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パラディン・ベルヴェルク 〜転移した世界で最強を目指す〜  作者: 天月 能【あまつき あたう】
第3章 雷鳴は夕暮れと共に
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3-5.『依頼No.2 ②』

 眼が覚めると時間は19時過ぎ。4時間くらいは寝ていた。相変わらず場所は異世界ではなく実家だ。変化はなく、夜の街の風景も今まで通り。

 下に降りると父さんはあぐらをかき静かに新聞を読んでいる。台所に行くと母さんがせっせと晩御飯の準備をしていた。


「母さん、何か手伝おうか?」


「んー……じゃあ、お皿出してくれる? 今日、お隣の橘さんの旦那さんが和歌山に釣りに行って沢山釣れて食べきれないから分けてもらったのよ」


「へぇ〜よかったじゃん。また何かお返ししないと。で、魚だからこの皿と、茶碗もついでに」


「ありがとう。拓人はもう座ってて。時期に持っていくから」


「うん」


 ご飯を作るのは基本母さんの役目だ。むしろ切り物を手伝おうとすると私がやる、の一点張りで絶対に手伝わせてくれない。台所は私の領域と豪語するほど料理に力を入れている。

 座布団の上に座りまたボッーとしていると、


「拓人。最近はどうなんだ」


 と父さんが言ってきた。

 最近は異世界に行って旅してました。なんて言えるわけがないから、


「最近はまぁ、普通かな。いつも通りだよ」


 普通の生活なんてしてないがこうとしか答えようがない。


「そうか」


 父さんも寡黙で厳しい人だ。でも子ども、特にあのクソ兄貴にはとことん甘い。俺は父さんの関係で弓道を始め、それで沢山しごかれた。昔は兄貴もやってたらしいが続かなかった。それで俺に白羽の矢が立ち弓道を始めた。野球をやりたかったが父さんが許してくれなかった。今は仕方なく野球観戦で止まっている。

 机に料理が並べてる途中であの兄貴が帰ってきた。そして並び終え朝ごはんと同様合掌した。

 我が家ではサラダは自分で好きな分お皿に盛り付ける。父さん、母さんの後、兄貴が盛ると、


「ほら、澪と拓人の皿貸してみ。盛り付けてやっから」


 と言った。

 その瞬間だった。頭に衝撃が走り、曇っていた頭の中が一気に冴え渡り、全てを思い出した。


「おい、クソ兄貴」


「あ? んだよ」


「お前、本当にあのクソ兄貴か?」


「当たり前だろ」


「じゃあ、何で俺と澪ねぇの皿にサラダ入れようとしてんの?」


「そりゃ、そうした方がいいだろ。そっちの方がいいし」


「そうか……」


 俺は机の裏を掴み、思いっきり持ち上げた。


「そんな事やる奴は俺の兄貴じゃねぇーーよ!」


 大きな長方形の机を兄貴に向けてひっくり返した。


「拓人、何やってるの!?」


「母さんは黙ってて!」


 俺は母さんの注意を振り払い、目の前にいる奴を見下した。


「全部、全部思い出した。お前は俺のクソ兄貴じゃない。サラダなんて他人の分なんて盛らないし、パチンコ行ってお金無駄遣いするし、ロクに働かず家に寄生するし、スネ齧るだけ齧って文句は言うし、何より人の死を前に笑える人間だ。正真正銘人の皮を被った悪魔だ。そして俺に幻覚を見せてるのはお前だ!」


 夢から覚め始めたのか、徐々にいつも来ている旅装だ。腰にはいつも身につけている剣が戻ってきた。


 けれどまだ完全に覚めていない。何かキッカケがあるはずだ。例えば、目の前にいるクソ兄貴を真似ている誰かを殺すとか。この時空の違和感は明らかにこいつだ。だから倒せば終わるはずなのに手が震える。人の形をしているからか、あんなクソ兄貴でも同情してしまう。


「ごめん」


 しかしチンタラはしていられない。せめて一思いにとサッと剣でクソ兄貴の首を刎ねた。

 周りの風景が少し歪んだ。この幻覚は記憶を封じ、対象の記憶を呼び覚ますと思われる。しかし少しでも自身の記憶との歪みがあると封じていた記憶が解放され元に戻る。


「ナンでワカッた! タシカにキオクをノゾきミテサイゲンシたノニ!」


「本当に俺の記憶を見たのか。見たなら知ってるだろ。俺の兄貴のクソっぷりを。そのまま再現すればよかったのに何で自分でクソ兄貴像を修正したんだ。まさか、実の兄があんな性格なわけないと思ってやったのか? なら思い違いも甚だしいな。俺の兄貴は悪魔もびっくりするくらい悪魔だ。そんじゃ覚悟しろよ。何発かやってやるよ!」


「クケケ。でもソンナにイキオイヨクてもオイラはタオセナイ。あのヒのリュウがイナイ


「知らねぇよ。何回でも切ってりゃ何とかなるだろ!」


 悪魔に攻撃を食らわせようとも小さいため小回りも利き中々当たらない。しかし状況は一変した。剣に炎が帯び、今まで消えていた左手の甲にあった紋様が輝き、姿を見せた。その拳は少しかすったがあの悪魔はとても熱そうに悶えている。


