2-7.『降魔の炎龍』
「当方の名はカグツチ。降魔の炎龍にして噴火の化身。挑戦者よ。汝は如何に力を奮う」
「――!?」
驚愕して言葉を詰まらせてしまった。けれど答えはもう決まっている。一度深呼吸をしカグツチの目をジッと見て言った。
「人を殺す道具ではなく人を守るために使う!」
あの時ロザリオに誓った。破れば報いが受けるからとかそんな低次元の話ではない。俺が本当に心から誓う正直な言葉。
「ならば見せてみよ。守るための力を」
カグツチは大量の炎を噴出すると見る見ると小さくなっていき、目の前には俺がいた。カグツチが俺の姿を模しているのだ。
「これで対等。挑戦者よ、名を何という」
「相羽拓人だ」
「そうか。では名の通り先を拓いてみせよ。そして当方にその先を見せるがいい!」
片手に炎でできた剣を携えて向かってくる。
この状況、相手がただこちらに向かってくる状況は幾度もやった。一ノ型『六連星』でまずは向かい受ける。体勢が少し崩れた瞬間、すぐに次のモーションに移行する。2連撃目は二ノ型『閃雷』を繰り出す。カグツチは咄嗟に炎に戻り弧を描くように俺の剣を避けた。そして距離を取りまた俺の姿に模し右手から炎を噴出した。
「オロチ、1本!」
水で形成されたオロチの首を1本繰り出し相殺した。
「八雲の天災を手なずけていたとは。これは当方も本気を出さねばな!」
カグツチは両手から豪炎を放出。
「オロチ、2本!」
次もまた同じように相殺。そして休む暇を与えず距離を詰め、剣と剣が交差する瞬間、俺は瞬時に背後に回り三ノ型『天輪』を繰り出す。四ノ型の動きとその他の型との組み合わせ剣術。これこそが六連一刀流の真髄。居合だけがこの剣術ではない。邦綱さんから教わった戦い方、柔軟さが今ここで光ったのだ。
しかしカグツチは焦ることもなくまた炎に戻り容易く避けた。
「甘い。当方がどれだけその剣術を見てきたか。初期の頃その技は厄介だった。しかし今となれば話は別。技の組み合わせも放つ瞬間の動作から次どの型が来るかもわかっている」
「もう攻略済みってことね……」
これは中々難しい局面だ。六連一刀流が通用しないとなれば一辺倒な攻め方を変えないと。
「サンフレイム、戻って。来い、オロチ」
剣に宿っていたサンフレイムを戻し、オロチを剣に宿らせる。
「ウィッチクラフト、オロチ。行くぞ!」
俺は走った。カグツチもすぐに構える。そして片手から豪炎を放った。
「ウィッチクラフト! 属性変換、水!」
カグツチの炎を水に変え、それを全て剣で吸収した。オロチの剣の効果、水を吸収しそれを自在に操れる力。吸収した水を鋭利に剣に纏わた。
「オロチ、4本!」
オロチの攻撃で確実に逃げ場を無くし、最後の攻めの一手、六ノ型『填星』を放つ。オロチの剣の力と剣術を組み合わせることでより鋭利になる。
決まったと思った。逃げ場はない。カグツチが待つのは刹那の間に3連続で突き刺さる剣のみ。だというのにカグツチは余裕の笑みを浮かべていた。次の瞬間、身体中から先ほどよりも高温の炎を大放出した。水でできたオロチの攻撃もすぐに蒸発してしまい無効化。俺は咄嗟にオロチの剣の水を使いジェット噴射ようにして被害を免れた。
「当方は噴火の化身。炎は副次的なものに過ぎない。しかしその炎すらも岩漿に匹敵するものではあるがゆえ」
マグマに水を入れたとしても無意味のように、高温の豪炎に水を入れても同様だと言いたいのか。いや、実際そうなんだろうな。俺は考えた。
――水での攻撃は不可能。
――その他の属性は? 中途半端な力しか引き出せないがまだ反撃の余地はある。
――行動パターンは? 攻撃が当たると思えば炎に戻り躱していた。
「何を突っ立っている。次の手を打たねばやられる。戦いの基本だ」
あぁ、知っているとも。だから次の手は――
「ウィッチクラフト、速度上昇と肉体強化。ライコウは最大限まで上げてくれ」
身体に電気を纏う。その姿は轟々と鳴る雷が如く勇ましいものだ。
これが魑魅の力。引き出せば引き出すほどどんどん力が湧いてくる。しかしその反動なのか身体が動き辛い。
「オロチ、準備しておけよ! 行くぞ、カグツチ!」
一歩目、それはもはや人の動きではない。数秒でカグツチの目の前に現れ、二ノ型を放つ。炎に戻る行動はもう見切っている。透かさずオロチの攻撃で逃げ場を無くし三ノ型を繰り出す。それでもほんの僅かの隙間を掻い潜り躱すカグツチ。
