2-4.『修行』
木刀と木刀がぶつかり合う。そこまではただの剣の鍛錬とさほど変わらない。しかしここでの鍛錬はそれよりさらに2歩ほど先を行っていた。片方が居合の型を、もう1人が木刀を鞘から抜き構えている。両者の距離が縮まると居合を行うのだが、俺のやっていた居合とは威力も速さも違う。ここでも十分驚くがさらに驚くことがあった。
俺は普通に見学していた。当然瞬きもする。その瞬きで目を閉じ開けた時には居合を放った門徒はすでに相手の背を取り木刀の切っ先を当てていた。違和感は居合を放った門徒ともう1人はお互いに背中合わせの状態なのだ。つまり相手を見ることなく背中越しに刺す。そんな型だ。実戦では確実に刺されて死ぬ可能性が高い。
「来たな。拓人、樹」
そう呼びかけてくるのは仁介さん。もう1人、仁介さんと同じ歳くらいの男性もいる。ん? 誰かに似ているな。誰だっけ。そんなこと考えていると仁介さんに木刀で軽く打たれた。
「今のは一ノ型『六連星』と四ノ型『羅睺』だ。もう知ってると思うが、居合を放った後別の5つの型から1つの型を放つ2連撃剣術。それが六連一刀流だ。そして四から六ノ型は基本的に魑魅か魔法を使った上で放つ型だ」
今合点がいった。耳飾りも魑魅のテイムもその為のものなのか。
「そして『羅睺』は暗殺用だ。無理に学ばなくていい。ここの門徒には皆そう言っている。人を殺めたくない奴もいるからな」
そうであるならありがたい。俺はもう人を殺めたくないからな。
「樹はいつも通り他の奴らと一緒にやっとけ。で、おめぇはこの六連一刀流免許皆伝の明鏡邦綱と鍛錬せい。一定以上の実力が付けばこっちと混ざれ、いいな」
「はい」
俺はその後道場の端っこの方で素振り、一ノ型『六連星』、二ノ型である『閃雷』の鍛錬を行った。これは突きの型で比較的簡単だが、ほんの少しのブレを見抜かれ邦綱さんにしごかれていた。
「もう一度」
「……はぁはぁ。はい!」
ただの突きと思うと痛い目に合う。何回もう一度を言われたかわからないくらいやっている。たった数時間の鍛錬で休憩の一言が今の俺のオアシスとなっている。
道場の壁にもたれ掛かりながら座っていると邦綱さんが隣に座ってきた。
「仁介が言っていた通り筋は良い。後は魑魅の扱いに慣れてください。でないといつまで経ってもブレを起こすことになる」
「はい。……何というかこんなこと言っていいのかわかりませんが仁介さんと真逆ですね」
「仁介は少々性格が荒いだけです」
「それだけじゃないんですよ。何というか知的で温和なんですが、えーっ……そうだ、どことなく帝に似ているというか。顔もそうですが雰囲気的な部分が」
「今の帝と似ているのはそうでしょう。私にとって今の帝は血縁上は甥ですから」
「えっ?」
「今の帝の父親は私の兄です。私達は男4人、女1人の兄弟で、私は下から2番目。四男坊なのでいる意味はなかったから宮中を出てここに来ました。伝統で皇道剣術を学んでいたので剣は好きでしてね。この国で有名な剣術である六連一刀流に換えて、それからもう20年くらい経ちます」
そうだったのか。似ているのは当然ということか。
「ですが私はもう皇族から抜けています。血は繋がっていますがもう実の甥というわけでもないので間違えないように」
「はい、なんかすみません」
「謝らずとも。気になれば口にするとよろしい。言いたいことははっきり言う方が気持ち楽ですので。さて続きをしましょうか」
「わかりました」
居合、突き。居合、突き……。今日一日はずっとこれの練習だった。どれだけ練習しても他の門徒のような鋭く速い居合には届かない。一朝一夕には身につくとは思ってはないが、早く身につけなければならないという思いと焦りがある。後20日ほどしかないのだから。
次の日は三ノ型『天輪』、五ノ型『玉衝』も加えて鍛錬を行った。『天輪』は振り下げ、『玉衝』は六連一刀流唯一の防御系剣術。剣と剣を強く打ち付け魑魅の電気を流し手を麻痺させる。欠点としては刃こぼれを起こしやすいため殆ど使わないこと。ここぞという時にしか使用しないというのが習わし。
さらに次の日、さらにさらに次の日を何回か繰り返していると……。
「拓人。まだたまにブレを起こしますが、まぁ及第点というところでしょう。ここからは実際に人と剣を交えてください」
「はい」
「あなたの剣はまだまだ見よう見まね。稽古の中で掴んでください。あと最後の六ノ型『填星』はちゃんと相手を一本取ってから教えます。六ノ型はこの流派の最難関にして奥義ですので」
一から五ノ型は邦綱さんの言う通りまだそれっぽく真似ただけの代物。一本を取ることに焦点を置かず、まずは相手の動きに対応することからだ。