「助かったよ、カグツチ」


「主人も無事で何より。外はレオンハルトが片付けた。後は主人の幻覚を解くのみ。今まで手こずっていたが突然道が拓け、辿ると主人の記憶内とは」


「そっか、俺が記憶を取り戻したからカグツチはここまで来れたのか。カグツチが来てくれたからあとちょっとでこの面倒な幻覚も終わりだ。一気に叩くぞ」


「わかっている」


 そこからは早かった。カグツチの炎で悪魔が完全に灰になり、最終的に灰すらも残らなかった。

 パッと目を開け、勢いよく身体を起こした。


「戻って来れた」


「なーにが戻って来れただ、タクト」


 そばにいたレオンを見ると少し怒り気味の表情だ。


「まさか幻覚の対処方を知らないとは思わなかった。下手したらもう戻って来れなかったかもしれねぇんだぞ! 今回は良かったものの次もし同じことになったら分からねぇんだ。だから、タクト! 今回の依頼が終わったらみっちり幻覚解き方と戦い方を教えてやる。少しは覚悟しとけ」


「う、うん。ごめん」


「まぁ無事で何よりだよ」


 プンスカしてるが目をかけてくれる。本気で心配してくれる。これがレオンの人柄なんだろうな。


「とりあえず、その辺の悪魔たちは倒した。んで、1体だけ捕まえたからそいつを頼りに本体の居場所を突き止めるぞ」


 ポケットから手のひらサイズのキューブを取り出した。レオン曰く、これは対象を捕まえて拘束するための魔法道具。大きい物は無理だが、小さい物なら何でも入る。

 レオンは魔法道具を解除し、中にいる悪魔を取り出した。悪魔はレオンに握られて完全に動きが封じられている。


「ダーク<サーチング>」


 闇属性の魔法を悪魔に使った。レオンの会話とサーチングという単語から恐らく敵の居場所を探る魔法だと思われる。


「場所はわかったが簡単には行けないとこにある。だからこいつを利用してそこに行く。タクト、俺に掴まれ」


 俺はレオンの言う通りに肩に掴まった。


「よし、行くぞ。ダーク<トレース>」


 風景が歪み一瞬にして周りが真っ暗になった。そして浮遊しているような感覚が訪れた後、すぐに地面に触れ立っている感覚が戻ってきた。

 レオンは手に握っていた悪魔を殺した。


「あいつらの根城はここ、町近郊の野原に別空間と繋げやがった。また面倒くせぇ野郎とぶち当たったもんだ」


 別空間、ここでは魔界とでも呼んだ方がしっくりくるほどに禍々しくおぞましい所なのだ。風もなければ太陽も月もないただの荒廃した場所だ。

 正面をひたすら歩くと悪魔が仰々しい大きな椅子に腰掛けていた。


「待っていたぞ、人間。汝等が我が臣下を下したところを見てから早く会いたいと思っていた」


「はっ、悪魔がそんな乙女チックなことを言うなよ。今すぐにでも殺したいんだろ? 殺気がダダ漏れだぜ」


「そうだとも。早く殺したい。早く我が力を晒しお前たちを――」


「ならやってみろよ。人間の力舐めてっと痛い目にあうぜ」


 レオンと悪魔が同時に動いた。どちらも速い。一進一退の攻撃。俺が割り込む隙もないほど激しい。


 ――どうすれば、どうすればレオンの助けになるんだ。


 とそんなことしか考えられない。剣術を身につけて少しはマシになった。1人で旅をしていた時もレオンとの出会いの時以外は何とかなっていた。毎日剣を振って鍛錬してきたつもりだった。けれどその慢心が、自身の未熟さがここでアダとなってしまった。


「タクトーーーーーー!」


 その時レオンの大きな声が俺の耳に届いた。ハッと俯いていた頭を上げレオンを見た。何かを訴えているかのようなそんな目だ。一瞬のことだから全てを読めた訳ではない。けれど言いたいことはわかる。俯いてたって何もならない。


「カグツチ、オロチ頼みがある」


「主人よ。下手な交わりはよした方がいい。かえってレオンハルトの邪魔になる」


「レオンの邪魔にはならないから大丈夫。それにここで動かなかったら後々後悔すると思うんだ」


「……わかった。主人の心意気、しかと受け取った」


 カグツチとオロチに全てを伝えた。


「タイミング頼んだ、カグツチ」


「任せろ」


 カグツチとは別行動を取り剣にはオロチを武装させた。


「オロチ、あいつを捉えろ! 2本でいい!」


 オロチの首が射出され悪魔の身体の周りに張り付いた。悪魔の動きが一瞬止まった。その隙にレオンは悪魔祓いの力を付与した剣で突き刺した。


「ぐぬぅぅぅぅ!」


 それでも悪魔はレオンの剣を耐えきった。これは計算外ではない。むしろ想定内だ。


「貴様、中々やるな! 返してやる。我が必殺のこの武器で!」


 突然悪魔の手に大鎌が現れた。禍々しく、この空間にぴったりな鎌だ。


「これで終わりだ!」


 レオンと接触するかどうかのギリギリ地点。そここそが勝負所。


「今だ、カグツチ!」


 俺の掛け声に反応し、レオンに化けていたカグツチが炎で悪魔を覆い焼きつくしていく。

 今度こそ大ダメージ。先ほどの耐久性はほとんどない。業火のもと悪魔が焼かれていくはずだがあいつは底力でまだ耐えようと奮迅している。


「よくやった、タクト。いい作戦だ! これで終わりだ!」


 カグツチの業火と悪魔祓いの力を持ってあの悪魔は粉々に消え去った。カグツチの力で分裂することはない。町の恐怖はこれで消え去った。



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