1-3.『旅愁』
俺たちは傷ついた状態で先に進み、鉱山都市にたどり着いた。そのまま回復専門の術師の所に行き傷の手当てをしてもらう予定だったが、あまりの多額の費用のため受診することは叶わなかった。回復の魔法を使えるベルは魔力切れを起こして、魔法自体使えない。
全身が傷つき、足を引きずりながら何とか歩けていたが、遂には歩けず道で倒れてしまう。肌は深く擦りむいており、至る所から出血している。そんな時、右肩に刻印されている紋様が光りを放ち、そして目の前にはさっきテイムしたウィッチクラフトがいる。
「ウィッチクラフト? 何で現れてるんだ? 呼んだ覚えないんだけど……」
何にも言わない。話通じてるよな? 元人間だし、さっき「怨」とか言っていたし喋れると思ってたんだけど……。
無言のままウィッチクラフトは手を俺の額に当てる。するとみるみると傷が回復していく。ベルに対しても同じ対応をしてくれた。
ベル曰く回復魔法は光属性、対してウィッチクラフトは闇属性。なぜだ?
考えていると頭に浮かんだ。ウィッチクラフトはあらゆる属性を扱うことができる。死んでしまいゴーストになったとしてもその力は健在で光属性だろうが何だろうが使えるという訳か。
「ウィッチクラフト、便利すぎる。てか回復魔法でも傷痕までは治せないんだな」
「治せるよ。ただ、タクトはテイマーが本職だし、魔法を使うということ自体苦手なんだよきっと。だから魔法を使うウィッチクラフトとは少し相性が悪いのかもね」
「職の違いの所為で不完全な魔法しか使えないってわけか」
でも魔法は使えないわけではない。傷跡は残っても回復できるのならありがたいし、全属性使えるならそれだけで手数は増やせる。属性と言えば気になることがある。
「属性ってどれだけあるの?」
今のところ知っているのは火と水、光と闇、そして雷。
「属性は全部で7つ。火、水、風、雷、光、闇そして“星”だよ」
「ほし?」
「お星様の星のこと。稀な属性でその辺にいるような魔獣じゃ絶対に持ち得ないもので、この属性は“神使”なんて呼ばれるの。星の属性はテイマーとマスター・ソーサラー限定の属性で、滅多にお目にかかれないの」
「星の属性はわかった。その“マスター”ってのは?」
「“マスター”はそれぞれの上位職のこと。マスターは絶対に世界で4人しかなれなくて、なるには自身と同じ職のマスターを超えるしかないんだ」
「ふむ、じゃ現在のマスターはどこにいるの?」
「うーん……。ソーサラーとメイカーなら知ってる。2人共ダリア王国って言う国にいて、ソーサラーの方は大賢者とか言われてる。つい1年前にマスターになったらしいよ」
1年前か……。そういやあいつがいなくなったのも1年前だ。今どこにいるんだろか。また会えるといいんだけど。
話は終わり、せっかくなので鉱山都市を観光してみることにした。ここには沢山の人がいる。もちろんスミスもメイカーもだ。
俺には考えていることがある。ウィッチクラフトをどうするかだ。1つの武器には1体の使い魔しか宿れない。剣には魑魅が宿っている。つまり剣以外でウィッチクラフトを使う訳だ。武器に宿さず使う方法もあるが後衛にはもうベルがいるため必要ない。
「うーん。どうしようか……」
「何が?」
「ウィッチクラフトの使い方。後衛はベルがいるから必要ないし、剣には既に魑魅がいるし。どうしようかと思って」
「じゃあ、指輪買ってそこに宿したら? そしたら邪魔せず、さらにウィッチクラフトの魔法を使いたい放題だし、さらに魑魅を使って火力上げれるよ」
「あっ、なるほど。その方法があったか」
さすがベル。そうと決まれば指輪探し、お金の心配は無用だ。洞窟に入る前、魔獣狩りで集めドロップした素材をついさっき売ってお金に換えておいた。少ないが雑貨屋で買えば足りる。
ちなみにドロップした物は武器や装飾品の素材になる。
ここは鉱山都市と呼ばれるくらい今も昔も鉱物に関しては有り余るほどあるらしく、それで作られた品は他の場所よりも安い。鉱物が沢山採れるとそれらの価値は下がる。お陰で最安値で指輪が買えた。
買った指輪は左手中指に。利き手だと剣を持つのに邪魔そうだしな。
「よし!」
ちょっとはそれっぽくなってきた気がする。まだ戦いは怖いけど。
