4-4.『魔法師団長』
初任務を遂行し国に帰ってきた。騎士が帰還した場合、メインストリートにて凱旋が行われる。俺はナルカミに乗って不器用ながら手を振りながら王城に戻った。
王城にある私室のソファーにだらしなく寝っ転がり一先ずの休憩を得た。すると突然タイミングを狙ったかのように扉が叩かれた。扉を開けると魔法師団の服装をした男が立っていた。
「双竜。魔法師団長がお呼びだ。今すぐ修練場に来い」
修練場とは騎士又は魔法師が己を磨く練習場所。
ただなぜ魔法師団長が俺を呼びつけるのか、それが分からない。見たことはあるが会ったことも話したこともないのに。
修練場の入り口に着くと魔法師の男はここからは1人で行けと言うのでそれに従った。扉を開けて廊下を抜けるとそこはドーム型の修練場。その中央には金色の髪を持ち、色白で、グリーンアイ、端麗な容姿の女性が立っている。
「来るのが遅かったですね」
「はぁ」
丁寧な話し口調で言ってきた。
「私の名前は宮廷魔法師団長アイリ・エーヴェルト・ノート。なぜここに呼ばれたかご存知ですか?」
その理由がわかるなら俺はこんな困りはしないだろう。分からないから頭の中は疑問だらけだ。
しかし少しの間彼女を観察しているとある部分に目を見開いた。
「その耳飾りは……!」
「あなたと同じガーネットの耳飾り。色は緑ですが。そうです。私も六連一刀流の使い手。ならばもうわかるでしょう。同じ流派の剣士同士がこうして面と向かい合ったなら。さぁ、剣を抜きなさい。手加減は不要です」
魔法師団長が剣を抜くとそれは柄だけの奇妙な剣だ。むしろ剣なのかすらわからない。しかし少しして柄の先が光を帯び、見る見る伸びていき半透明の刀身へと形を成した。
「剣が無いならお貸ししますが?」
俺は今剣を腰に添えてない。だからそんな言葉が出たのだろう。けれどこれでも双竜と呼ばれ、つい最近までは一端の冒険者だ。
肩を2回叩き剣を取り出した
「剣を持って無いとか、ありえないでしょう」
俺が持つ武器“オロチの剣”。純白で傷1つない頑丈な剣で2年も共にする愛剣だ。
魔法師団長はポケットから銀貨を取り出した。
「この銀貨が床に落ちた瞬間試合を始めます。勝利条件は負けを認めるかその状況に持ち込むかの2つのみ。よろしいですか?」
「はい」
魔法師団長は銀貨を弾いた。その瞬間に俺たちは柄に手を当て抜刀の構えをした。
銀貨はクルクルと空中で回転し床に落ちた。先に動いたのは魔法師団長。お互いが抜刀術を得手とする場合、状況的にとてもやり辛い。俺は剣を抜き、抜刀術で攻撃してくる剣をギリギリの距離で躱し、六ノ型で一気に決着を付けにいく。全速の六ノ型『填星』を放ったが瞬く間に魔法師団長は目の前からいなくなった。
「遅い!」
魔法師団長に背後を取られ、二ノ型『閃雷』という突き技を繰り出した。彼女の剣は風を帯び、それは周りの空気すらも取り込んでいくのがわかった。その剣を俺は剣の側面で受けたが、剣と剣が接触した瞬間に風は暴風に変わり後方に勢いよく吹き飛んだ。壁にぶつかり背中を強打してしまった。
「今のは魔法……」
魔法師団長は1歩ずつ近づいて俺の目の前まで来た。
「何を今更言うのですか。六連一刀流は最初から魔法や使い魔有りきの剣術。あなたはそれを忘れてしまったと?」
単純なことに気が付かなかった。精々魑魅か、身体能力向上魔法のみの純粋な戦いだと思っていた。彼女の言う通りこの剣術は元から使い魔あってこそ。ならば俺の全力を叩き込む!