「小癪な!」
カグツチがとうとう本気を出してきた。俺よりも動きが速く、竜の姿で攻撃してくる。痛覚麻痺の魔法のお陰で痛くはない。しかし服は徐々に燃え、肌は火傷を負っていた。
「当方にまだ抗うか」
「正直言って、早く辞めれるなら辞めたいけど。帰り方分かんないんだよ。だからこうして抗ってる。悪いね。無様な理由で。それにいっちゃ……いや、大賢者はこれを試練だと言った。お前は俺を挑戦者だと言った。お前たちはグルなのか?」
「大賢者の名など当方は知らぬ。当方はここに来た者たちを測り、自らの主人に相応しいか否かを見定める。前任の主人はもう存命でないが故当方はここに戻って参ったのだ」
「そういうことね。なら前言撤回だ。これは負けられない。前にもこれを成し遂げた人がいるなら、是が非でもやってやる!」
両者共に同時に動き出した。人の姿を模したカグツチの剣と俺の剣がかつてないほどぶつかり合い火の粉が舞う。肉体強化をしている俺の方が力は優っている。カグツチは押されながらも必死に抵抗した。
「ここだ! オロチ、4本!」
近距離からの攻撃。水で形成されたオロチの首はカグツチを襲い、共に後方へ行った。
「このような水程度、当方の炎を持ってすれば!」
カグツチは火柱を上げ、水のオロチを退けた。
カグツチが迎撃態勢を取った時にはもう、目の前にはいなかった。あれほどの隙を逃すわけがない。背後を確実に取り、首を斬り飛ばす間合いに入った。その刹那、俺はカグツチのある言葉を頭に浮かべた。
――汝は如何に力を奮う
と。“人を殺す道具ではなく人を守るために使う”と俺はその時言った。
大賢者はこれを試練だと言った。試練ということは何かを試されている。この戦いに何か試されているとすれば、その答えは容易に想像できる。
「なぜ当方を斬らない。これ以上の機会はないだろうに」
「大賢者は試練だと言った。お前は俺を挑戦者と言った。試練とは何かを試されているということ。その答えはもう俺が自分で出してる。人を殺さない、そして守るための力って。死ぬかどうかは知らない。けど人の姿を模したとはいえ、首を斬り飛ばすことは殺すも同然。だからやめた」
カグツチは俺に背を向けながらずっと黙っている。そしてやっと動き出し、また火の竜の姿に戻った。
「俺はまだこの世界の常識とかはちゃんと理解してないけど、それに振り回されるつもりもない。俺は俺のやり方で戦ってこの世界で生きられるように頑張るだけさ。その一歩が不殺だ」
「……正解だ、挑戦者よ。お前の言葉を聴いた時からお前のその行動と言葉を待っていた。お前は前任の主人によく似ている」
さっきまでの荒々しい竜とは全く違う。慈しみの心を持った優しい竜のようだ。
「認めよう。当方はこれから相羽拓人を主人とし、命を賭して守ることを誓おう。主人よ、当方に触れ唱えるといい」
俺はカグツチに触れ「テイム」と言った。カグツチは左手の甲に宿った。
『降魔の炎龍 カグツチ《火》S級
→火山の噴火を神霊化させた噴火の化身。光属性が全体の3割含まれるため闇属性に強い。メインが火属性のため闇属性からの攻撃は然程痛くない。故に闇属性である悪魔種に強い。つまりデビルスレイヤーの一面もある』
「終わっっっった〜!」
自分を見返せば服がボロボロだ。いつ破けて大変なことになるか分からないくらいに。
待っていると送還の合図が来て俺はダリア王国に戻ってきた。
「お疲れさま」
目の前には前回通りいっちゃんがいた。
「これで全部終わったんだ。これまでのこと全部聞かせてもらう」
「いいとも。その前にある人物だけ紹介させて。入ってきていいよ」
2枚扉から入ってきたのは赤毛、目がぱっちりでお洒落なソフトハットを被る男は入ってすぐ帽子を取った。
「紹介するよ。この人はアラン・カー。現在はマスター・メイカーの地位にいる男だ」
「どもっす。ご紹介に預かりやしたアラン・カー。アランって呼んでくれてもいいっすよ」
飄々とした性格のようだ。どこか丁寧でどこかテキトーな雰囲気だ。
「そして僕、君は一条力と思ってるかもしれないけどそれは向こうでの名前。ここではリチャード・ダリア。そして今は大賢者ことマスター・ソーサラー。以後よろしく、拓人」




