4-3.『近衛騎士団』
2年前ではありえないほどの余裕と技術を持って武闘会で優勝を飾った。鳴り止まぬ歓声に両手を振って応え、ある程度収まるまで振り続け会場裏に戻った。
控え室に戻ると預けていた剣が置かれ、それを腰に添え忘れ物がないか確認をし、帰ろうと扉を開けようとすると反対側から突然それは開かれ、目の前に現れたのはあの騎士団長ともう1人女性騎士がいた。
「どうも」
俺は頭を下げ横を通り過ぎようとすると肩を掴まれ止められた。
「ここに俺がいる理由分かっているだろう?」
「まぁ。でも今のところ騎士になるのはご遠慮させてもらいます。やりたいことがあるので」
「そう言うな。条件くらい聞いてくれてもいいんじゃないか?」
「……わかりました。条件を聞くくらいなら」
「オーケー。聞いた後は双竜の判断に任せる。入団を拒否してくれてもいい。ここを出てすぐの所に喫茶店がある。そこで話そう」
騎士団長の付いて来いという言葉に従い俺は付いて行った。
喫茶店の中は誰もいない。おそらく騎士団長が貸し切ったのだろう。騎士団長に窓際の席に案内されると頼んでもないコーヒーがスッと出された。
「コーヒーは苦手か?」
「いえ、飲めます」
一口飲むと程よい苦味と酸味が口に広がり乾いていた喉を潤してくれた。
「美味いだろ? この国1番の喫茶店だ。……まぁそんなことは置いておいて、話をしよう。双竜、騎士団に入る気はないか?」
「条件を提示してくれないと何とも」
「そうだな。まず双竜の希望を聞こうか」
「少なくとも月に金貨100枚は欲しいですね。あと住居もあれば」
*金貨5枚=純金貨1枚なので純金貨20枚分。これだけあれば1ヶ月は余裕で暮らせる。さらに貯金も可能な金額だ。
「なるほど、双竜は意外と謙虚なのかな? 他の者なら純金貨50枚や60枚くれと言う者も珍しくないというのに。いや、これは――」
少し笑い気味の騎士団長。隣の女性騎士が肘で突き諌める。
「こちら側は純金貨50枚の予定だったんだ。双竜なら高い金額を提示してくると思っていたが……」
純金貨50枚……。
「ん? 双竜、聞こえてるか?」
純金貨50枚………………。な、何だってぇぇぇぇーーーーーーー!
かつてアシハラノクニでの報酬でもらった額以下だがそれでも大金。それを月一でもらえるなんて、こんなの受けるしかないだろうが!
「入団します。今すぐに! 入団します!」
「かの双竜も金には飢えているようだ」
俺は昂ぶる気持ちを諌めるコホンと1回咳をたてゆっくり椅子に座った。
「まぁ冒険者が稼げる額なんてしれてますから」
「その気持ち、わからないでもない。さて双竜、入団おめでとう。俺は知ってると思うが名前はヘンドリック・デルプフェルトだ。で、こっちが――」
「副団長のリーゼロッテです」
「と、言うわけでだ。明日、叙任式を行い正式にこの国の騎士になってもらう。その時に色々と説明をすることとする。今日はここで解散だ。明朝、王城に来るように」
「はい」
騎士団長及び副団長と別れホテルに向かい、すぐに風呂に入った後ベッドに飛び込んだ。枕に顔を埋めしばらくはその状態が続いた。
身体を180度回転させ仰向けになる。喜びで今も顔がにやけてしまう。純金貨50枚、はっきり言うと破格の値段だ。月に純金貨10枚あればギリ暮らせる。残り40枚は貯金というわけだ。
その日は中々寝付けなかったが、太陽が昇る少し前に身支度をして王城に向かった。
城の中を案内され、着いたのは騎士団長の部屋。すでに鎧を身に纏い髪の毛も決まっている。
「少し早すぎなんじゃあないか?」
「何事も早く行動した方が準備時間を多く取れるでしょう。それに騎士団長ももう準備済みじゃないすっか」
「俺はいつもこんな感じだ。早く来たならちょうどいい。儀礼鎧のサイズを確認しておいてくれ。そこの部下に全て任せてある」
騎士団長は俺の後ろにいた騎士に指差した。その騎士はこちらですと俺を案内した。
叙任式本番、場所は王室で行われる。王族、貴族、その他来賓の者達がズラッと並び式を待ち遠しくしている。
「さて、双竜。ついに本番だが、これだけは言っておく。陛下のお言葉は肯定しておくことだ。騎士になるための誓いの言葉もあるが、後は気楽にやればいい。ただ粗相はするなよ」
「分かってます」
扉は開かれ視界の一直線上には国王マグヌスが鎮座している。
「それと俺は『双竜』じゃなくて、相羽拓人です。では行ってきます」
「おう、行って来い」
2頭の竜の模様が彫られた銀の儀礼鎧を纏い、両側に立つ貴族達の視線も気にすることなく国王の前までゆっくり歩く。
「これより『双竜』タクトの騎士叙任式を行う。叙任される者は前へ」
俺は国王がいる上座に行くために階段を登り、あと一段というところで足をため両膝を着いた。国王は立ち上がり剣を肩に当てた。
「其方はこの世全ての秩序あるものとするために剣を握り、その闘志を持って悪を退き、勇気を持って民を奮わせ、礼儀を重んじ、信念を貫き、高潔さによって我が国の剣となる事を誓うか」
これが騎士になるための誓い。騎士のための誓いをここで立てる。
