4-5.『異世界人』
「今から俺と勝負っす!」
「はぁ!?」
何の脈絡もなく勝負を仕掛けられた。この少年と関わったことなんて身に覚えはない。強いて言うなら入管の時のみだ。なのになぜ勝負なんて。
「待て、何で勝負しなきゃならないんだ。俺と君とは入管の時しか会ってないだろう?」
「確かにあの時あんたを見た瞬間、あの噂の『双竜』がこの国に来たんだと、すげー興奮しました。でもそれとこれとは別! あんたは姉さんと2人で密会してイチャイチャと……。あの場所で何してたっすか!?」
姉さん? 魔法師団長の事か?
「魔法師団長とは普通に試合しただけだ。イチャイチャとかあんな場所でできるわけないだろ」
「あんな場所、と言うことはそれ以外ではできると言うんですか!」
「何でそうなんだよ! そもそもそんな関係じゃない」
ダメだコイツ話通じない。
「もう分かりました。あんたを敵認定し、今、ここで成敗します。俺の姉さんを奪った罪、ここで償え!」
少年は腰に添えてあった剣を抜き、構えてきた。
「いや待て。おかしいだろ!」
「おかしくないっす。もう分かってるでしょ? 俺も向こうから来た日本人。ならば、日本男児がこうして向かい合ったら互いが果てるまで戦うと!」
「どんな風習で時代だよ! そんな身勝手あってたまるか!」
「問答無用、勝負! やぁぁぁ!」
突っ込んできたが見るからにまだまだ素人に近い動作をしている。俺はその剣を手で受け流し、3発軽く腹を拳で殴った。そして4発目、殴った瞬間に男は後ろに吹き飛んだ。
「あまり無関係なやつに暴力は嫌なんだけど、まぁこれくらいは勘弁してくれ」
今のはアッド<ストレングス>のパンチバージョン。俺がラウラと共に改造した。
「さすが双竜。一筋縄ではいかないな」
それなりの強さで殴ったはずなのになぜか意外とピンピンしている。
「ならこれをお見舞いしてやる 」
突然視界が真っ暗になり、床が消え落ちていく感覚が全身を走った。
「ラウラ、重力操作で浮かせてくれ!」
落下していく速さと上に浮遊する速さを同等にする事で一時的に空に浮くことができる。はずだった。
気がつけば顔から足の先まで鈍器で全身を叩かれた感覚があった。痛くはない。けれど何かに強くぶつけた感覚はある。
そしてドサッと投げつけられた荷物のように床に転がった。何が起きたのかは建物の天井を見れば分かった。俺は浮遊してそのまま天井に叩きつけられた。しかし、微調整までして浮遊できるよう魔法を使ったはず。それでも俺は天井に叩きつけられた。だとするとこれは、
「幻術か……」
「正解です。同じ出身のよしみで名乗らせてもらいます。俺は宮廷魔法師団第3部隊長、幻術特化魔法士 生駒三厳。国王より与えられた名は『夢幻』」
幻術特化魔法士の『特化魔法士』とは大陸協定の中に記載されているきちんと決められたものだ。数ある魔法の中でたった1つのことに秀でている者を指す言葉。そして1つのことを極限まで鍛え上げた者を指す。幻術は補助系の魔法。補助でありながら敵に対して掛けられる。
「厄介な相手だ。けど、特化魔法士なら少しくらいは相手してやる」
「その上から目線、いつまで続けれるんすか。もうあんたは俺の術中! 今度こそ逃げ場はない!」
「ラウラ、ダーク<ブラックアウト>!」
突然倒れ身体が死人の如く床に倒れた。
ほんの数秒、意識を失った身体はピクリと動き、目をパッと開けナルカミの力を使い神速の速さで三厳の背後を取る。
「行け! カグツチ!」
カグツチの爆発で三厳を吹き飛ばす。吹き飛ばした先に先回りし抜刀の構えをする。三厳も無理に態勢を作りナルカミの雷を伴った抜刀を受けきり、受け身をしながら距離をわざ取った。
「ブラックアウト……。まさかそんな方法で俺の幻術を解くなんて。もうあんたを侮らない。本気も本気、俺の実力、見せてやる! 来い、大鏡チャタル!」
