2-9.『別れと新たな旅』
いろんな思い出話ができた。久しぶりの日常を味わった。最初は1発くらい殴ってやろうかと思っていたがそんな気持ちはとうに無く今はいつもの相羽拓人と一条力のようだった。
一通り話を終えるといっちゃんから報告があると言うので聴くことになった。扉から入ってきたのは久方ぶりのベルだ。
「久しぶり。ベルの方は大丈夫だった?」
「うん。私の方は大丈夫。それでタクト。話があるの」
「何?」
俯いたベル。少し暗い顔をしている。何か訳ありだということはすぐに察した。俺はベルが口にするまで黙ってベルの目を見ていた。
「私、ここの学校に通うことにしたの」
「ここの学校……?」
「それは僕から説明するよ。王立ダリア魔法学校と言って、優秀なソーサラーを育成する専門機関。4年制で卒業後は研究者、軍隊、冒険者と様々な進路があるんだ。そこにベルちゃんは入学しようってわけ」
「タクトが1ヶ月居ない間、大賢者様の案内で体験入学してたわけだけど、けっこう気に入っちゃって。強くなるためにちゃんとした理論やそれこそ実践を学びたいの」
言いたいことはわかった。つまりベルが1番言いたいことは、
「2人での旅はここで終わりってこと……か」
「うん。でもまた卒業したら旅はできるし……って言ってもその時タクトはどうなってるかわからないもんね。私もその時はどうなってるかわかんないし……」
「その時はその時。ベルはベルの道に進むといいよ。俺は俺の旅をするよ。いっちゃん、俺の荷物どこ?」
「今出すよ」
いっちゃんは右肩をポンと叩くと俺の荷物一式、バックパックとオロチ戦での大量の報酬がどこからかともなく現れた。
俺は山盛りのお金から一掴みして、ポケットに入れた。
「残りのお金、学費の足しにして。半分分けでも1人じゃ使い切れないしベルに渡すよ。存分に学校を楽しんできて」
「タクト……。ごめ、じゃなくてありがとう。私絶対に変わって見せるから、次会う時楽しみにしてて! じゃあ私、授業あるからバイバイ! タクトも元気に立派な冒険者になっててね!」
「次会う時楽しみにしててくれ。その時は手合わせしようよ」
「うん!」
ベルは笑いながら勢いよく部屋を出て行った。またいっちゃんと2人きりになった。
「お別れの後悪いけど、拓人には言わなきゃならないことがもう2つあるんだ」
「なに?」
「この世界のことだよ。今君何語で話してる? そして何語に聴こえてる?」
「日本語で話して、日本語に聴こえてるけど……それが?」
「そう、僕にとっては君の言葉はダリア語に聴こえてるんだ。何言ってるかわかんないだろうけど、君の言葉は僕に届く頃には捻じ曲げられて聞き手に理解されやすいように勝手に翻訳されてるんだ」
「だから俺の言葉が通じてる訳ね。何で日本語通じるのかほんの少し疑問だったけどそういうことだったのか。いっちゃんはダリア語に聞こえていて、もしダリアとは別の所に行けば現地人には俺の日本語は現地語に聞こえる。そういう理解でいいの?」
「それでいいよ。拓人はいつも通り日本語話してても問題ないけど一応知っててほしいんだ。ラストはこれ」
いっちゃんは杖をトンと床につくとまたどこからともなく籠が現れた。中には鳥の形をした生物がいた。鳥と言っても目があり尾羽があり、クチバシがある鳥ではなくもっと抽象的で水彩画で描くカモメのような形をしている。
「これは人工精霊。名の通り精霊を人の手で作り出したもの。アランと僕の合作にして最高傑作の1つ。これをテイムすると道具の出し入れを楽にしてくれる。さっきやったでしょ? 僕が拓人の荷物を出したように。これはどの職に限らず使える所が利点で、正確には精霊じゃなくて魔法道具に近いんだ。だから誰でも使える。それを君にあげるよ」