「来い! ナルカミ、カグツチ!」
2体の竜が俺の周りを螺旋を描いて出現した。
然しもの魔法師団長も突然の出現で距離を取らざるを得ない。
相手が魔法師団長なら俺も少しは本気を出さねばやられる。足の幅を少し広げ、腰を下げ、片手で持った剣の先を彼女に向けた。彼女が瞬きをした時、目の前から消え気がつく頃には腹に蹴りを入れた。魔法師団長は激しく飛んで行った。
「今、のは……」
「南の大陸のある部族が得意とする狩猟方法。3歩で敵に近づき、1歩地面を蹴る毎に力を蓄え、敵を貫く攻撃魔法、ダーク<アッド>ストレングス。六連一刀流と相性が抜群に良いのでよく多用する魔法の1つです。そこにナルカミの速さ、カグツチの爆発力を加えてあります」
「なるほど、流石に効きました。魔法が使えるという噂は本当だったのですね」
魔法師団長は立ち上がり、すぐに剣を構えた。抜刀術の構えでない。剣先をこちらに向けている。
「はぁあ!」
剣が突然伸びて襲ってきた。間一髪のところで顔を傾けて躱したが少し反応が遅かった。頬が切れ血が流れ出てくる。
魔法師団長はすぐに間合いに入り剣を振り上げた。剣で受けようとしたが彼女の剣はすり抜けたのだ。刃が俺を襲う、はずだった。
ドォン! と爆発しお互いが吹っ飛んだ。
「まさか、あなたは……!」
「はぁはぁ……」
「一瞬の内に刀身の刃を変換させ、自分の魔力とし、火の使い魔を通して爆発を起こしたと。確かに私の剣は魔力の塊。可能ではありますが……」
そう。俺は彼女の持つ刃を変換で自分の魔力に変えた。刀身自体が魔力で編まれているなら不可能じゃない。けれどこれには大きなリスクがある。
「どうやら今の1回でかなり身体に負担をかけるそうですね。見ればわかります」
元々他人の魔力を自身の魔力に変換することはそれなりに負担を要する。例えば、臓器移植をした場合、拒絶反応を起こす。言うなればそれを無理やり抑えているのだから当然負担がある。
魔法師団長は待ってはくれない。間髪入れず先程と同じように剣を透かせてくる。その度に爆発を起こし何とか急場をしのぐ。けれどこんな事していては身が持たない。ならば一撃でダウンを決められる技で彼女の死角を狙い撃つ。
彼女は俺の雰囲気を感じ取り無闇に攻めてこなくなった。そして何かを小さな声で唱えた。おそらく防御系の魔法。何か仕掛けてくるのがわかっているからそんな行動に出る。
1歩目、真下の床を蹴った。それと同時にナルカミの速さを加える。
2歩目、さらに力強く床を蹴る。そしてカグツチの爆発力を加える。同時に魔法師団長の背後に向かう。
3歩目、自身の方向を回転して変え、彼女の背後を取り完全な間合いに入った。
最後、蹴る動作に全てをかける。身体を捻り魔法師団長に蹴りを入れた。しかしそれは見事にかき消された。蹴っているのは風のバリア。しかも足に装備している防具を破壊し生身の足の肉を削ぎ落とす。その頃になると勢いが消え、ドサリと床に落ちた。
痛覚麻痺で痛みはない。が、血が流れ出て止まらない。
「私の勝ちです」
「俺の負けです。最後の魔法は何ですか。ただの風のバリアじゃないはずです」
「攻撃力が強ければ強いほど比例して硬度が増す防御魔法。エア<モア>ディフェンス」
聞いたことがない魔法だ。ということはオリジナル魔法ということか。
「では、これにて」
魔法師団長は澄まし顔で去っていった。
「待ってください。まだ聞きたいことが――!」
「あくまで私は同じ流派を使う剣士としてのあなたを見ていただけ。本来のあなたは『双竜』でありテイマーです。そして私はテイマーが嫌いです。日常において話掛けないでください」
そう言い残してこの場を後にした。
テイマーが嫌いと言われても疑問符がつく。確かに俺はテイマーだ。だからってほぼ他人の俺を嫌いって言われても困る話だ。
「ありがとう、ラウラ」
ラウラとはウィッチクラフトが人間だった時の本名。レオンの死後彼女と話す機会を設け、知った名前だ。
ラウラは怪我をした足を治療魔法で直して部屋に戻った。
私室の扉と床との間の僅かな隙間に一枚の紙が置いてあった。拾って見ると大きな文字で『第2修練場に来るように!』と。そして言語は日本語で書かれている。筆跡も初めてこの国の王都に来た時入管をやっていた人物だろう。気になっていた存在だ。行く価値はある。
第2修練場とは先程魔法師団長と戦った場所より少し小さめの修練場。使用用途は同じだ。
入ると男が立っていた。一定の距離を置き止まった。すると、
「あなたが双竜の拓人さんですね」
「まぁ、そうだけど」
男は拳をぎゅっと握りしめ、血相を変えて、
「今から俺と勝負っす!」
「……はぁ!?」




