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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第4章 ヴェストフォル王国
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4-6.『魔眼と魔法師団長』

 入団して1ヶ月、任務をこなしていえ気づいたことがあった。俺はそれなりに名声があるとはいえ、入りたての下っ端だから基本領土内の魔獣の掃討だが、それと同時進行で行われているのは薄い円形の魔法道具を地面に大量に埋めていることだ。他の団員に聞いても教えてくれない。掘り起こそうとするとかなり怒られた。ある程度予想は出来るものの真の理由を知る由もなく淡々と任務をこなした。

 任務を終えるとまず場内にある私室にて任務の記録を記し、その後自宅に戻り昼食を食べに行く。

 自宅近くの飯屋は野菜をふんだんに使ったスープとリゾットが売りの店だ。これがまた美味い。いつも決まった、といってもまだ数回しか行ってないが、カウンターの1人席で野菜スープを頬張る。

 すると、


「なぁ、双竜のあんちゃんだよな?」


 隣の席に座ってきた男が突然話しかけてきた。


「そうだけど……」


「あんたに聞きたいことある。オイは漁師をやっとるんだが、ここ何十年も漁に規制がかかってんだ。何とかやっていけなくはないが漁獲量も減って収入も減って今生活はギリギリなんだ。遠洋しようとしても国からは許可は出ないし。この国はどうなってんだ?」


「入りたてホヤホヤの人間に聞いても仕方ないだろう?」


「あんちゃん以外に聞ける人もいねぇんだ。双竜は元は外部の人間だしよ。それにオイだけの問題じゃねぇ。他の漁師の中にはまともに活動出来ず潰れちまったとかもある。輸入で海産物を補っているがそれにも限界がある。だからお願いだ。この国の現状を教えてくれ」


 座りながら頭を下げ懇願してくる。この男はまともだろう。何とかしてくれ、ではなく状況を教えて欲しいだけなのだ。


「俺もしっかりとわかってない。けどその中での予想はある程度立ててる。その範囲内でいいなら」


「あぁ、構わねぇ」


「海ってのは他の国同士の行き来に使われる。謂わば橋だ。その橋を規制していること。そして最近領土内で土の中に何かよく分からないものを埋めていること。そしてその付近の人に何やら冊子を大量に配っていること。後は国境付近をやたら強化してること。それらのことから思い浮かぶのはおそらく戦争。或いは敵の進行を防ぐための防護。どっちにしろ争いだろうな」


「まさか、この国がそんなこと……」


「あくまでも予想だし、確実性がないものに過ぎないから信じる必要なんてないさ。あんたは今まで通り規制されてる中での仕事に取り組むしかないよ」


「あんちゃんがお上に何とか言うことは出来ないのか?」


「できるわけない。俺は新米だしその辺の口出しはご法度だ。それにここで食ってる暇あるなら仕事、早く行った方がいいんじゃないか?」


「わかってる。双竜のあんちゃんが最近この場所で飯食う噂あったからよ。どうしても聞きたかったんだ。迷惑かけた。じゃあな」


 男は会計を済まし帰って行った。元の世界もそうだが、その中はとても世知辛い。

 家に帰ると扉の前に三厳が待っていた。そして魔法師団が呼んでいると言うので修練場に向かう。

 この1週間の間、任務の有無に関わらず毎日試合をしている。未だ勝つことができていない。


「遅かったですね。では始めます」


 魔法師団長は抜刀の構え、俺は剣を抜き剣先を彼女に向けた。そして三厳の合図で試合は開始された。初手からエンジン全開、ハイスピードで試合が進行されていく。剣の実力はあまり差がない。だからこそ攻めきれない。アッド<ストレングス>の魔法を使用してもすぐに対策されてしまう。逆に彼女は俺の知らない魔法をガンガン使ってくる。


