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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第4章 ヴェストフォル王国
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4-8.『双竜と奴隷商人』

 目が覚めるとそこは暗く不衛生な場所だった。ここは初めてのはずなのになぜか懐かしく感じる。もちろん悪い意味でだ。


「はぁ……」


 手には枷が、足には重りが施され、牢獄に閉じ込められているため脱出は不可能だった。魔法もこの枷のせいで使えない。神器を呼んでも来ない。牢獄内には虫が湧き汚水も少し流れている。


「よぉ、アイリちゃ〜ん。俺のこと覚えてる〜」


「えぇ、忘れるはずありません。それよりここから早く出しなさい。王国が黙ってはいませんよ」


「体が震えながら言われてもぜ〜んぜん怖くねぇ〜よ。そこいらの村人を攫うつもりがまさかこんな大物釣り上げてくるとは思わなかったが、ここで昔馴染みが再開! なんて、とてもドラマチックじゃないか」


 機嫌よく話す男の顔が突然険しくなった。


「だが、俺たちはあの時のことをそのままチャラにできるはずねぇ。お前らのせいでめちゃくちゃだ。商人として一度死んだ俺だが何とか踏ん張ってここまで立て直した。それまでの屈辱は忘れねぇ! お前らのせいでクソ汚い靴を舐めてでも、プライドなんて物はよぉ、ドブに捨ててでも生き残った! そして今、またここまで返り咲いた!」


「よくそんなこと私の前で。あなたたちは薄汚い奴隷商人。そんな輩さっさと潰れてしまえばいいんです」


「ごちゃごちゃと! 元はと言えばあのジジイがそそのかすからこんな事になったんだよ!」


「あの人は私を救ってくれました。おじいちゃんは関係ありません!」


「関係ねぇだと!? なら聞かせてやるよ! あの奴隷共の解放運動を扇動したのはあのジジイだ! そしてその混乱に乗じてお前を連れて逃げ出した! 知らねぇだろうな。お前はまだ幼かったからな。それが事実だ。お陰で俺の商売は上がったりだ」


「今の話が本当ならおじいちゃんの行動は正しい。奴隷商なんて本来必要ないものですから」


「言わせておけば……!」


 使い魔の力を使おうとしたが、部下と思しき人が現れ何やら慌ただしくその場を立ち去った。


 ◇


 転送され辿り着いた瞬間、そこに敵が配置されており、それらを眠らせた。場所は館、しかもかなり広いことが窓から見ればわかる。そして遠くの方には空高くそびえ立つ塔が見えた。

 館中の扉という扉を開け探した。扉の向こうには人もいた。襲いかかってきたなら眠らせて先に進む。


「さてさて魔法師団長はどこだ?」


『お前が今回の不届きものか?』


 男の声だ。拡張器を使ったみたいに声にエコーがかかり館全体に響いた。


「魔法師団長はどこだ。まぁ教えてはくれないだろうけど」


『あんな上物渡すわけねぇだろ。まぁ精々魔力を消費してくれや。そうしてくれたらお前を捕まえて豚箱行き、しかも高値で売れるだろうからな!』


「はっ、なってたまるか。なんならこの館ごと吹き飛ばしてもいいんだぜ?」


『しても構わんが、ここには奴隷になる予定のヤツが沢山いる。そんなことしたらそいつらまで死んじまうが、それはお前の理念に反するだろ?』


「魔法師団長以外にも誰かしらいるということか。まぁ、いいや。お前がここのトップと見込んで言ってやる。今のうちに荷物の整理をして部屋で正座して待っとけ。そんで土下座の練習でもしとけ。許すつもりなんてねぇけどさ!」