「何でこんなもの。いや、それだけじゃない剣術もカグツチも。何でいっちゃんは俺にそこまでするの?」
「何って? 決まってるじゃないか。向こうで世話になったからだよ。君があの時話しかけてくれなかったら今頃どうなってたかわかんないし、僕の人生は暗いままだったと思う。大げさかもしれないけど、あの時の拓人の行動は僕に希望をくれた。話しかけてくれたから僕は今ここにいる。例え暗い過去があったとしても君が光をくれた。だから立ち直れた。楽しかった。最高の5年間だった。これは全てあの時の恩返し」
何でだろう。俺は少し涙が出そうになった。父親からは「よく善を積め、見返りを求めるな。求めなくともいずれ積んだ善は自然と返ってくる。それが1番幸せなことだ」と口癖のように言われた。今まで何となく受け止めていた。けどこの意味がやっとわかった。こういうことなんだと。
「仕方ないな、君は」
いっちゃんは俺を思いっきり抱いた。向こうではありえない行動だった。
「ありがとう、ここまで来てくれて。拓人が来てくれたから僕は胸のつかえが下りたよ。やっぱり拓人と親友でよかった」
耳元で囁きながら言われた声は俺の心にひどく染み込んだ。
「さて、早くテイムしちゃってよ。この精霊も君の所に行きたがってる」
「人が感傷的なのによく切り替えられるよな、いっちゃんは」
そう言いながらも俺はテイムと唱えた。人工精霊は左肩に宿った。
『携帯精霊 キャリアポート
→荷物を自身の空間に保存する人工精霊。出し入れする際は心の中で思い浮かべて宿っている部分を2回軽く叩くと出し入れできる』
「使い方は追々分かればいいよ。さて拓人、そろそろ僕は仕事があるからここら辺で終わりにしようか」
「そうなんだ。なら俺も行かないとな。何か旅してて面白いとこない?」
「う〜ん……そうだね。オススメの場所は南の大陸かな。あそこ中々強い魔獣とかいてレベルアップにはもってこいだと思うな。かく言う僕もそこで修行してたし。でも魔獣の巣だけは気をつけた方がいいよ。巣は魔獣だらけでよっぽどの手練れじゃないと突破できないから」
「じゃあ、南の大陸でも行こうかな。巣に関しては入らないように何とかするよ」
俺たちは話しながら出て宮殿の入り口まで見送ってくれた。
「そういやいっちゃん。あのスマホみたいなやつ何?」
「あれは見ての通りスマホ。でもゲームとかは一切できない通話のみで、その通話も王都内でしか繋がらないからまだまだ試作段階なんだ。もちろん僕とアランの合作だよ」
「すげぇよ、いっちゃんは」
「そうでも無いさ。車も作りたかったけどヴェストフォル王国に先にやられちゃって大陸特許も取られててこれでも散々なんだ。やりたい事は全部向こうにやられたし。でも辛うじてスマホは特許まだだったから急ピッチで仕上げたんだ」
「そうか。まぁ程々に頑張れ。応援してるから」
「ありがとう。拓人も死なないように頑張りなよ」
「わかってる。じゃあな」
「バイバイ」
いっちゃんは俺が見えなくなるまで手を振り続けていた。俺も同じように大きく手を振り返した。
「さて、次は南の大陸かぁ。どんなとこなんだろうな」
いつの間にか俺は旅を楽しめるようになっていた。おそらく前より強くなったからだろう。しかしこの時の俺はそんな事は思いもせずただ純粋に旅を楽しんでいた。
ベルとの別れは特段悲しいわけじゃない。ベルはベルで頑張るんだから、俺も俺で頑張らないと次会う時合わせる顔ないから。
そうして俺はダリア王国を去るのであった。
人工精霊キャリアポートの由来は運ぶという英単語“carry”と移動するなどの英単語“transport”との造語です。
2章完結です