「私はこの国の剣となり、この命尽きるまでこの国を守り通すことを誓います」
「ならば其方には『双竜』の名を与え、これよりその名に恥じぬ行いをする事を命ずる」
「その名、心より頂戴いたします」
国王は肩と首を3回軽く叩き終えると剣を差し出し、俺は頭を下げてそれを受け取り、階段を下りた。そのまま王室を出て叙任式は閉会を迎えた。
「おつかれさん。剣と鎧はお前が持っておくように。正式な場所では着用が義務化されている。少し休憩してこの場内での立ち位置とか色々教える」
「わかりました」
俺は肩を2回叩き使い魔キャリアポートに剣と鎧を収納しいつもの旅装に着替えた。
「たまげた。お前のそれ、ダリア王国の人工精霊なのか?」
「はい、そうです。大賢者と少し繋がりがあって譲ってもらいました」
「はは、マジか」
「マジです」
人工精霊キャリアポートは実はかなり高額。その辺の冒険者がすぐに稼げる値段ではない。この国ではおそらく俺くらいしか持ってないだろう。それくらい高額で貴重なものだ。
休憩後、場内を詳しく案内してもらった。
「本来『双竜』や、俺なら『金剛』という名前は全ての騎士に与えられるわけではない。強さと実績がある者のみに与えられる物だ。ちなみに今回は特例でな、強さなら申し分ないから少し無理を通させてもらった。で、名がある者はこのような私室をもらえる」
部屋の中は執務用の机、背の低いテーブル、ソファー、空の本棚だけがあった。ワンルームくらいの広さだ。
「今日からここはお前の部屋だ。好きに使うといい」
「わかりました」
次に案内されたのは騎士が普段鍛錬を行う場所だ。王城とは別棟でそれなりの広さがある。そこの筋トレ室に来た。
「おい、エドガー」
筋骨隆々で、肌が黒い大男が汗水垂らして必死に筋トレをしている。団長の声が聞こえるとすぐにやめ、台から立ち上がった。目の前に来るともっと大きく見える。身長2メートルはありそうな巨大な体。それを余す事なく鍛え上げられた綺麗な筋肉。まるで巨人のようなスケールだ。
「すごいだろ。俺より身長高いんだ。こいつはエドガー・ボレリウス。俺の直属の部下で、『紅玉』という名が与えられている。で、こいつがお前の上司になる」
「話は聞いている。エドガーだ。よろしく」
ダンディーな声がとても似合う男だった。
「後はエドガーに任せてある。頼んだぞ」
「お任せを」
団長はどこかに去っていった。残ったのは俺とエドガーの2人。
「双竜、お前は私に驚かないのか?」
「と、言いますと?」
「肌、黒いだろ? 俺は南の大陸出身でな、東の大陸じゃ見ないと思うのだが?」
「俺のいた世界でもあなたのような人はいましたし、この世界でも会ったことありますので特には驚きません。強いて言うならその体躯には驚きましたが」
「ということは双竜は異世界人なのか。それは初耳だ」
「まぁ、自分からは言いませんので」
「それもそうだ。では行こうか。団長からは2つ頼まれ事がある。1つ目は騎士団の仕組みだ。ここでは団長率いる大隊と副団長率いる大隊がある。さらにそこから計8つの中隊もある。私は団長から一個中隊を任されている」
歩きながら説明される。つまり、大隊と中隊の2つあって俺はエドガー率いる中隊のメンバーということ。任務を遂行するために小分けにして行動範囲を増やすためだろう。
もう1つの頼まれ事は俺の住居だ。場所は王城からほど近い街中にある一軒家。と言っても隣の家の間隔は数センチ程度で、扉を開けると目の前は道路だ。近くには食堂もあり、八百屋もあるから物件としてはそれなりにいい。
「鍵を預けておく。これから双竜はこの国で暮らすことになる。その覚悟はいいか?」
エドガーが家を出る前にそう言ってきた。そんなのはもう分かっている。それに叙任式だって済ませた。後はなるようになるさ。
「もちろん。これでもそれなりに修羅場潜ってますからこれから起こることなんてどうってことないですよ」
「頼もしいことだ。正式な任務などは明日からだ。今日は明日に備えておくように」
エドガーは扉を閉めて去っていった。
家のカーテンを全開にして太陽の光を家の中に取り込むとある事実に気づいた。
「部屋、汚すぎ!」
こうしてその日は家中の掃除に費やされた。
*銅貨100円
銀貨500円
金貨1000円
純金5000円
銅貨5枚=銀貨1枚 金貨5枚=純金1枚
銅貨10枚=金貨1枚
銅貨50枚=純金1枚
銀貨2枚=金貨1枚
銀貨10枚=純金1枚
上のものはあくまでもイメージです。そもそも円に換算するのもナンセンスですが大体これくらいがちょうどいい具合なのかと思い設定しました。
最初に『1週間の食費を考えると大体1万円、それを4ないし5週間分と考えると月5万の食費。冒険者は最悪野宿、魔獣の肉を食べれば食費浮くのでこれくらいあればギリ暮らせる』という想像の元組まれました。
拓人は月給純金貨50枚なので大体25万円。年間300万ほどです。最初は、「あれ、安すぎね?」とか思いましたが、まぁ異世界なので物価安くても……とか考えるとこの世界デフレ過ぎという考えに行き着きましたが、最終的にキレイな数字なのであれこれ考えないという結論に至りました。




