3-1.『出会いは突然』
第3章です
現在位置は南の大陸アウステリアのどこかの森。そこで俺は運悪く魔獣の巣に踏み込んでしまったのであった。
「クソッ! カグツチ、頼む!」
「御意」
カグツチは武装しても武器に宿らないタイプで武装時は小さな火の竜と成り俺の周りを自由に動き回っている。そんな姿でも威力は絶大だ。
そのカグツチを大量の魔獣たちに対して業火で焼き尽くす……ことはできないほど多い。
「カグツチ、もっと大量に燃やせないのか!?」
「してもいいが、森を焼き尽くすことになる。そうすると主人の魔力がすぐに空っぽになる。こんな状況で魔力切れは死を意味する。それでもやるのか?」
「いや、いい! クソッ! 何でこんなにいるんだよ!」
「主人、前だ!」
カグツチが起点を利かせ、突然前方から現れた魔獣を焼き払った。
次々に現れる魔獣に手をこまねいている。どう足掻いても手数が足りない。逃げ回って脱出を試みようとも出口がわからない。ただただ魔力と体力が徐々に減っていき魔獣に追い詰められているこの状況は俺に死を考えさせられるほど緊迫していた。
俺は前方の魔獣を倒すためにカグツチを使い焼き払った。その瞬間、俺は完全に無防備になった。オロチは魔力切れの恐れがあるから使えない。ウィッチクラフトは武装しているが俺への補助に回しているため対応できない。つまり前方はカグツチが守ってくれるが後方は誰も守ってくれない。例え大量の魔獣が襲って来ようと……。
そして気がついた時にはもう遅い。完全に敵の射程圏内。カグツチへの支持も回らない。完全に終わる瞬間だと感じた。
その時、ピシャーン! と耳を聾さんばかりの大きな雷が突然現れた。辺りは電気が蜘蛛の糸のように木に帯電していた。
瞑っていた目を開けると一筋の閃光が暴れまわっていた。その閃光は俺の背中側に降り立ち姿を見てた。
「よぉ、少年! 君もこの巣に入り込んじゃった身なのか!?」
剣を携え、堂々たるその姿に俺は呆然とした。パッチリ目の碧眼で、少し逆立った髪。何よりその男の顔を見るだけでわかる。何度も修羅場をくぐって来た手練れだということを。
「あ、あぁ」
「おーけー、ならここを脱出するために手を組まないか? 悪い話じゃないだろ?」
確かにこの男は強い。なら脱出するまで手を組んだ方が生き残る可能性は高い。
「わかった、協力する。で、どうやってここを脱出する? 魔獣たちがどんどん集まってきてるけど」
「俺がまず攻撃して、その後合図する。そうしたら右の方向に逃げる。前方は俺がやる。後方は君に任せてここを脱出。で、どうだ?」
「出口どっちかわかってるのか?」
「わかんねぇよ。けど森なんだから一直線に行けばいずれは出口だ」
「じゃあ、それで行こう。右側ね」
「そう右だ」
男はフッと笑い、手を地面につけた。
「ライトニング・セイバー!」
男が唱えると無数の電気でできた剣が地面から現れ大量の魔獣が串刺しにされた。
「行くぜ! せーの!」
俺は右に向かった。男も右に向かった。しかしそれは自分から見て右側。俺から見ると男は左に向かっていたのだ。
「「なっーー!?」」
俺は慌てて、方向転換し男の方に向かった。魔獣もすぐに追いかけて来たのでカグツチで焼き払い、2人で役割分担して森を駆け抜けた。
かなりの距離走ると森の出口が見えてきた。俺たちは何とか逃げ切り、森より外には魔獣が出てくることはなかった。
「危機一髪。悪い悪い、君から見たら逆だったな。」
「何とかなったのでこの際いいです」
「そうか? それならいいんだが。 ……さて、少年。名前は何というんだ? 俺はレオンハルト・フォン・アイゼンシュタイン。名前長いからレオンでいいぜ」
「俺は相羽拓人。見ての通りテイマーです」
「おっと、敬語はいらねぇよ。さっきみたいに普通に話せばいい。もう知ってると思うけど俺はソーサラー。将来の夢はマスターだ!」
「はい?」
「マスターだ、マスター。知ってるだろ?」
