや」
運転している環さんがそう言い窓を開けて見ると、衛兵たちがぞろぞろとやってきた。
「戦わない方がいいのではないか?」
殿下が心配そうに言う。
「いや、せめて戦闘不能にしないと先には行けそうにありませんので俺は行きます」
「なら俺も行くっす」
「いや、三厳はここにおれ。僕じゃ殿下を守り切る自信はない。いざという時お前が殿下の身を守れ。後宮殿内で何起こるかわからんから魔力は温存してけよ」
「はい」
「じゃあ拓人、行こか」
「環さん、戦えるんすか?」
「ん? お前知らんのか。追い追い教えるけど、僕は一応戦えるよ。異世界人やからな。じゃあ僕の傑作中の傑作、No.003の凄さ見せてやろか」
袋から魔法道具を取り出した。形状は刀。オモチャじみたそれは見た目は貧弱そうですぐ折れてしまいそうな不安がする。
俺たちは魔動車から降りた。当然囲まれている。この行動の速さから分かるにおそらく検問ではわざと入国させた。王都に来た時に捕縛すれば万事解決。というところだろう。
「じゃあNo.003、起動!」
何も起こらない。と、思いきや、衛兵たちが耳を塞ぎ俺たちの周りでバタバタと倒れていく。状況が全く読めない。一体何が起こってるんだ。
「この魔法道具は振動を起こす武器、範囲は大体直径10メートル。そこで疑問に思うのはなぜ自分は無事なのか。それは前もって拓人や三厳、そして殿下の情報をインプットしてるから。これはただ振動を起こすんとちゃうよ。頭に流れてる魔力を振動させて耳鳴り、頭痛を起こす武器。すごいやろ?」
「すごいですが地味っすね」
「地味やけど、本領発揮はここから。所詮は振動。緩和の加護ですぐに慣れる。構えろ、拓人。こっからが003の見せ所」
環さん言う通りすぐに立ち上がった。俺は剣に手を添え抜刀の構えをした。衛兵のリーダーと思しき男が「かかれー!」の合図で他の衛兵たちが襲ってきた。
一ノ型や、他の型を使い隙を作り背後に周り首の延髄を強く叩き行動不能にしていく。全ての衛兵を行動不能にしたので環さんの方を見ると、衛兵が身につけていた剣や鎧がボロボロになっていた。
「どうやったらこうなるんすか?」
「この武器は振動範囲を狭めて剣の周りだけにした状態で金属やその他をぶつけると振動で物を壊すことができるわけ。さらに人体と接触すると、骨はすぐに折れてまうんや。どう? すごいやろ?」
「凄すぎです」
「さて、先に進もう」
再び車に乗り込み一直線で宮殿に向かった。
入り口には衛兵はいない。確実に誘っているのが分かる。侵入されても中には大賢者がいる。あいつの手にかかれば全ては些事に過ぎない。
宮殿内はガランとしていて守る気が全くない。恐る恐る前に進むと突然、ハウリングしたみたいにキーンという音が響いた。そして目の前で魔法道具が起動してあの大賢者がホログラムで投影された。
「今日はよく来てくれたね。来るんじゃないかと思っていたけど本当に来るなんて嬉しいよ、拓人」
「今はそんなことはいいだろ。いっちゃん、話がしたい。その場を設けてほしい」
「う〜ん。難しいね。でも他ならなぬ拓人の申し出だからあまり無下にはしたくはないんだよね」
「それなら――」
「でもタダでここに足を踏み入れたんだからその分の料金は貰おうかな」
「いくらだ」
「お金はいらない。今から拓人は僕の指示したところに向かってほしい。他のお三方も僕の言う通りにしてくれたら話をすることも考えよう」
「わかった。ならどこに向かえばいい」
「拓人の頭の中に行き道入れるよ。他のお三方も同様にね」
頭に軽い電流が流されたような感覚が走った。宮殿内の見取り図と到着地が明快に知らせてくれた。
「殿下、三厳、環さん。お気をつけて」
「そっちもな」
3人と別れて急いで記された場所に向かった。その場所は大賢者の私室。一度訪れたことがあるから大体分かる。
2枚扉を開けると、堂々と待ち構える大賢者。
「久しぶり」
「久しぶり。で、何をすれば良い」
杖をトンと地面に軽くつつくと背景がガラッと変わりそこはただの真っ白い空間だった。
「ここは簡単に言うと魔法で作った別空間。ここでよくベルちゃんを鍛えてる」
「その感じからするにベルは元気そうで何より。で、ここで何をするんだ?」
「簡単だよ。決闘だ。君の力を見せてほしい。勝つことができれば話を聞いてあげる。負ければ、君もこうなるよ」
大賢者は指でパチンと鳴らした。そして現れたのは十字架に吊るされた殿下たち。その光景を見た瞬間怒りが湧いてきた。
「例えお前でもやって良いこと悪いことくらい分かると思ってた。けど、見損なったよ。お前がこんなことするなんてな!」
「そう? 今は敵同士。やられやり返しは当然だと思うけど」
「一条力、お前を本気でぶっ飛ばす!」
「今は大賢者リチャード・ダリア。そしてマスター・ソーサラーの僕に勝てると思ってるの!」
神速で間合いを詰め、抜刀で攻撃する。しかし鋭い剣を木製の杖で易々と受け止めた。すぐに距離を取りナルカミとカグツチの合わせ技を持ってしても大賢者は余裕の顔で突っ立っている。
「うん、成長したね。分かるよ今ので。だけどまだ足りない。何が足りないか分かる?」
「そんなのただ鍛錬が足りていないだけだ」
「違うね。確かに鍛錬も必要だ。けど君に至っては鍛錬じゃないんだよ」
「じゃあ、何が足りないんだ」
「神器だ。生身の僕と君の差は対して変わらない。今は魔法で特に硬くて厚い防御の魔法を杖と身体に張って、さらに神器を限定解放してるからダメージは殆どない。君が本気になればこんな壁は綿菓子さ。神器があれば本気にならなくても簡単に壁は壊せるし、良い勝負ができる。君は武器にもっとこだわりを持った方がいい。じゃないとマスターなんて夢のまた夢だ」
説教をしてくる大賢者。神器のことは薄々感じていたがまだ必要がないことと自分にはまだ荷が重いことから所持しない考えだった。
「じゃあ特別に僕の神器を見せてあげるよ。叛逆のアトラス、神器解放」
大賢者にいくつもの魔法陣が波打ちながら潜り抜けていく。今までとはオーラが違う。話に聞いていた大賢者の神器、無限の魔力を有した姿はさながら巨人だ。巨人ように大きくその存在感に圧倒してしまった。
「見せてあげるよ。僕がマスターたらしめる所以をさ」