手のひらには赤い魔法陣が出現し、バチバチと音と光を上げた。するとそれから丸い鏡が現れた。鏡には美しい装飾がなされおり、鏡に反射される背景はどこか歪んで見える。
「神器限定解放! さぁ来い、風神・雷神!」
鏡からは風を纏った人型と雷を纏った人型のゴーレムのようなものが現れた。目も無ければ口も耳もない。ただ戦闘に特化したゴーレムのような。
それよりも気になることがある。あの雷神と呼ばれるゴーレムからはレオンの気配がする。そして風神の方は魔法師団長の気配が漂う。これは偶然か。そんなはずない。あの雷のゴーレムから感じるものはレオンそのもののようだ。
「おい、その雷は何なんだ?」
「何なんすかね。勝てば教えてあげるっす」
「そうか、なら終わらせてやる」
剣を鞘に納めて、また抜刀の構えをする。
瞬足の速さから繰り出された抜刀は風のゴーレムを瞬時の内に真っ二つにし、続いて雷のゴーレムもその速さを持って斬り払った。三厳も余りの速さに動揺した。しかし闘志はまだ衰えていない。
「神器解放!」
雷を纏った三厳は俺と同じ速さで剣と剣を交わらせる。さっきまでの素人剣とは打って変わり、あの魔法師団長そのままの剣術で相対する。さらにこの戦法はレオンを彷彿とされる。
ハイスピードで行われる剣戟は終わることを知らず何度も打ち付けられた音が修練場に響く。
そして互いが床に足を落とし、また相対する瞬間、
「両者そこまで!」
という声が聞こえた。あと一歩のところで剣を引き3歩後ずさった。
「環さん、何で止めるんすか! あとちょっとやったのに!」
「何でって、今は味方同士。仲良くしなきゃあかんやろが!」
なぜか懐かしくなる言葉の響き。その男を見ると少なくとも俺よりも年上で、聡明そうで、見た目だけならそんな大声を出さなさそうな優男だ。
「悪いな。三厳が世話になった。僕は能登 環。君と同じ日本人や」
「俺のこと日本人てわかるんですか?」
「何となく。アシハラの人間ぽいけど何か違うとことか。あとは噂だな」
環と名乗る男は三厳に近づき頭を抑え無理やり頭を下げさせた。
「申し訳ない。多分やけどこいつの早とちりでこうなった。謝罪する」
「いや、大丈夫です。それに俺も少しやりすぎたと思いますので」
「それならいいんやけども、まぁ立場ってやつ。一応こいつ部隊長任されてるわけやから、少しは礼節になってもらわんと困るんだわ」
「環さん、痛い痛い!」
兄弟を彷彿とさせる距離感をもつ2人。少なくとも環という男は悪い人じゃなさそうだ。
「仲良いんですね」
「まぁ年齢的に弟みたいな感じやし」
「弟じゃなくて俺と環さんは友人っすよ」
「ならもうちょい、僕の友人としてあるべき態度取ってくれへんか!」
「いだだだ!」
「あはは……」
その後、環さんが間に入ってくれて何とか色々誤解は解けた。それからというもの、三厳は俺のことを先輩と呼び場内では大抵一緒にいる。というより勝手に側にいる。
能登環、現在26歳。実は小学校、中学校が同じだ。そして高校現役時代に日本屈指の難関大のK大に現役で入学し、20歳の時こっちの世界にやってきた。1年間歩き回った末ヴェストフォルに身を寄せることになる。向こうでの経験と本を読み漁った知識と技術にてラボを建て、そこで魔力で動く車を発明。それにより流通が劇的に変化。その功績を称え、国王自らラボに赴き現在は開発担当大臣になっている。
生駒三厳、現在17歳。出身地は違うが祖父母の家が実は俺の家の近くだったりする。祖父母の家に帰省中こちらの世界に迷い込む。数日後魔法師団長に保護されヴェストフォル王国へ。才能を見出され当時副団長だった彼女のコネで魔法師団に入る。しかし未成年(この世界では15歳が成人年齢)であったため一時保護者付き。場内で環さんと出会い同じ異世界人ということで意気投合し以来一緒にいることが多くなった。去年に第三部隊長に任命された。