「はぁぁ!」


 剣と剣が強く打ち付けあった。その時の金属音が魔法で増幅し俺の集中力をひどく乱した。その隙に足を払われ態勢が崩れて地面に尻が付いてしまう。


「終わりです!」


 剣先が俺の視界に映った。その瞬間、まだ終わりではないと心の中で叫んだ。

 カグツチで爆発を起こし、黒い煙で魔法師団長の視界を遮った。その間に態勢を整えて、あることの準備を行う。

 煙が晴れ互いの目が合った瞬間、先に動いたのは俺だ。超スピードで動くことができる魔法で魔法師団長を撹乱させ狙いを定めさせないようにあちこちに動き回る。そして俺の動きに付いてこれないとわかった時、攻撃を仕掛けた。魔法師団長はモア<ディフェンス>で守りの態勢を取った。


「開け! 魔眼ニーズヘッグ!」


 レオンが死ぬ間際に授けてくれた邪竜の目。その効果は視界に映る自分以外の魔力的効果を無効化すること。黒い瞳をしていた左目はその声に呼応し黒から黄色へと変色した。そして目は瞳に映した魔法をガラス窓が割るかの様にそれを打ち消した。彼女は動揺したがもう遅い。蹴りは確実に彼女に直撃した。


「まさか魔眼を持っているなんて……!」


 もう余裕がない様に見える。それはそうだ。魔法を打ち消され蹴りが直撃したのだから。


「驚きました。しかし魔眼には欠点があるのはご存知でしょう」


 そう、魔眼にも欠点がある。それは乱発できないこと。魔力の大幅に消費。本来自身の目ではないものを移植して使用している。負荷がかかり、目が少し霞む。これが常時発動型なら別なんだが。


「今日はここまでです」


「俺はまだやれます」


「目がしっかり見えてないあなたと戦うのはこちらとしてもやり甲斐がない。ですが驚いたのは本当です。また戦いましょう。それと三厳、あとで私の部屋に来なさい。他の隊長格の人にも伝言があります」


「はい、姉さん。すぐに行きます!」


 魔法師団長は修練場を出て行った。それと同時に俺は膝を崩し地面に倒れた。


「無茶しすぎっすよ、先輩」


「あれくらいしないとあの人には勝てない。こっちは全力だってのにまだ何か隠してるな、魔法師団長は」


「そりゃ神器も出してないっすもんね」


「神器持ちかぁ。こりゃどれだけ気合入れても勝てる気がしない」


「おっ、意外と弱気っすね」


「弱気にもなるさ。まだ勝ててないんだし。それより行かなくていいのか?」


「行かないとやばいっす。じゃあこれにて」


「おう」


 三厳も出て行った。


「……」


 悔しい。魔眼を使っても勝てなかったことがとても悔しい。あの人に勝つにはどうすれば良いのか全くわからない。どれだけ攻撃してもすぐに立ち上がるその強さ、どこから来るものなのか。それに隙を殆ど見せない。魔眼を使って始めてまともにダメージを負わせたということはそうしないとあれを突破できないということ。


「……あぁぁぁ! 考えても仕方ない! 部屋に戻ろ……」


 くしゃくしゃにした髪の毛を整えて部屋に戻った。

 3日後、この日は少し曇り空。任務もなく私室のソファーで高校生の休日の様にだらしなく死人の様に倒れ半目で窓から外を見ていた。

 いつもなら三厳か他の魔法師団の人間がやってきて魔法師団長と試合をしているはずの時間なのに一向に誰も来ない。むしろ寂しいと思うくらいだ。たった1ヶ月だというのにそれなりに濃い日常をしていた証なんだろう。

 遠くの方で雷がゴロゴロと鳴り始めた。そんな時に扉をドンドンと強く叩かれ、ゆっくり身体を起こし扉を開けた。扉の前には三厳が血相を変えて前に立っていた。汗を沢山かき両手を膝に乗せ、はぁはぁと息を切らしていた。


「どうしたんだよ」


「先輩、姉さんが、姉さんが!」


「魔法師団長がどうしたんだ? ていうか一旦深呼吸しろ。落ち着いて話すんだ」


 何かあることは三厳の顔を見ればわかる。


「で、魔法師団長がどうした?」


「姉さんがさらわれたんだ! ついさっき!」


「はぁ!?」


 あの人が、あんな強い人がさらわれる? そんなことがあるわけないと内心思った。しかし三厳が嘘を言っているとは到底思えなかった。



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