さて、観光兼買い物を済まし鉱山都市を出ることにした。また狭い洞窟を抜ける途中、魔獣が現れた。
「来い、ウィッチクラフト&サンフレイム!」
ウィッチクラフトの試運転にちょうどいい奴らだ。
ウィッチクラフトの火と雷の魔法を発動し、そしてサンフレイムで威力増倍。後方にはベルの支援。
火で焼け焦げる魔獣の仲間たちは怯えどこかに行ってしまった。
「ありゃりゃ」
「どっか行っちゃったね」
この鉱山にいる魔獣なら楽に戦える。それにあいつらの怯えようを見るにここではもう襲われることはないだろう。
戦ってわかった。入る前までの恐怖が嘘のよう。今なら何にでも勝てる、そんな気がした。そして俺たちは洞窟を抜けるため出口を見つけて脱出した。
洞窟を抜けると外はもう夕方になっていた。緋色の空には沢山の鳥たちが飛翔していて、そこのところは日本でも変わりない。
「なんか赤とんぼでも歌いたい気分だな」
「アカトンボ?」
「そう言う歌があんだよ。地元じゃゴミを収集する人たちが録音され……じゃなくて歌ってんだ」
危ない。この世界では録音された音楽を流す機械やスピーカーはないんだった。今の俺は“アシハラノクニ”から来た冒険者ということになってるから気をつけないとな。
森を抜ける頃にはもう太陽は沈み、月が顔を見せていた。太陽も月も何ら向こうと変わらないのに、何でこんなに感傷的になるんだろうか。まだここに来て2日目なのにもう故郷が恋しく感じてしまう。
ここでは戦いは当たり前で、生きるか死ぬかの2択。怠れば死んでしまうし、努力しても敵わない者がいるかもしれない。
そんな世界に降り立ってしまい、持ったことない剣を無様ながら振り、日がな一日魔獣を狩っている。
正直に言うとこの世界は疲れる。例えここが向こうじゃ味わえない楽しさや達成感があったとしてもだ。本物のファンタジー世界でもチートもなければ類い稀な力も無い。どんなに期待しても神様は助けてくれない。唯一の助けはベルとテイムした使い魔たちだけだ。
ウィッチクラフトにあんなこと言っておきながら情けないがこれが現実。
「はぁ……。帰りたい」
本音がつい吐露してしまう。今日は野宿していて順番で辺りの監視をしている。幸いベルは熟睡で聞かれてない。こんな生活がいつまで続くんだろう。
朝、太陽が昇り日光が明け方の肌寒さを和らげ、さまざまな動物たちも次々に目を覚まし活動を始める。
俺はベルを起こし、火を焚き、魔獣の生肉を焼いていく。魔獣の元は動物で、動物が魔力を帯びると魔獣化する。そいつらの肉は少し硬いが魔力を帯びているため食べるだけで少し補給になる。冒険者にとってその辺にいてタダで手に入る有り難い食料なのだ。
「おはよ〜」
「おはよう。肉焼いてるから待ってて」
「ありがと。焚き火あったか〜」
今の俺にとってベルの存在はやはり大きい。ベルのお陰でこの世界で何とかやっていけてるからだ。彼女がいなかったらこんな世界、即自殺もんだ。
「さて、いただきます」
焼けた肉を渡しお互いかぶりつく。じゅわっと出た肉汁がこれまた美味しい。ベルの美味しそうに食べる姿が俺の癒しだ。美味しそうに沢山食べる女子最高。
「ご馳走さま」
「ご馳走さま。なぁベル、気になってるんだけど、そもそもどこに向かってんの?」
「アシハラノクニだけど?」
「はい? 何故そこに?」
「タクト何にも知らなさそうだから1回故郷に帰って身支度整えた方がいいかなって」
無性に汗が止まらない。なぜって? ベルには嘘を付いているからだ。アシハラノクニに行っても家無いし知り合い居ない。
「戻っても親とか居ないし、戻る意味あんましないんだよ」
「えっ、でも親戚の人とか」
「親戚の人たち全員死んじゃってさ。俺今天涯孤独状態で」
親戚と家族のみんな勝手に殺してマジでごめん。
「そうなんだ。大変な環境なんだね」
「そうそう。で、やること無いしこんな所まで出て来たんだ」
誤魔化せたのか? 誤魔化せてないのか? どっちだ?
「まぁでも私行ってみたいし行こ?」
「行こっか」
この笑みは反則だ。断れるわけない。
こうして勝手に決めてしまった自身の偽故郷が自分の首を締めることになってしまった。しかも名前がそれっぽいが、まだそこが日本に近い文化文明を持っているのかすらわからない。さらに俺の精神を追い詰めることになった。




