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自由になれた犬の話
「ごめんね、ポチ。」
そういって先ほどまで飼い主だった女は
俺と、食べ飽きたドッグフードと、薄汚れた毛布を
隣町の高架下に置いて、去っていった。
俺はその場に座り込んだ。
ほう、これが世間でいう捨て犬か。
どうやら俺は自由を手に入れたようだ。
毎日毎日、同じ時間に、決められた量の
別にうまくもないあの飯を食う必要もない。
散歩だって好きな時に何回でもいける。
これほどまでにワクワクした瞬間が
今までにあっただろうか。
もう俺はポチではないのだ。
なんとなくだが一生あの生活を続けるような気がしていた。
あの気持ちが悪いほど規則正しく、
代わり映えのない、あの女に支配された生活。
思い返してみれば驚くほどに自分がなかった。
やりたいことを考えることもなければ
ここから出てみたい!という野心もなかった。
リビングであの女の帰りを待つだけの生活。
ああ。
ようやく俺の人生が始まるんだ。