「拓人、廉造。お前らやれ」
ここでは仁介さんに先に呼ばれた方が居合の型を取ることになっている。廉造という少年はニヤリと笑いこちらを見る。
「始め!」
廉造はテイマーだ。魑魅の力のお陰でかなり動きが速い。けれどそれは俺も同じこと。
「やあぁぁ!」
俺は一ノ型『六連星』を放った。しかし目の前には誰もいない。そして気が付けば背中に剣先を当てられていた。これは四ノ型『羅睺』だ。廉造は確実に背後を取りトドメを刺したのだ。
「止め! 廉造の勝ち!」
相手を往なすことすらできなかった。ということは俺の居合はまだ遅いということ。
「再度入れ替えて始め!」
さっきは対応もできなかった。だが今回は廉造に合わせる必要ない……と思っていた。腹に突然横一文字に打ち付けられた。
「なんで、そんなとこいんだよ……」
「六連一刀流舐めてる奴に対しての洗礼だ。見返したくば俺らから一本取れよ。そしたら認めてやる」
俺“ら”? ……そういう事か。廉造も周りにいる面々も誰一人俺を認めちゃいないんだ。考えれば当然かもしれない。ずっと幼い頃から鍛錬してきたのに、突如来た異世界人にタダで邦綱さんの教えを請うているのだから。
その後幾人の門徒にボコボコにやられた。同じ奴に何度も負けた。これほど悔しいと思ったのは弓で同い年に負けた時と応援しているプロ野球チームが負けた時以来だ。最近じゃ初戦のオロチ戦だろう。
「負けて終わっちゃいかんよな。こんなんでへこたれてたら親父に何言われるか。……ふぅ。さて、まずは分析からやるか」
父の影響で弓道をやっていた。その中で教えられた事は、何故負けてしまったのかを分析することだ。射が足りていない、集中できてなかった、弓のメンテナスを怠ったなど負ける要因は沢山ある。
そして今回の敗因は身体が覚えている。背後の取られた瞬間。居合の速さ。足さばき。特に3つ目はかなり重要だろう。
今思えば、俺の試合中は他よりも足音が大きかった。これでも弓を嗜む者だ。雑音は極力避けていたが剣となると勝手が違う。常に動く中で意識しなければならない。結果的に考えるとあいつらの足さばきは軽い。素早さを重視しているからだと思われる。足に至っては剣術というより踊り子のように軽くステップを踏む感じ。魑魅や魔法の効果でより顕著にそれは現れる。軽く地面を蹴りより速く動く。自分なりの考察だが、多分合ってる。
次の日、午前中の農作業を終え昼食後、すぐに道場に向かった。いつも通りまずは邦綱さんのアドバイスの受け、型の修正を行う。休憩中は門徒たちの足元を見続けた。思っていた通り足運びがやたら軽い。ドシッとくる力士タイプではなくトンッとくる踊り子タイプだ。剣に重さを乗せる時は魑魅の能力最大限に引き出すか、少量の魔力を使い上乗せしている。ただ武装するのではなく戦いの中で魑魅を調整することもミソだ。
「拓人、廉造。お前らやれ」
復習はした。イメトレもやった。後はあの舐めきった顔をした相手に何回も負けるわけにはいかない。
「始め!」
俺はすぐに居合の体勢に入った。
「やあぁぁ!」
今度は確実に捉えた。廉造は止むを得ず防御の体勢になり完全に後手に回った。こいつと戦う前から決めていた。廉造に対し一本取る型は、
「止め!」
四ノ型『羅睺』。相手を見ることなく背後を取り、互いに背中合わせになる変わった剣術。廉造との初戦、俺はこの型に負けた。だからやり返すならこの技と最初から決めていた。『羅睺』は本来は暗殺用で学びたくはなかったがこの際仕方ない。
「拓人、驚きました。教えてもない型を使うとは」
邦綱さんが近寄って来た。
「俺、こういう勝負に関しては負けず嫌いなんですよ。やられた型でやり返す。それが俺流です」
なんてね。流石にそこまでしつこい性格じゃないが、こいつだけは何としてもやり返したかった。
その後、沢山の門徒と試合をし、全て勝つことはできなかったが、前日よりも良い成果を上げられた。
「やはりあなたは戦いにおける嗅覚が鋭い。たったこれだけの日数でここまでのことができるのはそうそういません。安い言葉になりますが、戦いの『天才』ですよ、拓人は。将来、大物になるかもしれません」
「天才だなんて……。俺はただ目の前のことを必死に……」
そうだ。褒められたからって気を緩めてはいけない。もっともっと技の些細なことを吸収しなければここでは生き残れない。
この世界に合った剣術なのでできれば日本にある剣道や剣術と比べられると摩訶不思議、全くおかしくなってしまいます。六ノ型以外は人間にできる動き内で創作しています。その辺はファンタジーということでお許しを。