「知ってるけど、今のマスターは歴代最強とか言われててソーサラーの人間はマスターになるのを諦めてるっていうのが定着してるのかと思って」
これは南の大陸に来る際の船の中で知ったことだ。マスター・ソーサラーこといっちゃんは魔力量と神器、マスター権限による無詠唱魔法で歴代最強と名高い人なのだそう。よって実力では勝つことは不可能とされ寿命で死に次の誰かにマスターの座が明け渡されるまで継承はないとまで言われている。
「それは風潮に流される弱いやつだけだ。俺はそんな風潮なんかに踊らされねぇ。はなっから挑戦権を投げ出すやつはどうぞご自由に。俺にとってライバルが減るから有難いぜ。俺は努力して強くなってこの手でマスターの座をもぎ取る。それが俺の夢だ」
レオンは手を挙げ、太陽の光を掴むようにグッと握った。
「すごいな、レオンは。尊敬するよ。その気概と精神」
「おっ、そうか? そう言われると嬉しいねぇ」
ニヤニヤと笑うレオンは本当に嬉しそうだ。おだてられやすいのかな。
「そうだ、タクトさぁ。今1人で旅してる?」
「まぁ、そうだけど」
「なら俺と一緒に旅しようぜ」
腰を曲げ、俺に向かって手を合わせている。女子からの告白かっての。
「今まで何人かとパーティ組んだんだがみんな俺の元から去っていくんだよ。そんで最近も振られてまた1人で旅してんの。旅は道連れって言うだろ? 頼む、1人旅は寂しいんだよ」
特に断る理由もない。それにまたあのような場面になってしまったとしてもレオンがいるなら切り抜けられる。
それに何となくこの男が可哀想にも見えてきた。
「断る理由もないし別に構わないよ」
「よし、決まりだな! んじゃあよろしく!」
そうして俺はレオンと旅をすることになった。
レオンと旅をして数日、突然西の大陸に行きたいと言ってきた。南の大陸はほとんど回ってないが、まぁ元々ぶらり旅だからいいんだけど。
そして今は船で西の大陸へ向かっている最中。レオンと話しているとマスターのことについて話してきた。
「タクトはマスターになるつもりねぇの?」
「そもそもまだ夢すら決まってないかな。この世界でゆっくり旅でもできたらそれでいいと今は思ってる」
「まっ、夢は人それぞれだしな。でも俺的にタクトもマスターになって欲しいから、今ここでマスターになるための心得を教えてやる!」
「いや、なんでだよ。てか心得?」
「おうよ。まずは其の一、頭を垂れるな。下向いたって何にもねぇ。とにかく上を見ろ。必ず見えてないものが見えてくる。
其の二、歩け。近道をじゃなくマスターになるための遠回りを。近道したってろくなことなんてない。経験上な。
其の三、とにかく笑え。暗い顔してる奴に良いことなんて起きねぇぜ。
其の四、相手と自分を労われ。その行いはいずれ自分に返ってくる。自分を大切にしない奴なんかに相手を大切にできるか?
其の五、最後は高らかに『俺はマスターになるんだー!』って叫べ。きっとその気持ちは神様に届いてるからさ」
レオンの声が大海原に響き渡る。レオンは1個ずつ指で数を示しながら言った。
「成るためって言っても俺流だけど」
白い歯を見せて太陽の所為なのかキラリと光りと笑った。いつもこんな感じで明るくそしてうるさい。悪い奴じゃないから気にもしないんだけど。こういう奴がきっと時代に名を残すんだろうな。
船は数時間運行し西の大陸に到着した。
「とう〜ちゃ〜く!」
船からかかる桟橋の最後の1歩を両足で飛び跳ね地面に降り立った。
「子どもじゃないんだからそうはしゃぐなって」
「ワクワクするだろ? 西の大陸初めてなんだよ。後北もねぇな。ここの大陸終わったら行こうぜ」
「終わったらな」
レオンの目は希望に満ちているように見える。常に冒険を楽しむ心。苦難も笑って切り抜けるだけの経験と精神。レオンという人間は本当の意味での強者なんだと思う。そんな彼を見て俺も少し影響しそうだ。なんたって俺も西の大陸は初めてだからだ。




