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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第4章 ヴェストフォル王国
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4-9.『アイリ・エーヴェルト・ノート①』

少し短めです

 双竜があの男を引き連れてどこかに行ってしまった。アイリはまだ気持ちに整理ができていない。まだ心臓がバクバクとなる。それは特定の条件と一致する人と接することで起こってしまう軽い発作だ。

 アイリがただ立ち尽くしているとローブを纏う使い魔がやってきた。手には鍵を持っている。アイリは手を出し、何個もある鍵を1つずつ試すと、カチリと音が鳴り枷が開錠された。


「少し待って……」


 ラウラはアイリの言葉を無視しすぐにその場を去った。

 追いかけても良かったが、あの使い魔には何かまだやらなければならない事があると悟り追跡をやめた。

 アイリは現状の確認をした。手元に武器はない。魔法は使える。上の状況は全くわからない。今出来ることはまず武器を持つこと。自身の剣を探してもいいが時間の無駄だ。


「来てください。風剣フレズベルク」


 長さ30センチくらいの短剣が赤い魔法陣の中から召喚された。これがアイリの持つ神器『風剣フレズベルク』。これも過去の思い出深い品の1つだ。

 アイリはすぐに外に出た。するととんでもない場面だった。双竜が水のバリアで館全体を守り、あの男は地面に寝そべり、気味の悪い笑い声を上げている。空には赤い魔力の塊が落下する直前だった。そしてその魔力の塊が何なのかもすぐに察知した。そして、


「フレズベルク限定解放、あれを喰らいなさい!」


 神器『風剣フレズベルク』、その限定解放時の効果は魔法、又はそれに準ずるものを吸収する。

 剣の先から黒く鷲を象った風の力が魔力の塊をガブリと食し剣に吸収された。それに驚いたのは双竜と奴隷商人の男。何が起きたのかさっぱりであると同時にアイリが守ってくれたことで一瞬安堵を覚えた。


 ◇


 魔法師団長が危機を救ってくれた。オロチの防壁を解き、魔法師団長の下へ駆けつける。


「大丈夫ですか?」


「そういう風に見えますか?」


「いや、精神的とか体調とか色々大丈夫かなと思って……」


「大丈夫と言えば嘘になります。ですが状況が状況だけにいつまでもあそこにいるわけにもいきません。それとあの男、やられた風に見せかけてますがいつでも立ち上がれるくらい元気なはずです」


「呆気なさすぎとは思ってたけどやっぱりまだいけるのか」


「クハハハ! まさかここでお前が来るとはな。しかもなんだ、その神器は!? あと一歩で俺の勝ちだったのによぉ!」


 ムクリと立ち上がり罵声をあげる。怒り心頭の男はカットラスを拾い上げた。


「双竜、剣を貸してください。この神器は剣同士の一騎打ちには向いてません」


「どうぞ。相手の使い魔の特性は認識阻害。いつもより相手側に踏み込みを深くすれば攻撃が当たります」


「わかりました」


 オロチの剣を魔法師団長に渡した。

 無様に剣を上げ特攻してくる男に対して、しなやかな動きで受け流し確実に男に傷を負わせていく。

 そして隙ができた瞬間魔法師団長は剣で男を弾き飛ばし、バランスを崩した所を足で払った。男は尻が地面に着き、目線が完全に逆転した。


「これで、あなたを殺せば私の悪夢は終わりです」


 剣の切っ先が男に向いた。あと30センチ下ろせば剣は男の顔に突き刺さる。

 後ろから魔法師団長の見ていた。見事な剣に見とれていた。けれど勝負がつき彼女があの男を殺そうとする瞬間、身体が勝手に動いた。

 切っ先が男の顔との距離がミリ単位まで近づいた所で俺は彼女の腕を掴み静止させた。


「何を……するのですか?」


「あなたがこの男を殺すべきじゃない。そう思ったんです」


「それはあなたの考え。私はこの男を許せない。友人を、おじいちゃんを殺しました。だからその罪をここで贖ってもらわねばなりません。ですから腕から離してください」


 俺は首を振った。


「殺したら罪は償われるとは限らない。確かに死んで罪を償う場合もあります。ですが全てが全てそうじゃない。言葉にはできません。ですが少なくともあなたには人を殺してほしくない。たとえ相手が下劣な野郎だったとしても……」


「もう手遅れです。私はとうに人を殺してます。双竜もそうでしょう。それにこの男だけは殺さないと気がすまない。なので腕から……」


 俺は何が何でも離すつもりはない。自身も人を殺した。あの時の後悔はもうしたくないから。例え見ているだけでも耐え難いのだ。

 魔法師団長とすれ違いの会話中、突然剣がぶん投げられた。やったのはもちろん奴隷商人の男。


「何チンタラ話してんだよぉ! そっちがその気ないなら俺からやってやるよぉ!」


 懐から短剣を取り出し突っ込んでくる。しかし切っ先があと数センチのところで奴の腕が赤く燃え盛った。


「我が主人に近づくものは許さない」


「ありがとう、カグツチ」


 叫ぶ男は庭にある噴水に手を入れて消火した。

 もう潮時だ。キャリアポートから縄を取り出した。これは魔法道具で、発動条件は相手が負傷していることに限る。これを目標に投げるとあとは自動で捕縛してくれる。

 奴隷商人の男を捕縛。そして同時期にラウラに頼んでいた魔法師団長の剣を見つけ出すこと、この男の部下の捕縛と捕まっていた人たちの救出も終了し、この騒動は幕を閉じた。

 ナルカミにこの国のトップの所に行き、警備隊の派遣を要請してもらうことにした。その間、この場所に留まるわけだが、魔法師団長が袖を引っ張ってきた。一部瓦礫となって(主に俺の仕業)いる所に腰掛けた。


「すみません。魔法師団長の気持ち汲み取れなくて。でも俺はどうしてもあなたにあの男を殺してほしくなかったんです」


 まず俺が謝罪の言葉を言った。勝手に最後まで持っていったからこれだけは言わないとと思った。


「いえ、それは構いません。怒りはまだありますが、私の悪夢はこれで終わったことに変わりはありませんので」


「そう言ってもらえると俺も気持ちが楽です」


 少しの間沈黙が生じたが気になっていたことを切り出した。


「あなたはなぜ奴隷になったんですか?」


「……」


「すみません。ただ純粋な疑問です。あなたほどの人がなぜ奴隷なんて身に堕としたのか気になりました」


「弁解しようとせずともわかりますよ。双竜に他意がないことくらいは」


 魔法師団長が俯いて少し黙り込み、また顔を上げた。


「わかりました。あなたを信じましょう。これから話すのは私の過去のこと。そうですね、あれはまだ私が幼かった頃の話です」



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