 それからは反応がない。回線は切れたようだ。

 そこからはひたすら館中を探し回った。けれど一向に見つからない。しかもトップであろう男も見つからないのだ。広いとはいえ全ての部屋を探したのは間違いない。


「どうなってんだ……」


 悩んだ末ラウラに頼んで他に何かないか探してもらった。するとドンピシャだ。地下に続く階段を見つけた。

 急ぎ下の階に向かう。そこは地下牢で太陽の光が当たらず、薄暗い。異臭もするし、虫が牢獄で生き絶えた遺体に群がっていた。衛生状態は最悪と言っていい。

 牢獄の奥部にてついに魔法師団長を見つけた。しかしその目には覇気がなく死んだ目だった。


「迎えに来ました! 俺です!」


 声に反応して半目だった瞳がゆっくり開き、俺の方を見た。


「何故、あなたがここに……?」


「三厳に頼まれて来ました。あいつかなり心配してます。ここから出ましょう」


 ラウラの魔法、そして火属性を使い、剣で鉄骨を切った。足に付いている重りを外そうと触れた瞬間、


「触らないで!」


 魔法師団長は俺の手を跳ね除けた。


「でも、これを取らないと帰れませんよ」


「……」


 魔法師団長の口元を見てすぐにわかった。何故、俺の手を跳ね除けたのかを。それは、


「俺がテイマーだから……ですか?」


「……」


 目をそらす魔法師団長。彼女はテイマーが嫌いだ。理由はわからない。そしてテイマーの人間に助けられることが自身のプライドが許さないからだ。


「あなたがテイマーを嫌いだとしても今は助かることを優先すべきです。三厳も、国全体があなたを心配してます。早く帰ってみんなを安心させるべきです」


 そう言って重りを無理魔法で外し、次に枷を外そうとするも、魔法全てを無効化されてしまう。


「この枷は魔法を無効化します。付けている私も、そして外部の魔法すら。とても硬い金属ですから鍵がないと外れません」


 覇気のない声。プライドとそして今の状況のせいでとてもやつれている。早くここから脱出せねばと思っていた矢先、


「おやおや〜。こんな所にドブネズミが紛れ込んでるとはなぁ〜」


 振り返ると回線と同じ声の男が目の前にいた。カットラスを携えている。


「お前がここのトップか?」


「そうだとも。それと気安く俺らの商品に手を出さないでくれよぉ」


「魔法師団長は物じゃない」


「それはお前らの考え方。俺らは違うのよ。人は使われてこそ人だ。人にはそれぞれ役割がある。お前のような人間や、俺のような人間、飯屋の店員、八百屋の人間、そして多くの役割を持つ人間の中にそこの女みたいに奴隷という立場もある。それだけだ」


「人には役割がある。その部分には賛同するよ。だが後半は聞き捨てならないな。奴隷にせずとも人は働くし、生き甲斐を見つければ熱中する。別に奴隷なんていなくてもこの世界は成り立つ」


「お前とは意見が合いそうにねぇな」


「合ってたまるか。それより土下座の練習はしたかよ。今すぐ投降するなら許してやる」


 俺は手を剣の柄に添えた。そして、雷を纏い、落雷の如く速さで男を斬り裂いた。一ノ型『六連星』、雷の特有の尋常ではない速さを持って、通り過ぎる瞬間居合を放つ。しかし手応えが全くない。


「幻覚か……!」


 突然現れたカットラスでの一撃を剣で受け止め、押し返し蹴りを1発入れて距離を取った。


「そうよ! つまりこの建物に被害を気にせずやりたい放題できる。が、お前はどうだ。ゴリゴリの力押し、パワー系のテイマーだ。つまりちまちました攻撃しかできない。これは勝負あったんじゃあないか!?」


「……」


「なんか言ってみろよ。負けを前にして何も言えねぇってか!?」


「……そうだな。建物の被害は許されねぇ。この牢獄にも捕まった人が何人かいるようだし。けどな。俺がこんなチンケなハンドで屈するとでも思ったか? 建物の被害? そんな状況何回もやってきた。人を殺さない事も含めてな。お前みたいに格下相手にやり合ってるわけじゃねぇんだわ。常に強い奴を探し求めてきた。その最終地点がマスターだ。それを目指すためならこんな低いハードルいくらでも踏み台にしてやんよ!」


 神速の速さで一気に間を詰める。そして地下牢を抜け地上へ登り、思い切り男をぶん投げて窓を超え外に出た。


「これでハンデなし。対等だ」


「ふはっ。面白れぇじゃんか。なら俺の力をくらえ! 来い、デモンズシフト!」


「ん……?」


 相手はテイマーである事がわかった。さっきの発言から幻覚を起こす悪魔。しかし何か起こるわけでもなくただいつもと変わらない感覚。


「ラウラ。俺の考えてる事、わかるな? なら頼む」


 地下での戦いと同じならいくらでも対策できる。なら今はやるべきことを優先する。そのためにラウラをこの場から離した。

 そして目の前で余裕をかます男に向かい剣で切った。確かに横腹を狙ったはずなのに切った感覚が一切ない。何度も剣を振り仕組みを探った。


「おうおう、どうしたんだよ。攻撃が全く当たらねぇなぁ」


「時期わかるさ。いや、もう9割5分解決してる。後は実践のみ。それで残りは埋まる。行くぞ!」


 この男の対策は意外と簡単なものだった。当たらないという意味では非常に厄介。だがそれ以外では何ら意味も役にも立たない下級の悪魔だと言うこと。男側に近づきいつもより硬貨1枚分深く、踏み込みと剣の切っ先を仕向ける。

 男の横腹は見事に斬り裂かれ、血が川の流れのように出てきた。男はその場で倒れこみ不気味な笑い声が外に響いた。


「案外あっけなかったな。商売ばかりで腕に技術がない。奴隷商人やるならもっと鍛えておくべきだった」


「ハハハハハ! たがもう終わりだ。俺も、お前も!一級の冒険者に比べたら俺は弱い。んなこたぁわかってる」


ポケットから何かを取り出しボタンを押した。


「スイッチはもう入れた。まとめて道連れにしてやる!」


「何言って……」


 とんでもない魔力を肌で感じた。周囲を見渡しても何もない。


「何もない……。ということは……!」


 だんだん近く脅威にすぐに気がついた。真上に発光する魔力の塊が落下してしてくるのを。

 逃げたとしても周囲を巻き込むだろうからおそらく無理だ。


「オロチ、ここら全体を守れ!」


 無茶なのはわかっている。だけど自身だけ生き延びることが許せない。ならば、壁は薄くなるが館全体を覆い少しでも軽減に努めれば、何か変わるかもしれないと、そう思った。

 俺は全ての魔力を防御に回し、落ちてくるその瞬間まで祈った。



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